シャレコーベミュージアム

 兵庫県尼崎市に「シャレコーベミュージアム」という一風変わった私設博物館があります。文字通り頭蓋骨(Skull)にこだわった博物館です。創設者の河本圭司氏は関西医科大教授を務め、日本脳腫瘍病理学会などの会長を歴任した脳神経外科医で、自宅の庭に、2003年3月3日3時3分3秒にミュージアムを建て、大学を退職して名誉教授になってから2011年11月11日11時11分11秒に一般公開を始めたそうです。平日は脳神経外科に関する診察・治療や様々な学会や研究会で活躍する一方、毎週日曜日は館長として来館者への応対や講演会などを行っていました。こういう情熱とこだわりがないと個人博物館は建てられないのだろうと思い知らされます。

 国道からは外壁にはサヘラントロプスの巨大モニュメントが見え、それだけでもぎょっとしますが、裏手の入口に回り込むと、建物がシャレコーベの形をしていることに驚きます。とまっている車のナンバーは、「1096」(ドクロ)です。3階建ての館内には、実物標本や骨格模型、アクセサリーやTシャツ、喫煙具、文具、絵画、彫刻、ハロウィーンや海賊グッズ等々、頭蓋骨に関連するありとあらゆるコレクションがずらりと並んでおり、蒐集癖もここまでくれば、頭が下がる思いがします。

 さて、これまでも本稿で個人博物館をいくつか紹介していますが、情熱を持って蒐集したコレクターである館長(オーナー)がお亡くなりになると、そのご家族が運営することは難しく、残念ながら閉館してしまったケースが数多くあります。シャレコーベミュージアムも、2019年8月に河本圭司氏が75歳でお亡くなりになり、7800点以上に及ぶコレクションが危機に陥るかと思われましたが、長女の山本佳代さん(本職は薬剤師)が2代目の館長となって、毎週日曜の開館日を1回休んだだけで再開したというから驚きです。しかし、コロナ禍で外出自粛の時期に休館し、さすがに運営が厳しくなり、昨年閉館する話もあったそうですが、とあるツイートがバズり、多くの取材で取り上げられたおかげで、なんとか免れたとのこと。現在も人件費や光熱費などを削減して維持していますが、貴重なコレクションを守り抜いてほしいものです。

 ちなみに、故河本圭司館長のこだわりは、2015年に出版された『人類の遺産 スカルを探ねてー世界のミュージアムめぐり』(リブロ社)を読んでもよくわかります。いくら脳神経外科医で頭蓋骨に関心があるといっても、世界各地の博物館の頭蓋骨に関する展示を取材して本を出版までするのは、そうできることではありません。改めて感服した次第です。ちなみに、同書では米国内はアメリカ自然史博物館はじめ9館が紹介されています。筆者はすべて訪問したことがあるので、ちょっと安心しました。

(栗原祐司/京都国立博物館副館長)