アジア系差別の増悪犯罪が全米で激増
連続8人殺害事件6人がアジア女性
米国では新型コロナ禍が始まって以降、アジア系に対する犯罪が増加している。ジョージア州アトランタで16日、マッサージ店など3カ所が次々と男に襲われ8人が死亡、うち6人がアジア系女性という事件が発生した。
男はロバート・アーロン・ロング容疑者で監視カメラの映像をもとに特定、アトランタの南約240キロにあるクリスプ郡で17日に逮捕された。単独犯と見られる。アジア系に対する「ヘイト・クライム」(憎悪犯罪)の疑いが強いが、取り調べでは人種を動機とした襲撃ではないと否定してしている。男は「性依存症」で、自分を誘惑する店を潰したいと思っていたと見られるという。
連続銃撃事件は16日午後5時ごろ、アトランタ近郊のチェロキー郡アクワースの「ヤングス・アジアン・マッサージ・パーラー」で発生、アジア系女性2人と白人の男女の4人が死亡した。午後6時ごろにはアトランタ北東部の「ゴールド・スパ」で発生。通報で警察が駆けつけた時は女性3人が亡くなっていた。直後に道路を隔てたすぐ近くの別のマッサージ店「アロマセラピー・スパ」からも通報があり、警察が駆けつけた時はすでに女性一人が死亡していた。警察によれば死亡したアジア系6人のうち少なくとも4人は韓国系だという。
バイデン大統領は19日、ハリス副大統領と共にアトランタを訪問。アジア系に対する憎悪犯罪が急増していることを指摘し、「沈黙は共犯だ。我々は行動しなければいけない」と述べた。また大統領とハリス副大統領は地元のアジア系市民のリーダーらと会談した。
移民を排斥したトランプ前大統領が新型コロナウイルスをチャイナウイルスと呼んだことでアジア差別に火が着き、20世紀初頭に欧米を席巻したイエロー・ペリル(黄禍論)の再燃とも見られる現象がいま全米規模で起こりつつある。
昨年夏はコロナパンデミックの中、黒人差別に抗議したブラック・ライブズ・マター(BLM)運動が起ったが、今年はアジア系が立ち上がろうとしている。
(写真)今年に入り全米規模で開催されているアジア系差別に対する抗議集会(2月27日NY市庁舎近くで、三浦良一撮影)
ヘイトクライムに立ち上がる
全米で3795件、NY市で500件
人権団体「ストップAAPI(アジア・太平洋諸島系)ヘイト」が昨年の2月28日から今年3月19日までの間に受け取ったアジア系米国人に対する差別的忌避、中傷、暴行などの憎悪事件は全米で3795件にのぼることがわかった。一昨年の同期間の約2600件に比べ1000件以上増加しており新型コロナウイルス禍の影響があると見られる。
これらがすべて警察に報告されているわけではない。また「憎悪犯罪」として成立するのは被疑者の差別的発言が必要で、例えばアジア系アメリカ人同盟(AAF)によれば、ニューヨーク市では昨年1年間で約500件の憎悪事件があったとされるが、憎悪犯罪として立件されたのは30件ほどになっている。
3795件のうち女性に対してが68%、男性に対しては29%と、女性は男性に比べ2・3倍被害にあっている。サンフランシスコ州立大学のラッセル・ジョン教授(アジア系米国人研究)は「アジア系女性は柔和で従順であるというステレオタイプがあり、人種差別と性差別の融合の可能性が高い」と指摘、「アジア人女性を簡単な標的として見ているかもしれない」と述べている。
種類別でもっとも多かったのは言葉による嫌がらせで68・1%、次いで差別的忌避で20・5%だった。物理的攻撃(暴行)は11・1%を占めた。事件の3分の1は職場で起きており、4分の1が公道など公共の場だった。ある中国系米国人は地下鉄で男から平手打ちを喰らい、ライターを投げつけると脅かされ、差別的言動もされた。ワシントンDCの地下鉄駅ではあるフィリピン系米国人女性が、男から「中国人の××」と言われ、咳をされ、脅かされたという。
バイデン大統領は今年1月にアジア系に向けられた差別を非難する覚書に署名した。憎悪犯罪の増加に司法省がどのように対応すべきかについての指針も含めた。3月11日には国民向けの演説で、アジア系米国人がコロナ禍の間に耐えて来た暴力を非難した。アジア系が「攻撃され、嫌がらせを受け、非難され、スケープゴートにされたアジア系に対する悪質な憎悪犯罪が起きていることを取り上げ、「それは間違っており、非アメリカ人であり、止めなければならない」と訴えた。バイデン政権では、公道、交通機関、民間企業そのほか含めより包括的に取り組む必要性があり、米司法省が憎悪犯罪により積極的に取り組むことが進められている。
ニューヨーク市では21日、マンハッタンのチャイナタウンで市民数千人が集まってアジア系ヘイトクライムに抗議する集会が開かれた。また23日には韓国系アーティストのジェイソン・リーと日本人女優のツービー・ユー(TUBEE U)がコリアンタウン近くの34丁目ブロードウエー交差点で「STOP KILLIN ASIAN」と抗議ペイントと、顔に血を流したメイクで増悪犯罪への抗議パフォーマンスをした。
治安悪化進む
NY日本総領事館が警告
ニューヨーク市において拳銃発砲事件が多発している。NY日本総領事館が15日、注意を呼びかけた。それによると、ニューヨーク市では引き続き拳銃発砲事件が多発しており、先週末は少なくとも13件の発砲事件が発生し20人が死傷した。例として13日(土)午前10時15分頃、17歳の男性がブルックリン地区カナーシーの東82番ストリートを友人と一緒に歩いていたところ、灰色のセダンから飛び出してきた男がいきなり発砲し、17歳の男性が死亡、友人も足などを撃たれて負傷した。また、クイーンズ地区のアストリアでは、12日(金)午後8時30分頃、37歳の女性が銃撃の流れ弾に当たって死亡する事件が発生している。
ニューヨーク市警の統計によれば、殺人や拳銃発砲事件等の暴力犯罪は昨年6月以降に急増し、結果として2020年の殺人事件は前年対比44・8%、拳銃発砲事件は97%とほぼ倍増している。この傾向はその後も継続しており、今年2月中の拳銃発砲事件は77件で昨年2月中の44件よりもいる。
同総領事館では、暴力犯罪が増加している原因として、長期間のロックダウンや失業等による精神的不安や怒りの感情を抱える人々が増えていることなど様々な要因を挙げている。また、ホームレスによる嫌がらせ事案やアジア系住民に対するヘイトクライム等も依然として報告されており、引き続き注意が必要と警戒を呼びかけた。
被害に遭わないために
被害に遭わないためには、危険に近づかないことが何よりも重要であり、拳銃発砲事件が多発している地域や危険性の高い地域を通過する必要がある場合には、遠回りでも別のより安全な道を選ぶことも被害防止上有効な対策の一つ。夜間の外出や人通りの少ない道は避ける、不審な人物には近づかないなど、安全を確保するように十分注意を呼びかけている。
最近NYで発生した事件
●15日午後7時頃西37丁目8番街で、41歳アジア人女性が背後から近づいてきた男に液体をかけられる。
●19日午後、1番線車内で68歳のスリランカ人男性が頭部を殴打される。目撃者によると犯人は人種差別的な言葉を発していたという。犯人は36歳の男性で逮捕済み。
●20日午前9時ごろ、初老のアジア人男性がAllen StとHouston Stのあたりでホームレスの男に顔を殴られる。目撃者によると加害者の男は「もしもこのあたりでお前と姿を再び見たら尻を殴りつけてやる。」などと怒鳴っていたという。
●21日午後1時ごろ、41歳のアジア人女性が西31丁目の6番街近くで背後から掴まれ地面に投げつけられる。容疑者は37歳の女性で攻撃中にスペイン語で何かを叫んでいたという。警察はヘイトクライムと見て捜査している。
●20日午前5時30分ごろアストリア/LIC地区の38丁目で、61歳のアジア人男性がナックルダスターを持った男に地面に押し付けられて殴られた。犯人は男性の右目に怪我を負わせたのちバックパックを奪い逃走中。警察がヘイトクライムとして捜査しているかどうかは現在まだ不明。
■安全対策の参考としてNY日本総領事館ホームページには「ニューヨーク安全マニュアル」 (https://www.ny.us.emb-japan.go.jp/jp/j5/index.html)を掲載している。同マニュアルの「事件や事故に巻き込まれたら」(https://www.ny.us.emb-japan.go.jp/jp/j5/nyanzen-manual_2019.pdf)には緊急時の連絡先等を記載している。万が一、犯罪被害に遭った場合には、警察に被害を届け出るとともに、総領事館にも通報するよう呼びかけている。
警察・消防・救急は全て「911」
緊急時には「911」をダイヤルし(公衆電話ではコイン不要)、オペレーターに緊急事態の場所と内容(警察・消防・病院の別)を告げる。英語で説明できない時には「ジャパニーズ・プリーズ」と告げれば、日本語通訳サービスを介しての通話が可能。緊急時以外には、「911」ではなく管轄の警察署へ直接連絡。
総領事館への通報
思わぬ事態に遭遇し、困っている人は、総領事館の「邦人援護担当官」へ連絡すること。週末・休日は緊急時のための 24 時間対応可能な電話システム(日本語オペレーター対応)も導入している。電話:1-212-371-8222