現代美術家
伊藤 知宏(いとうちひろ)さん
文化庁の新進芸術家研修制度で昨年9月から1年間、ニューヨーク市に滞在する現代美術家の伊藤知宏(ちひろ)さん(38)。大胆な黒い縁取りの絵が特徴的で、音楽家や料理人とのコラボレーション、文筆業など活動は斬新で多岐にわたる。ブルックリンのスタジオで2月18日に取材した。 (小味かおる、写真も)
▽ニューヨークでもお忙しい毎日?
そうですね、今回の研修テーマは「フルクサス」の研究と自分の制作活動。ポルトガルでの個展は10回目なんですが、近いので今回初めて行きます、明後日から。トマティーヨでいう中南米の野菜の絵=写真=を建物の窓にコマ送りのように展示します。それに、挿絵や文章の連載が数本。
▽ご両親が彫刻家で芸術は身近に?
両親が楽しそうにやっていて、教わるということはなく小さい頃から描いていました。デビューのグループ展は武蔵美(武蔵野美術大学)の時、個展は卒業後に阿佐ヶ谷のギャラリーカフェ「西瓜糖」で。そこでは3年で11回も個展をやって、描くものがなくなって「そこにあるものを描く」を始めたんです。
▽1960年代の芸術活動「フルクサス」に興味を持たれたのは?
大学受験の頃、『スタジオボイス』っていう雑誌で特集があって。その頃は黒い色は他の色を殺してしまうからと周囲の人は使っていなくて、やさしい表現が流行り始めていた頃で、黒い色を使っていた僕は、君のは表現じゃないって言われた。でも「フルクサス」の人はみんな黒を使っていてすごく救われた。
ニューヨークで何か新しいことをやろうと、先日はダンスを見ながらアイフォーンで点や線で描いて、それを拡大して水彩にしたんです。どんなに忙しくても、ちょっとしたことでも作品が作れるような考え方と構造の研究として「フルクサス」がいい。例えば、草間彌生さんの絵画は無駄がない。自分のイメージを「点」ってことにして、色も絵の具2色買えばできるし経済的にもよくできている。そういうものを分析して自分にとり入れて文章や映像にして、「世界に出るためにはそういう基軸が必要だ」と日本の若い人に伝えたい。日本ではアメリカとまったく美術業界のルールが違うため、自国への作品制作になってしまい世界のアートの戦いに勝てない。
▽「人の目と犬の目が同じになる時、アートが生まれる」という発言について。
現代美術って頭でひも解いていく要素が強い。作る側としてはそれをぶっちぎって頭だけでなく行動のエネルギーでと思うんですが、直観に従うだけではだめ。特にこっちに来ていろいろなアーティストに「アメリカの現代美術はロジックが大事だから解説を読め」と何度も言われた。考え抜いた作品が直観すぎると言いたかったんでしょうけれども、僕も以前より少しだけ作品について考えてから制作するようになりました。
■ことば■ フルクサス=1960年代初頭から、イベントを中心に日常的空間を異化するような「行為」を表現形式として、さまざまなジャンルで活動した前衛的芸術家たちのグループのこと。(ブリタニカ国際大百科事典小項目事典より)