マリーパット、の中身ご開帳 ニューヨークの魔法

 私のどこが一番好き? ってモンティに聞いたら、なんて答えたと思う?

 電話の向こうで、友人のマリーパットが弾む声でそう聞いた。モンティは彼女の夫だ。

 You’re not judgmental.

 君は、批判がましい偏 った判断をしない。

 モンティったら、そう言ったの。最高のほめ言葉じゃない? 今、部屋に私しかいないから、この話を聞いているのはトイレくらいだけど、それでも顔が赤くなるわ。

 そして、いつも歯に衣を着せない言動で、周りをひやひやさせる彼女が、意外なことを口にした。

 Every person is like a gift. You have to open them up to find out what’s inside.

 人は誰もがプレゼントのよう。中に何が入っているかは、開けてみてのお楽しみ。

 人は見かけではわからない。性急に一方的な判断をしてはいけない、ということだ。

 マリーパットが考えたにしてはまともすぎる言葉だが、心にしみる。

 昨年、彼女と一週間、過ごした。ふたりのフロリダ州の別荘に遊びに行ったのだ。

 私のために、香りのいいおしゃれな石けんや洗い立てのふかふかのタオルを用意し、大きなベッドルームに通してくれた。オープンで大らかで、誰とでも気さくに言葉を交わすマリーパットだが、一緒に暮らすといろいろ新たな発見があった。

 小さな丸いキッチンテーブルには、椅子がふたつしかない。朝、ふたりがまだ寝ていたので、アイパッドで仕事をしていたら、起きてきたマリーパットに、それは私の椅子よ! としかられた。

 コーヒーカップをテーブルに置けば、ああ、だめだめ、こぼれたらどうするのと、その三回りほど大きなスープ皿にキッチンペーパーを敷き、その上にカップを置き直す。

 彼女が夕食を作ってくれ、そのあと皿洗いをしていたので、私も手伝うわ、と申し出ると、じゃあ、食器をふいて、と言われた。

 水切りカゴがないので、カウンターに伏せた食器はまだびしょびしょだ。

 もう少し待ってから、ふいたほうがよくない?

 それが彼女の逆鱗に触れた。ミッツィもモンティも、気に入らないなら外食して!

 向こうで黙々と何やら片付けをしていたモンティまで、とばっちりを食った。

 共感を求めてモンティを見つめるが、私と目を合わせようとはせずに、何事もなかったように淡々と片づけを続ける。慣れたものだ。

 私は黙って食器をふき、その夜、三人はほとんど言葉を交わさずに寝た。

 でも翌朝は、いつもの彼女と私に戻っている。最後は別れを惜しみ、抱き合った。

 先日、マリーパットからメールが届いた。

 前回はサトシ(私の夫)が来られなかったから、次は一緒にフロリダに遊びに来る?

 来年のゲストの予定を立てたいから、まずミッツィに声をかけたのよ。

 あんなこと言われたんだから、二度と行かないでしょ? 彼女を知る人にそう言われたけれど、さっそく訪ねる予定を立てている。

 だってほら、人はプレゼントのようだから。それは私も同じ。今度はどんな中身が飛び出してくるか、開けてみてのお楽しみ。彼女のルールさえわかれば大丈夫だ。

 次も一週間。これはふたりのゲストの最長滞在期間らしい。アメリカ人がどんな顔して、ルールに従っているのか見てみたいものだ。

 ええ、なんか緊張するなぁ。そうおびえている夫も、彼女に何かガツンと言われるかも、と私は内心、楽しみにしている。

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第9弾『ニューヨークの魔法は終わらない』に収録されています。

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