大統領選に残る「変数」

 唯一の可能性だったニューハンプシャー州で”肉薄”までいかなかったことで、ニッキー・ヘイリーの芽はほぼなくなりました。次の6日のネバダや自身が州知事を務めたサウスカロライナの予備選が24日に控えますが、そこでも知事時代に引退上院議員の後釜に指名してやったティム・スコットや現役知事もがトランプ支持に回って、ヘイリーの線は地元でももうない。トランプはダメだという大口献金者からの選挙資金が今はまだ残っていますが、ニューハンプシャー後には献金停止を公表した富豪も出て、ヘイリーはサウスカロライナで共和党の大統領選指名争いから撤退ということになるでしょう。

 これまで91の起訴罪状、4つの刑事裁判、デサンティスやラマスワミなどの不確定要素がありましたが、先日の8330万ドル(123億円)の名誉毀損損害賠償判決も含めて支持者の熱量は全てを跳ね返して鉄板。世界は「トランプ2・0」に恐々としています。

 対する民主党バイデンですが、昨12月に「トランプが出なかったら私も出なかった」と漏らして慌てて撤回しましたが、今年82歳になる大統領は今のところ重要なスイング州でほぼ全てトランプに支持率リードを許しています。

 実際、これがヘイリーだったならもっと差が広がっていて民主党もバイデン以外の若い候補選びに動いたかもしれませんが、今やその変数もなくなりました。そこで現在は今年の選挙で貧乏クジを引くことはないと、若手有望株は次の28年選挙を狙う態勢なのです。

 共和党も同じです。早々とアイオワ後にレース離脱を発表したデサンティスもこれまでに十分顔を売ったので、さて今はあわよくばトランプ”次期”大統領の後継指名を受けるべく4年後に照準を合わせた。なので今回はまたバイデンvsトランプの「昔の名前が出ています」の遺恨延長戦になるのでしょう。

 いやはや他に誰もいないのかと大いに影響を受ける日本社会もヤキモキしています。もっとも、これで全て変数がなくなったかといえばそうでもなく、残るは前述のバイデンの年齢。万一予備選段階で体調不良となったり、勝利が困難となれば8月の民主党全国大会での正式候補指名後にだって「引退」表明の可能性がないわけでもない。そうすると一斉に民主党が混乱の中で新たな(若い)候補者に結集して逆に勢いを得るかもしれない。1968年にベトナム戦争の不人気で現役大統領のジョンソンが不出馬となり、ロバート・ケネディが一気に人気を集め、しかし暗殺されてハンフリーが急きょ候補となって共和党ニクソンに負ける時の失速感とは違い、今回はむしろ(不謹慎ながら)そんな期待感がずっと流れているのです。

 ただし、トランプvsバイデンとなっても、バイデンに対するどんよりした「そうじゃない」感が表れる現時点での世論調査とは異なり、11月の実際の投票までにはどんどんと対トランプ「脅威」が高じて結局バイデン票につながるのでは、というのがバイデン陣営の期待と皮算用です。いずれにしても大混戦でしょう。

 日本にいるとなぜまだトランプは人気なのかとよく聞かれます。人気というより支持者たちの熱量の高さですね。「トランプは一度も戦争をしなかった」「農業も手厚く保護してくれた」「トランプは習近平やプーチンや金正恩とも話をつけられた」──時代は変わりました。今もトランプの手法が通用するのか不明です。1期目は軍人や共和党本流の側近がトランプを羽交締めにして暴走を止めましたが、2期目の初日に「自分は独裁者になる」と予告している不安は日々増すばかりです。

(武藤芳治/ジャーナリスト)