サマーツイードの男

イケメン男子服飾Q&A 78
ケン 青木

 若い世代の皆様はもしかしたら聞かれたことのない言葉かもしれませんが、「梅春」、または「梅春物」と呼ばれる服地、洋服があります。言葉通りに意味を御説明いたしますと、梅春、梅春物とは、年が明け新春となり、桜の花の開花前の季節、つまり今くらいの時期から春先もしくは初夏まで着られる素材、またはそうした素材を用いた衣服について意味をいたします。

 私がこの仕事についた当時は、新春と言えば”売り出し“の時期ではあったのですが、合わせていかにも春の訪れを告げるがごとく、新鮮な「梅春物」の商品が入荷しても来たものでした。例えば、実はこれは梅春に限った素材というわけでもないのですが、春らしい明るい色調のウール・

ギャバジンのスラックス、はたまたザックリとしたオックスフォード地の様な厚手の綿シャツ、さらにはシルクや綿・リネン麻等のセーター、さらにはそれらの素材の混紡セーターなど、素材もなのですが、春らしい優しい色味のブルー、イエロー、ピンクといった秋冬の色調とは対照的な明るいトーンが中心でした。

 そして紳士モノのジャケットについてですが、私たちが「梅春物」と呼んでいる生地の多くは当地において”Summer Tweed”(サマーツイード)などと言われることが多いのですね。

 当地ニューヨークに限らずアメリカ東部一帯、さらにはシカゴ、サンフランシスコ、ロスアンゼルスといったアメリカ国内の大都市におきましては、一般にこの様な「梅春物」が活躍する時期は1年の半分くらいはあるかと思うのです。つまり日本よりもより長い期間着れるワケですね。

 「梅春物」紳士服のジャケットにおける素材につきましてもウールにシルク、そしてリネンといったところが中心でしょうか。特にウールとシルクという代表的な獣毛を組み合わせた素材、サマーツイードの生地は素材感も良くてとてもお奨めです。御参考までに一部宗教的な戒律について厳しいユダヤ教徒の皆様にはウールとリネンを混紡した生地を着用してはいけないことになっておりますので、念のため。

 サマーツイードと呼ばれます、主にシルクとウールをブレンドした生地は、ザックリした風合いながら

も秋冬物の様に厚手で重くはなく、上着の下にシャツさらには明るい色の同系素材を合わせたニットのヴェストやセーターを組み合わせいただくとvery goodかと思います。さらにスラックスにつきましてもあらゆる生地や素材を試されてみてください。なぜにウール・ギャバジンを真っ先に御紹介したのかと申しますと、歩いている時の足の運び具合、これもドレープ(生地のゆとり)と言いますが、とても美しいのです(笑)、生地のフワフワした動きが(笑)。そして用途、シチュエーションに応じて綿のチノ・パンツやジーンズなども是非組み合わせてみてください。

 靴についても表革でもスウェードでもお好みで。そうそう、上着の脇のポケットはパッチ・ポケットと呼ばれます、共布を張り付けたスポーティのものがいいかも(笑)です。そして”ウインドウペイン“と呼ばれます英国カントリー風の格子柄も御奨めなのですが、格子に使われている色をセーターやヴェスト、もしくはスラックスの色として拾われますと気が利いて見えます。それではまた。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。