ニューヨークのとけない魔法 ⑬
岡田光世
クリスマスシーズンの夜は、おそらくニューヨークの街が最も美しいときだろう。12月に入ると、ロックフェラーセンターやリンカーンセンターの大きなツリーにライトが灯される。金色に輝く無数の小さな豆電球が、街路樹を飾る。五番街のショーウインドーに華やかな装飾が施される。そして、ニューヨーカーたちは大きなショッピングバックをいくつも提げ、ところどころで足を止めては、クリスマスの訪れを楽しむ。
二月初めのその日は雪が降り、寒さが厳しかった。アメリカの永住権の更新手続きのために、移民局のオフィスに向かった。永住権は十年ごとに更新しなければならない。
新たに指紋採取と写真撮影が必要になり、場所と日時は前もって指定される。
電車が雪で遅れるかもしれない。午後一時に来るようにと言われていたが、私は早めに家を出て、その一時間半も前に着いた。
緊張しながら、受付の女性に提出する書類を見せた。
早く着きすぎてしまい、まだ一時間半もあるけれど、もう手続きしていただけますか。
女性はてきぱきと書類をチェックし、笑顔で答えた。
もちろんですよ。何時間前でも手続きしてあげるわ。
そして言い添えた。
If you pay a $50 fine.
五十ドルの罰金さえ払えばね。
五十ドル? 罰金?
私は思わず、繰り返す。
アポに遅れたのならともかく、早く来すぎて罰金って、そんなことがあるのか。
永住権更新の申請料は、すでにネットで五百ドル以上も払ったのに。
はい、罰金の支払いは、現金とクレジットカード、どっちにしますか。
予想外の成り行きに、頭の中が真っ白になる。
あはは。冗談よ。こんなに寒いなか、やってきたんでしょ。
So, did that warm you up?
どう? これで少しは温かくなった?
私は深いため息をつく。
Yes, thanks a lot.
おかげで緊張はほぐれたし、寒さも吹っ飛んだけれど、もうジョークは十分よ、の意味をたっぷり込めて、笑いながらそう答える。
このエッセイは、シリーズ第2弾『ニューヨークの魔法は続く』に収録されています。