「今こそ人類は科学に耳を」

ザ・ミッドナイト・スカイ
自作自演のジョージ・クルーニー語る

成田陽子のTHE SCREEN

 監督、制作、主演を兼ねたジョージ・クルーニーの新作「ザ・ミッドナイト・スカイ」で彼が演じるのはガンを病む年老いた科学者。北極のブリザードの中、眉もひげも凍りついて、よろめきながら、ひたすらに目的に向かって使命を果たすと言うヒロイックな役なのだが、ワタクシは彼にこう質問しました。

 「こういう役はブライアン・コックスに任せて、我らがジョージにはハンサムで性的魅力を発揮するような役を手がけて欲しいのですが」

 クルーニーは苦笑を浮かべて答えてくれた。「現在の地球に救いの手を差し伸べる格好のストーリーだと思ったし、こういう役こそ、演じがいがあるというものだ。自分でやればギャラも少なくて良いし」

 ハリウッドの美男美女スターは得てして老け役、醜くなっての汚れ役をしたがる。そして演技賞を獲得する率が高い。

 しかしコロナ危機の今、せめて画面の上だけでも憧れのスターが非現実的な美形を演じて、夢のような世界に引きずり込んで欲しい、と願うのはワタクシだけではないでしょう。

 ブライアン・コックスはTVシリーズ「サクセッション」で主役を張るスコットランド出身、74歳の典型的親分役俳優。

 おまけにクルーニーはこの役を演じるために過激な減量をしてほとんど死に損なったのである。

「別荘があるイタリアで周りがパスタだ、ワインだと騒いでいるなかで僕一人、躍起になって豆のスープなどのダイエットをしていたのだが撮影直前になって痛みで倒れてしまった。緊急病院に入院して膵炎と診断されてね。2日間ほど入院し、その4日後に撮影に入ったんだ。幸いなことに軽症だったが痛みは続いていた。役作りでは弱り果てた老人だから効果があったものの、監督業には相当のエネルギーが要るからしばらくは苦しい日が続いたね。焦っての減量は非常に危険だと思い知らされた。自分の歳を考慮しての健康管理が必要だとね。(今年の5月6日に59歳)

 この映画を作ろうと思ったのは今こそ、科学に耳を傾けろ、やれ人種だ、偏見だ、などと言うことより、人類と自然が破滅に向かっている事実に焦点を合わせ、自分たちの使命を改めて考えよう、後悔を乗り越えての償還(あがない)のドラマを描きたかったからだ。

 それにしても過酷なアイスランドのロケだった。見渡す限り氷のみ、氷が溶ける時の色が青いのを初めて知った。ま、僕らはそこでテント暮らしをしているわけでなく、暖かいホテルに戻って夜を過ごすわけだからあまり文句も言えないが、氷山が溶けていくのを目の当たりにして地球の危機を思い知らされたりもしたね。

 3月からロサンゼルスで家族4人、引きこもり生活中だ。妻のアマルの家族はレバノンの爆撃でかなり被害を受けたのだが彼らにはサバイバルの積み重ねがあるから、見事なほどに耐えている。僕自身も両親に会ってないし、アマルも飛んで行きたい気持ちを必死で抑えているようだ。まあ、もう少しの辛抱だからお互いに焦らずに安全第一で頑張りましょう」

 ズームの向こうでクルーニーは晴れやかな笑顔を見せてくれた。

(ツーショットは昨年ロンドンで撮影したもの)

(なりた・ようこ/ジャーナリスト/ロサンゼルス在住)