我が道を行く Vice

 W・ブッシュ政権下で「影の大統領」といわれたディック・チェイニーのドキュドラマ。34歳の若さで米大統領首席補佐官(フォード政権)となり、下院議員、国防長官(H・W・ブッシュ政権)そして最後は史上最強の副大統領になったチェイニーだが、むろん彼のサクセスストーリーではない。知恵を絞り、策を練り、周りを取り込みながら強引なまでに我が道を突き進む男。金も好きだがアメリカを引っ張り、世界を動かすパワーはもっと好き、とばかりにブルドーザーのごとく、驀進(ばいくしん)するチェイニーをコメディタッチで描く。
 「The Big Short」(マネー・ショート 華麗なる大逆転、2015年)の監督・脚本アダム・マッケイが今回は制作を含む3役を担当。チェイニーにはマッケイと3度目のコンビを組むクリスチャン・ベール。チェイニーより33歳若いベールが見事なまでチェイニーになり切るのがすごいところ。
 ベールの役作りのための体重増減は今に始まったことではない。「マシニスト」(04年)では60ポンド減量し、次の作品「バットマン・ビギンズ」撮影のため、すぐに70ポンド増量。今回も中高年太りのチェイニー演出のために40ポンド増量しただけでなく、髪は剃り、眉毛は脱色。似ているのはルックスだけではない。話し方、表情を含めまるでチェイニーを見ているようだ。
 チェイニーの妻リンにエイミー・アダムス、W・ブッシュにサム・ロックウェル、ラムズフェルド国防長官にスティーブ・カレルといういずれも演技力抜群の顔ぶれだ。
 話のほとんどはチェイニーが政界入りしてからの展開だが、物語の序盤でチェイニーがイェール大学中退後、電気修理工の仕事をしていた時期に飲酒運転で2度捕まり、リンに強く諭され奮起一転するシーンは印象的だ。
 従来の副大統領職にはなかった強大な指導力と影響力を手に入れたフィクサー・チェイニーにまつわるコントロール術や駆け引きの場面は、政治の舞台裏をまざまざと見せつける。ところどころマイケル・ムーア調の演出もあり存分に楽しめる作品だ。ロックウェルのW・ブッシュは笑いが止まらないほどの出来栄えだ。2時間12分。R (明)

■上映館■
AMC Empire 25
234 West 42nd St.
 AMC Loews 34th Street 14
312 W. 34th St.
AMC Loews Lincoln Square 13
1998 Broadway