リンカーン・センターで12作品を一挙上映
国際交流基金が共催、三沢和子氏が作品紹介
12月2日から11日まで、リンカーン・センターで米国初の森田芳光監督特集(国際交流基金共催)が上映される。8ミリの自主映画から始め、商業映画の大作まで手がけた森田芳光(1951〜2011)の30余年に渡るキャリアで作られた27作から選ばれた12作が上映され、製作者の三沢和子氏が2日から4日まで作品紹介をする。
1984年にアメリカでも劇場公開された『家族ゲーム』(83)は独創性に満ちた視覚・聴覚デザインで鮮烈な印象を与え、森田は一躍日本映画界の若手スターとなった。海から船でやってくる家庭教師(松田優作)は劣等生の中学生(宮川一朗太)に自信を与え、事なかれ主義の父(伊丹十三)、家族の狭間に居場所を探す母(由紀さおり)、優等生の兄の一家に波紋を生み出して行く中で、社会批評も炙り出す。一列に並んで家族が座る食卓シーンは、伝説的に語り継がれている。(写真上:『家族ゲーム』© 1983 Nikkatsu Corporation, Toho Co., Ltd.)
一作毎にまったく別のジャンル、種類の映画に挑戦することで、森田映画は驚きの連続であった。商業映画デビュー作『の・ようなもの』(81)は、落語家を目指す若者(伊藤克信)とあっけらかんとした性風俗産業従事者(秋吉久美子)を巡る題材も表現もリズムも個性的な魅力に溢れる作品であったが、その一方で日本文学を代表する重厚な原作も手がけている。夏目漱石の古典を豪華絢爛なスタイルで翻案した『それから』(85)、現代的テーマをそこはかとなく扱う吉本ばなな原作の『キッチン』(89)、国民的不倫ドラマとされた正統派ヒット作『失楽園』(97)と、森田の芸域は広い。
しかも日活ポルノの習作『(本)噂のストリッパー』(82)や薬師丸ひろ子、野村宏伸主演の『メイン・テーマ』(84)といった青春もの、暗殺者(沢田研二)を巡る冷徹でスタイリッシュな『ときめきに死す』(84 )があるかと思えば、心神喪失者についての法規をテーマにした鈴木京香主演の『刑法三十九条』(99)や保険金詐欺に翻弄される保険会社社員の奮闘を描く『黒い家』(99)といったサスペンス・スリラー、ホラーも手がけ、兄弟愛が微笑ましい『間宮兄弟』(06)まであれば、呆気に取られるほかない。
しかし特筆したい森田の才能は、世界に先駆けてパソコン通信を通じた交流を描いた『(ハル)』(96)に顕著だ。画面に広がるのはその多くがパソコン上に文字で書かれた短い通信文で、そこから二人の男女(深津絵里と内野聖陽)の現実生活でのロマンスに波及する流れは見事である。その先取精神とともに、映像を通じた森田のアイデアと技術に平伏するばかりである。(平野共余子)
詳細は https://www.filmlinc.org/series/yoshimitsu-morita-retrospective/#filmsを参照