藤竜也 ジャパン・カッツ、生涯功労賞

 ジャパン・ソサエティー(JS)が開催した日本映画祭「ジャパン・カッツ」で18日、ベテラン俳優・藤竜也氏(81)に生涯功労賞が授与された。主演映画「大いなる不在」(近浦啓監督)では、Cut Above Award受賞の森山未來氏と親子として共演し、記憶、家族、喪失という深いテーマを力強く演じた。藤は「俳優生活晩年に素晴らしい仕事をさせていただいた」と挨拶、続けて「ニューヨークは今から約50年前に来て今回が2度目。感慨深いストーリーがあります」と切り出し、1976年のNY映画祭に参加した大島渚監督の「愛のコリーダ」が上映中止になったエピソードを語った。今回の滞在中に同作品が48年ぶりにNYで劇場公開されるとあって、藤にとってはダブルの喜びとなった。

映画祭JAPAN CUTSの生涯功労賞を手にする藤竜也氏(18日JSで、写真・三浦良一)

JAPAN CUTS
映画で日本社会描く

生涯功労賞に藤竜也
「二度目のNY。感慨深い思い出が」

森山未來にCUT ABOVE賞
「演技の中で日本文化模索」

森山さん(左)と塚本監督 © Ayumi Sakamoto

 ジャパン・ソサエティーが開催した日本映画祭「ジャパン・カッツ」で18日、生涯功労賞がベテラン俳優・藤竜也氏(81)、またCut Above Awardが実力派俳優の森山未來氏にそれぞれ授与された(1面に記事)。映像、舞台、ダンスとジャンルにとらわれず活躍を続ける森山氏は、例年注目作を上映する「センターピース」枠として今年上映される塚本晋也監督「ほかげ」に主演、戦後の絶望の中を生きる片腕の動かない男という難しい役柄を見事に演じ切った。

 生涯功労賞受賞の藤氏は、最新主演作「大いなる不在」の上映会に、近浦啓監督と共に出席した。藤氏は、大島渚監督の「愛のコリーダ」などに代表される約60年にわたる輝かしいキャリアを持つ日本を代表する俳優。『大いなる不在』では、Cut Above Award受賞の森山と親子として共演し、記憶、家族、喪失という深いテーマを力強く体現している。

 CUT ABOVE賞受賞の森山氏は、「映画、パフォーミングアーツも含めて、日本と欧米で起こっているアクションに流れているものは違うものがあって、それはどちらもあって面白い。どういう風に自分たちの文化を関わらせればいいのかというのは今でも考えている。日本で映画を撮り続けて、とてつもない純度と強度で映画を作り続けてきた塚本晋也さんと今回出会うことができ、このCUT ABOVE賞というものにつながったと思う。本当にこの賞を励みにこれからも模索していきたいと思います。今日はありがとうございました」と挨拶した。

 生涯功労賞を受けた藤氏は「俳優生活62年の晩年に、素晴らしい仕事をさせていただいて感謝しています。仕事への情熱を維持する秘訣は、飽きないようにやることです。お腹が空いているからご飯が美味しい。満腹なら美味しく感じません。収入は減りますが、飽きないように仕事を少なくしてやっています。今回ニューヨークで映画祭に参加して、感慨深いストーリーがあります。映画人として2度目のニューヨークです。前回は約50年前にリンカーンセンターで開催されたニューヨーク映画祭に、大島渚監督と参加した『愛のコリーダ』の時でした。残念ながらニューヨーク州の検閲にひっかかり、フィルムが没収され上映されませんでした。私の出演した映画で一番大事な仕事は何かと言われると1つは『愛のコリーダ』、もう一つがこの『大いなる不在』です。それほどこの2つの作品は私にとって重要な仕事です。『愛のコリーダ』では、日本で裁判が8年かかり、大島渚は無罪を勝ち取りました。私も警視庁で尋問されました。いい意味でも悪い意味でも私にはレッテルを貼られました。でもそのレッテルは私にとって勇気になりました。バネになりました。今回、その映画がメトログラフという劇場で上映されます。50年ぶりにNYの観客にこうしてハローと言えて嬉しいです」。

アイスクリームフィーバー
千原監督に聞く

 グラフィックデザイナーの千原徹也氏が初めて手がけた映画「アイスクリームフィーバー」。20日ジャパン・カッツで上映された。川上未映子の『アイスクリーム熱』(『愛の夢とか』講談社文庫)を原案に吉岡里帆、モトーラ世理奈、詩羽(水曜日のカンパネラ)、松本まりかの4人の独身女性が東京渋谷のアイスクリームショップを舞台に展開する青春物語。

 千原監督が登場人物たちの年代だった頃の90年代の空気の中に、現代のZ世代+の若者の世界観を投入し、カラフルな映像のなかで、若い女の子たちの人生の葛藤を甘く軽快に表現している。

 「デザインするように映画を撮る」ので、映画人になったという気概などはなく、デザインの延長線で取り組んだため、異なるジャンルに足を踏み入れたという感覚もないという。

 「デザイナーの仕事はCDのジャケットをデザインしてもデザイナーからしか反応がなかったが、映画は広い層から反応があることが何よりも面白かった」と映画を作ってみて実感した。20回以上来ているニューヨークだが、今回はまだアイスクリームを食べていないので「そうかあ食べたいなあ」と言った。(三浦)