コロナ禍でも無観客でも

田中いづみモダンバレエ発表会

田中いづみと母、石川須姝子氏(撮影・浜崎都)

 ニューヨークで20年間、現代舞踊家として活躍しNY大学で講師を務めた田中いづみ氏が9日、東京の練馬文化センターで、同氏が率いるダンスアカデミーの発表会を開催した。

 同「石川須姝子・田中いづみダンスアカデミー」(東京都練馬区)は、田中氏の母、石川須姝子氏が創立し、今年で71周年を迎えた。創立以来、ほぼ毎年行ってきた発表会だが、昨年の70周年記念は新型コロナウイルス感染の影響で中止となり、今回は2年ぶりの開催となった。緊急事態宣言下の東京都では、各市、区によって劇場運営の方針が異なる。なかでも規制が厳しい練馬区での開催には「中止」または「無観客」の選択が迫られた。

 チケット売り上げはなく、商業目的の団体とは異なり行政からの助成もほとんどない。それでも収容約1500席の大ホールで、無観客の公演を決定したのは「最年少の生徒は4歳、子どもたちは日、月単位で変化していってしまう。その姿を公の場で演じる機会をこれ以上延期するわけにはいかないと思った」からだ。また、95歳の同アカデミー代表の母にも、コロナに屈せず元気に舞う生徒たちの姿を見て安心してもらいたいという思いもあった。

 田中氏といえば、同時多発テロ、東日本大震災をもともに現地で体験し、その都度、舞踊を通して人とのつながりの大切さを伝えてきた。そして今回迎えたコロナ禍での公演では約60人が、3部構成の全33演目を演じた。田中氏が以前にプロの公演用に創作した「kankiその2 ボレロ」=写真左=では、19人の出演者が、自粛生活での鬱憤や困惑を精一杯表現した。

 田中氏は数年前、韓国、中国、スペイン、日本舞踊のプロ5人で「peace by dance」というチームを結成した。作品「輪五(わご)の舞」=写真右=は、昨年、東京五輪を記念して開催した公演で上演した。これから同チームで国境や時空を超え、踊りを通して平和を伝えていきたいという。田中氏は「バーチャルや動画配信はなるべくしない。生身でないと伝えられない空気感があるし、観客とのコミュニケーションもはかれないから」と話している。

浜崎都記者、写真・塚田洋一