作品作りと社会貢献の両立目指したい

建築家 坂 茂さん

 ジャパン・ソサエティー(JS)は2月27日、国際的な建築家・坂茂氏を招いた講演会、アーキテクチャープレゼンツ「坂茂・Timber in Architecture」を開催した。革新的な木材建築は自然で美しいだけでなく、近年の気候変動への対応策として環境に配慮したものづくりのツールとして重要視されている。紙管(しかん)を用いた建築実績、災害支援活動、そして建築を通じた持続可能な未来に向けた取り組みについて語った。講演後、最近の活動などを聞いた。

(聞き手・本紙・三浦良一、写真も)


 ーニューヨークはよく来られるのですか?

 「昔は毎月来ていて北野ホテルから100回目の宿泊記念もしてもらいました。今回は昨年以来です」

 ー坂さんの作品はアートですか建築ですか、造形美を意識しますか?

 「建築はアートではないですよ。建築をデザインする以上、全てが美しくなければ建築ではない。美しいものをデザインしようと思ってデザインしているわけではないですから。紙管を使って作った建物は数えきれないほどありますが、随分作ったものがまだ残っていますけどね。耐久性は、図書館の本、だめにならないじゃないですか。ちゃんと防水すれば何年でも持ちますよ」

 ー自分が日本人であるから建築に和や木材を意識して使っているのですか?

 「日本人であるということでの和と木の文化へのこだわりはまったくないです。日本で建築の教育を受けていませんからそういう意識はまったくしてないし、そういう日本の建築が海外に出るとそういうふうに意識されるのはあんまり好きじゃないんで全く意識してないですね」

 ー建築家になろうと思ったきっかけはなんですか?

 「昔、小さい頃、大工になりたかったんです。小さい時は建築家なんて知らないから大工が家を作っていると思っていた。中学の技術の課程で住宅の簡単な設計と夏休みの課題で模型を作ることがあり、それがすごく楽しくてそれで建築家になろうと思ったんです」

 ー今後の取り組みで、地震や戦争の被災地での仕事はどんな状況ですか?

 「トルコはテンポラリーですけど、ウクライナは復興住宅を手がけてます。住宅というかアパートですね。昨年3月に国境まで行って、9月にリビウで市長に会って、4月にまた戻ります。求められているのは早さと快適さの両方ですが、そのステージごとに必要なものは違うんです。最初は皆さん避難所にいるので、まずプライバシーを守るためにパティションを作り、それから仮設住宅を作り、で、場合によっては復興住宅を作ります。ただ、あまり復興の仕事はやらないようにしてるんです。というのは、復興の仕事というのは仕事になりますから、地元の建築家がちゃんと設計料もらってやればいいことで、復興前の避難時のとか仮設住宅の改善とかを提案しています」

 ーライフワークの延長線上にあるピクチャーってどんなものですか?

 「目指しているものは、いや、あまり特にないんですよね。将来的な夢があってやっているわけではない。コンペに勝てば美術館も作るし、地震がくれば被災地にも行く。その場その場でやっているだけで、大きなピクチャーはないですね。

 ー今年のスケジュールはどんな予定ですか?

 「トルコはまだ行ってないです。ウクライナが大変なんで。1年たってしまいましたが、もっと早く試作を作ろうと思っていたんですけど、電力不足で工場が動かないんで、それで滞っちゃったんですよ」

 ーニューヨークでこれを作ってみたいというようなものはありますか?

 「うーん、いや、なんでも仕事くればやりますけどね、別に何かやりたいってないですね特に。作品作りと社会貢献の両立を目指していきたいと思っているのですが、やってみてだんだん分かってきたのは、その境目がなくなって来ていて、仮設住宅作ろうが住宅を作ろうが、自分のエネルギーとか満足度は変わらないんで、単に違うのは、設計料もらうかもらわないかの違いだけであって、自分の興味とかエネルギーとかできた後の満足は変わらないですね。それはだんだん分かってきたことですが」

ーパッションだけは変わらないということですね?

 「そうですね」

ーありがとうございました。


ばん しげる 建築家、教育者、人道主義者として、グローバルな視野で活躍する。1985年、クーパー・ユニオンで学んだ後、坂茂建築設計事務所を設立。1994年、NGO「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク」を設立し、30年近くにわたり、さまざまな支援活動を行う。現在、東京、パリ、ニューヨークにオフィスを構え、6大陸で150以上のプロジェクトを手がけている。デザイン活動に加え、次世代の建築家の育成にも力を注ぎ、多摩美術大学、慶應義塾大学、ハーバード大学GSD、コーネルAAP、コロンビア大学GSAPPなど、多くの教育機関で教鞭をとっている。建築、文化、人道的な貢献により、プリッカー賞、フランス芸術文化勲章、レジオンドヌール勲章、トーマス・ジェファーソン財団建築賞、マザー・テレサ社会正義賞を受賞している。