北極圏に取り残された男の自然との壮絶な闘いを描くサバイバルもの。極寒と孤独に耐えながら一日、また一日と死と隣り合わせで今日を生きる。助かる望みがあるかと言えば、無い確率の方が状況から見て高いようにみえる。それでも希望は捨てない。力尽きるまで生き抜くことが自分に残された使命だからか。
監督・脚本はブラジル出身のジョー・ペナ。ミュージシャン/映画製作者のペナはユーチューブに作品を発表することからキャリアをスタートさせ、2016年にトライベッカ映画祭で短編映画を上映、本作は彼の長編デビュー作となる。
主演はデンマーク俳優のマッツ・ミケルセン。「007 カジノ・ロワイヤル」「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」などハリウッドメジャーから本国デンマーク作品まで多数出演、「Jagten」(偽りなき者、2012年)で第65回カンヌ国際映画祭男優賞を受賞。本作も今年のカンヌにコンペティション外で選出され、スタンディングオベーションを受けた。
たまに独り言を言うぐらいで会話はほとんどないがミケルソンの一挙一動から目が離せないスリリングな雰囲気が全編に漂う。
不時着したような小型飛行機が見え、少し離れたところでミケルセンがガリガリと凍った雪をかき、黒い岩肌が見えるまで何度も何度も同じ動作を繰り返すシーンで始まる。空からはSOSの文字が頼りなさそうに雪原に浮かび上がるが、実寸は気が遠くなるようなサイズだ。ミケルソンのジャケットには「オーバーボード」のネームタグがついているのでそれが遭難した男の名前なのだろう。
男は何週間も前から小型飛行機をホームベースに救助を待っている。SOSが空から見えるように雪をかく、食料用の魚の捕獲、決まった時間帯に遭難信号の発信など黙々と日課をこなす。
救助を求めたヘリが男の前で突如墜落し大怪我をした女性を救うことになり状況は変化する。女性の傷は悪化する一方でこのままでは死んでしまう。同じ場所にとどまっても救助される見込みはなく、男は生還への別の道に舵取りを迫られる。サバイバル映画の傑作ともいえる。1時間38分。PG-13。(明)
■上映館■ City Cinemas East 86th Street 210 E. 86th St. Angelika Film Center 18 W.Houston St.