イタリアの自動車メーカー、フェラーリの創設者エンツォ・フェラーリの伝記物語。元レーシング・ドライバーでもあり、モータースポーツへの熱意を絶やすことのなかったエンツォの最も波乱に満ちた一時期に焦点を当て「ヒート」のマイケル・マン監督が独特の感性で描き出す華麗でエネルギッシュな作品だ。
エンツォに扮するアダム・ドライバーは「スターウォーズ」シリーズのカイロ・レン/ベン・ソロ役で知られるが、「ハングリーハーツ」でヴェネツィア国際映画祭主演男優賞を受賞するなど演技力では定評がある。40歳のドライバーが50代後半のエンツォを演じるにあたり特殊メイクは最低限に抑えオールバックの銀髪で強烈な存在感を放つ。
エンツォとともにフェラーリを立ち上げ陰で支えた妻ラウラには「それでも恋するバルセローナ」などで数々の賞を受賞しているペネロペ・クルス。息子を失い、夫との関係も壊れていく現実を受け止めきれずに悲しみの底へと落ちていくラウラを熱演する。
1957年、夏。エンツォはたびたび朝帰りをするがラウラはもう浮気には慣れっこだった。だが、夫婦は昨年、一人息子ディーノを筋ジストロフィーで失っていた。24歳という若さだった。以来、二人の間には冷たい空気が漂っている上、このところエンツォのお遊びが度を過ぎていることにラウラは苛立っていた。
この頃エンツォは愛人リナと彼女との間にもうけた息子ピエロとの暮らしに安らぎを見出し始めていたものの、ピエロにフェラーリの苗字を名乗らせてほしいというリナの頼みに躊躇していた。ラウラはリナの存在を知らない。ましてや息子までいると知ったら激怒するに違いない。
会社の方も問題を抱えていた。レーシングカーに力を入れるあまり、利益を生み出すスポーツカーの生産台数が目標に届かず、倒産しかねない状態でもあった。エンツォは毎年イタリアで行われる公道自動車レース「ミッレミリア」で何としても優勝し起死回生を図ろうと力の限りを尽くす。
爆音とともに疾走する真っ赤な車と緑が鮮やかな田園風景。これぞマン監督の本領が発揮される場面だ。2時間10分。R。(明)
(写真)ミッレミリアに賭けるエンツォ(ドライバー、右端)Photo : Lorenzo Sisti
■上映館■
AMC Empire 25
234 West 42nd St.
Regal Union Square Stadium14
850 Broadway
Village East By Angelika
181-189 Second Ave.