編集後記 3月27日号

編集後記

 みなさん、こんにちは。新型コロナ禍が始まって以降、アジア系に対する犯罪が増加しています(本紙今週号1面、4〜5面)。ジョージア州アトランタで16日、マッサージ店など3カ所が次々と男に襲われ8人が死亡、うち6人がアジア系女性という事件が発生しました。移民を排斥したトランプ前大統領が新型コロナウイルスをチャイナウイルスと呼んだことでアジア差別に火が着き、20世紀初頭に欧米を席巻したイエロー・ペリル(黄禍論)の再燃とも見られる現象がいま全米規模で起こりつつあります。それは何故でしょう。昨年夏はコロナパンデミックの中、黒人差別に抗議したブラック・ライブズ・マター(BLM)運動が起りました。その運動のあまりの反動のため、ファッションメーカーがモデルを白人から全て黒人に変えたり、100年続いたシロップの黒人女性のラベルも消され、黒人差別に対するタブー(不可侵)の聖域ができて、これまでのように警察もうかつに黒人被疑者に対する踏み込んだ捜査に手が出せなくなっていることに対し「社会全体としてもいじめの対象として黒人がダメなら大人しいアジア系、しかも抵抗しない女性が差別的攻撃の標的、スケープゴートになる」と指摘する人もいました。もともと黄禍論は大国のロシアと戦争をして勝ったアジアの小国、日本に対する驚きと恐れの「脅威」から発生したもの。いまの中国の経済・政治、軍事的覇権拡大に対抗する米国の国力の低下から発生する「脅威論」がアジア憎しの増悪犯罪を生み出しているという見方もできます。日本は、1980年代半ばにあった日米貿易摩擦と自動車摩擦での米国における日本バッシングのような状況には今はなく、アジアの中でもアメリカと同じ価値観を共有する同盟国として、アジアの一員であること以上にその軸足はアメリカの同胞意識の方が強いです。国連加盟国の中で圧倒的に日本は親近感を持たれる好感度の高い国だそうですが、アジアの中では中国、韓国、北朝鮮ともお互いに相譲れない感情的な最悪の衝突事案を抱えています。そんなことが理由か、反アジア差別抗議集会でも日本人の姿をほとんど見かけません。総領事館が「危ないところには近づかないで」と呼びかけているからかもしれませんが、日系人は戦争中に強制収容所に入れられたという人種差別を受けた国で、アメリカはそのことに謝罪しています。日系社会には、フレッド・コレマツというその人種差別と戦った歴史上の勇気ある人物がいるので、そこをバックボーンにしてアジア差別反対をさらに強く訴えかける武器を持ってはいます。しかし、なんと言っても人類最大のアジア増悪犯罪は「戦争の早期終結のため」という後付けの嘘ばっかな理由によって落とさなくてもよかった原爆を2つも日本に落とした「アメリカの過ち」だと思いますが。原爆は今なら確実にジェノサイド条約違反ですが、それにも日本は加盟してません。すべてアメリカの顔色を伺ってというのが、突き詰めて行くとアジア差別にも強い姿勢にでられない日本の宿命かもしれません。この部分はニューヨーク日系人会などの日系米国人組織の健闘を祈りたいです。それではみなさん、良い週末を。(三浦良一、週刊NY生活発行人兼 CEO)