田 仁揆(ひとき)・著
中央公論新社・刊
著者はジャパンタイムスの記者を経て、国連政務官の試験にパスしたものの、国連は財政難で採用は延期。赴任したのは3年後の1988年、ニューヨークにある国連本部であった。それから2014年に退任するまでの25年。ハビエル・ペレズ‐デクエヤル、ブトロス・ブトロス‐ガリ、コフィー・アナン、バン・ギムン(潘基 文)と四代の事務総長に政務官として仕えた。本書は、その活動の日々を綴った前作『国連を読む 私の政務官ノートから』の続編という位置づけで書かれた。
国連発足から75年を迎える今、9人を数える国連事務総長は何を成し遂げたといえるか。歴代事務総長の足跡と9代グテーレスの選考過程までを辿り、自ら指揮する軍隊も統治する人民も領土も持たない国連事務総長が、東西冷戦下、そして冷戦 終焉後の国際情勢のなかで、どのような役割を果たしてきたかを読み解き、その可能性とまたその限界までを考える。
まず目次を見ていくだけでも興味をそそられる。 国連事務総長の職務とはどのような仕事で、歴代の事務総長はどんな人物だったのかがつぶさにそこに描かれているからだ。
第一章は 国連事務総長の誕生、第二章で 事務総長の役割として黎明期の国連を紹介。第三章でトリブグ・リー ― 世界で最も不可能な仕事の中身を伝え、第四章は、ダグ・ハマーショルドーレジェンド。対立の時代を描く。第五章でウ・タント 、 第三世界の擡頭と題して新興国の躍進、第六章は、クルト・ワルトハイム で 対立の時代。 第七章でハビエル・ペレズ‐デクエヤルとなり、冷戦の終焉を語る。 冷戦終焉後の第八章に、ブトロス・ブトロス‐ガリ事務総長が登場し、超大国と喧嘩した男の生き様を描く。第九章コフィー・アナンは、地球市民のための国連、第十章でバン・ギムン(潘基文) ― 顔の見えない国連 終章、国連はどこへ行く? と続く。
現事務総長のグテーレスが、国連史上初の透明性を持った選挙で選出され、加盟193か国の満場の拍手で就任した時の様子などが臨場感たっぷりに描かれていてノンフィクション作品として読みごたえのある一冊になっている。
国連の仕事は、「1にも2にも提出する文書のクオリティーがすべて」とは、様々な部署で働く日本人の国連職員が異口同音に吐露することだが、本書の参考文献の表示の仕方もまた他の一般書ではあまり見ることのできない国連職員らしい緻密さを感じさせる。四半世紀にわたって国連事務局執務室から見たもうひとつの、しかも日本語で書かれた希有の戦後国連世界史ともいえ、特に国連職員を将来目指す日本人にとっては必読の書といえるだろう。 (三浦)