オーストラリアの夢見る港

麻生 雍一郎・著

新聞情報社・刊

 本書『港から見るオーストラリア・海から見る日豪関係』は、オーストラリア政府からの出版助成を受けて同国各州の港を中心にした物流の取材と調査を続けてきた、元読売アメリカ社長、麻生雍一郎さんによる調査報告書である。

 麻生さんは1978年に読売新聞シドニー支局を開設し、82年までの4年間、初代特派員としてオーストラリアと南太平洋各国をカバーした。滞在中、オーストラリアでは「距離」を視点の中心に据えてかかるべきだということを実感したという。オーストラリアは英本国との距離や国内の広大な距離に翻弄されながら植民者たちが作りあげた国であり、21世紀に入ったいまも距離の克服は政治、経済上の重要な課題となっている。そんななか、港は内陸部の開発や発展などに重要な役割を果たしてきた。
 オーストラリアは日本の20倍の面積を持つ広大な大陸だが、人口は日本の5分の1である2500万人足らず。その人口の8割が海岸線から百数十キロ内の沿岸部に住んでおり、どの州も人口の半数以上が州都に集中している。
 本書ではオーストラリアの主要5港(シドニー、メルボルン、ブリスベン、フリーマントル、アデレード)について、形成時から今日までの発展の経緯をたどる。現在の課題、将来の展望、日本の港との交流の歴史を探り、これらの港の後背地として発展してきた州都および州の現状についても詳しく考察。オーストラリアの港湾について詳しい教授などへ自ら調査・取材にあたり、オーストラリアの特徴や概要についても解説する。
 第1章で紹介しているシドニー港とニュー・サウス・ウエールズ州については、ハーバーブリッジと白亜の貝殻を模した美しいオペラハウスが有名だが、1769に英国海軍海尉キャプテン・クックの指揮するエンデバー号の冒険から始まる。海図のない航路西に進路を取る未知の大陸を求めてたどりついたのが島ではなく、海岸線が2万5760キロにも及ぶ広大な大陸の東海岸だった。
 またブリスベン港とクイーンズランド州では17世紀に海洋で暴れた山田長政の伝説と歴史も現地での紐解きもあり興味深く読める。ぜひ英語版も出版していただきたい。開拓と冒険と産業経済で発展した豪州の港。英国の歌手、メリー・ホプキンの1970年のデビュー曲「夢見る港」の調べが聞こえてくる。 (三)
著者紹介:
 あそう・よういちろう=1942年東京生まれ。読売新聞連載の移民シリーズで第1回日豪交流ジャーナリズム賞を受賞。当書はオーストラリア連邦政府設立になる豪日交流基金の助成を得て6月に出版。オーストラリアに関する著作は2013年の『オーストラリア 歴史・地理紀行』以来6年ぶり。そのほか『オーストラリア 未知未来の大陸』『オーストラリアは大丈夫か』などがある。