ラプレツィオーサ伸子・著
青春出版社・刊
アメリカで20年以上ホスピスケアをしてきた現役ナースの奮闘記。ホスピスは進行したがんなどの病気により余命6か月以内と診断され、かつ積極的な根治治療や延命治療を行わない人に、その人の寿命が安らかに尽きるまで身体的、精神的、社会的などの面からサポートする施設だが、著者によると現在アメリカでは基本的に在宅でのホスピスケアを行うのが一般的なのだそう。
人生の最後をどこで迎えたいか、病状や生活環境、年齢、信仰などにより人それぞれ違うと思うが、その日はいつか必ず誰にでも訪れる。ごく普通の人たちがどのようにして「その日」を迎えたのか、どこにでもありそうでどこにもない、そんな13通りの「いのちの物語」がナースとしての優しい視線で綴られている。
本書の最初に登場するのは、先天性疾患を抱えて生まれてきた新生児のエピソード。その女の子は生後24時間もたっておらず、まだ名前もついていない赤ちゃんで、心臓の発育が極端に未発達な先天性疾患のほかに、いつくもの合併症を持って生まれてきた。ホスピスを利用する人たちは、病魔におかされた末期患者や高齢者だけではないのだ。その赤ちゃんは家族や多くの人から愛情を注がれ、その人たちにたくさんの思い出を残して旅立っていく。16日と2時間10分のいのちだった。
去り行く人たちが教えてくれる生きることの意味、そして人は何のために生まれて来るのか、その答えが、ナースの見解としてこの章に明確に書かれている。
自分が人生の最終章にいることを自覚している人(患者)と短い時間のなかでふれあう著者が、「ホスピスナースをしていて何よりも気になるのは、その人が幸せか、そうでないか」なのだという。そんな彼女が仕事をするうえで感じたことは、「看取りの過程で第三者のプロの助けを入れることで、想像したよりも怖くない、思ったほど悪くない、ときには『人生で最も充実した素晴らしい経験だった』とまで思えるような時間にすることができる」ということ。また、「ホスピスは『死ぬ場所』ではなく、『最後まで自分らしく生きる事をサポートするケア』であると理解する人が増え、そんな場所で仕事をしたいと思うナースや医師が増えていったら、なんて素晴らしいのだろうと思うのです」と綴っている。
著者のラプレツィオーサ伸子さんは米国ホスピス緩和ケア認定看護師、小児ホスピス緩和ケア認定看護師で、アメリカで開発されたエンド・オブ・ライフ・ケアの看護師教育のプログラム「エルネック(ELNEC)」の認定指導員でもある。このプログラムは日本でも「エルネックJ」として普及し始めている。現在は日本の大学や在宅医学会、在宅ケア学会においてホスピスケアなどについての講演、在宅ホスピスの専門家として活動するほか、2014年から「ホスピスナースは今日も行く」というブログ(https://gnaks.blog.fc2.com/)を執筆している。アメリカでのホスピスの現状を知ることができる本。(高田由起子)