落合陽一・著
SB新書・刊
平成の時代がまもなく終わる。日本はこの31年間で国民の28%が高齢者という超高齢者国家となり、阪神淡路大震災、東日本大震災によって受けた自然災害のリスクに曝されながら国民が生活している。「平成」という戦後の高度経済成長の最後のバブルの「昭和」の頂点からどん底に転落していったマイナスのイメージが強い時代。そこを生きている今の日本人の立ち位置を再点検し、検証する担い手は、国民の高齢世代のマジョリティーではない、ミレニアム世代の現在30歳前後の人たちだ。
この本は、人口が減っていき、縮小する社会で、ますます将来が見通せなくなっているいま、日本を再起動するために、日本人は何をどう考えるべきか、そのミレニアム世代注目の論客と次世代のリーダーたちが、日本の本質的な論点と次の時代への指針を示した書だ。
オンラインのニコニコ生放送で話題となった「平成最後の夏期講習」を下敷きに、筆者の落合陽一さんが大幅に加筆したものだ。冒頭には小泉進次郎氏との対談も収録されている。「世界とは逆のトレンドに入る日本。人口減少社会は史上稀なるチャンス」と捉える考え方。そのベースを支えているのが、政治(ポリティクス)と技術(テクノロジー)を合わせた造語「ポリテック」だ。AI(人工知能)との付き合い方で働き方が2分される。そこで提唱されているのが、国民に最低限の生活を保障する資金を給付する「ベーシックインカム」制度の導入だ。そんな財源はないとの反論を多く受けた考えだそうだが、過疎地におけるインフラ整備にかける地方自治体の投資額が、国民一人当りにかけるその地域のベーシックインカムを大幅に上回っている。人口の減少で、その傾向は地方の過疎地だけではなく、いずれ中堅規模の都市から日本全体への問題としてクローズアップされることを示唆している。父親は国際ジャーナリストであると本書で自己紹介しているので、すぐ落合信彦だと分かる。昭和、平成を通して世界から日本を見つめてきたジャーナリストの息子が日本を見る目は極めて客観的であり、合理的だ。
本書のタイトルは『日本進化論』。いろいろ読み進めると、最後の方に、日本社会は「農耕民族」タイプであり、将来の成果、実りをあてにしてコツコツと働き続ける社会だとある。末尾で本書は戦後日本の終身雇用制度に基づくその社会構造にメスを入れる。日本以外の先進国は狩猟民族的な国が多い。典型なのはアメリカだ。開拓して獲物を狙って移動する。ロサンゼルスに拠点を置く国際経営コンサルタントの竹中征夫氏が2月28日、ニューヨークの日本クラブで講演したが、まさにその点を指摘していた。海外の日本企業は日本的マインドを持ちつつそこの国の企業になっていかなくてはならないのだと。翻って日本国内の日本人、日本企業は自国にありながら進化を続けなくてはならいということ。期せずして日米で同時に、時代を見据える次世代の旗手と海外で百戦錬磨のコンサルタントとの視座が同一であることにこの本の大きなメッセージ性を感じる。(三浦)