物事の見方を変える

ドリアン助川・著
ポプラ社・刊

 著者は1962年東京都生まれの作家・歌手。早稲田大学第一文学部東洋哲学科を卒業後放送作家などを経て、90年「叫ぶ詩人の会」を結成。その後ラジオ深夜放送のパーソナリティを務めて人気を博した。現在は明治学院大学国際学部教授や日本ペンクラブ常務理事などを務めている。2013年に出版された小説「あん」は映画化もされた著者の代表作であり、フランスのドミティウス文学賞や、読者による文庫本大賞(Le Prix des Lecteurs du Livre du Poche)を受賞した。
 本書は、さまざまな境遇の人たちから送られる10通の手紙によって織りなされるファンタジー小説だ。11年に宝島社より発売された「夕焼けポスト〜心がラクになるたったひとつの方法」を改稿したもので、装幀も一新されて幻想的な美しい表紙となった。本棚に置いておくだけでも癒される。
 さて、誰しも悩みを抱えているものだが、その悩みを手紙にして送ると、親身になって聞いてくれて、解決してくれる頼もしいポストの管理人が今回の主役だ。
 日没寸前の川沿いに、あらゆる人間の願いや苦しみを受け止める不思議なポストが現われる。ポストの管理人である「私」は悩みを寄せる人々に返事の手紙を書き続ける。しかしそんな彼も悩みを抱えているひとり。夕焼けポストに投函した返事は、悩みを書いて送って来た人の夢のなかに届く。時代を超え、空間を超え、それぞれの言語で語りかける。そしてその返事に書かれていることは手紙の送り主にとって正夢となることもある。
 テレビ局に勤めていた主人公の「私」は妻と娘を事故で失い、抜け殻のようになってしまう。ある日、古本屋の店先でワゴンで叩き売りされているタゴールという詩人の詩集と出会う。彼はその詩に救われ、テレビ局を辞めて旅立ち、夕焼けポストの管理人となる。
 始終です、ます調で丁寧に綴られた文章からは筆者の優しさが感じられる。新聞紙やラジオ番組で人生相談の回答者として活躍する著者だが、その経験を活かして、悩みを持つ全ての人へ向けられた救いの物語となっている。また、手紙は古今東西の偉人たちからも届く。例えば、少年時代のチャールズ・チャップリンやリンゴ・スターなど、日本でも有名な人たちからの悩みの手紙だ。史実を元にした悩みの内容になっていて、「私」がどのようにその手紙に返事を書くのかも読んでいて楽しいポイントのひとつだ。
 悩みを抱えていて、それが深刻なほど思考はネガティブになりがちだ。「私」は物事を別の角度から見て、全く違う解釈で捉えるスタイルで悩みの手紙への返事を書く。読んでいて、そういう発想の転換をするのかと気づかされることもあり、ただのファンタジー小説としてではなく哲学的な側面も感じられる。
 もしネガティブ思考を改善したかったり、今何か悩みを抱えている方に読んで欲しい本。それでも解決しないのであれば、悩みを手紙に書いて夕焼けポスト宛に投函してみるのもいいかもしれない。(西口あや)