編集後記

【編集後記】


  みなさん、こんにちは。戦後、日本人女性として初めてタイム社のニューヨーク本社で『ピープル』マガジン『ライフ』誌など米主要誌のアートディレクターとして活躍した山崎早苗さんが5月12日に静養先のフロリダ州の病院で亡くなりました。94歳でした。長男のジェームス・コルトンさん(69)によると、山崎さんは、東京生まれで1952年に米国のスターズ&ストライプス新聞社に勤め、そこで当時記者をしていたジャーナリストで写真家のサンディ・コルトンさんと出会い結婚、1962年に来米しました。ニューヨークで『セブンティーン』誌、『LIFE』誌、『TIME/LIFE Books』誌などの編集者として活躍し、その後『ピープル』誌のアート・ディレクターとして長らく勤めて引退されました。日本での西洋生活を描いた『We Loved Every Minute』など数冊の本の著者であり、イラストも描いていた山崎さん。晩年はよく絵の展覧会にも来ていただきました。お姉さんのレイコさんもファッションデザイナーとして日米でご活躍され本当に格好のいいシスターズでした。息子さんは「母は生涯で多くの人の心を動かしました。私たちは皆、彼女をとても恋しく思うでしょう」と電話口で話しました。「あなたの夢はなんなの?」そう山崎さんに聞かれて「そうですねえ、自分の描いた絵が、ニューヨーカー・マガジンの表紙になることですかねえ」などと空想めいたことを言うと「そうね、あなたならできるかもね」って言っていただけた言葉だけ、声のトーンまで今でも耳に焼き付いています。夢は実現しないまま時は過ぎてしまいましたが、人は小さな言葉で支えられるものだということを教えていただきました。ニューヨークで格好良く生きた日本人女性がいたこと、今週の5面で記事にしました。合掌。それでは、みなさんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2024年6月1日号)

(1)NYホテル代過去最高 シェルター仕様で客室不足 

(2)摩天楼の水平さん フリートウィークで半舷上陸

(3)八神純子追加公演が決定 6月29日(土)

(4)光る真珠を開発 上村さん世界初をNYで発表

(5)報道の自由度70位 日本メディアは真意を伝えず

(6)日本人が眠る墓 メモリアルデー墓参会 

(7)山崎早苗さん逝く 『ピープル』マガジン編集者としてNYで活躍

(8)結びの文化 Jコラボ刷新企画21日から

(9)ワンストリーアワードNY大会 優勝者決定

(10)生死感テーマにNYを描く 油彩画家 Kohさん

NYホテル代過去最高

シェルター使用で客室不足影響

 シェラトンNYタイムズスクエアホテル(280ドル=4万2000円)、ハイアット・グランド・セントラルホテル(341ドル=5万1150円)、インターコンチネンタルホテル(409ドル=6万1350円) マリオットマーキース(451ドル=6万7650円)、オムニバークシャープレイス(385ドル=5万7750円)。日本人旅行者がマンハッタンで宿泊することの比較的多いホテルの宿泊最低料金例(今年6月10日に1泊の予約をした場合。円は1ドル150円換算・ブッキングドットコム調べ)だ。これにはすべて税金14・75%、1泊につき40ドルの観光地利用料と3ドル50セントの市税がプラスされる。

 商業用不動産のデータと分析を行っているCoStarによると、2023年のニューヨーク市内の一泊の平均宿泊料金は301・61ドルと過去最高を記録した。2022年の277・92ドルから8・5%上昇した。価格が下がるのが通例である1〜3月の平均宿泊料金だが、今年は1泊230・79ドルで昨年同期の216・38ドルより6・7%高くなっている。

 宿泊費高騰の要因にはインフレなどもあるが、原因となっているのは空室の不足である。原因として考えられているのが、移民の受け入れのシェルター・プログラムへの参加、民泊の制限、新規ホテル建設の遅れ、観光客の増加である。(写真)優雅だったルーズベルトホテルも難民シェルターとして使用され、かつての面影はない(5月28日、本紙撮影)

 シェルター・プログラムには市内のホテル約680軒のうち5分の1の約135軒が参加している。2022年後半から開始された「サンクチュアリ・ホテル・プログラム」に基づいて、移民を保護するホテルに市はお金を払うことになった。参加すると一泊一室あたり最大139ドルから185ドル支払われる。コロナ禍で打撃を受けていた頃であり、多額の負債を抱えていたり、経営危機に陥っていた不人気ホテルが飛びついた。コロナ後もプログラムを抜けるホテルは皆無で、その多くは低〜中予算の旅行者向けだったこともあり、そうしたホテルの宿泊料が大幅に上昇した。

NYホテル料金の高騰

ホテル不足に民泊規制が拍車
新規建設が進まないのも一因

 ニューヨークのホテル料金が高騰している背景にシェルター使用があるが(1面に記事)、次に指摘されているのが民泊規制である。市は昨年9月、Airbnb(エアビーアンドビー)などの住宅の短期賃貸を厳しく制限する法律を施行した。例えば30日未満の滞在ではホストが住んでいなくてはならないことを厳格化した。観光客や訪問客に貸すことで市民は住宅不足に陥っており、これ以上の悪化を防ぐためとされた。またホテル業界やホテル労働組合からは大歓迎を受けた。

 すると、30日未満の短期滞在向けAirbnb物件数は、施行前の月である23年8月の2万2247件から今年3月には83%減の3705件にまで激減。市内に残っているAirbnb物件の約90%は30日以上の滞在にしか利用できない。Airbnbはかつて、市内の観光客向け宿泊施設全体の10%以上を占めていたが、これが消えた。移民シェルター・プログラムよりもホテル料金に大きな影響を与えた可能性があると一部の観測筋は指摘している。

 また、ホテルの新規建設が滞っていることも指摘されている。現在建設中のホテル客室は8000室以上あるが、新たなゾーニング規制や特別許可制度などによりホテル開発が制限され、建設や運営にかかる費用が上昇、計画通りに進んでいないところが出ているという。

 こうしたなか、アダムス市長の広報担当者は宿泊料金の上昇は市長の政策ではなく、観光客の増加によるものだと述べている。昨年同市を訪れた人は、過去最高だったコロナ禍前の2019年の6660万人をわずかに下回ったものの約6220万人だったと強調する。一方、ニューヨーク市ホテル協会によると、昨年のホテル客室稼働率は81・7%で、最低だった2020年の46・7%よりは大幅に上昇したが、客室稼働率が86・2%だった2019年ほどは高くはなかった。

摩天楼の水兵さん

 ニューヨークでフリートウィークが5月22日から28日まで開催され、軍艦空母など多くの艦船がニューヨーク港に接岸した。

 海軍、海兵隊及び沿岸警備隊の艦隊週間で、任務に就いた人々を讃え、その不屈の強さを認識する週間だ。期間中は、乗組員が交代でマンハッタンに上陸し、ニューヨークの街を闊歩して伝統の半舷上陸を楽しんだ。タイムズスクエアでは、バンド演奏や入隊勧誘のテントも設けられ、ニューヨーカーや世界中から集まっている外国人観光客たちと記念写真撮影を楽しむ姿があちこちで見られた。(5月24日、ミッドタウンで、写真・三浦良一)

八神純子追加公演が決定

6月29日(土)に

 日本の歌姫の座を45年以上守り続け、いま世界中で流行の兆しを見せているジャパニーズポップスの草分け的存在。米国のZ世代にも大人気のシティポップの女王、八神純子のニューヨーク公演。6月30日の公演がソールドアウトになったため、会場となる老舗ジャズクラブのバードランド(西44丁目315番地)が八神に打診、急遽、本公演の前日にあたる6月29日(土)午後5時30分に追加公演が決定した。追加公演チケットも申し込み殺到が予想されるため早めの予約が推奨される。追加公演入場料はテーブル席、バーカウンター共に45ドル75セント。詳細はwww.birdlandjazz.com  または本紙3面の広告を参照。

 

光る真珠を開発

パールアート作家の上村さん

世界初をNYで発表

 パールアート作家、上村栄司さんの展示会「真珠の芸術」が 5月21日から25日までソーホーのギャラリー・マックス・ニューヨークで開催された。上村さんは、 三重県南伊勢で祖父の代から真珠養殖を営む3代目で、真珠に限りない愛情を注ぎ制作に取り組んでいるユニークなパールアート作家だ。ニューヨークでは2年ぶり8回目の展示となる今回は、4代目の長男、拓摩さん(28)も同行し、作品を発表した。

 上村さんは、身に着けるジュエリーだけでなく、身に着けない時間もアートとして楽しめるパール作品を次々に発表しているが、今回の展示会初日には、日本での発表に先駆けニューヨークで世界初の「内面から光を発する」真珠を公開した=写真上(光を当てると暗闇で内面から発光する真珠)=。真珠に光を当てると、光を吸収して蛍のように暗闇で美しい朱色や青の光を発光させる。展示会場で開催された講演会で披露すると、参加者たちから驚きの声が上がった。

真珠の楽しみ方について来場者に解説する上村さん(左)

 上村さんは、この特殊な真珠の開発を5年間かけて地元南伊勢阿曽浦の若者たちと研究してきた。まさに努力の結晶とも言え、自然の力で貝が真珠を形成していく過程で光を吸収して発光するという真珠を知り尽くした上村さんだからこそ生まれた真珠だ。「 真珠は生物が作り出す唯一無二の宝石。 私はその真珠を世界に一つだけのアートとして楽しんでもらいたい」と話す。光る真珠に関する問い合わせは、上村真珠養殖、Eメール info@eiji=pearl.com またはmaxfujishima@gmail.com まで。

山崎早苗さん逝く

『ピープル』マガジン編集者としてNYで活躍

 戦後、日本人女性として初めてタイム社のニューヨーク本社で『ピープル』マガジン『ライフ』誌など米主要誌のアートディレクターとして活躍した山崎早苗さんが5月12日に静養先のフロリダ州ナッソー郡フェルナンデナ・ビーチの病院で亡くなった。享年94歳だった。(写真上:ありし日の山崎さん(1958年、写真・家族提供))

 長男のジェームス・コルトンさん(69)によると、山崎さんは、東京生まれで1952年に米国の軍人向け報道機関、スターズ&ストライプス新聞社に勤め、そこで当時記者をしていたジャーナリストで写真家のサンディ・コルトン氏と出会い結婚、1962年に来米。『セブンティーン』誌、『LIFE』誌、『TIME/LIFE Books』誌などの編集者として活躍し、その後『ピープル』誌のアート・ディレクターとして長らく勤めて引退した。日本での西洋生活を描いた『We Loved Every Minute』=写真上=など数冊の本の著者であり、イラストも描いていた。

 第一線を退いた後は80年代のニューヨークで、当時発行されていた日本語情報紙OCSニュースにマンハッタンのオフィスライフに関するエッセイを連載、米国の出版黄金時代の様子や米大手出版社の編集部での様々なエピソードを書いてミッドセンチュリー時代のNYを紹介した。姉のレイコさん(故人)もファッションデザイナーとして日米で活躍し、晩年は姉妹共にニューヨークで暮らした。父親は日本の地方新聞社の社主だった。

山崎さんの訃報を伝える『ピープル』誌最新号

 長男のジェームスさんは「母は才能あるアーティストであっただけでなく素晴らしい母親でもありました。出版界で信じられないような長時間労働をしているときでも、母はいつも私たちに食事を作って面倒を見てくれました。そして、私の亡き弟ジェイは母をいつも心配させていました。でも、彼女は私たちふたりを愛してくれたし、他人を尊重する気持ちを持つようになったのは、母のおかげだと思っています。彼女はその生涯で多くの人の心を動かしました。私たちは皆、彼女をとても恋しく思うでしょう」と話した。葬儀は家族のみで執り行われた。

日本人が眠る墓地

メモリアルデーにNYで墓参会

 メモリアルデーの5月27日、クイーンズのマスペスにあるマウント・オリヴェット日本人墓地で恒例の墓参会がニューヨーク日系人会(JAA)の呼びかけで開催された。墓参会にはニューヨーク総領事館から遠藤彰首席領事、佐藤貢司JAA会長、岡田雅彦ニューヨーク日本人学校校長、岡本徹ニューヨーク育英学園学園長、三木伸夫NY日系ライオンズクラブ会長、スタンリー・ウェイン日米合同教会牧師ら30人余りが参列した。竹田勝男JAA副会長の進行で、NY仏教会のカート・ライ住職が読経し、一人ひとりが焼香と献花を行った。前日NY日系ライオンズクラブがボランティアで清掃し、墓石にはNY育英学園児童手作りの日米の小旗が一面に飾られた。写真は、左から竹田氏、ライ住職、岡本学園長、ウェイン牧師、岡田校長、佐藤会長、遠藤首席領事、三木会長。

高見博士の墓地にお参りする参列者

 JAAは1907年に医師・高見豊彦博士が日本人墓地の購入と日本人の相互扶助を呼びかけ設立した日本人共済会をルーツとする。1914年に高峰譲吉博士を会長とし、高見博士を副会長に紐育日本人会が設立された。高見博士は、新島襄に憧れ、1890年熊本藩を出藩して1891年に大阪から米国に向け出航。コーネル大学医学部を2番の成績で卒業した。在学中の日本人男子の解剖に立ち会った際、番号だけで処理されてしまう現実を目の当たりにし、コロンビア大学学生会で在留邦人に相互扶助と親睦、日本人墓地の購入を説く演説をして協力を訴え、1912年に同墓地内に日本人のための土地を2500ドルで購入した。現在同墓地には、100人近い日本人、日系人と無縁仏の霊が眠る。

高見博士の動画が完成した。(詳細はJAAへ)

 佐藤JAA会長は「日系人会は117年の歴史があり、1912年から毎年墓参会を行っている。今後も相互扶助、助け合って100年をモットーに活動を続け先駆者に感謝の意を表し、今後もその意思を引き継いでいきたい」と挨拶した。遠藤首席領事は「日本を離れ、この地で生き抜くために苦難を乗り越えていった先達が、遠く日本に思いを馳せながらも同胞を深く思いやる気持ちを持ち続け、日本人のアイデンティティーを失うことなく、日系社会の礎を築かれたことに深い畏敬の念を抱くと同時に米国との友好関係を一層進化、深めて行かなくてはならないとの思いを新たにした。総領事館としてJAA、関係諸団体と共に日本人墓地を今後も大切にお守りし、この伝統を次の世代に繋げていかれることを願っている」と挨拶した。日米合同教会のピーター・スタンレー・ウェイン牧師、岡田NY日本人学校校長、岡本NY育英学園学園長、三木日系ライオンズクラブ会長がそれぞれスピーチした。大正4年に建立された日本人墓地から歩いて1分ほどの所に高見博士と家族の墓があり、参列者が式典のあと墓参した。

報道の自由度70位、日本メディアは真意を伝えず 

 5月3日、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF)は「日本の報道の自由度」世界70位を発表しました。民主党政権時の12位がピークで、以後急降下してきました。しかし、日本のメディアはRSFによる決定理由をほとんど報じていません。

 一「日本は議会制民主主義国家であり、報道の自由と多元主義の原則が一般的に尊重されている。しかし、旧来の利害関係、ビジネス上の利害関係、政治的圧力、男女不平等によって、ジャーナリストたちは権力の監視役としての役割を完全に果たせないことが多い」が意訳されたり、無視されています。「旧来の利害関係」を「伝統(の重み)」と訳した記事まであります。

 二 watchdog(監視役)という権力を監視し、情報を収集するという言葉もほとんど報じていません。英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所の2019年調査で「メディアが、力を持つ人やビジネスを監視し検証している」と考える人が、日本では世界38か国中で最下位の17%だったこととも関係します。

 三 「既成の報道機関だけが記者会見や高官との面会を許可される『記者クラブ』制度」の説明にあたる部分を割愛しているか、『記者クラブ』制度自体を報じない記事もあります。

 これまでも、他国には存在しない以下の実態が指摘されてきました。(1)報道機関のトップが首相と会食やゴルフをする。(2)放送法および電波法により、政府がテレビ局の放送内容を直接規制できる。(3)広告代理店やスポンサー企業の意向でメディアが権力の監視役ではなく広報役を務めている。

 米国のBill Kovach他著のThe Elements of Journalism(「ジャーナリストの条件 時代を超える10の原則」)は「不偏不党や中立性はジャーナリズムの根本原則ではない。客観性とは中立性や、両サイドが同じになるようバランスを取ることではなく、取材対象や権力者からの独立である」と指摘します。  そして「ジャーナリズムの最大の目的は、市民が自由であり自治ができるよう、必要な情報を提供することである」。「市民もまた、ニュースに関して権利と責任がある」と結論づけています。

 「報道の自由度」とは民主主義そのものです。日本の報道の自由度が高まるよう、海外日本人の皆さんのサポートをお願いいたします。

  ふじた・ゆきひさ=慶大卒。世界的な道徳平和活動MRAや難民を助ける会で活動した初の国際NGO出身政治家。衆議院・参議院議員各二期。財務副大臣、民主党国際局長、民進党ネクスト外務大臣、横浜国立大講師等歴任。アメリカ元捕虜(POW)の訪日事業を主導。現在国際IC(旧MRA)日本協会会長。岐阜女子大特別客員教授。

「結びの文化」

Jコラボ刷新企画第一弾21日から

 ブルックリンのパークスロープ(300 7th Street Brooklyn, NY 11215) に拠点を構える非営利団体Jコラボ(ファウンダー・佐賀関 等、コファウンダー・下田幸知) は、2024 年度より日米文化交流研究所“Brooklyn Beauty/Fashion Labo” を6月21日 にリューアルオープンする。

 第一弾企画として「結び(MuSuHi)」を展示する。

MuSuHiは、日本古来の素材である麻を用いた「むすび」の技法を通じて、現代社会のほころびに向き合い、結び直すことを目的とするアートコレクティブ。 「むすび」という日本の神話に深く根ざした概念は、物事が生まれ変わる力や、新しい始まりのエネルギーを象徴。日本の神社などの祈りの場所で見られる結びには、神聖な場所と世俗的な場所を分ける「結界」の意味があり、その二つの世界を結ぶ境界線は、日本の生活の中に見られる普遍的なものだ。 ユーラシア大陸の極東に位置する島国の日本は、度重なる侵略や文化の流込みがあった。しかし、その度に外来の価値観を自国のものと「むすび」続け、独自の文化的アイデンティティを維持してきた。 今回のMuSuHiの作品群は、その概念の基盤となった言語、日本語を考察する展覧会。日本語は言葉の意味よりも音の響きを重視し、母音からなる特有の言語体系の中で発せられる一つ一つの音は、他と共鳴し調和する「言霊」を生み出すと言われている。その古来から続く組み合わせの音は、時間を超えたエネルギーとして、人々の細胞に伝導し共鳴する。下田さんは「この古代の結びの技法の現代的な解釈を通じて、見えないが確かに存在する周波数を捉え、対立ではなく調和を促進する普遍的なエネルギーを受け取っていただけることを願っています」と語っている。

 展示は6月21日(金)から8月15日(木)まで。オープニング・レセプション 6月21日(金)午後6時から。展示は木曜日〜日曜日 午前11時から午後6時まで。

ワンストーリーアワードNY大会、2部門優勝者決定

来年2月に日本大会へ

 ワンストーリーアワードNY大会実行委員会(代表・USAディレクター長久保美奈/プロデューサーSHUN)は5月23日夜、パーク街のスカンジナビアハウスで美と平和をテーマにした祭典「ONE STORY AWARD 2024 NY」を開催した。第1部では学生による3分間のスピーチで、それぞれが持つ美や平和に対する考えを発表。2部では今回70人の応募の中からオーディションで選ばれたニューヨークで活躍するモデル達が美と平和のテーマでランウエーを歩き、アピールを行った。

 その結果、スピーチ部門ではハンターカレッジ3年生のチャーリー・マクレーンさん(27)が優勝した。マクレーンさんはオクラホマ州スチールウオーター市(人口四万8000人)の出身で子供の頃から日本のゲームで育ったことが日本文化や日本語に興味を持つきっかけになり、ハンター大学の日本語学科に進学、昨年夏に2か月間立命館大学に留学した経験を持つ。「とても嬉しいです。忙しくなりますね」と喜んだ。

 ファッション部門で優勝したのはNY市工科大学(ブルックリン)で生物科学を学ぶ学生のテオナ・ビラスベリさん(26)で「とっても嬉しいです。今回のイベントに参加できたことで日本のことを学ぶ新たなチャプターに入ったと思います。来年日本に行くのが楽しみです」と喜びを語った。2人には日本往復航空券が贈呈され、来年2月に東京で開催される日本大会に招待されるほか、さまざまな日本文化を体験する国際交流アンバサダーとなる。

花のインスタレーションを披露する山田氏(左)とオペラ歌手の青木氏

 当日は会場の観客にも投票権があり一票を投じた。ゲストにオペラ歌手の青木麻菜美氏、「美しい心が宿る花咲く世界のシェア」を掲げ活動中のフローリストで株式会社Magenta代表の山田剛氏も来米。舞台上で独自の花のインスタレーションを披露した。

 審査員としてサラ・ジェシカ・パーカーなど数多くのセレブを撮影する写真家のダフネ・ユリー氏、世界的バイオリニストのデイジー・ジョプリング氏、「週刊NY生活」発行人兼CEOの三浦良一、プロデュース兼審査員としてNYファッションウィークで日本人メンズデザイナーとして最年少でコレクションを発表したSHUN氏、米国NPO法人CUPA副代表理事の河野洋氏、スタイリストのベイザ・コバン氏、日本からは株式会社ONE STORY AWARD 代表取締役の鶴田一磨氏が審査員として来米した。

生死感テーマにNYを描く

油彩画家

Kohさん

 日本クラブWEBギャラリーの常設アーティストの一人である日本人女性アーティストのKoh。今年2月、日米の文化交流や日系コミュニティー支援の一環として東京海上アメリカのスポンサーにより、日本クラブが仲介役となって作品がカーネギーホールのギルソン・クライブ代表のオフィスに飾られた。作品は、 2023年3月に死去した世界的な音楽家、坂本龍一氏を描いた油絵だ。

(写真左より)日本クラブ前田正明事務所長、東京海上アメリカ・魚返大輔社長、Kohさん、クライブ代表

 寄贈の経緯は、パンデミック中の2021年に約一年半全ての公演がキャンセルになり収入が無かったメトロポリタンオペラの友人を日系企業の役員に紹介したことがきっかけだった。エンジェル投資家によってパンデミック以来初のハドソンヤードでの対面コンサートが実現した。日本クラブの前田事務局長から音楽家支援以外にもNYで頑張る日本人のほかの芸術家も応援してはという話に発展、今回のカーネギーホールへの寄贈につながった。

 Kohはニューヨークを拠点とする油絵画家で東京都出身。16分の1フランスの血が流れている。ヨーロッパやアメリカで暮らした経験から、文化や性別を超え、一段と多様化する世界観を探求するため2016年にニューヨークに移住した。アートの道に進むことにした理由は東北大震災で死を意識した事が一番の引き金となった。元々絵を描くことが好きで子供の頃は家の壁や家具にまで落書きしていた女の子だった。

 「自分には絵以外で自信を持てる事がなかったのと、自分を信じて世界でどこまでやれるか挑戦したいと思った。コンセプトは矛盾(生と死)、そして人間の複雑な心理状況を油絵を通して表現すること。作品はニューヨーク市の活気に満ちたエネルギーに大きな影響を受けており、矛盾(生と死)を通して、観る人の心に届く作品作りを目指しているという。

 パーソンズ美術大学で成績優等生で美術学士号を取得し、ロンドン芸術大学で交換留学生として美術絵画学士課程(優等)で学んだ。パーソンズ美術大学で学ぶ前はコロンビア大学で学術論文を学んでいる。

 「現代アートは政治色が濃い作品は多々ありますが私は個人単位の感情を色んなアングルから世界中の誰かの魂のスモールピースとして共有出来たら良いと思っています」という。ニューヨークは「私には良くも悪くも唯一無二の街。疲れもしますが飽きることも無いし街も人も変化が絶えないので自分の意思でいつでもリセット出来る場所だと思っています」。

 将来の夢は「古き良き芸術性を残しつつテクノロジーにも上手くリンクして芸術が持つ尊さを伝えていけたら良いなと思っています。個人的には音楽と自分の作品が空間を通して人の魂に響く作品を制作したいです。自分の作品で誰かが一瞬でも癒し、懐かしさ、幸せな気持ちになってくれたら嬉しいですね」。 Koh作品は日本クラブWEBギャラリー( gallery@nipponclub.org )で見ることができる。(三浦良一記者、写真は本人提供)