11回目のカーネギーホール演奏はソロで

マリンバ奏者

ミカ・ストルツマンさん

 ボストン在住のマリンバ奏者、ミカ・ストルツマンが5月2日カーネギーホールにおける自身11回目となる一夜限りのコンサートを行う。当日はバッハ作品のシャコンヌ、無伴奏チェロ組曲第3番、ポール・サイモン、ジョエル・ロス、チック・コリア、ジョン・ゾーンが書き下ろしたソロマリンバ作品、またムーンリバー、オーバーザレインボー、あんたがたどこさ、などのアレンジ作品の演奏を予定している。今回のカーネギーリサイタルは初めてマリンバソロ曲だけによるリサイタルとなる。  

 ミカは2000年トロント大学上級演奏学科修了後、2001年東京とカーネギーホールでリサイタルを開催して本格的に演奏家としてデビューした。

 2008年熊本県天草市からニューヨークに移住してNYを拠点に演奏活動を展開している。過去10回に渡るカーネギーホールでリサイタル開催を始め、PASIC2005,2007出演などクラシックとジャズを縦横無尽に操るニュー・ジャンルのマリンビストとして現在までに世界22か国66都市で公演を行っている。

 特に2001年、S・ライヒの「東京/バーモント・カウンターポイント」を編曲演奏してライヒ本人のCD『Triple Quartet』(ノンサッチ)に収録されブージー&ホークスから楽譜も出版されたことで世界的に知られた。これまでに10枚のCDアルバムとライブDVDをリリース。そのうち3枚はスティーヴ・ガッドのプロデュースによるジャズ・ポップアルバムという華麗な経歴を持つミュージシャンだ。

 近年は、グラミー賞を19回受賞している名プロデューサー、スティーブン・エプスタインとタッグを組みレコーディングを積極的に進めている。2017年にCD「Duo Cantando」(日本コロンビア、Savoy、チック・コリア等も参加)、19年英国AVIEレーベルからはクラッシックCD「Palimpsest」、米ナクサスからジャズCD「Tapereba」どちらも日本盤は東京エムプラスからリリースしている。昨年は、2枚のCDアルバムとLP(ディスクユニオン)をリリース。今年はマリンバ全ソロによるCDアルバム(ディスクユニオン)をリリース予定するなど多忙な毎日。

 作品の委嘱も頻繁に行い、これまでチック・コリア、ジョン・ゾーン、大島ミチル、マルコス・ヴァリ、T・マッケンリー、挟間美帆、ジョエル・ロス等の作曲家から曲を捧げられ世界初演している。

 演奏家として眩しい限りの実績だが、本人は淡々としている。「1、2曲は夫であるクラリネット奏者のリチャードがジョイントする予定ですが、何度も演奏しているカーネギーのワイルリサイタルホールでたった一人でステージに立つのは今回が初めて。自分にとっては大きなチャレンジとなりますが、シンプルな中の重厚さを目指します。そしてマリンバの魅力を感じて頂けたら本望です。新譜CDアルバムもこの時に先行リリース販売しますのでぜひ皆様ご来場ください」と話している。

 入場料は50ドルから。(学生は30ドル)。チケットはカーネギーホールのウェブサイトcarnegiehall.orgから。(三浦良一記者、写真は本人提供)

ニューヨーカーに大人気JAPAN FES

今年20回開催を予定

 イーストビレッジの1ブロックが日本一色に染まった。日の丸と日本の屋台メニューのベンダー50余りが出店して3月26日、第1回ジャパンフェスが開催された。かき揚げ、唐揚げ、焼きそば、たこ焼き、かき氷、今川焼、ラーメンほか、数々の日本のお祭りグルメが食べられるとあって1万5000人余りのニューヨーカーで通りが埋まった。今年は20回の開催を予定しており、マンハッタンでは次回4月1日(土)モーニングサイドハイツ、15日(土)チェルシー、29日(土)チェルシーでラーメンコンテスト、翌30日(日)にはクイーンズのアストリアで、そのラーメンコンテストの決勝大会と9月まで20回のフェスを計画している。主催者の山本ドラゴン氏は「ニューヨーク名物となっている野外の食の祭典スモーガスバーグのような食のジャパンブランドとして今年はジャパンフェス自体のブランド力をあげたいと思ってます」と話している。

編集後記 2023年3月25日号

編集後記

 みなさん、こんにちは。本日配達の今週号の1面は、昨日夜のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝戦で日本が優勝したため、急遽紙面を全面差し替えとなりました。負けたら基本、差し替えのないままで出す予定をしていた反面、勝ったら迷わずに「号外」的な紙面を作ることになんら抵抗はなく、それまでの1面にあった記事を全て3面に移行し、3面にあった記事は、来週号に取り置きとなりました。こういう時は、部分的に記事を入れたり、小細工をして紙面を修正してフラッシュで入れただけでは、昨日の感動を紙面で伝えることはできません。凸版ぶち抜きの大見出しは、新聞の新聞たる真骨頂でしょう。野球解説は、ベースボールに詳しい久松にお願いして、私はマンハッタン35丁目のスポーツバーで開催された「侍ジャパン応援イベント」の取材を担当しました。250人余りが集まって実況生中継の試合に声援を送りました。。来場した日本人からは「村上さんの初球のホームランがチームに活気をつけた」「最高だ。日本チームの努力の結晶だと思う」「最初は若い選手ばかりで不安にも思ったが、これからの日本の野球を背負っていく若手がこれだけの大活躍をしてくれたことで、日本の野球の未来は明るい」といった感動の声が聞かれました。試合前に大谷が「対戦相手のアメリカの選手は全員が有名な大リーガーばかりですが、今日一日は、憧れるのをやめて、戦うことに力を注ぎましょう」と全員に檄を飛ばしていた姿がとてもすがすがしかったです。日本が誇れる世界一の宝物は「日本人としての文化的特質を捨ててはならない」と言った米日カウンシルで今月訪日したフレッド・カタヤマさんが本紙の5面で語った言葉を思い出していました。感動をシェアし、見て楽しく、読んでためになる週刊 NY生活の今週号をお楽しみください。それでは皆さんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2023年3月25日号)

(1)WBC日本優勝 NYの在留邦人も熱く声援

(2)NYで日本社会の今を読み解く 宇野常寛さん

(3)銀行破綻どう備える? 給与や年金口座凍結したら 

(4)春の大更新 聖パトリックデー

(5)米日カウンシル訪日 首相と外相表敬 

(6)日系4世の大統領補佐官 エリカ・モリツグ氏

(7)中谷の熱演に拍手喝采 「猟銃」NY公演4月15日まで

(8)シネマ試写室  65

(9)生き生きEATS 老舗シェフが作る小鉢とお作り

(10)日本のジェンダー問題 伊藤弁護士NYで現状語る

WBC日本優勝

NYでも在留邦人が熱狂応援

「日本人で良かった!」

 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝戦が、21日(火)米国東部時間午後7時からフロリダ州マイアミのローンデポ・パークで行われた。全員メジャーリーガーを揃えた最強打線で強豪を力でねじ伏せてきた米国と、最強の投手陣と粘り強い打線で勝ち続け前日の逆転サヨナラ勝ちの興奮も冷めやらぬ日本が対決。

 試合は、米国が2回に大会の本塁打王ターナーの5号本塁打で先制も、直後に前日のヒーロー村上の大会1号となる一発や、前日は本塁打性の当たりを美技で阻まれた岡本の一発などで逆転。2点リードの8回に侍ジャパンの牽引役を担ったダルビッシュが登板。シュワーバーに一発を浴び1点差に詰め寄られるも、最終回、ここまでリーダーとして投打でチームを引っ張った大谷が登板。勝っても負けても最後は大谷に賭けるという、選手もファンも全員が納得できる栗山監督の決断だった。そして、最後に世界中の野球ファンが見たかった大谷対チームUSAのリーダー、トラウトの「エンゼルス同僚対決」が遂に実現。メジャーのシーズンでは絶対に見られない二人の対決に世界中が盛り上がる中、フルカウントの末、大谷がトラウトから三振を奪い3対2で試合終了。2夜連続の少年漫画のような劇的展開で日本が3大会ぶりに優勝し歓喜の渦に包まれた。MVPは大谷選手だが、チーム全員で勝ち取った優勝だった。(本紙・久松茂)

若手オールジャパン
全員野球世界の誇り

 この侍ジャパンの活躍をニューヨークの日本人も応援した。21日の決勝を見ようとマンハッタンの35丁目のスポーツバーに250人余りの日本人が詰めかけた。NYのイベント企画会社Oプランニングが主催した応援イベントで、ライブの中継に声援を送った。優勝が決まった瞬間割れるような歓声が上がった。来場した日本人からは「村上さんの初球のホームランがチームに活気をつけた」「前日の活躍と合わせて村上は熊本の誇り」「最高だ。日本チームの努力の結晶だと思う。全員野球は世界の誇り」「以前の試合では、有名選手が欠けていることが多かったが、今回はオールジャパンのベストメンバーでの出場。いざという時にに世界中から飛んできて日の丸を背負って戦ってくれた選手たちに感動した」「最初は若い選手ばかりで不安にも思ったが、これからの日本の野球を背負っていく若手がこれだけの大活躍をしてくれたことで、日本の野球の未来は明るい」「涙、涙で大感激でした」「日本人で良かった!ありがとう」「ベースボールが日本に伝来して昨年150周年を祝ったその翌年に、オールジャパンの若い力でアメリカから勝利を勝ち取った意味は大きい」といった感動の声が聞かれた。

(写真)優勝の瞬間、大歓声をあげて歓喜の渦に包まれるNYの応援会場(21日午後10時40分ごろ、写真・三浦良一)

NYで日本社会の「今」を読み解く

評論家・批評誌〈PLANETS〉〈モノノメ〉編集長

宇野 常寛さん

 ニューヨーク日系人会で10日、評論家、宇野常寛氏(44)の講演会「日本社会の「今」を読み解く」が開催された。宇野氏は多様なメディアで活動し、ポップカルチャー、ソーシャルメディアと文化などを広く分析、批評する稀代の評論家で、当日は日本社会の「今」について、NYから日本を見守る日本人・日系人に向けて、今の日本の問題の本質は何かを、鋭い視点で深く多角的に解説した。

 また、日本と日本人が情報社会をより正しく生き抜いていけるよう、彼自身が取り組む社会活動「遅いインターネット」計画についても報告した。同講演会は、東京大学同窓会のNY銀杏会、東京大学ニューヨークオフィス、グローカルビジネスをプロデュースするNPO法人ZESDA(運営事務局)の共催で、ニューヨーク日本総領事館が協力した。当日は日系人会の会員や東大同窓生ら60人余りが参加した。

 宇野氏は「現代はSNS社会」であるとして、その3つの特徴を挙げた。(1)相互評価のゲーム(承認の交換)=誰かに「承認」されることが極めて低コスト(「いいね」)など。しかし、短期的な充足しかないために反復し、中毒する。逆にそれがプラットフォーマーの狙い。(2)失われる話題の多様性=この相互評価のゲームでは「既に話題になっていること」に言及し、かつ「支配的な意見にイエスかノーかで答える」のが最も効率が良いため、話題も意見も多様性が失われる。(3)閉じる世界=その結果として世界は閉じ、「民主主義も機能しなくなる」と問題を指摘した。

 そもそも「閉じた相互評価のネットワーク」の何が問題なのかという点について社会の分断(多様化しない、社会から多様性が失われる)、同調圧力の強化(他人の顔色を伺って自分の考えを決めるようになる)、人間がバカになる(発信すること自体が快感となり物事を考えなくなる)などを例示した。

 そこで3つの提案として立憲主義の強化(憲法改正のハードルを上げる、違憲審査を強化する)、普通選挙の決定権を相対的に下げる(クラウドローなどの利用による専門家のルールメイキングなどを導入する)、インターネットを「遅く」する。さらにこれから必要なことは「ちゃんと書く」ことで「考える」方法を身につけること。「いいね」するのではなく「コメントを書く」ことで「考える」方法がつく。となると、今は「個人」の時代なので「書かない人」は存在しないのと同じになる。個人が自分のステイトメントを書いて発信できない人間は、評価経済的に存在しないに等しい。「書く」「発信する」ことで世の中との距離感を身につけると説明した。

   会場からは、電子頭脳(AI)の進化により人間の考える領域が狭まってくるのではないかという質問に対して、宇野氏は「作者の紹介や人物歴など誰が書いても同じようになるもの、調べてわかるものはAIに任せてもいいと思っている。AIは解答、答えを導くツールであり、人間はAIにはできない『問題の提起』をすることに能力を発揮すべき」など話した。

 日本の見失われた世代、ロストジェネレーションの最後尾を代表する世代に属する宇野氏はサブカルチャーをテーマに普段日本で著書やテレビなどで評論してきているが、その世代がすでに高齢化の中に入ってきていると言う。「10%や20%なら気がつかないかもしれないが、体感として自分たちが子供だった頃の半分くらい、日本から若者が消えているのを感じる。地方に行ったら歩いているのは高齢者ばかり。東京だって若者がいるだろうなと思う場所にしかいない。そして想像以上に今の若者は貧しい。海外に出たくても経済的に出られない。交換留学と言っても日本の大学の地位が海外と比べて低下していてうまくいかなくなっている。そんな中で若者の気持ちも内向きになっている」と現状を話す。「今の日本には自力救済できる力がない。海外で生きている皆さんは、逞しく生きて来られて、海外での闘い方も知っていると思う。今の日本の若者に手を差し伸べてほしい、助けてやってほしい」と最後に締めくくった。(三浦良一記者、写真も)


 【プロフィール】うの・つねひろ=評論家。1978年生。批評誌〈PLANETS〉〈モノノメ〉編集長。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『母性のディストピア』(集英社)、『遅いインターネット』(幻冬舎)、『水曜日は働かない』(ホーム社)など多数。立教大学社会学部兼任講師。2022年10月『砂漠と異人たち』(朝日新聞出版)発売。ニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』金曜日パーソナリティ(2013年4月-2014年3月)、J-WAVE『THE HANGOUT』月曜ナビゲーター(2014年10月-2016年9月)。日本テレビ『スッキリ!!』木曜日コメンテーター(2015年4月-2017年9月)等を担当。


銀行破綻どう備える?

給与や年金口座が凍結したら

 シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の相次ぐ大型銀行破綻で両行預金者は他銀行に資金を移動するなどの対応に追われた。スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループの救済買収の発表後も、世界的な金融システムへの不安に対する懸念は払拭されていない。14日付ニューヨークタイムズが一般預金者向けの対応策を報じている。「私のお金は安全ですか?何が補償されるのか、そしてどうすればもっとできるのか、ご説明します」と題した記事の一部を要約して紹介する。

      ◇

▽質問 私の銀行口座には、どれくらいの預金保険があるのですか?

 通常、預金者1人当たり、1つの銀行で25万ドルの保険が受けられます。この保険は、当座預金、普通預金、プリペイドデビットカード、譲渡性預金など、いくつかのカテゴリーをカバーしています。(シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の例では、規制当局が預金者を上限なしで完全に救済することを選択しましたが、次に銀行が破綻したときにまたそうするという保証はありません)。さまざまな種類の預金を持っている場合、その残高を合計して25万ドルを超えるかどうかを確認します。もしそうでなければ、例えば5万ドルのCDと2万5000ドルの普通預金口座は両方とも保護されます。保険の費用は一切かかりませんし、口座を開設する際にチェックボックスをチェックしなくても保険が適用されます。FDICの保険に加入している金融機関であれば、自動的に加入することができます。FDICのウェブサイトには検索可能なデータベースがあります。

▽質問 25万ドル以上の保障を希望する場合はどうすればよいですか?

 配偶者などの他の人と共同口座を開設すれば、それぞれ25万ドルの保障が得られるので、1つの共同口座で合計50万ドルの保障が得られる可能性があります。

また、異なる金融機関で口座を開設することもできます。それぞれで同じFDICの補償を受けることができ、口座(および保険)を持つことができる金融機関の数に制限はありません。

▽質問 銀行が倒産した場合、FDICの保険はどのように機能するのですか?

 残高をカバーする十分な保険に加入していれば、通常、数日以内(多くは翌営業日)にその資金を利用することができます。新しい銀行が古い銀行を引き継ぐ場合、あなたのお金はすぐに新しい銀行に移すことができます。

▽質問 銀行が倒産した場合、給与や社会保障費(SS=ソーシャル・セキュリティー年金)の口座振替はどうなるのでしょうか?

 FDICによると、破綻した銀行を他の金融機関がすぐに買収すれば、預金は無事に新しい口座に入るはずです。ブリッジバンクも同じ能力を持っているはずです。

春の大行進、聖パトリックデー

 ニューヨークの春を告げる風物詩となっている五番街のセントパトリックデー・パレード。1762年にアイルランドの兵隊が行進したのが最初。以来261年続く伝統行事。今年は上を向いて前進。

(17日五番街46丁目で、写真・三浦良一)

米日カウンシル、日系米人団体訪日

首相と林外相を表敬

 スザンヌ・バサラ米日カウンシル会長兼CEOを代表とする在米日系人一行10人が外務省の招きで訪日し、今月8日午前10時15分、外務省を表敬訪問し、約20分間、林芳正外務大臣と面会した。この中で、林外務大臣から、今回で20回目、平成31年3月以来4年ぶりとなる在米日系人リーダー一行の来日を歓迎するとともに、これまでの日米関係強化における米日カウンシル及び在米日系人コミュニティへの支援に謝意を伝えた。在米日系人側からは、今回の招へいに深い感謝の意が表明され、今後それぞれが日米関係強化のため活動していきたいとの発言があった。日本と日系人コミュニティの共通の課題や東アジア情勢について意見交換が行われた。経済界だけでなく、非営利団体のリーダーたちとも会った。

(写真上)外務省で林外務大臣を表敬訪問した米日カウンシルの訪日団

日系人の活躍に膨らむ期待

米日カウンシルで訪日したカタヤマ氏に聞く

 外務省の招きで訪日した米日カウンシル(USJC)のフレデリック・H・カタヤマ氏に訪日の感想を聞いた。


岸田首相(右)と握手するカタヤマ氏

本紙 今回の訪日で最も印象に残ったことは何ですか?

 岸田総理大臣、林外務大臣、河野大臣、経団連、経済同友会、パソナ創業者の南部靖之氏など、日本の政界、官界、財界の有力者に接することができたことが印象に残っている。あるアメリカ大使館関係者が言うように、来日したアメリカの国会議員でさえ会えないようなリーダーたちの顔ぶれだった。また、日本のリーダーたちが、日系米国人に会うことに真摯な関心と敬意を示していたことも印象的だった。少し前までは、多くの日本人が日系人を「日本を離れた移民の子」と見下していた。今回の訪問でお目にかかった国会議員は「日系人の皆さんに何かできることはないでしょうか 」ととても友好的だった。また、米国における日本のポジティブなイメージは、日系人の成功のおかげだとする人もいた。 2008年、ロサンゼルスでUSJCの創設メンバー(私もその一人)が集まり、ミッション・ステートメントとビジョン・ステートメントを作成した際、ダニエル・イノウエ上院議員は「我々日系人は今、日米関係に影響を与えることができる権力のある立場にある。私たち日系米国人は、日本人や他のアメリカ人と一緒になって、日米関係の改善に貢献すべきだ」と言った。

 今回、私は、岸田首相との記念写真撮影のために近づいたとき、私が何か言う前に、首相の方から「以前にもお会いしましたよね?」と言われた。確かに、昨年9月にニューヨークで日本食のイベントで少しお会いし、2013年には東京で開催された米日カウンシルのイベントで司会者として紹介した際にもお会いしているが、覚えていてくれたことをとても嬉しく思った。それと日本の食事や料理の質、特に野菜の新鮮さが印象に残っている。日本航空の料理も極上だった。東京に向かう時はいつも機内で、日本の音楽を聴くが、海援隊の「贈る言葉」が流れてきて、コロンビア大学で日本語を学び、ドナルド・キーン教授から日本文学を学んだころのことが思い出された。「3年B組金八先生」は、コロンビア大学の学生の頃、日本語を上達させようとよく見ていて「贈る言葉」はそのテーマソングだ。

            

本紙 日本では若者が少数派になり、経済的にも学業的にも苦境に立たされていると言われています。それを感じましたか?

 ある若い大学生が、「日本は好きだけど、将来は悲観している」と話した。理由を聞くと、高齢化社会、女性の機会均等の欠如、低賃金、高齢者ばかりを気にして若者を顧みない政治家などを挙げた。また、別の学生は、「仲間が情熱的なので、楽観的に考えている。しかし、学校が十分な課外活動を提供しないために、学生のモチベーションが下がってしまうという悲観的な意見もあった。私自身は、大学が学生や学部を国際化し、多様な考え方に触れられるようにする必要があると感じている。つまり、ハーバード大学やコロンビア大学と競争できるように、卒業生や保護者に寄付をしてもらうのだ。日本の慶應義塾のような比較的裕福な学校でも、国際的なランキング(日本の大学はランキングを下げ続けている)や寄付金において、アイビーリーグと比較すると見劣りする。また、学生にはリスクを取ることを勧める。引きこもりで家に閉じこもっていてはダメだ。 旅行や留学をすることで、国際的な視野を持ち、また外から日本を見ることができるようになる。彼らが大人になったとき、職場でリスクを取ってイノベーションを促進したり、計算された投資リスクを取って、(タンス預金をしたり、金利がゼロに近い銀行に預けたりするのではなく)、世界中の株式市場で投資して資産を膨らます人が増えるといいのだが。日本は、その気になればできる。明治時代に「文明開化、立身出世」を掲げて、それを実現した。岩倉使節団が6歳の津田梅子をアメリカ行きの船に乗せ、帰国後に津田塾大学を設立し、日本初のフェミニストの一人となった。1980年代のバブル期には、日本も散財の限りを尽くしたが、超大規模集積回路を利用した第5世代コンピュータ計画で想像力を膨らませた。企業は社員をアメリカのビジネススクールに続々と送り込んだ。経済産業省は、年金受給者を海外に派遣し、物価の安い国に住まわせ、日本の民間企業が開発したシニアコミュニティに移住させるという「シルバーコロンビア計画」といった突飛なことも考えた。しかし、バブルが崩壊して日本は内向きになり、超保守的、超慎重になった。今回の振り子は、その逆を行き過ぎた。これからは、外を見る目を養わなければならない。アメリカ人はもともと楽観的すぎるかもしれないが、今の日本人は悲観的になりすぎている。陽はまた昇る、雲の向こうにはまだ太陽がある、明日は今日より良くなる、そう信じるようにしなければならない。米国が高インフレに苦しみ、不況から脱したばかりの頃、レーガン大統領の再選キャンペーンでは、”It’s morning in America. “と言った。この言葉は、有権者に勇気を与えた。日本の元同僚が言っていたように、バブルが崩壊して数年後に「もうお終い」と言うのは、自滅的である。日本も賃金を上げ、生産性を向上させる必要がある。そうでなければ、出稼ぎのリスクがある。生産性が上がれば、企業は賃金を上げることができるようになる。生産性を高めるには、イノベーションが必要だ。日本はイノベーションを促進するために、大学への投資と国際化が必要であり、企業は研究開発予算を拡大し、労働者が既成概念にとらわれず、リスクを取ることを奨励する必要がある。

本紙 日本人と日系人の共通の課題は何だと思いますか?また、どのような意見をお持ちですか?

 日本人が第二次世界大戦の敗戦の灰の中から不死鳥のように立ち上がり、経済の奇跡を生み出したように、日系アメリカ人も教育やあの頑張り精神によって収容所から立ち直った。日本人も日系人も油断してはいけない。ハングリー精神を持ち続け、遊びや学校、職場で自己を主張することが必要だ。だが、だからといって、儒教的な労働倫理や教育倫理、倹約や正直といった価値観など、日本人としての強い文化的特質を捨ててはならない。


中谷の熱演に拍手喝采

「猟銃」NY公演4月15日まで

 女優の中谷美紀が演じる舞台「猟銃」が16日、マンハッタンのバリシニコフ・アーツ・センター(37丁目450番地、9番街と10番街の間)で始まった。

 井上靖の小説の舞台化で、4人の恋愛心理を描く悲劇。素封家で狩りが好きな三杉譲介に3人の女性から同時に手紙が届く。それは、妻のみどり、愛人の彩子、その愛人の娘の薔子からの手紙だった。13年にわたる不倫を知っていたとする妻、母の浮気を知った娘、永遠の別れを告げる愛人。

 開演2日目の17日の舞台はほぼ満席で、拍手喝采、スタンディングオベーションのうちに幕を閉じた。禅の美学を取り入れたというユニークな舞台も美しく、共演する伝説のバレエダンサー、ミハイル・バリシニコフは哀切漂う深遠な身体表現で圧倒的な存在感を伝えたが、3人の女性を一度も舞台から下がることなく一人で演じ続ける中谷の熱演に圧倒された。観客からは「彼女は本当に素晴らしい」「舞台に釘付けになった」「辛い気持ちになる話だが美しい舞台だった」などの声が聞かれた。

 同舞台は2011年にカナダで初演、日本では同年および16年に上演された。中谷が初舞台にして第46回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞、話題となった作品で、7年ぶりの上演となる。

 4月15日まで、火曜から土曜は午後7時30分、日曜は2時から。日本語で上演、英語字幕あり。上演時間95分、休憩なし。料金は35〜150ドル。詳細はウェブサイトwww.thehuntinggun.orgを参照。    (小味かおる)

(写真)Photo: Pasha Antonov

日系4世の大統領副補佐官エリカ・モリツグ氏

NYタイムズ紙が活躍ぶり詳報

 バイデン大統領によって2021年4月にアジア・太平洋諸島系米国民を担当する大統領副補佐官に指名されたエリカ・モリツグ氏(51)について、3月13日付ニューヨーク・タイムズがその活躍の様子を取り上げている=写真=。

 モリツグ氏は日系4世としてハワイ州オアフ島で生まれた。オバマ元政権時代に住宅都市開発省で長官補佐官、連邦議会議員の顧問などを務めた経歴を持つ。コロナ禍でアジア系住民への暴力が増えていた2021年、バイデン政権の閣僚となっているアジア系米国人は通商代表部(USTR)代表のキャサリン・タイ氏の1人のみと、その少なさがハワイ選出のメイジー・ヒロノ上院議員(民主党)らから批判されていた。そこで名誉毀損防止連盟と女性と家族のための全国パートナーの幹部でもあったモリツグ氏に白羽の矢が立った。

 大統領副補佐官となってからは、ホワイトハウスのさまざまな会議に参加し、アジア系米国人の視点を取り入れさせている。ホワイトハウスに送られてくる書類や書簡などを確認し、祝日や祝賀会でのアジア・太平洋諸島系米国民の代表者の出席を確保する仕事もしている。最近では今年のホワイトハウスでの旧正月祝賀会を取り仕切った。

 2月19日にワシントンのスミソニアン米国歴史博物館で開催された故ノーマン・ミネタ元運輸長官(昨年5月に死去)追悼イベントに出席し、「あなたがいてこその私です」と元収容者で日系人の名誉回復に尽力した故ミネタ氏を讃えるスピーチをした。3月14日にはカルフォルニア州モントレーパークのアジア人コミュニティーで1月に起きた銃乱射事件現場を、銃規制を訴えるバイデン大統領と共に訪れた。

 連邦議会でも活躍しており、2021年には国会議員と協力してアジア系米国人に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)を取り締まるための法律の制定に関わった。

 モリツグ氏はタイムズの取材に対し、インフラ法案や半導体製造投資および技術研究法案など、最近制定された連邦法がアジア系コミュニティーにも利益をもたらすようにしたいと語っている。記事はモリツグ氏の「あまりに長い間、アジア系米国人は、目に見えない物語をでっち上げられて隠蔽されたりスケープゴートにされて、無視され消されていた。もはや私たちが目に見えないといったことは不可能です」という言葉で締め括られている。