編集後記

【編集後記】

  みなさん、こんにちは。「このままでは、米国の日本人が消滅してしまう。それは米国経済にとってもマイナスになる。打開策として米国永住権の日本人枠を増やして欲しい」ーそんな嘆願書をニューヨークで人材紹介・派遣会社を営む一人の日本人、藤原正人さん(66)が、ラーム・エマニュエル駐日米国大使に出しました。提出したのは5月21日です。本紙今週号5面に記事で掲載しています。それによると、米国勢調査を元に在米日本人の高齢化が進んでいることを指摘し、その原因は、かつてのH1Bビザ取得を経て永住権の申請をして、中には米国籍を取得する人たちが生まれるという図式が、H1Bビザの申請が宝くじみたいに限りなく可能性が減ったことで、永住権に切り替える日本人が激減したことによると分析しています。日本企業や政府・関連機関で駐在員としてアメリカで働いている人は日本経済に貢献していることは間違いなく、アメリカ経済にも大いにプラスの貢献をしているので、その駐在員の数が今後減ったとしてもおそらく日本企業がアメリカでビジネスする限り、入れ代わりにどんどん来るので消滅することも社員とその家族が高齢化していくこともないでしょう。問題は、アメリカで日本国籍を持っている永住者が、日本経済に貢献しているかというと、もちろん日系企業の現地採用社員として働くという形で日本経済の貢献に関わっているとは言えますが、多くはアメリカ企業やアメリカ人を顧客対象としたサービス業、飲食業が多く、日本文化理解の促進、草の根レベルでの日米友好親善の促進などは期待できますが、それでアメリカ国内の日本人人口が減ったことで日本の国が困るとか、アメリカが困るこということはなさそうに見えます。今回嘆願書を出した藤原さんのような人材紹介業が、アメリカの日本人が減ったことで一番打撃を受けているようで、利害当事者のもっとも被害を受けている業界からの切実な声が今回の嘆願書の背景にあると言えます。雇用現場では日本語で就労可能な人材不足による人材の奪い合いなどが起きているようです。そいういえば、20代、30代の永住者にお目にかかったことが最近ありません。アメリカは定年はありませんが、体力的に労働可能な永住者の高年齢化が進んでいるのは確かなようで、年齢差別はしていないと表向きはなっていても、結果的に採用の現実はそうはなっていないので、日系企業の採用担当者も、そろそろ60代の日本人永住者の就労希望者受け入れなども前向きに考えられてはどうでしょう。有能な知り合いの日本人女性永住者があちこちに願書を出してもなかなか採用にならない、そんなミスマッチが続いています。人材不足を人材と関わる人たち自身が作り出しているようにも思えますがいかがでしょう。それでは、みなさんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2024年6月15日号)

(1)「渋滞税」中止に NY州知事が土壇場で決断

(2)洋上の美術館 豪華客船「飛鳥Ⅱ」がNY来港 

(3)女性が活躍できる社会へ 岡島さん日本の現状語る

(4)東京のアトリエ保存活動 イサム・ノグチや高村光太郎も滞在

(5)「日本人永住者増やして」 NYの日本人ビジネスマンが駐日米国大使に嘆願書

(6)古本不動産50周年祝う 後継者タミコさん披露

(7)戸田恵子「虹のかけら」カーネギーホールで25、27日

(8)ミュージカルの本場で生き抜く  由水 南さん

(9)吉田実代選手講演会 Alto日本語補習校で19日

(10)老後に楽しみをとっておくバカ 書評

「渋滞税」中止に

NY州知事が土壇場で決断

 6月30日より導入が決まっていたマンハッタンでの「渋滞税」が5日、ニューヨーク州のホウクル知事の判断により急きょ中止となった。中止は無期限とされており、新たな開始日は設定していない。

 ホウクル知事は音声録音による声明を出し、渋滞税中止の理由について「市民はインフレと生活費の高騰に直面している。現時点で実施するとニューヨーク市民に予期せぬ結果をもたらすリスクが多過ぎるという難しい決断だった」としている。乗用車乗り入れに「15ドルの課税は労働者階級や中流階級にとっては家計を圧迫する可能性がある。さらなる負担をかけることはできないし、復興の障害となることをしてはならない」と述べている。一方で、交通機関の近代化や安全性向上など「ニューヨーク市民に約束されたすべての改善を進めることに全力を尽くす」と述べている。

 渋滞税はマンハッタンの60丁目より南に乗り入れる車両から通行料を徴収するもので、2019年にニューヨーク州議会で可決された。乗用車でピーク時15ドルなどとなっている。慢性的な渋滞を緩和し温室効果ガスも削減、また収益をバス・地下鉄などの公共機関の整備に充てることができる画期的なものとして歓迎された。英国のロンドン市などで導入されているが米国では初の試みとなる。

 ニューヨーク市のアダムス市長は「復興に影響を与えないようにしなければならない。知事が他の方法を検討しているのであれば、私は賛成する」と語った。渋滞税を阻止するために訴訟を起こしているニュージャージー州のマーフィー知事(民主党)は、今回の中止について「感謝している」とし、「3州全住民の利益のため引き続き緊密に協力していくことを楽しみにしている」との声明を出した。

マンハッタン渋滞税の急きょ中止

知事判断背景に政治的動機か

 渋滞税中止についてホウクル知事は声明のなかで「状況は変わっており、私たちは5年前の話ではなく、現場の事実に対応しなければならない」と述べているが、これまで一貫して渋滞税を支持してきた知事の突然の中止命令には驚きの声が上がっている。そのため政治的な動機によるものだという指摘もある。ポリティコ6月4日付によれば、11月の選挙で下院奪還を目指す民主党院内総務のハキーム・ジェフリーズ下院議員(NY州選出)陣営から今年11月の選挙に及ぼす影響を懸念する声が出たのだという。4月にシエナ大学が実施した世論調査によると、NY州の有権者の約63%がこの渋滞税導入に反対し、賛成したのはわずか25%だった。なお、マンハッタンにあるトランプタワーの自宅が渋滞税区域内にあるトランプ前大統領は4月、導入に反対し、大統領に復帰した最初の週にこれを「廃止する」と発言している。

洋上の美術館

豪華客船「飛鳥Ⅱ」がNY来港

 郵船クルーズの主要株主であるアンカーシップパートナーズ社(篠田哲郎社長)は、同社が参加する伝統文化振興プロジェクト「Action!伝統文化」の一環として、ニューヨークに寄港した客船 飛鳥Ⅱの船内に日本文化に興味関心のある米国人を招き、日本文化を発信するイベントを6月3日に開催した。

(写真上:船内で展示されている美術工芸品。乗客が購入することもできる。(6月3日、写真・三浦良一))

 船内では、元文化庁長官である近藤誠一さんが、2人の人間国宝 室瀬和美氏(蒔絵)、大倉源次郎氏(能)と共に、日本文化として受け継がれてきた芸能と工芸の結節点に迫り、メトロポリタン美術館の日本学芸員であるモニカ・ビンチクさんが、独自の視点から示唆に富む解説を加えた。

自由の女神の前を通り、ニューヨーク港に入港する「飛鳥Ⅱ」
(写真提供・アンカーシップパートナーズ社)

 同社は、船舶投資ファンドの「アンカーシップパートナーズ社」のグループ会社が出資、今年2月に設立された。アンカー社は世界を周航する客船「飛鳥Ⅱ」を運航する「郵船クルーズ」の主要株主として船内で日本の工芸品の展示、販売普及事業を行っている。2022年3月、飛鳥Ⅱの船内が公益社団法人日本工芸会との連携により、先頃NY個展を開いた井上萬二氏ら重要無形文化財保持者(人間国宝)をはじめとする日本工芸会会員の作品約140点を船内に常設展示し、乗客たちは船旅をしながら、ゆっくりと日本を代表するアートを鑑賞し、気に入ったものがあれば、購入も可能という全く新しい企画がこの日本文化発信イベントになっている。洋上に浮かぶ美術館さながらの展示品は、販売されているものもあり、3日に開催された報道関係者ら招待客が船内のレストランや通路などに展示された美術工芸品の数々を見てまわった。

 スポンサーとして株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が支援しており、4日独自にマンハッタンの支店でイベントを開催した。同船は4月に日本を出て7月まで約100日間の船旅を乗客500人が楽しんでいる。

人間国宝が語る伝統文化

飛鳥Ⅱ会場に

 ニューヨークに寄港した客船 飛鳥Ⅱの船内に日本文化に興味関心のある米国人を招き、日本文化を発信するイベントが3日開催された(1面に記事)。郵船クルーズの主要株主であるアンカーシップパートナーズ社(篠田哲郎社長)が、参加する伝統文化振興プロジェクト「Action!伝統文化」の一環として実施したもので、船内では、元文化庁長官である近藤誠一さんが、2人の人間国宝 室瀬和美氏(蒔絵)、大倉源次郎氏(能)と共に、日本文化として受け継がれてきた芸能と工芸の結節点に迫り、メトロポリタン美術館の日本学芸員であるモニカ・ビンチクさんが、独自の視点から示唆に富む解説を加えた。冒頭、ニューヨーク日本総領事の森美樹夫大使が来場して同イベント開催に祝辞を述べた。

左から大倉伶士郎氏、人間国宝(蒔絵)室瀬和美氏、メトロポリタン美術館モニカ・ビンチク氏、元文化庁長官・近藤誠一氏、人間国宝(能)大倉源次郎氏、篠田哲郎社長

 室瀬氏は日本の漆の伝統と技術について解説し、技術を伝えるのはマニュアルではなく人間と人間が直に伝えるところ、自然をいかに学ぶかが肝心であり、100%人間がコントロールできるものではなく、自然の持続可能な維持は人類に対するSDGsの警告であると語った。大倉氏は、能で使われる鼓を実際に舞台で披露しながら、対面で稽古をつける様子を子息の伶士郎さんと会場と一体になって紹介した。近藤氏は「作家と使う人の心が通じあう、使うことで心が豊かになることが工芸の魅力であり、デザインはオリジナリティに溢れている。工芸品は手で作家が作り出すスピリチュアルなもので、大量生産を目的とした工業製品との違いは多く、歴然としている」と語った。

 会場からは「漆の木に傷をつけて木は死ぬが、自然破壊にはならないのか」という質問に対し「漆の木は自然には生えてこない。切った後にまた植えて育てることで自然界の持続性が保たれている」と解説。また、「工芸品は西洋では絵画や彫刻などよりもランクが下に見られることあるが、そういうことを日本の若い次世代の継承者は意識するのか」という質問に室瀬氏は「今はそういうことを考えていないのではないか。むしろ私たちの世代の方がそれを考えている気がする」と答え、大倉氏は「西洋の工芸、アートという区別が150年前に日本に入ってくる1000年も前から工芸は存在していて境目はなかった」と語った。

 また会場から「人間国宝としてどのように感じているか」との質問に大倉さんは「個人的には大変な重荷になっているが、日本の能楽600年の歴史を語る時、個人的な発言も重みを持って受け止められるようになったと感じている」と述べ、室瀬さんは「人間国宝になるために作品を作ってきたわけではないが、認定を受けたことで次世代に価値観を伝えていかなくてはならないという気持ちが大きくなった」と答えた。

マンハッタンのピア90に停泊した飛鳥Ⅱ

「飛鳥Ⅱ」MUFGは船内外で解説イベント

飛鳥Ⅱ船内でMUFGの取り組みを説明する飾森亜樹子経営企画部 ブランド戦略グループ部長(3日)

 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は3日、4日の両日、ニューヨークに寄港中の客船「飛鳥Ⅱ」船内および、連結子会社である株式会社三菱UFJ銀行のニューヨーク支店で文化・芸術関係者やビジネスパーソンに向けたイベントを実施した。MUFGは、2023年8月から社会貢献活動「MUFG工芸プロジェクト」を推進。同プロジェクトは、「世界が進むチカラになる。」の実現に向け、日本の伝統的な工芸の文化や技術の継承に寄り添い、そこから変化の時代に必要なイノベーションを学び発信することを目的に展開している。

 4日には、ニューヨーク支店で、伝統と革新をテーマに17作品の展示とトークショーを開催した。秋元雄史東京芸術大学名誉教授ほか、南部鉄器職人の田山貴紘氏(タヤマスタジオ株式会社 代表取締役社長)、ジャパン・ソサエティーのミシェル・バンブリング・ギャラリー・シニアディレクターが意見交換した。

「女性が活躍できる社会へ」

NY日系人会ビジネスウーマンの会

岡島さん日本の現状語る

 NY日系人会ビジネスウーマンの会主催「ガラスの天井を突き破れ 日本女子サッカー界、変革への挑戦を語る」と題した講演会が7日夕、NY日系人会ホールにて開催された。講師は、女子プロサッカー「WE(Women Empower-ment)」リーグの初代チェア(理事)を務めた岡島喜久子氏。

 岡島氏は、2021年に始まった日本初の女子プロサッカーリーグで初代チェアに抜擢。ジェンダー平等を目指すリーグの社会的意義を知ってもらおうと、2年4か月にわたり尽力した。この日、岡島氏はジェンダー平等実現のため「ガラスの天井を破る」ことが試された日本女子サッカー界、変革への挑戦や現状を語った。

 まずは岡島氏自身のキャリアやチェアになった経緯、WEリーグについて、その取り組みなどをリーグ公式アンセム映像なども使って説明。女子サッカーを通じて、 多様性にあふれた社会の実現・発展に貢献することを理念に掲げた同リーグで行ったさまざまな試みを話した。まずは多様性を大切にし、メンズと呼んでいた選手たち(女性が好きな女性選手)にジェンダーの話をしたり、男性コーチにもLGBTQ+の教育をした。「改革は一人だけではできないが、逆境を改善するために女性を応援してくれる男性を見つけることが大切。理解をしてくれる男性たちには助けられた」と当時の苦労を語った。また、女性が活躍できる社会についても言及し、日米の女性に配慮した働き方を提供する企業の取り組みについても解説した。

 会場にはNY在住でボクシング世界チャンピオンの吉田実代さんも来場。サッカーと同様にこれまでは男性のスポーツとされてきたボクシングを続けることの大変さを乗り越え、アメリカでチャンピオンになったことや、自分の受けた差別や偏見は女子サッカーにも通じるところがあり、そこに果敢に立ち向かった岡島氏の取り組みを賞賛した。

 講演後の質疑応答では、「スペインでは政府が女子スポーツを奨励する法律を作り、国をあげて取り組んでいるように、日本の関係者にも話を持ち込んでいるとのことだが日本での可能性は?」との質問に「すごく時間がかかると思う。今の既得権益にとらわれていて、それを変えることは大変。取り組んではいるが道はとても遠いと思う。ただ、成果は出ている」と述べた。

東京のアトリエ保存活動

イサム・ノグチや高村光太郎も滞在

NYの邦人にも署名呼びかけ

 イサム・ノグチや高村光太郎などが使った、東京都中野区にあるアトリエが老朽化して、都内の劇作家や有志がこのアトリエの保存運動に乗り出している。この建物は、昭和23年(1948年)に、日本の水彩画の父と言われた中西利雄が東京中野区の桃園町(旧名)に建てたもので、日本の近代建築運動のリーダーであった山口文象が手がけた。画家の中西利雄は、完成間近に病気を患い48歳の若さで亡くなった。息子の中西利一郎さんが建物を守ってきたが、昨年1月に亡くなった。木造で築70年以上経っており修復が必要で、中野区も動きはじめて、近く中野区長もアトリエを訪問するという。(写真上:東京都中野区に残るアトリエ(藤島宇内撮影))

 そのあと、このアトリエはさまざまな芸術家に貸し出され、特に世界的に有名なイサム・ノグチや高村光太郎がいる。イサム・ノグチは1950年から1952年まで、高村光太郎は1952年10月から1956年4月2日に亡くなるまで3年半に亘りここで過ごした。彼の代表作である青森県十和田湖畔に建つ「乙女の像」の塑像もこのアトリエで製作された。


イサム・ノグチ

Isamu Noguchi, 1988. Photo: Heinz-Gunter Mebusch. The Noguchi Museum Archives, 06415. © The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum, NY / Artists Rights Society (ARS)


 保存運動をしている中西利雄・高村光太郎アトリエを保存する会の代表、渡辺えりさん(劇作家・俳優)は「日本の優れた美術家、彫刻家、建築家、詩人などが関わったこのアトリエは、日本の貴重な文化遺産です。ぜひ後世に残してほしいと思います。活用方法については、中西利雄、高村光太郎の作品展や若い芸術家へのアトリエ提供、朗読会など工夫次第でさまざまあると思う」と話す。これらを実現するため、保存会では区議会や関係機関に保存の要望書を提出するため多くの賛同者の署名を求めている。イサム・ノグチも滞在したことがあることから、ゆかりのあるニューヨークからの署名を呼びかけたいと、保存会はこのほどニューヨーク日本人美術家協会(JAANY、松田常葉会長)に署名を呼びかけた。JAANYも会員の署名を集める方向で準備を進める予定だ。保存会ではニューヨーク在住の一般読者からの署名も歓迎するとしている。署名活動に関する問い合わせは曽我貢誠さんEメールsogakousei@mva.biglobe.ne.jpまたは小山弘明さんEメール koyama@aurora.ocn.ne.jp 

「日本人永住者増やして」

NYで人材紹介会社経営の邦人ビジネスマン

駐日米国大使に嘆願書提出

 このままでは、米国の日本人が消滅してしまう。それは米国経済にとってもマイナスになる。打開策として米国永住権の日本人枠を増やして欲しいーそんな嘆願書をニューヨークで人材紹介・派遣会社を営む日本人がラーム・エマニュエル駐日米国大使に出した。提出したのは5月21日。

 内容は「現在の日本人人口に関する入手可能な情報に基づき、添付の請願書を作成した次第である。日本から米国への、そして米国内への移民の不均衡を是正するために、賢明な判断と迅速な行動を強く奨励する」というもの。

 差出人はニューヨークに本社のある株式会社インテレッセ・インターナショナルの経営者、藤原正人さん(66)。藤原さんが、日本人の労働人口がパンデミック以来急速に萎んでいることに危機感を覚え、過去に遡って在米日本人人口の推移と他のアジア系諸国との人口動向を調べてみて愕然とした。10年に一度国勢調査(センサス)で日本国籍を持つ米国永住者の高齢化が進んでおり、このままでは先細りになっていくことがわかった。

 藤原さんによると「現代の日本人は移民としてアメリカに来るケースは稀である。かつては専門職対象のH1-Bビザの取得により、その後のグリーンカード申請による永住権取得、その中から米国市民権を取得する構図となっていた。この構図がリーマン・ショック後に著しく変化し、H1-Bビザ取得が極めて困難になってきた。このため第一弾の母集団であるH1-Bが著しく減少し、米国市民権取得そのもの件数も大幅に減少していることは容易に想像できる。アメリカに在住する代表的なアジア系住民の中で日本人の高齢化は著しく進んでいる。センサス 2020で比較すると60歳以上の日本人住民は日本人住民全体の36・95%を占めており、第2位の韓国系住民の22・45%を大きく引き離している。アジア系住民で60歳以上の住民が最少のインド系住民の比率は12・04%であり、日本人住民のそれと比較して3倍以上となっている。加えて、センサスのデータにはアメリカに在住する日本語が可能なすべての日本人の統計となっており、この中には日本国籍者で数年間のみ滞在する日系企業の駐在員、学生、報道関係者、在外公館員、日本の政府外郭団体職員などとその家族も含まれている。この人々の殆どが60歳未満である。日本の外務省の海外在留邦人数調査統計報告によると、2020年度のアメリカ在住の長期滞在者合計は21万1110人(2020年10月1日時点)。この数値をセンサス2020のデータから差し引いた母集団を元に再計算すると、60歳以上の日本人の比率は49・11%に上昇する。この数値はすでに人口減少による日本人社会の消滅が間近いことを示している。多様な民族文化・価値観の存在が認められているアメリカにおいて、日本文化・習慣の継承・継続の点においても極めて困難な状態に直面していると言える。結論として、今すぐにでも米国内の移民の不均衡の是正が必要である。日米両国は自由、民主主義、人権の尊重といった基本的価値観を共有している。また、アジア太平洋地域では依然として不安定性・不確実性が増しており、パートナー国である日本の米国内日本人住民の存在は重要であることを踏まえると、この著しい人口減少は友好な日米間関係にも支障をきたす可能性を秘めている」としている。

(写真)藤原さん

古本不動産50周年祝う

日系社会と共に半世紀
後継者タミコさん披露

 古本不動産の創業50周年を祝うパーティーが7日夜、日本クラブで開催され120人の招待客が集い半世紀にわたる同社と創業者である古本武司さんと妻キャロルさんを祝福した。佐藤貢司ニューヨーク日系人会(JAA)会長が司会を務め、中垣顕實法師の祝鐘、ゲイリー森脇JAA名誉会長の音頭で祝杯をあげた。スーザン大沼元JAA会長がジェームス・テデスコ・バーゲン郡エクゼクティブ、シェリー・B・マイヤー上院議員からの祝辞を代読し、河手哲雄北米三菱商事会社社長、遠藤彰ニューヨーク日本総領事館首席領事が祝辞を述べた。

 古本氏は第二次世界大戦中に日系人の強制収容所で生まれ、少年時代を父親の故郷である広島市で過ごし、ベトナム戦争時には米軍兵として出兵した経歴を持つ。退役後、ニュージャージー州フォートリー地区で古本不動産を創業、以後日系二世の地元の名士として日系人の地位向上のため活動を続けている。同氏は、ニューヨーク広島会名誉会長として、また人権活動家としての各種活動を通じ、ニューヨーク州及びニュージャージー州における日系人社会の地位向上及び日本・アメリカ合衆国間の相互理解の促進、友好親善に寄与してきたとして2022年に令和4年春の叙勲で旭日単光章を受章している。

 当日は、同社の後継者としてタミコ・オオオカさんが正式に紹介された。資産管理の仕事をしていたタミコさんが、古本氏の父親・清人さんが戦前ロサンゼルスで働いていた会社の創業者、大岡菊夫氏の孫だったことが近年になって偶然分かり、74年ぶりの再会を果たし、後継者探しをしていた古本社長が、親の代のビジネスパートナーの再来としてタミコさんを後継者にすることを決めたのだという。

 タミコさんの父親、正明さんも古本さんとは別のマンザナの日系人強制収容所の体験者で、日系写真家、宮武東洋(故人)が収容所内で撮影した有名な鉄杖網を掴む日系3少年の写真に映る一人。その実話をタミコさんの姉、アケミさんが3少年再会のドキュメンタリーを映画化、その作品が2022年、エミー賞の一つである第51回北カリフォルニア地域エミー賞のニュース・短編部門で最優秀賞を受賞している。タミコさんは、ニューヨーク地区では僧太鼓の主要メンバーとしても活躍中だ。祝賀会にはロサンゼルスで医師をしている古本さんの実姉、泰子さんもお祝いに駆けつけ、戦時中に過ごした日系人強制収容所での子供時代の思い出などを語った。

 古本さんは戦時日系収容に反対したフレッド・コレマツ氏(故人)の遺志を継いでニュージャージー州のフレッドコレマツデーの祝日制定にも尽力するなど人権活動家としても知られる。祝賀会の最後に古本氏と深い親交があったマウント富士レストランの創業者・藤田徳明氏(故人)の長女、ナンシー・フジタさん、親族を代表してケン・オカジマさん、キース・サキムラさん、リンダ・カワグチさんがそれぞれ挨拶し、思い出を語った。閉会の挨拶では長男のスコット・フルモトさんが来場者に感謝の言葉を述べた。

(写真)前列左側から5、6番目が古本夫妻、前列右側2人目がタミコさん、左隣が父・正明さん(7日、日本クラブで)

戸田恵子「虹のかけら」

カーネギーホールで25、27日

ジュディ・ガーランドの人生代役兼付き人の視点で描く

 女優の戸田恵子が25日(火)と27日(木)午後8時からカーネギーホールで、一人舞台「虹のかけら」(フジ・サンケイ・コミュニケーションズ、FCI主催)を上演する。映画「オズの魔法使い」で全世界のアイドルとなった天性のミュージカルスター、ジュディ・ガーランドの人生を、代役兼付き人として支えた同名のジュディ・シルバーマンという1人の女性の視点から描いたオリジナルストーリーだ。

 この作品は、戸田の還暦の記念に演出家の三谷幸喜氏が書き下ろしたもので、初演は2018年5月。パンデミックを挟んで5年ぶりの上演となる。プロットや歌う曲目などは日本とほぼ同じだが、音楽の殿堂カーネギーホール用に芝居を幾分コンサート寄りにリメイク、日本版を少しシンプルにしたニューヨーク・バージョンとなる。ステージは日本語で、字幕なしの舞台となる。(写真右:東京公演の様子(撮影・宮川舞子))

 三谷氏とは、彼の初映画監督作品「ラヂオの時間」以来数々の舞台やテレビドラマなどで仕事を共にしてきた仲だけに、還暦記念の作品にどんな内容のものを作ってくれるのか、戸田さんからリクエストしたのは「著名な歌える人の生きざまを歌と芝居で伝える、人生も面白い人の話はどうか」ということだけ。三谷氏からジュディ・ガーランドで彼女の一生を語れる話を作ろうと言われ、迷わず「面白いと思いました。ストレートに表現するのではなく、三谷さんらしい一捻りがあって。三谷さんの作品にはいつも胸がキュンとなるところがあって、今回の作品でも彼女が苦しんだところも臆せずに描かれていて、まるで1本の映画を見たような気分になれる作品です。リラックスして気楽に楽しんでいただける作品です。ニューヨークの皆さん、どうぞ見にいらしてください」と話している。会場はワイル・リサイタルホール(西57丁目154番地)入場料80ドルから。チケットは電話212・247・7800、

carnegiehall.org 劇場窓口のボックスオフィス。

とだ・けいこ=子役として芸能界入りし、16歳で上京。1974年に演歌歌手「あゆ朱美」としてデビュー、77年に「劇団薔薇座」に入団し、同劇団の看板女優として活躍。声優としても活動し、「機動戦士ガンダム」(79)のマチルダ・アジャン、「ゲゲゲの鬼太郎」の鬼太郎(85〜88)や「それいけ!アンパンマン」(88〜)のアンパンマンなどで広く知られる。主な出演作に、映画『ラヂオの時間』、ドラマ『遺留捜査』シリーズ、舞台『なにわバタフライ』『歌わせたい男たち』など。

ミュージカルの本場で生き抜く情熱

ブロードウエー俳優

由水 南さん

 実家は代々加賀友禅の伝統工芸家で、二代・由水十久の娘として石川県金沢市で生まれた。アートに対する両親の理解もあり、小学生の時にバレエスクールで東京の帝国劇場で「回転木馬」を見た時に、踊りだけでなく歌って演技もあるミュージカルというものを初めて知った。テレビの衛星中継で「ライオンキング」のトニー賞の発表を見て「こんな素敵な世界があるんだ」と魅了された。地元高校時代はバレエ、演劇、合唱、そして英会話を掛け持ちでやって高校卒業後に渡米し、ニュージャージー州立大学を経て、ニューヨークの演劇学校、アメリカン・ミュージカル&ドラマティック・アカデミー(AMDA)を卒業後、全米各地の劇場で「メリー・ポピンズ」「アイーダ」「キャッツ」など、多数の舞台に出演した。

 日本では、劇団四季で「ウィキッド」「美女と野獣」「鹿鳴館」に出演し、日本初演の「春のめざめ」では、翻訳家・演出助手としても携わる。再渡米後の2015年、渡辺謙主演の「王様と私」でブロードウエーデビューを果たし、その後も「ミス・サイゴン」「マイ・フェア・レディ」でブロードウエー出演を続ける。「マイ・フェア・レディ」では、アジア人の女性俳優として唯一の出演者に選ばれ、俳優陣のリーダー役であるダンスキャプテンも務めた。 舞台俳優として活動してから20年、週に8回のステージをこなし、一人22役、男役も女役もできる万能俳優として活躍してきた由水さんだが、出だしは決して順風満帆ではなかった。オーディションを受けること88回目にしてやっと初仕事を手にし、ブロードウエーの舞台に立つのにさらに10年の歳月を要した。小さな落胆と希望の連続の中で常に心がけたことはオーディションの記録を日記としてつけたこと。場慣れして体験を積むことがまずはオーディションを受ける目的だったので、全てが勉強と経験だった。現在は、俳優活動と並行して、2014年に『YU-project』を発足し、セミナーや講演会を通して「可能性は無限大」のメッセージをニューヨークから世界に発信している。昨年、初の著書『今日から始めるSHOW UPの習慣』(イマジカインフォス)を出版し活動の幅を広げている。

 今年4月に故郷石川県に戻り北陸で開催されたガルガンチュア音楽祭の司会を務め、被災地で「上を向いて歩こう」などを歌った。10月には再び一時帰国して「いしかわ舞台芸術祭」に参加する。「能登は長期的な支援が必要で、私なりにでもできる支援をしていきたい」という気持ちで遠い母国を思う。 (三浦良一記者、写真も)

Website: https://www.yu-project.org/

吉田実代選手講演会

Alto日本語補習校で19日

 ニューヨーク・ミッドタウンにあるAlto日本語補習校は、19日(水)午後2時から(開場は1時30分)ボクシング世界チャンピオンの吉田実代さんを招いて講演会を行う。「夢を実現させる3つの秘訣」という題で、世界王者の座に輝く吉田さんの軌跡をもとに講演が行われる。世界の頂点を目指して勝ち取った方の話を聞くのは大変貴重な機会だ。1年半前にニューヨークへ移住した吉田さんのことを知った同校のスタッフが、ぜひ大人にも子どもにも聞いてほしいと思い立って開催が決定した。当日は吉田さんからエクササイズの紹介も予定されており、参加者が実践する機会もある。親子での参加はもちろん、スタッフによる誘導対応が行われるので子どもだけの参加も可能。遠方に住む人に向けて、オンラインの参加も受け入れている。会場はレキシントン街370番地1804号。

 参加費は大人30ドル、子ども無料。オンライン参加は1家庭30ドル。事前申し込制。申し込み・詳細は同校ウェブサイトhttps://alto-edu.comを参照する。

何をやっても怒られません

和田秀樹・著

青春新書・刊

 日本は、会社勤めの勤労者なら、60歳という一般的な定年制度があり、その後5年間は、同じ会社の名刺を使いながら、役職が取れた配置転換などの中で「元は私◯◯にいまして」という前置詞がついての名刺交換になり、対外的には大手企業社員であった本人と家族のプライドが保たれ、会社は人件費を安く抑えることができる。双方のニーズがうまく合致したいかにも日本的なウィンウィンなシステムだが、定年前に役職のない人の場合は結局、「そのまま同じ仕事をしていて給料が半分になった」という「残念」な気持ちを抱くことも少なくないようだし、元部下が上司となって主従逆転するシステムもなんだかストレスが溜まりそうだ。

 そんな中でも、定年退職したら、夫婦で世界一周の海外旅行に行きたいとか、若い頃に乗りたかったけれど乗れなかった大型バイクの免許を取得して日本全国気ままなツーリングに行きたいとか、趣味の釣りやゴルフを存分に楽しみたいとか、憧れだったポルシェを買いたいとか夢のような希望は、誰でも心の中でうっすらとは持っている。

 アメリカに住んでいる本紙の読者は、転勤で3、4年一時滞在している駐在員や似たようなカテゴリーの企業派遣留学生は別として、大体が永住者か米国籍を取得した日本語が分かる元日本人ということになるので、日本の定年制度は関係ない。そもそもアメリカには定年制度がないので、勤め人は年齢による解雇、差別ははなから受けないので、「老後の楽しみ」という概念が日本とは少し異なるのではないだろうか。

 米国では、66歳と半年が過ぎれば、長年働いて税金さえ払っていれば、積み立ててきたソーシャル・セキュリティー(米国年金)が正確に毎月銀行に振り込まれ、勤労者のシニアライフは、経済的には案外と恵まれていて、リタイアメントも漠然とした老後であり、日本のように「はい今日から会社勤めは終わり、長年ご苦労様でした」というような環境にはない。本書は、当たり前の話だが、日本にいる日本人を読者対象に長年高齢者精神医療に携わってきた和田秀樹さんが書いた本で、以前に『どうせ死ぬんだから』(SBクリエイティブ・刊)でも似たような書評を書いた覚えがあるが、どうせ死ぬという突き放した極限の意識を持たないまでも、要は「やりたいことがあったら、後回しにせずに、50代のうちにその準備をして定年退職後に備えなさい」という内容の本だ。

 人生100年と言われ、周りを見渡せば、若々しいご年配の人たちが多い。アメリカで長く生活していると、リタイアメントの線引きがはっきりしていないだけに「気がついたら60超えてるわ」、「およよ、もうすぐ70だわ」「うーん実は80代なの」という人がゴロゴロいる。人間は天邪鬼な生き物なので、希望が叶うことになった瞬間に、その希望は輝きを失うことがままある。ポルシェに乗りたいという夢が叶うお金を手にした瞬間に「今買わなくてもいいか、それより」となることがあり関係のないことに使ってしまったりする。なので、配偶者から怒られているうちが「華」と思って、またお一人様人生の人は心おきなく、好き勝手に生きることが、健康にもプラスだというようなことが書かれている。(三浦)