編集後記

【編集後記】


 みなさん、こんにちは。前回の発行から2週間も新聞が出ない時間が開くといろいろなことがありますね。この間、日本からの芸能関係者やエンタメ系のイベントが目白押しでした。戸田恵子さんの「虹のかけら」はカーネギーホールで2夜開催されて熱演の舞台でしたし、歌姫の八神純子さんの初ニューヨークライブ公演は老舗ジャズクラブのバードランドでこちらも2夜開催されて共に満員御礼。そして相撲とお寿司をセットにしたエンターテインメント日本文化紹介イベントが相撲界のレジェンド小錦さんの司会でブルックリンのネイビーヤードで開催され、アメリカ人の相撲人気が伝わってきました。一方、政界に目を向ければ大統領選挙初のCNN主催のディベートでは現職のバイデン大統領が精彩を欠き、NYタイムズからも叩かれ退陣の声まであがる始末。トランプ氏に少し追い風ムードが出てはいますが、選挙は水物。当日の当日になるまでは分かりません。誰もがヒラリー・クリントンだと思っていた時にトランプ氏が勝利したあの時、一番驚いたのはトランプ氏自身だったのですから。ただ前回のトランプ氏と異なるのは、圧倒的な支持を得ていた白人労働者層に加え、今回は、インテリ層、識者からも一部支持されつつあるという点でしょうか。日本の東京都知事選も混沌としてますが、メインイベントの大統領選、9月10日に開催されるABC主催の2回目のディベートはさらに見ものですね。そしてこの2週間の間に円安が進み1ドル160円台に突入。とまあ今週号も盛りだくさん。記事が溢れ24ページに増ページしてお届けします。明日は独立記念日(この原稿は3日に配信してます)。ハリソンでも花火が上がるみたいです。それでは、みなさんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2024年7月6日号)

(1)エンパイアが観光名所世界1に

(2)戸田恵子が虹のかけら熱演

(3)八神純子NYで熱唱 バードランド2夜満席

(4)相撲と寿司で日本文化紹介 小錦さん名司会

(5)オッペンハイマー、広島被爆者に謝罪

(6)NYで被爆者が証言 広島の田中さん 長崎の小川さん

(7)フィラデルフィア物語

(8)信号を守らないニューヨーカー ニューヨークの魔法

(9)JAPAN CUTS 2024 日本映画31本を上映

(10)金継ぎ着想のアートジュエリーに熱い視線 MAIさん

観光名所世界一位、エンパイア・ステート・ビル

観光名所世界一に選ばれたエンパイア・ステート・ビル(7月1日、三浦良一撮影)

 オンライン旅行会社、トリップアドバイザーはこのほど、2024年度の「旅行者が選ぶベスト・オブ・ザ・ベスト・シング・トゥ・ドゥ」の世界ランキングを発表し、エンパイア・ステート・ビルが初めて1位に選ばれた。

 同サイトは世界800万人以上の利用者が12か月間に投稿したデータを基に、各観光名所を評価した。エンパイア・ステート・ビルについては、利用者の6万人以上が5つ星で評価した。同サイトは「旅行者は360度見渡せるニューヨークの絶景に感動し、展望台から小さく見える市内の名所を指さすことができる。天気がよければ全6州を確認することもできる」と解説し、同ビルを訪れた300人以上が「一生に一度の経験だった」と感想を伝えているという。報告を受けた同ビルは6月25日夕、トリップアドバイザーのアイコン色である緑にライトアップした。

 以下、同ランキングの上位5位は、2位エッフェル塔、3位アンネ・フランクの家(アムステルダム)、4位サグラダ・ファミリア(バルセロナ)、5位クリスタルの洞窟(ケイマン諸島)。

 ランキングの詳細はウェブサイトtripadvisor.comを参照する。

虹のかけら熱演

戸田恵子が一人芝居

カーネギーホールで

写真・佐々木悠人

 女優・戸田恵子が6月25日と27日夜、カーネギーホールのワイル・リサイタルホールで一人芝居「虹のかけら」(フジサンケイ・コミュニケーションズ、FCI主催)を上演した。映画「オズの魔法使い」で全世界のアイドルとなった天性のミュージカルスター、ジュディ・ガーランドの人生を、代役兼付き人として支えた同名のジュディ・シルバーマンという1人の女性の視点から描いたオリジナルストーリーだ。脚本は演出家の三谷幸喜氏。戸田の還暦の記念に三谷氏が書き下ろしたもので、初演は2018年5月。パンデミックを挟んで5年ぶりの上演となった。

 プロットや歌う曲目などは日本とほぼ同じだが、カーネギーホールは音楽ホールのため、フットライトやスポット照明、字幕などはなく、舞台セットも基本ない状態での演技。戸田にとっても新鮮な一人芝居で「こんな明るい舞台でやったことがない」と驚いていたほど。音楽はピアノ・荻野清子、ドラム・BUN Imai、ベース・鈴木陽子。客席は両日共に満席で戸田のオーバー・ザ・レインボー(虹の彼方に)の歌声がカーネギーホールに美しく響いた。

 2日目。最終日の舞台に現れた戸田は、満面の笑みを称えてステージの中央で両手を広げ「2日目の今日がベストです。最高の演技ができると思います」と観客の心を見事に掴んだ。

 トニー賞、グラミー賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされたジュディ・ガーランドは、しかし自身でオスカーを手にすることはなかった。3度の結婚に失敗し、薬物中毒となるなど晩年は孤独だった波乱の人生を、横から友として、付き人として支え、そして時として嫉妬して生きた主人公を歌と芝居で演じ、観客を釘付けにした。カーネギーホールには、母ジュディが取ることのできなかったオスカーを手にした娘のライザ・ミネリの写真が飾られている。大劇場には芸術を守るミューズ(女神)も魔物も住んでいると言われる。その両方に見守られて、戸田はカーネギーホールの天井から降り注ぐ虹のかけらを一身に浴びた。      (三浦)

八神純子NY熱唱

2夜連続で満員御礼変わらぬ歌声で魅了

老舗ジャズクラブバードランドで

 澄み渡る歌声、そして心に突き刺さる歌詞がマンハッタンの老舗ジャズクラブ、バードランドに2夜連続で響いた。日本の歌姫の座を45年以上守り続け、いま世界中で流行の兆しを見せているジャパニーズポップスの草分け的存在、八神純子の初のニューヨーク公演だ。

 当初から予定していた6月30日のステージが瞬く間にソールドアウトになったため、バードランドが八神に打診、急遽、公演前日の29日に追加公演が実現した。本紙の記事や広告を見てワシントンDCから聴きにきた熱心なファンなど二日連続で185席が満員御礼となった。

 ビリー・ジョエルの「ニューヨークの想い」で口火を切ったコンサート、デビュー曲「思い出は美しすぎて」から「ポーラスター」「みずいろの雨」「パープルタウン」の大ヒット曲3曲を一気に計12曲を歌いあげ、アンコールは「ララバイ・オブ・バードランド」。ピアノは長年八神とコンサートを共にする一人オーケストラの宮本貴奈が日本から駆けつけた。客席とステージが間近のジャズクラブならではの迫力だ。

 ワシントンDCで一昨年、女性シンガーソングライターの殿堂入りを果たした八神。「そんな私が日本だけで歌っていてはいけないなという思いで、ニューヨーク公演が実現しました」と話す。1986年から西海岸に住んできた。今回のライブの原動力になっているのは、地球の嘆きや叫びを曲を通して訴えた大曲「テラ(地球)」だ。「今までの私の音楽人生はこのアルバムを作るためにあったんだと強く感じています」という。11分という長い曲だが、聴き入るうちに長さを感じさせることはまったくなかった。

 八神は「初めてのバードランドでの2日間の公演を応援してくださった方々に、心からのお礼を申し上げます。ニューヨークというチェレンジャーズの街で「TERRA~ here we will stay」を届けられたことや『バードランド』を私の歌声で満たせた喜びは、きっと、豊かさと深みを増した私の歌声となって、これからの私を進化させてくれることと思います。 素晴らしい機会を、本当にありがとうございました。またお会い出来る日を楽しみに、一層頑張って歌い続けます」とコメントした。

 (三浦良一記者、写真も)

オッペンハイマー、広島被爆者に謝罪

 原爆を開発したオッペンハイマーが1964年に広島の被爆者と米国で面会し、「涙を流して、何度も謝った」ことが明らかになりました。NHKが6月20日、この非公開の会談に同行した通訳者の証言を放送しました。2019年に亡くなった通訳者のタイヒラー曜子さんが2015年に語った映像を広島市のNPOが保管していたものです。タイヒラーさんは、「オッペンハイマーは涙、ぼうだたる状態で『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』と本当に謝るばかりだった」と述べています。彼は、原爆投下による惨状を知って苦悩を深めたと言われています。

 被爆者一行はトルーマン元大統領とも会談しましたが、彼は「これはアメリカが取った正当な行為だ」と述べたとのことです。

 私はタイヒラーさんに1980〜90年代に国際MRA(現在は国際IC)のスイス・コーの国際会議で通訳をお願いしていました。実はこのコーこそ、浜井信三広島市長が1950年に参加して、広島の碑文「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませぬから」作成の契機となった場所です。コーは戦後4年間にドイツとフランスの首脳を含む数千人の国民が参加した和解のメッカです。市長はその和解のドラマを体験した後、欧州諸国を経て米国を訪問します。市長は戦後初めて占領軍が海外渡航を認めた約70名の大型使節の一員でした。中曽根康弘議員他国会議員7人を含む各界代表や広島県知事、長崎県知事、長崎市長も含まれていました。サンフランシスコ講和条約前の占領下の時代です。(私の拙訳書『日本の進路を決めた10年』ご参照下さい。)

 吉田茂首相代理の二人の国会議員が米国議会で謝罪しました。そして、碑文設置を決定したのが浜井市長のアーリントン墓地訪問と言われています。市長は爆心地の楠から数十個の十字架を作成し、歴訪先の要人に贈呈しており、その1個がトルーマン元大統領にも渡っているという記録もあります。

 私は昨年の広島サミット前に、この碑文の経緯について各国首脳にお伝えするよう岸田文雄総理に提言しました。バイデン大統領が原爆資料館で記帳した「世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう」をぜひ実現したいものです。

 ふじた・ゆきひさ=慶大卒。世界的な道徳平和活動MRAや難民を助ける会で活動した初の国際NGO出身政治家。衆議院・参議院議員各二期。財務副大臣、民主党国際局長、民進党ネクスト外務大臣、横浜国立大講師等歴任。アメリカ元捕虜(POW)の訪日事業を主導。現在国際IC(旧MRA)日本協会会長。岐阜女子大特別客員教授。

相撲と寿司で日本文化紹介

小錦さん解説、NY8公演完売

 日本の力士たちによる「相撲」と「日本の食文化」を紹介するイベント「相撲+寿司」がブルックリンのネイビーヤードにあるデュガル・グリーン・ハウスで6月14日から21日まで5日間8公演が開催された。日本の国技「相撲」を寿司とセットにした文化紹介型エンターテインメントでイベントのホストは、日本相撲界のレジェンド、小錦八十吉さん(61)。イベントは連日1公演あたり800人余りの観客を動員する大盛況で、NY開催は今回が3年目。

(写真上)ニューヨーカーも上半身裸になって土俵で相撲を取って観客は大喜び(写真・三浦良一)

名司会と解説をした小錦と記念撮影するアメリカ人観客たち

 冒頭は、小錦さんの英語解説により、会場中央の特設土俵で力士たちが押し出し、上手投げ、寄り切りなど84種類ある相撲技の代表的な必勝技や、禁じ手を実演披露したほか、相撲部屋での日常の稽古方法などが紹介され、相撲文化の歴史を丁寧に説明した。

 会場は、観覧席(75ドル)から土俵前3列の食事テーブル観覧席とVIP席(375ドル)まで4種類が設けられ、チケットとセットになっている弁当寿司を食べながらショーを見るスタイル。日本の相撲界で活躍してた力士による試合観戦、力士たちが観客の質問に答える質疑応答のコーナー、観客が土俵入りして力士と対戦するバラエティーに富んだエンターテイメント。会場から参加したニューヨーカーたちも上半身シャツを脱いで力士たちとがっぷり四つに組んで大奮闘。日本の地方巡業さながらの市民交流の盛り上がりを見せた。

 小錦さんは「アメリカの人たちがとても相撲を大切にしてくれるのをすごく感じる。自分は日本が大好き。それしかない。だから相撲カルチャーをわかりやすく広くアメリカのファンたちに伝えたい。昔、大相撲はマジソンスクエアガーデンでやったけど、自分が目指すのはそこじゃない。分かる?」と語り、ファンやゲストたちとの写真撮影に快く応じていた。出場力士6人の中には、日本の人気急上昇の格闘技ブレイキングダウン12で安保瑠輝也と対戦したスダリオの弟関の顔も。当日は、ニューヨークのマウントフジレストランが日頃お世話になっている顧客17人を土俵間際最前列の席に招待した。相撲チーム一行はこのあと、ワシントンDC4公演、ナッシュビル5公演、シカゴ5公演に向かった。

力士と記念撮影するマウントフジレストランのナンシー・コオーナーCEO(左)と招待客の一人、川野作織コーリン社長

NYで被爆者が証言

広島の田中さん
長崎の小川さん

 日本の非営利組織ピースボートの大型客船が6月16日と17日、ニューヨークに立ち寄り、被爆者2人が証言を伝えて、世界平和を訴えた。今回、同船で世界を回っているのは、広島出身の田中稔子(としこ)さん(85)と長崎出身の小川忠義(ただよし)さん(80)。16日は船上で、17日は国連プラザで証言を伝え、若者を中心とした聴衆と交流した。

(写真上:証言を伝える田中さん(左)と小川さん)

 田中さんは6歳の時に被爆、意識不明の重体から回復したものの級友はほぼ死亡した。2009年から7年間、非営利組織ヒバクシャストーリーズ(本部・ニューヨーク市)の招聘でニューヨークに毎年来て証言活動を行っていたこともあり、ニューヨークは「懐かしい地」と話し、16日は英語で17日は日本語で証言し、最後に「世界に親しい友人をつくってください。そうすれば友人の国に原爆を落とそうとは思わなくなる」と世界平和を訴えた。

 小川さんは1歳の時に被爆、数か月前に郊外に疎開して一家は助かったが母親に背負われ実家の様子を見に行った際に「入市被爆」した。父親が早く亡くなり一家が苦労した体験を淡々と語り、「核廃絶が実現するまで証言活動を続ける」と力強く話した。また09年から仲間と立ち上げた「長崎忘れないプロジェクト」についても説明し、「8月9日11時2分に写真を撮影して、送ってください」と、長崎の原爆投下を風化させないための取り組みへの参加を呼びかけた。集まった写真は長崎の博物館に展示されるという。

スーザン・ストリックラー監督と共に上映に立ち会ったプロデューサーの竹内さん(左)

 ユタ州ソルトレイクシティ出身で核兵器実験の被害について活動する作家のメアリー・ディクソンさんも同席し、自らの甲状腺がんの闘病体験などを語った。17日は、マーシャル諸島教育機関のベネディック・カブア・マディソンさんも同席、同諸島で1946年から58年の間に67回行われた米国による核実験に起因する健康被害(異常出産、流産、がん、糖尿病など)が世界的に見ても多い状況について報告、また「ヒロシマへの誓い サーロー節子とともに」の上映もあってプロデューサーを務めた広島出身の竹内道さんらも登壇した。

ピースボートで世界を回る小川さんと孫の長門さん

 同船は4月13日に横浜を出港、105日間で18か国21か所への寄港を予定しており、ほぼ半分の行程を終えた。会場に集まった若者からは「こんな体験を話す勇気に感動した」「聞いたことを他の人に伝えることが私たちにできること」などの声が聞かれた。小川さんの孫娘で大学生の長門百音(もね)さん(21)は「祖父の写真展活動を手伝ったことはあるが、今回初めてピースボートに乗って、毎日が勉強」と話し、各国からの若者と歓談していた。  (小味かおる、写真も)

世界遺産都市で響き合う、日米の魂

 ユネスコと連携する世界遺産都市機構(OWHC)が指定する「世界遺産都市」がアメリカに二つある。その一つ目が、2015年に指定されたフィラデルフィア市。街全体が世界遺産の対象である当市には、膨大な数の史跡が点在する。特に世界遺産「アメリカ独立国立歴史公園」は、アメリカ人のアイデンティティを象徴する特別な場所。ここで2024年4月7日に、日系人の功績を称えるイベントが開催され、2026年の米国誕生250周年に向けて、250本の新たな桜を植栽する計画が発表された。長年にわたり日米親善に貢献してきた「フィラデルフィア日米協会」が市民全体から大きな支持を得たのであった。

 イベントの目玉となったのは、フィラデルフィア管弦楽団の首席バスーン奏者、ダニエル・マツカワ氏と、書道家・墨アーティスト・文化庁文化交流使の海老原露巌氏の両名の芸術的邂逅による、唯一無二のセレモニーコンサート。(=写真左、海老原氏の揮毫)始まりは、ストラヴィンスキー作曲「火の鳥」の「子守歌」。マツカワ氏のバスーン演奏によって、尊厳に満ちた静寂な雰囲気が、レセプションテラスに広がった。そこに海老原氏が登場し、演奏曲は武満徹作曲の「巡り」に移った。日米両国で差別にさらされた彫刻家イサム・ノグチを追憶するために作曲された曲だ。海老原氏は、この作品を五感で感じ取りながら墨を磨り続けた。音楽が止まり、テンションが最高潮に達したその時、海老原氏は立ち上がり、毫を力強く繊細に揮られた。その結果が二つの書、「和」と「祈」である。

 ここでマツカワ氏はフィナーレとなるドヴォルザーク作曲の「交響曲第9番「新世界より」の「家路」の演奏を開始した。まだ墨が乾いていない出来立ての『和』と『祈』を見つめながら、参加者は同じ思いで『家路』を聴いたであろう。日本文化の根底に流れる共通の価値観『和』が生み出す一体感。皆を家路への祈りに導き、日米の参加者が一つになった瞬間だった。

この二つの書は、アメリカ独立国立歴史公園に捧げられ、公園側は毎年5月にビジターセンターで両作品を大々的に展示する、と決定した。5月は米国の「AAPI Heritage Month (アジア・太平洋諸島系米国人の文化遺産継承月間)」であり、海老原氏の作品を通じて、移民の多様性がいかにアメリカを豊かにしてきたか。これを米国誕生の地で祝いたい、という。作品には英語で「祈 Inori (Praying)」と「和 Wa (Harmony & Peace)」と表示される予定。

日系アメリカ人の功績を讃えるイベントが、日米融合の芸術を生み出し、アジア系アメリカ人全体の存在感を高める結果に繋がったことは感慨深く、日系人として誇りに思う。この二つの書がアメリカの多様性を象徴するものとして観る人の心を一つにしていくだろう。

フィラデルフィア日米協会 副理事長 

穎川廉(Ren Egawa)

 30年以上にわたり日米欧のテック業界で最先端技術開発と新市場開拓に従事。パナソニック在籍中、新放送方式を開発、FCC(米国連邦通信委員会)で推進。世界規格に導き、本社役員賞を受賞。米SRIでは次世代GPU開発者、仏伊STではソフトウェア戦略チーフを歴任。現在は米Rexcel GroupのCEOとして、イノベーション推進事業を経営。フィラデルフィア都市圏の日米協会副理事長、アジア系アメリカ商工会議所顧問委員、オペラ振興諮問委員、フィラデルフィア管弦楽団アンバサダーとしてボランティア活動に従事。

信号を守らないニューヨーカー ニューヨークの魔法

 ニューヨーカーは信号を守らない。左右を確かめ、車が来なければ、すたすたと道を横断する。いや、車が来ていても、接触しないほどの距離があれば、十分だ。

 接触しそうでも、車よ、止まれ、とばかりに悠々と歩いていく人も多い。

 しっかり(うっかり?)、信号など守っていれば、置いてきぼりにあい、観光客丸出しである。信号と同じく、横断歩道もあってないようなものだ。車が来なければ、どこでも道を渡る。

 あるとき、赤信号で横断歩道を渡ろうとすると、すぐ隣で警官ふたりが立ち話していた。さすがに信号無視はできない。おとなしく信号が変わるのを待っていると、目の前を堂々と歩く人がいる。あの警官ふたりだ。

 おまわりさんが信号無視して、いいんですか。

 そう問いつめたくても、胸に秘めておこう。と思ったが、私は警官に歩み寄り、いつものように聞いてみた。

 警官らは肩をすくめ、ごく当然そうに答える。

 There’s no car coming. Why do you ask?

 車、来ないよ。なんでそんなこと、聞くんだい?

 日本でも私は、ついつい堂々と赤信号で横断歩道を渡り、道の真ん中まで来て初めて、正面から投げかけられる視線に気づき、捕まった犯罪者のようにうなだれる。

 日本でほとんどの人たちは、信号が変わるのをずっと辛抱強く待っている。 

 この前は、大通りの真ん中で、町中にこだましそうな大声で呼び止められた。

 危ないですよおぉぉおお。きちんと信号を守ってくださあぁぁああい。

 警官が大きなメガホンを抱えて、立っていた。警察署の目の前だった。 

 ニューヨークは「二十四時間歩行者天国状態」だから、接触事故はあとを絶たない。

 知り合いの娘も、イエローキャブにひかれて亡くなった。

 ニューヨークの「歩行者天国」に、そろそろ厳しい規制がかかるかもしれない。

 ニューヨーカーたちがぞろぞろと、本物の天国を歩き始める前に。

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第8弾『ニューヨークの魔法のかかり方』に収録されています。

https://www.amazon.co.jp/dp/4167717220

JAPAN CUTS 2024 日本映画31本を上映

 ジャパン・ソサエティー(JS)は7月10日(水)から21日(日)まで、毎夏恒例の日本の新作映画を集めた映画祭、第17回『JAPAN CUTS〜ジャパン・カッツ〜』をJS内劇場(東47丁目333番地)にて開催する。今年のCut Above Awardは、俳優・森山未來に授与される。また、今年は特別に生涯功労賞をベテラン俳優・藤竜也に授与。国際プレミア5作品、北米プレミア10作品、米国プレミア4作品を含む31作品を上映する。期間中は、長編作品を集めたフューチャー・スレード部門、新進気鋭の若手監督作品を集めたネクスト・ジェネレーション部門、クラシック部門、そして新作短編映画を上映。11人の特別ゲストを迎え、 レセプションパーティーや上映後の質疑応答が開催される。オープニングを飾るのは人気俳優・池松壮亮が主演を務める『白鍵と黒鍵の間に』の北米プレミア。

 Cut Above Awardが授与される森山未來は、例年注目作を上映するセンターピースとして塚本晋也監督の『ほかげ』に主演。戦後の絶望の中を生きる片腕の動かない男を演じている。森山および塚本監督が出席する同作の上映会後に授賞式が行われる。

 生涯功労賞受賞の藤竜也は、最新主演作『大いなる不在』の上映会に、近浦啓監督と共に出席。同作では森山未來と親子として共演し、記憶、家族、喪失という深いテーマを力強く体現している。その他の特別ゲストは、石井岳龍監督(『箱男』東海岸プレミア、『水の中の八月』)、湯浅典子監督(2024年大阪アジアン映画祭JAPAN CUTS受賞作品『カオルの葬式』国際プレミア)、女優・田畑智子(相米慎二監督『お引越し』修復版プレミア)などが登場する。

 「クラシック部門」では、1980〜90年代のインディペンデント映画を代表する3作品を上映。そのほか、庵野秀明と樋口真嗣によるゴジラシリーズの2016年傑作をモノクロで描いた『シン・ゴジラ:オルソ』の国際プレミア、北野武監督による戦国スペクタクル『首』などの話題作が上映される。入場料は一般20ドル。チケット・詳細はウェブサイト https://www.japansociety.orgを参照。


■ジャパンカッツ上映スケジュール

• 7月10日(水)6:30pm「白鍵と黒鍵の間に」

• 11日(木)6:30pm「キリエのうた」

• 12日(金)6:30pm「唄う六人の女」|9:00pm「映画(窒息)」

• 13日(土)11:00amショート・カッツプログラム1

• 12:30pm「少女は卒業しない」

• 3:00pm「ブルーピリオド」

• 5:30pm「箱男」

• 9:00pm「春の画 SHUNGA」

• 14日(日)1:30 pm「ルックバック」

• 3:00 pm「鯨の骨」

• 5:30 pm「水の中の八月」

• 9:00pm「シン・ゴジラ:オルソ」

• 15日(月)6:30pm「莉の対」

• 16日(火)6:30pm「夜明けのすべて」|9:00pm「首」

• 17日(水)6:30pm「ほかげ」(センターピース)

• 18日(木)6:30pm「大いなる不在」(生涯功労賞)

• 19日(金)6:30pm「お引越し」| 9:30pm「チャチャ」

• 20日(土)11:00amショート・カッツプログラム2

• 12:30pm「アイスクリームフィーバー」

• 3:00pm「ブルーイマジン」

• 5:30pm「カオルの葬式」

• 8:30pm「人魚伝説」

• 21日(日)11:00am「カラフルな魔女 〜角野栄子の物語が生まれる暮らし〜」

• 1:30 pm「彼方のうた」

• 3:30 pm「リテイク」

• 6:00 pm「小学校〜それは小さな社会〜」

• 8:30 pm「シン・ゴジラ:オルソ」(アンコール上映)

一般$20、JS会員$14、シニア/学生者$18

• 短編:一般$12、JS会員$5、シニア/学生$10

• クラシック部門作品特別割引あり

• オープニング、センターピース、生涯功労賞:

一般$25、JS会員$18、シニア/学生$23

• Q&A付き上映会:一般$24、JS会員$17、シニア/学生$22

• ボックスオフィス:TEL: 212-715-1258

japansociety.org/film/japancuts

金継ぎに着想のアートジュエリーに熱い視線

ジュエリーアーティスト

MAIさん

 シルバーとゴールドが織り成す渋いオリジナルのアートジュエリーを作る。金継ぎの技術をヒントに修復のクラフトではなく、抽象表現のアートの世界に昇華させた。MAI(本名・小林麻衣)さん。東京に住んでいた時にロサンゼルスの友人に会いに旅行をして、その時に出会ったアーティストに感銘を受けたのがきっかけだった。独学でペインティングをはじめ、アートを追求するうちに更に自身の可能性を追求するため5年前に来米した。NYに着いた2週間後にはソロエキシビジョンを決め、更に立て続けにいくつかのショーにも参加するチャンスにも恵まれた。コロナ禍の自宅待機の期間中は、主に絵画制作に没頭したが、自身の内面の変化と共にジュエリーを手がけ、ブランドKOROMO jewelry が生まれた。日本の豊かな自然環境の中で日本酒職人で農家だった祖父、料理好きの祖母、縫製会社で働いていた母に育てられた。少女時代に自然からすべてが創造されるプロセスを教えられたという。禅と仏教感を尊重した印象を受ける作品は、自身の幼少期から現在に至るまでの生活習慣から生まれたものだが、見るものに媚びることのない静かな気品がそこに漂う。反骨精神と言ってもいい秘めた情熱が、世界の社会システムからの脱出と個人としての個性を尊重し、現在や人、社会、地球への優しさと恩返しを通して滲み出しているからだ。

 スタイリストの知り合いから頼まれ、米雑誌『ザ・アドボケイト』誌最新号で俳優、ウェイン・ブレディーのグラビアに小林さんのジュエリーが登場するなど、作品が一人歩きし始めている。個性的な造形が見る者を引き寄せてやまなない不思議な魅力を持っているからだろう。パターンに定まらない自由な発想から生まれた金継ぎヒントのアートジュエリーは、日本的なる見えない魂のルーツを塊にして表現した身につける芸術。小林さんの金銀織混ぜての「愛」の結晶だという。新潟県出身。  

 (三浦良一記者、写真も)