荒野のラジカリズム展 60年代の日本の美術家たち

ジャパンソサエティーで開幕 6月6日まで

 1960年代に斬新で実験的な芸術を探求していた日本の美術家たちの作品を展示する「荒野のラジカリズム:グローバル60年代の日本の現代美術家たち」が8日からジャパンソサエティー(JS=東47丁目333番地)で始まった。
 ゲストキュレーターの富井玲子氏は、「荒野は都市を離れた自然のなか、つまり首都東京から離れたところ、ラジカリズムは既成概念に収まらない考え方で作品づくりを追及すること」だと説明する。日本のコンセプチュアリズムの先駆者、松澤宥、大阪を拠点とした集団のプレイ、新潟現代芸術家集団GUNの堀川紀夫と前山忠の作品を中心に、中嶋興、草間彌生、河原温、オノヨーコら36人の作品280点を展示する。会期は6月9日(日)まで。GUNの部門では、日本から駆け付けた堀川紀夫と前山忠が作品を説明。展示作品は60年代の問題提起とその根底にあるオプティミズムを感じさせ、時間をかけてじっくりと対話する必要がある。(ワインスタイン今井絹江、写真も)
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 入場料は一般12ドル、シニア・学生10ドル、JS会員・16歳以下は無料。開廊時間は火〜木曜が正午から午後7時、金曜は9時まで、土・日曜は午前11時から午後5時まで、月曜・祝日は休廊。問い合わせは電話212・715・1258まで。詳細はウェブサイトwww.japansociety.orgを参照。

夢の先に何が見えるか The Hummingbird Project

 ミリ秒単位で株の大量売買を自動的に行う高頻度取引で一攫千金を狙う若者二人と彼らの計画を阻止しようとするウォールストリートの大手ブローカー。金が物を言う世界で人の心がどこまで冷徹な現実を許容できるか、スリリングな展開で見せる緊迫のサスペンスだ。
 監督・脚本は「Rebelle」(魔女と呼ばれた少女、2012年)で注目を浴びたカナダ出身のキム・グエン。主人公ビンセントとアントンを演じるのは「ソーシャル・ネットワーク」(10年)のジェシー・アイゼンバーグと「The Legend of Tarzan」(ターザン:Reborn)のアレクサンダー・スカルスガルド。スカルスガルドは見事な禿げ頭でナード的天才を熱演。ウォール街の辣腕ブローカー、エヴァに扮するサルマ・ハヤックの銀髪にメガネというハイファッションないでたちも強烈なインパクトを与える。
 ビンセント(アイゼンバーグ)とアントン(スカルスガルド)はともにロシア系アメリカ人の従弟同士。親族の絆は固くビンセントとアントンも兄弟のようだ。二人とも大手証券ブローカーで働いているがあるアイディアを実現させるために着々と準備を進めている。
 高速・高頻度の株売買はスピードが勝負だ。そこで考えたのがカンザスからニューヨーク証券取引所のサーバーがあるニュージャージーまで光ファイバーを通す計画。アントンの並外れたコンピュータ・エンジニアリング技術とビンセントのビジネスセンスを駆使すれば夢ではない。完成すれば年間5億ドルの儲けになる。ただし2点を結ぶ地下ケーブルは直線だ。民家はもちろん、湖も川も山も直線で通る。
 投資家はうまく見つかった。しかし架設工事は次から次へと問題が起き、想像を絶する現状に直面する。しかも、着工を知った元ボス、エヴァは計画をつぶそうと強硬策に出る。
 シビアな現実の中でビンセントとアントンが求めるアメリカンドリーム、感情抜きで突っ走ってきたビンセントが見つけた心の平穏がバランスの取れた物語を形作る。早口がトレードマークのアイゼンバーグは観客を飲み込むような圧巻の演技を見せる。1時間51分。R。(明)

■上映館■
Angelika Film Center
18 W.Houston St.
The Landmark At 57 West
657 West 57th St. at 12th Avenue

編集後記 3月16日号

みなさん、こんにちは。元プロレス世界チャンピオンのザ・デストロイヤーこと本名、リチャード(ディック)・ベイヤーさんが先週の木曜日、7日、故郷ニューヨーク州バッファロー郊外アクロンの自宅で亡くなりました。88歳でした。ベイヤーさんは、アクロンの高校男女水泳チームのコーチとして毎年2月に開催される米東部高校水泳大会に出場する部員たちを引率し、ロングアイランドのナッソー郡まで遠征に来ていました。1997年まで同校の体育教師でしたが、定年退職後は、水泳部コーチに専念、30年余りコーチを務めました。1953年にシラキュース大学大学院で教育学修士号を取得しましたが教壇には立たずスカウトされてプロレスの世界に。63年(昭和38年)に力道山と繰り広げた世界タイトルマッチは高度経済成長時代の「昭和の日本」を大いにわかせ、また、70年代には日本で放送された「うわさのチャンネル」(NTV)でもお茶の間のタレントとして人気者となりました。日本へは毎年7月に東京都港区で開催される全日本子供レスリング大会に訪日して指導するなど日米青少年の育成に最後まで現役で活躍。2011年の東日本大震災の年には81歳で被災地を訪問して日米新善レスリング大会を開催して被災者を激励しています。20年近く前、取材でアクロンの自宅を訪問したことがあります。デストロイヤーは「いいものを見せてやろう」と言って手招きし、奥の部屋の洋服ダンスの引き出しを開けました。そこには綺麗に折りたたまれたいっぱいの白覆面がびっしりと入っていました。母校シラキュース大カラーのオレンジや、赤、青のストライプの入った白覆面を眺めて彼は言いました。「私はプロレスに向いていたし、プロレスもまた私に向いていた。死んでまた生まれ変わってもプロレスラーになるだろう」と。いい言葉だなあって思いました。その時、この仕事をしていて良かったと思ったのを覚えています。デストロイヤーありがとう。それでは、みなさんよい週末を。(「週刊NY生活」発行人兼CEO三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】 (2019年3月16日号)

今週のデジタル版はこちらから

https://www.nyseikatsu.com/editions/717/717.pdf

(1) 日本文化と芸術紹介 オールジャパンで(1面)
(2) ハドソンヤード一般公開(1面)
(3) MEN’S COLUMN アルトサックス奏者 山中 一毅さん 自己表現の演奏にぶれなし(3面)
(4) 東日本大震災追悼NYで 語り部の三浦七海さん「生涯思い伝えたい」(4面)
(5) ほくほく会追悼式 被災地からレポート (4面)
(6) 《訃報》私はプロレスに向いていた デストロイヤー イチバーン! 白覆面の下は教師の顔(5面)
(7) NY日系ライオンズ 年次チャーターナイト 新エンブレム発表(6面)
(8) NEWCOMER特集 2019(13面)
(9) BOOKS 白覆面の魔王は親日家 ザ・デストロイヤー・著 ベースボール・マガジン社・刊(18面)
(10) 食EAT OUT Oxalis ファインダイニングをカジュアルに体験(20面)
(11) NY生活ウーマン 吃音社交障害軽減を研究する 吃音症ウエアラブル デバイスを作った 福岡由夏さん(21面)
(12) 新作ブロードウエーミュージカル BE MORE CHILL 甘ずっぱい青春劇(28面)
(13) アーモリーに神秘色 ミヅマ画廊が紹介 日本の3作家出品(30面)
(14) シネマ映写室MOVIE Captain  Marvel 味方の陰に敵あり(30面)
(15) コロンビア大学中世日本研究所 和楽器演奏会31日に 入場は無料 要事前登録  (31面)

日本文化と芸術紹介 オールジャパンで

 国際交流基金は、3月から米国で、日本の文化・芸術を紹介する事業「ジャパン2019」をスタートした。昨年日本政府がフランス政府と共同で取り組み、2月中旬現在で300万人に迫る動員数を記録した「ジャポニスム2018」に続くもの。今月5日にメトロポリタン美術館で開幕した「『源氏物語』展 in NEW YORK〜紫式部、千年の時めき〜」を皮切りに、ワシントンDCのナショナル・ギャラリーオブ・アートでの「日本美術に見る動物の姿」展などの展覧会や、宮城聰演出『アンティゴネ』などの舞台公演を、「ジャパン2019公式企画」として実施する。 5月に開催されるジャパンデー@セントラルパークの夜にはジャパンナイトを開催し、日本から大物歌手を招く。

ハドソンヤード一般公開

 2013年から大規模開発が始まったミッドタウン西端にあたるハドソンヤードは15日、第1フェーズを完成させ一般公開を開始。

自己表現の演奏にぶれなし

アルトサックス奏者
山中 一毅さん

 ニューヨーク在住のアルトサックス奏者、山中一毅(やまなか・かずき)は1985年、埼玉県さいたま市生まれ。中学高校時代に吹奏楽部に在籍。高校1年生の時に「サックスやるなら聞いておいたら」と母親に連れて行かれたのが渋谷のオーチャードホール。そこで渡辺貞夫の演奏を聞いてジャズに目覚めた。京都大学在学中もジャズのサークルに入って演奏活動を続けた。卒業後、テレビ制作会社に就職したものの1年で退社。学生時代は音楽で生きてこうとは夢にも思っていなかったが、いざ社会人になってみたら、お金はどうでもよくて本当にやりたいことをやらないとだめだと思いたち、日本での下積み生活3年を経て2012年に来米した。
 ニューヨーク州立大学パーチェス音楽院の大学院ジャズ科修士過程修了。ニューヨーク市と東京での活動を経て、16年に再びニューヨークに拠点を移した。
 「自分は、ジャズの伝統を大事にしてはいるけれど、正統派に憧れても黒人音楽として発祥したジャズの血は自分には流れていないことも痛感する。それならば、正統派ジャズで学んだ世界をオリジナリティを持った表現者として演奏できれば」との思いでステージに立つ。「自分の表現したいものを求めながら芯のぶれないアーティストを目指したい」と話した。
 (三浦良一記者、写真も)
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 今月22日(金)、山中率いるカルテットが午後8時から10時まで、ブルックリンのガワナスにあるアイビーム・ブルックリン(7丁目168番地)で「CDレコーディング直前記念コンサート」を行う。
 山中(サックス)がラス・ロッシング(ピアノ)、キャメロン・ブラウン(ベース)、ジェラルド・クリーバー(ドラム)とともにオリジナル曲を中心に演奏。入場料は20ドル(推奨寄付額)。
詳細はウェブサイトwww.kazukiyamanaka.comを参照。 

東日本大震災追悼NYで

スピーチする語り部の三浦さん(左)

語り部の三浦七海さん 「生涯思い伝えたい」

 第8回「トゥギャザー・フォー・3・11東日本大震災追悼式典」が3月10日夕、アッパー・ウエストサイドにある教会ファーストチャーチ・オブ・クライスト・サイエンティストで開催され、約400人が参列した。

その12:お土産屋さん(後編)

魅惑のアメリカ旧国道「ルート66」なんでもベスト10

 ルート66ファンの皆さん、こんにちは!
 3月の声を聞くと、冬眠していたルート66ファンも旅の準備をし始め、少しずつですがロードに出てきます。まだまだ中西部は雪が多いですが、4月初頭にはいろいろなイベントも始まりますので、また楽しい1年がやってきそうです。
 さて、「テーマ別何でもベスト10」。いよいよこのシリーズも今回が最終回。最後のカテゴリーとなる「ルート66上のお土産屋さん」、筆者が独断と偏見で選んだトップ5を今月はご紹介していきます。

【第5位】
 テキサス州エイドリアンにある「Sunflower Station」のご紹介からスタートしましょう。読者の皆さんであればもはやエイドリアンの説明は不要だと思いますが、そうルート66、シカゴからロサンゼルスへの「中間地点」で有名な場所です。記憶されている方も多いと思いますが、モーテルやレストラン編でもご紹介した街です。オーナーはフラン・ハウザーさんという女性で、以前経営していた隣にある「ミッドポイントカフェ」を売却した後にこのお店を開きました。お土産屋と言ってもフランさんのお店にあるのはアンティークものを中心としたお洒落なアイテムが揃っており、通常のギフトショップとは一線を画しています。「ここでしか買えない」という商品がお好きな方にはおススメです。
【第4位】
 ニューメキシコ州トゥクムキャリにある「Tee Pee Curios」=写真=をご紹介します。こちらも記憶されている方も多いかもしれませんが、モーテル編では同街のブルースワローをご紹介した際にちょっとだけ触れたお店です。そのブルースワローモーテルより徒歩3分の、道を渡って斜め向かいに建つ円錐状のテントのお店がそれです。Tee Pee の意味はアメリカ先住民インディアンのテント(小屋)で、柱と毛皮や樹皮から成る円錐形の可動式住居のことを言います。まさにお店の姿はそれそのもの。夜になるとネオンがきれいに輝くので、モーテルを含め、やはりこの街は1泊することをおススメします。お店の品ぞろえはもちろん充実、Tシャツやセーター、野球帽をはじめ、マグカップ、小物、ナンバープレートから各種書籍まで幅広く見つかります。ご主人は筆者の親友で、とても気さくなGARさんです。
【第3位】
 アリゾナ州ジョゼフシティ近郊に威風堂々と鎮座する、「Jack Rabbit Trading Post」です。まっ黄色なボードに書かれた「Here It Is」という赤い文字と黒いうさぎさんの立て看板は、多くのトラベラーの目を引くとともにルート66を検索すると嫌でも(?)目にするイメージで世界中の人に広く知られています。オーナーのシンディさんとアントニオさんは長い時間をかけてこのお店(看板)を再生し、各旅行者の自宅からこのお店までの距離を一つ一つペイントしたオリジナルボードを作ってくれるというアイデアに満ちた新商品を開発。筆者ももちろん速攻で注文しましたが、かなりの反響を呼んでいることがSNSでも確認できます。もちろん各種お土産品は大体のものが揃います。初めて彼らを訪れたとき、筆者の敬愛するルート66の先輩方(大塚氏、竹内氏、花村氏)の直筆サイン入り書籍を陳列していたことも衝撃的でした。看板の前で写真を撮るのもよし、お店の前のうさぎ像に乗ってポーズをとるのもよいかもしれません。以前は東から西へ向かう時、いったんフリーウェイを降りて戻る形をとる必要がありましたが、1年ほど前にもうひとつ出口ができ、スムーズに立ち寄れるようになったのも彼らの功績でしょうか。
【第2位】
 カリフォルニア州、ルート66の終点サンタモニカのピアに建つ、「66 To Cali」のご紹介です。このお店は今から約10年前、それまですでにルート66を25回も旅をしているダン・ライス氏によって生まれました。ルート66にあまり興味がなくとも、ロスアンゼルスを訪れる多くの観光客はサンタモニカ、そしてサンタモニカピアを訪れます。ピアに入ってほどないところにその「お店」は存在し、現在もカリフォルニア州を始めルート66全体の観光局としてもその役割を果たしています。お店の商品のこだわりはすべて「Made In USA」。Tシャツ、スウェット、ショットグラスからマグネットや書籍まで、すべてアメリカ製です。数年前ご縁あってダンさんと長い時間、ルート66に対するお互いの意見交換をする機会があり、その際にこのお店を開くにあたっての熱意を目の当たりにしました。現在はカリフォルニア州ルート66協会の会長でもあるイアン・ボーウェン氏が事あるごとにお店番をし、その豊富な知識をルート66ファンと共有しています。
【第1位】
 またまたアリゾナ州に戻ってルート66界の父と呼ばれる伝説の彼が率いるお店「Angel & Vilma Delgardillo’s Original Route 66 Gift Shop」です。ここはもう説明は不要かと思います。ルート66の商品なら何でも揃ううえ、伝説のエンジェルさんと会えるわけですからもう何も要りません!(笑)某大手旅行代理店のツアーも1日1回、大型バスの横づけです。絶対損はしないので是非ご訪問を。
 ということで、今月も駆け足で紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。すべてを書くことはできないので、もっと詳しく知りたい方は筆者まで直接ご連絡ください。「ルート66何でもトップ10」の連載はこれで終わりです。皆さまご愛読ありがとうございました!
(後藤敏之/ルート66協会ジャパン・代表、写真も)www.toshi66.com