編集後記 4月13日

みなさん、こんにちは。世界のビジネスエリートが必ず身につける「見た目」の教養—。『クラス・アクト』という本がPHP研究所から発行されました。著者は一般社団法人国際ボディーランゲージ協会代表理事の安積陽子(あさか・ようこ)さんです。今週号16面のBOOKS書籍面に書評が掲載されています。格を上げる「身だしなみ」、品性をまとった「装い」、戦略的な「振舞い」を自分のものにしているニューヨークのビジネスピープル、とりわけ男性に焦点を当てた「身なり」についてのアドバイスが満載された本です。
前著『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』(講談社+α新書)では、身だしなみを整えることで、所属する企業や団体の名刺には頼らない、最終的には人一人としての魅力ある人物として国際社会で通じる人間になることが大切であると説きました。
今回は、周りから信頼されながら、自分にとっての「ふさわしい姿」をいかに手にいれるかを具体的に示しています。日本人はその人が就いている職業と外見が一致しないことが多いそうです。米国のように多種多様な人種が入り交じっている社会では、見た目でその人がどんな仕事をしてどの程度の収入を得て、どんな暮らしをしているのかが、身なり服装だけでかなり分かってしまいます。
日本では「外見で人を判断してはいけません。ボロは着てても心は錦」なんて歌もあるくらい。いや、同書は決して高価な服を着ることが大切とか言っているのではなく、ルールとマナーが大切なのだと説きます。
米国では、職業人としての「らしさ」が服装や仕草も含めてどこまで身についているかが大切なようです。役職、ポジションのらしさ。ビジネスマン、ジャーナリスト、弁護士、医師、教師、音楽家、アーティスト、プロスポーツ選手、その人なりのスタイルを持ち、そのスタイルを磨くことが大切であると説いています。自分がしたい恰好や身なりではなく、相手が自分にどんな印象を持つのか、どんな人間にみられたいのかを意識して洋服を選び、着る、ことが肝心なようです。日本では、職業と身なり風貌のアンバランスも「へえ、意外。そんなふうには見えないけどねえ、たいしたもんだ」なんて、ポジティブに取られますが、こちらではそこに到達する前に初対面で取捨選別のふるいにかけられそうです。それでは、みなさんよい週末を。(「週刊NY生活」発行人兼CEO三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】 (2019年4月13日号)

今週のデジタル版はこちらから

https://www.nyseikatsu.com/editions/720/720.pdf

(1) 帰国生受け入れ校 NYで大規模説明会(1面)
(2) 野性爆弾くっきー!(1面)
(3) イケメン男子 服飾Q&A67 タートルネックの男(3面)
(4) 桜の名所へ行こうニューヨーク市の見処 (4面)
(5) 江川央の DIGITAL 最前線 デジタルストリーミングが創出する新しい価値(4面)
(6) 柳家東三楼師匠 マンハッタンで落語(5面)
(7) 企業統治日本の事情 コーポレートガバナンス改革について情報発信 経団連投資呼びかけ NY日本総領事館が主催(7面)
(8) 食EATOUT SHUKO 伝統と先駆が奏でる妙(12面)
(9)  世界王者ネイサン・チェン 一流選手が魅せる スターズ・オン・アイス 20日ロングアイランドで(14面)
(10) NY生活ウーマン SHARE 日本語プログラム代表 ブロディー愛子さん乳がん患者を日本語で支援(15面)
(11)  科学と芸術のあいだ 日本クラブで福岡伸一さん講演へ(18面)
(12) 折原美樹ソロダンス公演 無料公開のレクチャーも(18面)
(13) はしかNYで感染拡大 NY日本総領事館が注意喚起(24面)
(14) 紫式部の生涯オペラに メトロポリタン美術館 源氏物語展の特別プログラム 5月17日から全6公演(26面)
(15) シネマ映写室MOVIE PET SEMATARY 愛がもたらす過ち(26面)

野性爆弾 くっきー! ポップな作品NYで

 よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の芸人、野性爆弾くっきーの描いたアート作品が4日から7日までの4日間、マンハッタン・ウエストサイドにあるピア90で開催された第41回「アート・エキスポ・ニューヨーク」に出展された。今回は画家名として「肉糞太郎(にくぐそたろう)」と名乗り、くっきー本人の顔を元に描いた乙女画作品「肉糞乙女(にくぐそおとめ)」をひっさげ、400人以上のアーティスト、1000以上のディーラーやバイヤー、ギャラリーオーナーら業界関係者が集結する世界最大の美術博覧会へ乗り込んだ。
 会場ではくっきーの描いたポップな作品にアート関係者やニューヨーク在住の日本人ファンなど多くの人が足を止め、ブース前には常に人だかりができ、出展アーティストたちからも注目が集まっていた。さらにいくつもの展示作品に売却済みの赤い印があり、「天才たちが認めた鬼才」と言われているくっきーのアバンギャルドな作風に魅せられるアートファンが多いことを証明した。
 破天荒なキャラクターながらも芸人として人を楽しませてくれようとする気遣いにあふれた会場となった。(本紙・高田由起子、インタビュー記事25面に)

タートルネックの男

イケメン男子服飾Q&A

 4月になりました。この時期、三寒四温と申しますか、気候が不安定になりがちですね。暖かい分には良いのですが、寒くなると雪になることもありますから。そのような時のために数枚お持ちになられていると便利なのが薄手のタートルネック・セーターなのです。人間の身体は頭と首から熱を放出するので帽子を被ったり首周りを覆うと思温かいのです。
素材ですが、メリノウールと呼ばれる上質なウール素材を薄手のニットにしたものがお薦めです。シルクやコットン製もありますが、結局ウールが一番丈夫で風合いも良く、また色合いも変わりにくく、加えて体温の調節にウールという素材はうってつけなのです。寒い時は温かく、暖かい時には逆に熱、体温を逃がしてくれる性質があるのです。
 現在、アメリカ国内ではウールのニットはほとんど製造されてはおりませんので、良質のものは外国製となってしまいます。イタリア製はもちろん良いのですが、メリノウール素材のタートルネック・セーターでは英国のジョン・スメドレー(John Smedley)という老舗メーカーのものが良いです。18世紀に創業された世界的な老舗ニットメーカーで着心地の良さとしっかりした作りで高い評価を得ているのです。
 タートルネック・セーターにはネイヴィーやグレー、ブラックなどのベーシックなダークカラーの無地数枚と、クリーム色かオフホワイト色、もしくは臙脂(えんじ)系の色をお持ちですと、お手持ちの紺のブレザーやジャケット等との組み合わせがしやすいです。タートルネック・セーターをジャケットの下に着込まれますと、ネクタイをしているのと同等の扱いを受けることになっております(笑)。
 加えてモックタートルと言いますが、襟を折り返さないタイプのハイネックのセーターもありますが、ロールドダウンと呼ばれます折り返しのタートルネックの方が不思議と大人っぽさと上品さが醸し出されるのです。そんなこともあるからでしょうか、イタリアではタートルネック・セーターのことをズバリ「La Dolce Vita」(甘い生活)などと言ったりするそうなのです。それではまた次回。
けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス・カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。

桜の名所へ行こう ニューヨーク市の見処

リバーサイドパークのチェリーウォーク(マンハッタン)=100丁目から125丁目のリバーサイドパークに2000本の桜。
セントラルパーク(マンハッタン)=公園内のさまざまな場所でソメイヨシノなどが見られる。特に72丁目から96丁目の間、74丁目から77丁目の間のチェダーヒルの南。
国連本部(マンハッタン) =UNプラザ760番地にある国連本部前の桜並木。
ランドールズ島(マンハッタン)=桜祭りは5月4日(土)に開催。ライブ音楽、エンターテインメント、クラフトなど。入場無料。www.ranallsisland.org
ルーズベルト島(クイーンズ)=13日(土)午前11時から午後5時まで、島内のフランクリン・D・ルーズベルト・フォー・フリーダムズ・パークで桜祭りを開催。会場では、茶道のお点前や音楽、ダンス、武道のパフォーマンスなど、日本文化を伝えるデモンストレーションも行われる。入場無料。www.facebook.com/RICherryBlossomFestival
フラッシングメドウズコロナパーク(クイーンズ) =20日(土)午前11時から「第15回JAAさくら祭り」を開催。ニューヨーク日系人会(JAA)とNY市公園課が共催。入場無料。マンハッタンのJAA前から午前10時にバスが出発(帰着は午後3時)。バスと弁当は定員になり次第締め切る。バス代JAA会員5ドル、非会員10ドル。バスでの参加申し込み・詳細はJAA、電話212・840・6942まで。
クイーンズ・ボタニカル・ガーデン(クイーンズ) =園内チェリーサークルは花見の名所。www.queensbotanical.org
ブルックリン・ボタニック・ガーデン(ブルックリン、990 Washington Ave.)=日本庭園のソメイヨシノなど26種の桜が約200本ある。第38回桜祭りは27日(土)と28日(日)に開催。太鼓の演奏、茶道、サムライソードファイト、JロックやJポップなど日本文化を紹介するイベントやパフォーマンスが行われる。サクラ祭り入場料は大人30ドル、シニア学生25ドル。12歳以下は無料。www.bbg.org/cherries
キャッドマン・プラザ・パーク(ブルックリン)=ブルックリンハイツ、第2次世界大戦メモリアルのそばの桜並木。
グリーンウッド墓地(ブルックリン)=バトル街沿いに咲く桜が楽しめる。入口は25丁目とフィフスアベニューの角。
ニューヨーク・ボタニカル・ガーデン(ブロンクス)=自然林の遺る広大な敷地。www.nybg.org

柳家東三楼師匠 マンハッタンで落語

 三代目柳家東三楼師匠が9日午後、市内マンハッタンのプライベートクラブで日本語と英語の落語を披露した。師匠は、落語の海外振興を目的に今年ニューヨークに移住する予定。2016年に第71回文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞受賞しており、これまでコーネル大学など全米60か所以上で落語を紹介している。
 当日はその巧みな話芸でほろりと心温まる古典落語の「幾代餅」と英語落語「動物園(The Zoo)で会場を笑いの渦に巻き込んだ。来場者はその後の茶会で東三楼師匠と歓談した。師匠の米国内での活動はウェブサイトzabu.site

企業統治日本の事情 コーポレートガバナンス改革について情報発信

経団連投資呼びかけ
NY日本総領事館が主催

 ニューヨーク日本総領事館は9日朝、ニューヨーク市内で日本のコーポレートガバナンス改革の推進に向けた民間セクターの取リ組みについて海外情報発信する会を開催した。米国投資家との対話を主旨とするこのプレゼンテーションに出席したのは、國部毅経団連副会長/金融・資本市場委員長、SMFG取締役会長、日比野隆司経団連 金融・資本市場委員長、大和証券G取締役会長、片野坂真哉経団連副会長、ANAホールディングス代表取締役社長、次原悦子サニーサイドアップ代表取締役社長、松倉肇日本電気取締役執行役員常務の各氏。
 冒頭ニューヨーク総領事の山野内勘二大使がボブディランの「時代は変わる」というアルバムを引用して「アベノミクスなど日本経済が時代に即して変化している」と挨拶し、その後に経団連を代表して、國部氏、日比野氏、片野坂氏が登壇、講演した。
 國部氏は、経団連としてのこれまでの努力をソサエティ5・0や国連が定めるSDGsへの貢献を紹介し、とりわけ社外重役と女性の幹部ポジションへの進出が進んでいることを訴えた。経団連を代表して海外からの投資に魅力ある経済環境を構築している」とアピールした。日比野氏は、日本企業における女性のポジション向上が進み、大和証券の場合、国内外117支店長のうち21人が女性であることなどを披露した。
 片野坂氏は1952年にヘリコプター2機でスタートした全日空が67年後の2019年には300機の旅客機を所有、国際線は1986年にワシントンDC就航から当初17年間赤字だったが、現在は世界43都市を結ぶ収益の柱であることを紹介。「挑戦したことが困難を克服した最大のポイント。海外からの対日投資にぜひ挑戦を」と呼びかけた。
 会場から日本のコーポレートガバナンスが世界水準の中でどう評価されているかとの質問に國部氏は、売り手よし、買い手よし、地域よしの三方良しの日本型企業統治の特性を述べた。

この日曜日は桜祭りで 盛り上がろう

フィラデルフィアとニュージャージー

 アメリカ東海岸では平均すると4月中旬に桜前線が北上、NY周辺各地ではその時期に日本文化の紹介とともに「桜まつり」が開催される。ニュージャージー州や同州から近いフィラデルフィアでも大規模なお祭りイベントが毎年行われる。会場となる公園には数千本もの桜の木が植樹され、桜が満開の時期と上手く合えば、その美しさに息を飲むこと間違いなし。園内での飲酒はできないが、お花見気分で家族友人と楽しい日曜を過ごしてみては?

フィラデルフィアは「サクラ・サンデー」

 NJ州に隣接するペンシルバニア州フィラデルフィアでは、今年も6日からフィラデルフィア日米協会主催による「フィラデルフィア・スバル桜まつり」を開催中で、日本文化を紹介するさまざまなイベントが市内各地で日替わりで行われている。メインイベントとなる「サクラ・サンデー」は14日(日)午前10時から午後5時まで、都市公園としては米国最大規模を誇り1876年の万博会場にもなったフェアモント公園のホーチカルチャー・センターで開催される。
 1926年に日本から最初の2本が寄贈されて以来、現在では千本以上の桜が美しく咲き誇るフェアモント公園のなかで、数百本におよぶ桜の木が集中する同会場では、太鼓の演奏、ダンスなどのパフォーマンス、コスプレや原宿スタイルのファッションショー、ペットのピンクの衣装コンテスト、そのほか日本文化を紹介する出し物が楽しめる。また、同エリアにある書院造りの和式建造物「松風荘」の見学もできる。
 入場料は15ドル。12歳以下は無料。会場へのアクセスは、指定の駐車場に停めるか、フィラデルフィア市街に駐車し、30ストリート駅前から発着するシャトルバスを利用する。
subarucherryblossom.org

ニューアークは「ブルームフェスト」

 NJ州エセックス郡でも、4日から第42回「エセックス郡桜まつり」関連イベントが各地で開催されている。メインイベントは「ブルーム・フェスト」。会場は5000本以上の桜並木を誇る、ニューアークからベルビルにわたって長大な敷地をもつエセックス・カウンティー・ブランチブルック公園。園内北端のチェリーブロッサムウェルカムセンターで、14日(日)午前11時から午後5時まで開催される。
 当日は、ステージでのライブパフォーマンスや日本文化紹介のブース出店を楽しめるほか、子供用のアクティビティー、日本食ではないがストリートフェア風の食べ物屋台や手工芸品販売のブースも並ぶ。
 入場無料。酒宴は禁止だが、満開の桜の下にシートを敷いて弁当を食べるなど、日本のお花見の雰囲気を楽しむことができる。
newarkhappening.com/cherry-blossom-festival/

伝統と先駆が奏でる妙

 鮨が米国食文化の一部となったいま、スパイシーツナロールなどの米国ならではの創作鮨を越えた本格江戸前鮨を出す人気店がNYで目立つ。その一つが「シューコ」だ。
 ユニオンスクエアから歩いて数分の同店の入口にはサインがない。瀟洒な趣のドアを開けると、洒落たワインバーのような現代感と和の伝統美が融合した独自の空間が広がる。オーナーシェフはニック・キムとジミー・ラウの両氏。それぞれ韓国系、中国系のバックグラウンドを持つが、「鮨は日本人が作るもの」という先入観を覆す実力派だ。両氏はフレンチほか多彩な料理を手がけた後、ミシュラン三つ星を持つNYの「マサ」「バー・マサ」でそれぞれ実績を積み上げ、2012年に同店を開いた。
 メニューは鮨お任せ180ドル、鮨会席お任せ225ドルと、ハレの機会の価格設定だが、その価値は十分だ。会席は伝統和食を独自に伝える5品と伝統江戸前鮨。例えばタコのグリルにはレモンをきかせた栗のピューレを添え、ハッとさせるような新たな味わいを提供。またタルタル風マグロにはキャビアを盛ってブリオッシュのトーストを添え、魚の旨味を豊かなスタイルで楽しませる。鮨は、海塩の粒とレモンの皮をあしらい甘さを引き立てたホタテ、ガーリックオイルを絡めステーキのような濃厚さを醸す中落ち、備長炭で焼いたばかりの海苔を使ったホタルイカの軍艦など、印象的な各品が17貫続く。
 そして〆にはデザートのアップルパイ。キム氏いわく「和と洋の世界を違和感なく合わせながら、自分たちなりに最高の美味しさを提供することを目指しています。LA育ちの自分にとってアップルパイには特別な思いがあり、メニューの一部にその思いを込めました」。鮨の後に続くアメリカン・デザートの美味しさに驚いたのは、筆者だけではあるまい。
 鮨の伝統がこの街で健全に進化する様子を感じさせる、優れた店である。(ニューヨーク在住ジャーナリスト/片山晶子)

SHUKO 
47 E.12th St.,
(bet.University Place & Broadway)
Tel: 212-228-6088
17:30〜22:30 無休
www.shukonyc.com

古都アングレームの休日(後編)

ジャズピアニスト浅井岳史の南仏’18旅日記(2)

 アングレームでのオフ2日目。さすがに2日続きで炎天下の街に出るのも気がひけるので、今日は朝から寝坊してゆったりと過ごした。起きてくると例のごとく、テーブルにホストの女性、オロールからの置き手紙があって、彼女はランチタイムに帰ってきて、昨日空になってしまったプロパンガスを買いに行くそうだ。庭には朝に彼女が頑張って外したタンクが置いてあった。
 幼少の頃、日本では母親が経営する下宿屋でプロパンガスを使っていたのだが電話一本で業者が来て取り替えてくれていたはずだ。母親が自分でガスのタンクを買いに行って取り替える光景は見たことないが、フランスでは事情が違うようだ。27歳の女性がひとりで車にタンクを乗せて買いに行く? もちろん手伝わない訳にはいかない。ホースからガスがあふれているのか、車の中がガス臭いので、窓を開けながらスーパーのガススタンドに向かう。この街のスーパーマーケットには必ずガススタンドがあり、よく見るとそこにはかなりたくさんのプロパンガスのブランドが並び、その種類の多さにびっくりする。プロパンは、ここではとても普通のエネルギーの形なのだ。残念ながらそのInterMercheという店には、それだけたくさん並んでいても彼女のほしいブランドはないそうなので、別の店に行くしかない。で、店を探してまた出かけると、スーパーUという店にあった。レジでお金を払うとキーをくれる。それを持って無人の売り場に行き、自分でピックアップする。満タンのタンクは重いので、2人で運んで家に設置。フランスの田舎の暮らしを体験できる貴重な経験だ。
 家に戻って2人で木陰でランチ。太陽の下は暑いのだが、日陰に入ると涼しい。温度と湿気のバランスが非常に良いからだろう。
 彼女を職場に送り出して、私も仕事である。次のツアーの準備がもう始まっている。メールやソーシャルメディアの対応に追われる。庭の木陰で仕事も悪くない。
 ガスが使えるので早速彼女のために夕飯を作ることにした。昨日と同じように街に出て、ベジタリアンの彼女のために野菜を買う。今日は「肉じゃが」の肉のないやつ、「じゃが」を作る。今ではフランスでも誰もが使う醤油を使って非常に美味しいものができた。
 さて、その夜は2つのイベントがある。私のフレンチトリオのドラマー、マキシムが自らサックスを吹いてリーダーを務めるブラスバンドのリハーサルを応援しに行き、その後、同じトリオのベーシスト、パスカルがクラリネットで、あの歴史的な建物である市庁舎でコンサートをする。彼らの音楽的な素養とマルチぶりは賞賛に値する。パスカルはドラムもマキシムが絶賛するほど上手い。私もギターやベースを弾くが、それでコンサートができるとは思えない。
 マキシムのブラスバンドには知った顔が並ぶ。早速みんなが順番に挨拶をしてくれ、再会を喜び合う。で、市庁舎へ。壮大な舞台である。が、幸か不幸か、その時間にW杯のフランス・ベルギー戦が行われ、市庁舎の隣の繁華街では応援の歓声がうるさい。それだけで、いつフランスがゴールを決めたかが分かるくらいだ。でも、彼らは根性でコンサートを成し遂げた。素晴らしい。私が来たことをパスカルが非常に喜んでくれた。一杯どうかと誘ったが、明日があるので帰るという。そうか、明日はフレンチトリオのコンサートだ。
 コンサートと同じ頃に、サッカーの試合も終了。日本を劇的に破ったベルギーを破って、フランスは決勝進出を決めた。このチーム、レ・ブルー(Les Bleus)という。アレ・レ・ブルー(Allez les bleus、英語でGo the blues)の歓声で街が俄かに騒がしくなった。オロールと2人で、街でお祝いだ。バーに入って外の席を見つけて地ビールをいただく。2人は英語で喋っているので、周りも彼女に英語で喋って彼女がフランス人であると知ってビックリし安心する。隣の若い男性2人は昨日私が行ったアニメ学校の生徒であった。
 車でクラクションを鳴らして旗を掲げるお決まりの光景がいつまでも続いたが、彼女が明日も仕事があるというので、家に帰ることに。歩いてたったの10分である。帰ったら何故かお腹が減って、先ほど作った「じゃが」を食べた。フランスのジャガイモは表彰状を出したいくらいに上手い。それに醤油味がよく合う。今日はフランスの田舎町で、たくさんの現地の友達とゆったりと過ごした。なんとも楽しく、貴重な経験であった。(続く)
浅井岳史、ピアニスト&作曲家 / www.takeshiasai.com