トコジラミ(BED BUG)を発見

五番街のアップルストア
従業員、衣服ビニールに包む

 五番街にあるアップルストアで12日、トコジラミ(ベッドバグ、南京虫)が管理職の部屋でも発見され、経営側から従業員はロッカーなどの持ち物をプラスチック製品で二重にするように命じられた。これまでにも数度発見され駆除処理がなされているが、再び発見されたことで従業員たちに不安が広がっている。
 店員によれば、この問題は1か月ほど前に2階のテーブル席でトコジラミが発見されたことから始まった。会社は業者を呼び駆除処理を行い、10日ほどして問題はないと伝えていた。しかしそれから1週間後、従業員の服の上で動いているトコジラミが発見された。その様子はビデオで撮影されており、再び経営側は業者を呼び駆除処理を行った。店は24時間営業だが「水漏れ」を理由に夜中に店舗を6時間閉鎖しての駆除したが、解決はしていなかったようだ。
 店員によれば24時間営業の店のためホームレスがしばしば入店するという。最初にトコジラミが発見された席はホームレスが座っていたところで、ホームレスが持ち込んだと見られる。その後のものは最初のものが残っていたからなのか、新たに持ち込まれたものなのかは不明。
 トコジラミは吸血性の寄生昆虫で刺されると激しいかゆみに襲われる。燻煙剤などが効きにくく、また薬品への耐性を持つものがあり、ダニやシラミに比べ駆除が難しいといわれる。

最後の二日は強行軍

ジャズピアニスト浅井岳史の南仏18旅日記(3)

 前夜の素晴らしいコンサートとパーティーの余韻を感じながらぐっすり眠りこけたいところであるが、残念ながら今夜のコンサートの後は移動。というので、4日間お世話になったホストのオロールにお別れを言いたくて、早く起きた。寝ぼけ眼で彼女にお別れをして再びベッドに戻る。再び目が覚めたときには、太陽がさんさんと輝き、彼女はいなかった。またしても置き手紙。「ありがとう!」と返事を書いて、荷物をまとめ、庭の鶏と隣の猫に挨拶して、家を出る。何故か寂しい。
 さて、今日は最後のコンサートが引き続きフーラの街である。着いてから思い出した。この会場は去年も来た。綺麗な花が咲く綺麗な会場である。今夜は、いつものようにトリオで演奏したが、最後の三曲は地元の二人のミュージシャン、女性ボーカリストとギタリストが合流。
 演奏が終わったら、例のように食べて飲んでの大パーティだ。昨年も一昨年も来てくれている人、「来年は是非私にコンサートをホストさせてくれ」と申し出てくれる人も現れて本当に嬉しい限りだ。フランスの田舎なのだが、意外にインターナショナルで、南フランスでリタイヤ生活を楽しむイギリス人夫婦がいて、ロンドン帰りの私とロンドンの話で盛り上がった。ロンドンには毎月、ニューヨークには時々行くという。今度のロンドンギグには必ず来てくれるという。ロンドンのポーランド系の人たちからいただいたお酒、ズブロッカでトリオの打ち上げを乾杯。パスカルは大の酒好きで、その喜びようと言ったらまるで子供だった。もちろんボトルは彼に「預けた」が、直ぐに空になるに決まっている。でもプレゼントしていただいた方に、こうしてフランスで喜んで飲ませていただいたことを報告したら、そちらもたいそう喜んでくれた。ポーランドの人は基本的にフランスが好きである。ルイ15世の王妃はポーランドから来たMarie Leszczynska、したがってブルボン王朝にはポーランドの血が流れている。ショパンもポーランドからパリにやって来た。英雄ポロネーズのポロネーズは、フランス語のPolishである。
 パーティーが一段落すると膨大な機材を片づける。何台かの車に一通り積み込んで、さあ解散かと思ったら。何やら主催者がシャンパンのボトルを開ける。昨日に引き続き、本当の身内での打ち上げはこれからなのだ。フランス語での会話には全部はついていけないが、一緒にいて楽しいことには変わらない。とっぷりと夜が更けて午前様でパスカルの家に帰宅して就寝。
 そして、最終日。昨夜は午前3時にベッドに入ったのに、今朝は7時に無理やり起きる。早く起こしてしまってパスカルには申し訳ない。ご夫婦に朝食をいただいて、車でLa RochelleのTGVの駅まで送っていただく。
 La Rochelleはパスカルによると、昔は奴隷の三角貿易で栄えた悪名高き街だそうだ。私の知る歴史では、フランスの新教徒(ユグノー)たちの牙城であったが、ルイ14世のリシュリュー総裁がユグノーを包囲した。その包囲を逃れて新大陸にやってきた人たちが作った街が、ニューヨークのNew Rochelle、私はそこに去年まで住んでいた。そこにも何かの縁を感じる。が、今のLa Rochelleはその暗い歴史とは裏腹に、とても美しく活気のある海辺の街だ。
 昨年はほぼ同じコースを辿ってTGVでパリに戻った。フランスには小田急線よろしく、途中で切り離して、それぞれが別の目的地に向かう列車がある。昨年は乗る電車の車両番号をどうやって見つけたら良いのかわからずに、あわや切り離されて全然違うところに行くところだったのが、たまたま食堂車で会った車掌さんのおかげでそれが判明し、次の駅で降りて、重い荷物を引きずって1分間で16両以上の距離をプラットホームを駆け抜けた。
 でも、今年は去年の経験を生かして、少ない荷物と多少の知識でゆっくりと車両を確認して間違いなく電車に乗ることができた。年の功とはこういうことを言うのだろうか。
 4時間の快適なTGVの旅の末、午後一時過ぎに無事シャルル・ドゥ・ゴール空港に到着。本当にホッとした、これで飛行機さえ飛べば明日のNYのギグに間に合う。
 随分と長いチェックイン、セキュリティーを終えて搭乗ロビーにやって来ると、これも去年と同様、搭乗ゲートにピアノが置いてある。パリは、北駅でピアノで出迎えてくれて、帰りは空港でピアノで送り出してくれる。北駅では、フランスに敬意を表して「マルセイエーズ」を弾いたが、空港では感謝の気持ちを込めて即興でバラードを弾いた。ロンドンから始まって、パリ、南フランスと続いたドラマチックな20日は、20分かと思うくらいに楽しく充実した旅だった。自分でも理解するのに時間がかかりそうだ。本当に本当にありがとう!  (終わり)
(浅井岳史/ピアニスト&作曲家www.takeshiasai.com

日本人若手研究者を支援

第5回ライフサイエンス・セミナー
医療従事者ら発表

 米国日本人医師会(JMSA)主催の第5回ライフサイエンスフォーラムが20日、マンハッタンのニューヨーク大学ランゴーン医療センター講堂で開催された。今年のテーマは「vision, fusion,translation」。現在注目されているさまざまな医療・医科学の分野を牽引する医師や研究者による講演やパネルディスカッションが行われた。
 当日は、小児肝臓専門医、移植外科医、移植病理医のコラボレーションによって移植医療の最前線に迫り、マウスモデルによる脳機能解明、合成生物学、分子ロボティクスなど、最先端の科学分野をリードする若手研究者が、最新の知見を分かりやすく紹介した。国連による結核医療の支援、医療医学分野の知的財産保護、米国におけるキャリアパスや科学研究費の状況などについても、第一線の専門家による特別講演が行われた。
 プログラムは午前9時、大石公彦米国日本人医師会(JMSA)理事の開会挨拶で始まり、柳澤ロバート貴裕JMSA会長、独立行政法人日本学術振興会ワシントン研究連絡センターの平田光司ディレクター、佐藤貢司ニューヨーク日系人会副会長がそれぞれの団体の活動を紹介しながら、同フォーラムとの関わりや支援内容を報告した。全体の司会進行は朝来ゆいさんが務めた。
午前最初の部は、アルバート・アインシュタイン薬科大学研究員の能丸寛子さんの座長で、米国立衛生研究所(NIH)で小児健康医療人材開発部門プログラムディレクターを務める外山玲子さんが「サイエンスでキャリアを築くために学んだこと」と題して講演した。
 外山さんが医学研究の道に進むきっかけとなったのは、高校3年生の時に教師に薦められて読んだジェームス・D・ワトソンの『DOUBLE HELIX』(二重螺旋)だったこと、約300人の日本人ポスドク研究者がNIHで潤沢な研究費を与えられて研究者主導のハイリスクハイリターンの研究に従事していることなどを説明した。最後に米国でキャリアを築いていく上で大切なことして「アメリカは欲張ることを許してくれる国。これはキャリアを構築していくためには大きい」と語った。東京大学理学系研究科生物科学課程修了後、NIHへポスドク(ビジターフェロー)として来米した外山さんは、現在はNICHDのプログラムディレクターとして発生生物学の発展に力を注いでいる。
 当日は、このほか、大島喜世子氏、浅井章博氏、藪内潤也氏、別城悠樹氏、島田悠一氏、成田公明氏、江副聡氏、柳澤智也氏、寺田慧氏、中村秀樹氏、佐々木浩氏が講演した。会場には、医学関係者だけでなく一般の来場者の姿も多くみられた。

移動式図書館 復活しスタート

 ニューヨーク公立図書館(NYPL)は11日、124年前にサービスを開始した移動式の車両図書館を6月から復活させることを発表した。  赤く塗られたスプリンターの貨物用バンの移動式図書館には、同図書館のライオンのロゴと本棚が描かれている。全世代の好みに合わせた書籍を最高1000冊収容し、2人の図書館員が常駐する。同サービスは6月からブロンクスで本格的に始動し、今秋からはマンハッタンとスタテン島で利用できる。利用地域は限定されるが、地元の住人は最寄りの図書館まで足を運ばずに書籍を借り、返却でき、図書館カードを申請することもできる。
移動式図書館のスケジュールや停車場所などの詳細はウェブサイトnylp.orgを参照。

新しいディーン&デルーカ

 日本でもおなじみ、ソーホー発のグルメ食料品店「ディーン&デルーカ」が4日、ミートパッキング地区にカフェテリアスタイルのレストラン「ステージ(Stage)」をオープンした。
 9番街29番地、13丁目に位置する同店は、オーダーメイドのサンドイッチ、ボウル、サイドディッシュなどが中央のオープンキッチン(ステージ)で作られ、客に提供される。ビールとワインも提供する。
 同店は1977年にジョエル・ディーンさんとジョルジオ・デルーカさんがソーホーで開業、グルメ食料品市場のリーダーとして世界的に有名になったが、近年はホールフーズやトレーダージョーズなどのチェーンスーパーの台頭でその地位が後退。デルーカさんはウエストビレッジのレストラン「ジョルジオーネ」は所有するものの、ディーン&デルーカは2014年にその大部分をタイ系の不動産開発会社ペース・ディベロップメント・コープに売却した。ペース社は当初、ディーン&デルーカを第2のホールフーズにすることを目標にしたが、日本での同店の株式を売却するなど経営不振が続いている。
 現在ディーン&デルーカは、米国ではマンハッタンに4か所、そのほか海外に数か国で展開している。

STAGE
DEAN&DELUCA
29 9th Ave. @ W.13th St.
New York, NY 10014
火曜〜水曜 10:00〜16:00
金曜〜日曜 10:00〜22:00
木曜定休
www.deandeluca.com/stage

手書きの五線譜で世界魅了

作曲家
清水チャートリーさん

 過剰な持続と反復を用いた数々のコンセプチュアルな作風を持つ現代音楽作品で、世界各国の楽団や演奏家から委嘱を受ける清水チャートリーさん。5月3日、作曲家仲間とピアノによる新作演奏会を企画した。「音楽は時間芸術」と言う清水さん。奏者、演奏会場、観客数などで簡単に豹変する。「現代音楽は、観客ありきの音楽じゃない」と前置きしつつも、作曲家らの発表の場を創出し、異なる曲に興味を持つ客が集まることでの相乗効果を期待する。
 大阪府出身。国立音楽大学を首席で卒業し、同時に有馬賞を受賞して奨学生としてコロンビア大学芸術大学院修士課程を修了、三菱財団フェローとしてピッツバーグ大学で研究活動をした。2年前にフランスの山間の小さな村で曲を発表した時、村人が全員来てくれ村長が現代音楽について熱く語った。欧州での現代音楽の定着度を実感。「20代のうちに欧州を経験したい」との思いを強くし、2018年からはドイツのドレスデンに住む。とはいえ、月の半分は他の地に飛び、ニューヨークにも数か月おきに滞在する。
 他人と話せないシャイな高校生の頃、幼少期から習っていたピアノを演奏したら大拍手を受けて「音楽はコミュニケーションになる」と感じた。即興、録音そして作曲へと興味が広がった。清水さんは、「音楽には(1)拍子記号のようなメトロノミカルな時間性、(2)心の中で数えるような主観的(コノメトリカル)な時間性、(3)多様な演奏環境を反映した偶然性を伴う時間性の3つがある」と説明する。「笙(しょう)はこの(2)にあたり、その楽譜を(1)で書く」ことなども試みる。笙は大学時代に習い始め、西洋音楽にない日本楽器の特殊奏法に関する記譜法や楽器法について世界中の大学などで特別講義も行う。
 作曲の醍醐味を「自分が美しいと思える緻密さを追求できる幸せを感じる」と話し、「こんなふうにいつも手で書いています」と、書きかけの美しい五線譜を広げて見せてくれた。(小味かおる)

日常のミステリー5編

米澤 穂信・著
集英社・刊

 ミステリーという広大なジャンルのなかでも、日常のミステリーというのは異質である。多くの者が気にもしないであろう日々の違和感を真剣に考え、その原因を突き詰める行為は一見滑稽であるが、実際その源に到達すると想像もしなかった真実が潜んでいるかもしれない。
 そういう意味では日常のミステリーを書く作者は、典型的な殺人ミステリーを書く作者より真剣に己の日々を見つめているとも言える、かもしれない。
 いまでは「日常の謎」というジャンルは立派な一ジャンルとして形成されるが、その先駆者は『空飛ぶ馬』の著者北島薫氏からであり、その後、数多のミステリー作家が「日常の謎」を手掛けたが、今回紹介する本『本と鍵の季節』の著者、米澤穂信もまたその一人である。
 デビュー作である『氷菓』がシリーズ累計230万部を突破するものの、ライトノベル作家として見られていた米澤氏であるが、後に書いた『満願』と『王様とサーカス』が2年連続でミステリー三冠に輝き、デビュー当時のライトノベル風味が文章から消え、一般文芸作家として今は知られている。その米澤氏が書いた新作、『本と鍵の季節』は『氷菓』シリーズに負けず劣らない日常の謎を軸にした本である。
 本書の主人公、堀川次郎は頼まれごとを断れない質の高校生であり、持ち込まれる奇妙な事件を解決する本作のホームズ役である。その奇妙な事件に連れ添い、一緒に推理するのが堀川の友達、皮肉屋松倉詩門である。ふたりは同じ高校の図書委員であり、ちょっとシニカルで斜に構えた松倉と頭の回転が速くもお人好の堀川の軽妙酒脱な会話は本作の読みどころのひとつでもある。
 今作の面白い点は、他のミステリー作品と違い、ホームズ役とワトソン役に主人公たちが分かれていなく、ふたりとも逸脱した推理力を持っているところである。読者の理解より先にふたりの頭の中で会話が成立しているその様はまるで将棋の名人同士が観戦者を置いてけぼりにし、盤上で感想戦を繰り広げているようである。
 だが、日常の謎というジャンルでは主人公たちが謎を解いて終わりというわけにはいかない。法を破る犯罪を扱っていないため、その分、たとえ主人公たちが無事謎を解いたところで、どうすることもできない真実に直面することもある。
 これが殺人事件とかの場合なら、犯人を見つけて捕まえるという明確なゴールがあるが、日常の謎ではそういったゴールがない。解いて明かした真実を宙ぶらりんに眺め、どう向き合うかで主人公達の心情が表れ、その物語のテーマが見えてくる。
 本作は5編の短編で綴られた日常の謎の名手が手掛ける、ほろ苦い青春ミステリーである。
 謎を解く楽しみと別に、ドラマも読みたい者にはお勧めである。(多賀圭之助)

日本の専門家と海外在住者結ぶ

株式会社ファーストブランド代表取締役社長
河本 扶美子さん

 河本扶美子さんは、日本国内で2400人を超える経営者、個人事業主のコンサルティングを含めたサポートを行いながら、日本で唯一、全国のメディアと連携して専門家紹介サイト「マイベストプロ」を47都道府県に1サイトずつ全国で展開している。2017年にジャパンエキスポ・パリでマイベストプロ登録者をパリ在住者に紹介するなど本格的に海外への取り組みをスタートし、昨年は、当地ニューヨークでもマイベストプロの登録者とニューヨークの人々をつなぐイベントを成功させた。今月27日(土)には再びニューヨークで日本から専門家4人を連れてイベントを開催する。
 1年半前に「プロフィフティプラス」という50代以上の人たちの独立を支援するプロジェクトを立ち上げた。「シニアという言葉は日本ではネガティブな意味で使われることが多いんです。第一線で活躍していた人が、定年を境に突然プロテクトされる側の立場になってしまう、それは絶対に違うと思う。30年以上勤めて培った知見を使わない手はない」と。専門的な知識や経験を社会に生かすことができるのに、その経験を必要としている人との出会いがないまま消えていくのは「日本の損失」だと言い切る。同社で国内登録している2400人のうち1000人以上が50代以上。マイベストプロの大きな役割の一つは「エイジレスの社会を作ること」だという。銀行勤務を経てノースウエスト航空の客室乗務員と機内通訳をしていた時代、さまざまな外国のビジネスパーソンたちと接し、80代になってもバリバリ仕事をしている姿を見て、人が一生輝いて生きていけることがとても素敵だと思った。日本では定年後のサービスの多くは、余生を楽しむ、健康をいかに保つかといったことに偏りがち。知見を生かし社会で活躍できる場を、というサービスがなかなかないのが現状だ。
「どんなことにも真摯に向き合う。そして新しいことにチャレンジすることを恐れない」。河本さんの自分評だ。そんな河本さんにも実は大きな挫折があった。3歳から始めたピアノはコンクールで入賞することもあり「世界的なビアニストになる」のが夢だった。中学3年の時、まさに世界コンクールレベルのピアニストたちの演奏を目の当たりにし、「中学生ながら絶対に勝てないと思った」。努力しても勝てないものがこの世の中に存在することを知った。祖父が実業家であったこともあり、努力すればできる世界で頑張ろうと音楽への道は諦め、普通高校に進学したあと91年に獨協大学経済学部を卒業、太陽神戸三井銀行(現三井住友銀行)に入行。以来ピアノには触れていない。
 16年前にいまのビジネスを立ち上げ、7年間は赤字。9つのビジネスで失敗したどん底時代の自分を支えたのは、ピアノで努力したいのに努力しても報われない世界を知った自分が「今は苦しいけどここは頑張れば行ける世界だから」と背中を押したから。
「志を諦めず」が好きな言葉だ。「最近、ビジネスで進む道が見えたせいか、クラシックではなくて、ジャズピアノをやってみてもいいなと思ってるんですよ」と笑った。それもまた、もうひとつの志だ。
 (三浦良一記者、写真も)
     ◇
 マイベストプロのイベントは、27日(土)午前10時からニューヨーク日系人会(西45丁目49番地11階)で開催される「サクラヘルスフェア」に参加するNY日系ライオンズクラブの「ライオンズ大学大人の教養講座」で実施される。講師は司法書士の山口里見さん、心理カウンセラーのつだつよしさん、建築士の鈴木弘樹さん、臨床心理士の三木潤子さん。参加無料だが要予約。電話212・840・6942またはEメールinfo@jaany.org

夢をかなえる真心 Teen Spirit

シャイなティーンエージャーが歌のコンテストを経てスター誕生への道を進む夢と挑戦の物語。筋としては単純、明快だがもちろんその道のりは平たんではなく、さまざまな人との関わりを通して少女が大人への一歩を踏み出すカミングオブエイジ・ストーリーだ。
脚本・監督はイギリス出身のマックス・ミンゲラ。故アンソニー・ミンゲラ監督(「イングリッシュ・ペイシェント」など)を父に持ち、俳優・脚本家として活動、本作は彼の監督デビュー作となる。主人公が暮らす町をイギリス本土から狭い海峡を挟んで南にあるワイト島にしたのは父アンソニーの出身地だからだろう。
主役のヴァイオレットを演じるのは「Mary Shelly」(2017年)のエル・ファニング。4歳上の姉ダコタ・ファニングとともに子役のころから注目されているが、演技面では今までのところダコタが数段上。本作ではエルの歌唱力のすばらしさも話題となっており新境地を開いたといえる。共演はレベッカ・ホールら。
ヴァイオレットはポーランド移民の娘だ。父親はまだヴァイオレットが子どものころに家を出てしまった。母親は夫がいつか戻ってくるのではと思っているが、ヴァイオレットはとうに諦めている。家畜の世話やアルバイトで生活を助けるやさしい真面目な娘だ。歌うのが大好きで恥ずかしがり屋だが、近所のパブでたまにステージに上がる。もちろん母親には内緒だ。
ある日、10代を対象とした歌のコンテストのオーディション「ティーン・スピリット」が地元で行われることになる。数百人の応募者のうち、選ばれるのはたった5人。さらに2度の地区コンテストを勝ち抜いてようやくロンドンでの全英決勝へと進む。
ヴァイオレットは自信はないが自分を試したいという気持ちが大きかった。まずは応募に当たって保護者の同意が必要だが、母親が反対するのは目に見えていた。ここで諦めるわけにはいかない。ヴァイオレットは思いがけない行動に出る。
ヴァイオレットの優勝の行方も気になるが、そのプロセスの中で経験する彼女の成長ぶりがまぶしく頼もしい。1時間32分。PG-13。(明)

■上映館■
AMC Empire 25
234 West 42nd St.
AMC Lincoln Square 13
1998 Broadway
Cinepolis Chelsea
260 W. 23rd St.

編集後記 4月20日号

みなさん、こんにちは。学校法人角川ドワンゴ学園「N高等学校」(本校・沖縄県うるま市、在籍生徒9727人、奥平博一校長)の山中伸一学園理事長(元 文部科学事務次官)が12日午後、国連本部で開催された国連NGO「OCCAM」主催の「第19回 情報貧困世界会議」に登壇し、「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供する未来学校N高」と題して、同校のSDGsへの取り組みについて発表 しました。(本紙経済面7面)。
同校は、2016年4月にインターネットと通信制高校の制度を活用した「ネットの高校」として設立し、今年で4 年目を迎えます。この4月の入学者は4004人で、他通信制高校を含む日本全国の高校の4月入学者数としては日本一(同校調べ)となっています。在校生に は、国際大会で6連覇した女子フィギュアスケートの紀平梨花さん(高2)をはじめ、さまざまな分野で活躍する生徒が多く在籍。授業はスマートフォンで1講 義10分刻みになっており短時間で集中的講義を受ける形になっている新しいタイプの高校です。
山中氏は「教育の情報貧困格差」という点を都市部 と離島や山間部の過疎地での現状を使って説明し、「どこでも、誰でも、安い学費で高校卒業資格を取得することができるシステムを、国際社会における先進国 と発展途上国での教育の格差是正、改善のヒントにして欲しい」と国連第12会議室に集まった各国の関係者に訴えました。同校卒業初年度の主な大学合格実績 では九州、筑波、慶應義塾、早稲田、上智、立教、明治、青山学院、法政、中央などに進学実績を出しています。海外での子育て、教育に正解はひとつではありません。子ども本人の性格や資質、家庭の教育方針でさまざまですが、海外の高校に在籍しながらネット授業により日本の高校卒業資格も同時に取得できるた め、国際感覚を肌で身につけた若手人材育成の観点からも今後、邦人帰国生の教育の選択肢の一つとして注目されそうです。それでは、みなさんよい週末を。 (「週刊NY生活」発行人兼CEO三浦良一)

ハードボイルドなエッセイ

東山 彰良・著
文春文庫・刊

 本書『ありきたりの痛み』は、台湾生まれ、幼少期を台北で過ごし、5歳の時に日本に移り住んだハードボイルド作家、東山彰良氏のエッセイ集だ。著者は2003年、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞した『逃亡作法 Turn On The Run』で作家デビューし、その後も『流』で直木賞、『罪の終わり』で中央公論文芸賞、『僕が殺した人と僕を殺した人』で読売文学賞など、多くの賞を受賞している。
 私は、普段からエッセイ集やハードボイルド小説は避けているので、恥ずかしながら著者の作品を今まで読んだことがなく、そもそも著者のことさえ知らなかった。だから当初、本書はこのページ右側の新刊紹介の一つとしてのみ紹介する気だったが、10ページほど読んで、さらっと紹介するにはもったいないと感じた。このエッセイ集はそれくらい最初から最後まで面白かった。
 エッセイ集はその名の通りエッセイを集めたものだ。本書も雑誌のコラムエッセイなどを集めたもので、テキーラや映画などの紹介エッセイを多く収録している。それなのに、全体を通して小説を読んでいる気分にさせられる。東山彰良という一人の作家の人生が綴られた小説だ。幼いころ過ごした原風景、直木賞受賞作「流」のモデルになった祖父の思い出、「流」が書かれるまでの心境の推移、サラリーマンになりたての頃の愚かな喧嘩、マエストロの資格を取るほど惚れ込んだテキーラ、そして、愛する本と音楽と映画のこと。著者の愛のこもったキレのある文体で語られるそれらは、読んでいて退屈しない。
 先述のとおり、著者は台湾で生まれ、祖父母にかわいがられて育った。その後、両親のいる広島へ移住するが、言語の壁もあってか、なかなか日本に馴染めず育つ。大学時代はバックパックを背負って東南アジアを当て所なく旅し、ふわふわとした異邦人気分を味わっていた。東京で就職するが、街中で大乱闘を起こしたり、身重の妻を一人日本に残して中国に留学したりと、ハードボイルドな経験がこのエッセイには詰まっている。
 本書のなかで「いまいるところに踏みとどまって頑張るのも大事だ。だけど、どうしてもくつろげなくなったら、そろそろ帰ってみるといい。あなた自身が始まった場所、もしくはなにも始まらなかった場所へ。ありきたりな処方だが、わたしにはよく効く」という著者の言葉が一番心に残った。もしあなたがいま頑張っていて、でもどうしようもないことに直面しているのなら、著者の言うとおりにしてみるのはどうだろう。あなた自身の原風景となりうる場所ならどこでも、それが生まれ故郷でもそうでなくても構わない。そして日常に戻ると、そのどうしようもなかったことがするすると解決したりするものだ。
 東山彰良ファンはもちろんのこと、映画やお酒好き、そして何かに鬱屈としている方には是非読んでいただきたい作品。きっとその感情に効くだろう。 (西口あや)