ローマ字表記右傾化? 河野外相が外国メディアに新表記要請

 河野外務大臣は5月21日、外国報道機関に対し、平成12年の国語審議会が、日本人の名前のローマ字表記は「姓=名」の順番にすることが望ましいという答申を出していることを説明した上で「外務省としても令和という新しい時代になり、東京オリンピックも控え、ラグビーのワールドカップ、即位の礼、G20、TICAD(アフリカ開発会議)など大きな国際会議も控えているため、各国の主要な国際報道機関に対し、日本語の姓名を習近平(しゅう・きんぺい)主席がXi Jinping、文在寅(ムン・ジェイン)大統領がMoon Jae−inというように表記されている外国の報道機関同様、安倍晋三もAbe Shinzoと表記することが望ましいと思っている。私から国際報道機関にそういう要請を出したいと思っている。国内のメディアのなかにも英語のメディアを持っているところがあるが、ぜひそうした配慮をしてもらいたい」と記者会見で要請した。
 これを受け、菅官房長官は「現在広く使われている記載方法のなかで、何ができて何ができないのかを関係省庁で調べていく」と述べた。23日付ニューヨークタイムズ紙も大きく報じ、通訳のサチコ・イシカワさんのコメント「文化的な背景からきた発言というより政治的な背景を持った発言」を引用し、今回の外相発言が日本の国家ナショナリズムの台頭、右傾化を示す動きとして牽制した。

自然の クーラー

 メモリアルデーの5月27日は気温が上昇、
一気に初夏の陽射しに。
この日から、9月のレイバーデーまでが
アメリカの「夏シーズン」だ。
 セントラルパークの池にもボートが浮かび
多くの行楽客や市民が水しぶきをあげ
自然のクーラーを楽しんだ。
            (写真・三浦良一)

納豆を米国に

株式会社納豆
大江雄太さん(33)

 納豆を米国に紹介するべく、4月から3か月ニューヨークに滞在中の大江雄太さん。納豆が有名な茨城県水戸市で、昨年7月10日「納豆の日」に設立創業されたバイオテックベンチャー企業「株式会社納豆」の米国プロジェクトを担当している。
 まずは4月上旬に北海道フェアで納豆を、5月初旬には小さなイベント会場で納豆菌ポテトチップスと納豆菌チョコレートを販売提供して、手ごたえを得た。6月9日(日)には、社長の宮下裕任さん(34)も駆けつけ、納豆を限定販売する予定だ。
 同社の納豆パッケージは、白地に小さい英語文字が並ぶ斬新なもの。「世界の食卓に納豆を届ける」という同社のミッションに合わせたデザイン。水戸市発信で世界の環境問題や食糧問題の解決に貢献することを謳い、納豆のアフリカ展開、納豆菌ポテトチップスや納豆菌チョコレートなどの製品開発、納豆ごはん専門店開業(予定)など、次々と新しいアイデアで納豆菌の可能性を発信中。
 大江さんと同社との出会いは、水戸市で開催されたビジネスコンテスト(一般社団法人KIBOW主催)。大江さんはファイナリスト8人に残り、水戸を世界に発信するための特異コンセプトのシェアハウス企画案を発表した。この時の優勝者が宮下さんの企画だった。今後100年続く「納豆ごはん専門店」を作り、水戸市全体を活性化させるという内容。宮下さんの熱意は大江さんの心に大きく響いた。今は実現に向けてクラウドファンデイングで資金調達中。
 水戸市出身で「納豆男子」と自称する宮下さんと共に走る大江さん。ひたちなか市で生まれ育ち水戸市に高校時代に通っていたから納豆への愛情は格別だ。大学を卒業する頃に「これからのビジネスは世界が舞台だ」と考え始め貿易関係の仕事に就き、今は人種のるつぼニューヨークで初めて全身で世界を感している。  
      (小味かおる)
■株式会社納豆の納豆即売会イベント=6月9日(日)午前11時から、サムライス(キャナル通り263番地)、1パック(90グラム)を5ドルで販売。厳選された高品質な北海道産の大豆を使用し100年以上続く伝統の水戸納豆の製法で一つひとつ手作りで作り上げるため「何個販売できるか直前まで未定で売り切れ御免」とのこと。今回は特別に事前予約を受け付ける。
 問い合わせはEメールyuta.oe@natto-jpn.co.jp(大江さん)まで。同社のウェブサイトnatto-jpn.co.jp。納豆ご飯専門店納豆スタンド「令和納豆」実現への寄付はhttps://faavo.jp/tsukuba/project/3712まで。

野口英世の墓前祭 NY記念会が開催

ニューヨーク野口英世記念奨学金受賞者、大岸誠人(おおぎし・まさと)さん
 日本が生んだ世界的細菌学者で福島県出身の野口英世博士(1876〜1928)の業績を讃え、その遺徳を後世に伝えることを目的に2013年に創設されたニューヨーク野口英世記念会(本部:ニューヨーク、以下:記念会)は、命日の5月21日、ブロンクスのウッドローン墓地で博士の92回忌墓前祭を開催した。式典には、遠く福島県郡山市と西会津から参加した3人の日本人のほか、フロリダ州、メイン州などから約50人が参列した。
 式典では主催の加納良雄記念会副代表、コロンビア大学教授本間俊一記念会代表、ウッドローン墓地マイケル・レイノルズ会長、在ニューヨーク日本国総領事館阿部康次首席がそれぞれ挨拶した。続いてロックフェラー大学のティム・オコーナー副学長が登壇し、当時の経緯を紹介した。
 1928年、野口博士は所属していたロックフェラー医学研究所から黄熱病ワクチン開発研究のために派遣された西アフリカの地で自ら黄熱病に罹患して命を落とした。その後、船でニューヨークに搬送、ウッドローン墓地に埋葬された。オコーナー副学長は、「野口博士の残した世界的な功績とそのスピリットを、記念会やウッドローン墓地などと共に力を合わせて、次世代に受け継いでいくことが重要である」と述べた。
 式典のハイライトとして、記念会が2018年に創設した「ニューヨーク野口英世記念奨学金」の第2回受賞者が発表され、野口博士の墓前において奨学金が授与された。受賞者は大岸誠人さん。東京都出身の27歳。16年東京大学医学部を卒業後来米、18年からロックフェラー大学院の博士課程で若年者の結核発症の抑制を目指すメカニズムの研究に打ち込む研究医師。24歳で単身アメリカへ渡り人類のために科学の道に献身し命を懸けた野口博士の生涯を彷彿とさせる、まさに野口英世の教訓と志を受け継ぐ最も相応しい受賞者であると早くも称賛の声が上がっている。
 式典はさらに米国日本人医師会会長ロバート柳澤マウントサイナイ医科大学教授が、野口博士の生誕地福島県猪苗代の野口英世記念会八子弥寿男理事長からの特別メッセージを原文と英語訳で紹介、最後にウッドローン墓地ミッチ・ローズ代表が、閉会の挨拶をした。
 式典には米国日本人医師会、在ニューヨーク日本国総領事館、ロックフェラー大学、NY日系人会、日本クラブ、NY日米ライオンズクラブ、NY日系医療支援ネットワーク、NY福島県人会、ウッドローン墓地、NY野口英世記念会の10団体から献花が贈られた。
 ニューヨーク野口英世記念会副代表の加納良雄さんは、「野口博士の存在は全ての日本人の拠りどころ。これからも皆で力を合わせて博士の墓を守り、その遺徳とスピリットを次の世代に受け継いでいきたい」と述べた。

令和元年 春の叙勲 MoMAの館長に

 日本国政府は5月21日に令和元年春の叙勲受章者を発表し、在ニューヨーク日本国総領事館管内では現ニューヨーク近代美術館(MoMA)館長のグレン・デイヴィッド・ローリー氏が旭日中綬章を受章した。
 対日功績として、ローリー氏は世界中から年間約278万人の来館者を集めるMoMAにおいて平成7年の館長着任以来、同美術館で日本関係の展覧会や映画上映会といった企画を数多く実施し、その芸術的価値を発信するとともに親日感情の醸成に寄与してきた。ローリー氏のもとで開催された草間彌生やオノ・ヨーコといった巨匠レベルの個展から、新進気鋭の若手芸術家の作品を紹介する等、広く日本の芸術を発信した。さらに、宮崎駿監督や高畑功監督のアニメ作品から昭和初期のトーキー映画まで、多種多様な日本映画を上映することで世界に向けて日本文化を総合的に発信したことなど、アメリカ合衆国における日本近代美術の紹介や普及に寄与・貢献した功績が評価された。

心臓移植の旺典君NYに到着

手術まで病院で待機

 生後9か月頃、重度の心不全となり「拡張型心筋症」と診断された上原旺典(おうすけ)ちゃん(3)が5月22日に羽田空港を出発してニューヨークに到着した。マンハッタン北部にあるコロンビア大学附属病院に入院して、心臓移植手術を待つ。日本では小児の心臓移植について2010年に臓器移植法が改正せれたものの、実施件数は極めて少なく、長期の移植待機期間状況が継続。そのため旺典ちゃんの両親は海外での移植を目指すこととした。
 「おうちゃんを救う会」(東京都三鷹市)は18年9月、厚生労働省での記者会見から米国での移植手術のため募金活動をスタート(週刊NY生活2018年12月15日号で既報)。今年1月に目標募金額の3億5千万円を達成し、2月にはコロンビア大学附属病院に前金187万5000ドル(約2億828万円)を入金したものの、メディカルジェット機のメンテナンスに時間を要しすぐの渡米ができずにいた。「救う会」によると、到着後の旺典ちゃんの容態は安定しており元気で、移植待機の手続きや医師による検査等が行われている。
 ニューヨーク市では任意ボランティア団体「フレンズNY」と非営利団体「森の家」「ココからキッズ」が連携して臓器移植のために渡米した子供とその家族の生活面でのサポートをしている。両団体は「旺典ちゃん家族は海外生活経験もなく、普段は我が子の対応だけで精一杯なのに長期の滞在は二重苦。まずは日本とは異なる基本的な生活の立ち上げ支援を行いたい」とコメント。支援活動詳細はフェイスブック「フレンズNY」を参照。

NY日本短編映画祭 16作品を上映

 今年で8年目を迎える「日本」をテーマにしたインディペンデント短編映画祭、ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト(NYCJF、共催・マークリエーション)が6月5日(水)と6日(木)、アジアソサエティー(パーク街725番地、70丁目)で開催される。短編映画16作品を2日に分けて上映する。
 今年は「ダイバーシティー(多様性)」をテーマに、アニメ、ドキュメンタリー、ドラマ、実験、音楽と幅広いカテゴリーから作品が選ばれた。「カメラを止めるな!」でヒット作品を生んだ上田慎一郎監督の「正装戦士スーツレンジャー」、日系人強制収容所をテーマにした「ミニドカ」(西倉めぐみ監督)、人情ドラマ「オフク」、山伏にスポットを当てたドキュメンタリー「マウンテン・モンクス」など、バラエティに富んだ作品が並ぶ。
 6日は「オフク」主演のオフク、「ミニドカ」の西倉めぐみ監督、7日は「ミスユーラブ」主演のリエ、「オーロラズ・オーラ」主演の大江梓美舞台挨拶が予定されている。
 NYCJFはニューヨークを拠点に活動する3人の日本人、鈴木やす(俳優・映画監督)、古川康介(映像作家)、河野洋(イベント・音楽プロデューサー、マークリエーション代表)が2012年に設立。15年シーズンはボストン、ワシントンDC、ヒューストン、ボルチモアと日米13都市で開催し、日本の映画祭(新人監督映画祭、あいち国際女性映画祭、ショートショートフィルムフェスティバル、札幌国際短編映画祭、門真国際映画祭)とのコラボレーションも行っている。8年目の今年もニューヨークのプレミアを皮切りに開催都市を増やし、サンフランシスコ、ワシントンDC、東京などを含む15都市以上での開催が予定されている。
 入場料は一般12ドル、シニア・学生10ドル、会員8ドル。チケットは窓口、またはオンラインで購入できる。詳細はウェブサイトhttps://asiasociety.orgを参照。

夏の音楽祭 ウェストチェスター、ハドソンバレー

 ニューヨークの夏の楽しみに屋外での音楽イベントがある。シティではリンカーンセンターやセントラルパーク、ランダールズ島、ブルックリンのプロスペクトパークなどがお馴染みだが、郊外でも一味違った音楽祭が開催されている。豊かな自然の中で聴く音楽で、身も心もリフレッシュ!クラシックにオペラ、ジャズ、R&B、あなたの好きな音楽祭はどれ?
 
■マウンテン・ジャム 
 今年で15回目を迎える野外音楽祭で、今年は1969年のウッドストック開催地、べセル・ウッズで行われる。4日間の会期中、広大な敷地内のメインステージと2か所のサイドステージでウィリー・ネルソン&ファミリー、フィル・レッシュ&フレンズ、アヴェット・ブラザーズなど40以上のバンドが演奏する。
 時代は代わり、かつてのウッドストック再びとはいかないが、50年前のウッドストックを想像しつつ、同じ場所で現代のロックを聴くのも面白いかも。
開催日:6月13日(木)〜16日(日)。Mountain Jam @ Bethel Woods (200 Hurd Rd. Bethel)
詳細:https://mountainjam.com/
■カラムーア音楽祭  
 カトナの郊外にあるカラムーアは、音楽とアートを愛するローゼン夫妻が週末を過ごす別荘として1928年に入手した大邸宅で、ヨーロッパやアジアで収集した美術品のコレクションを展示するほか、音楽好きの友人を招いてミニコンサートを開催する場として賑わった。
 ひとり息子が第2次世界大戦で戦死すると、夫妻は残りの人生を音楽の普及に捧げることを決心し、46年にカラムーア・センター・フォー・ミュージック&アートを設立して一般向けコンサートを開催し始める。来場者はどんどん増え、やがてカラムーア夏の音楽祭として定着。現在は6月から8月の週末にクラシック音楽やオペラ、ジャズなどのプログラムを開催している。またセント・ルーク・オーケストラはカラムーアを拠点に活動するほか、若手音楽家育成プログラムも行っている。ローゼンハウスと呼ばれるルネッサンス・リバイバル様式の邸宅は2001年に米国の歴史的史跡として登録された。 
 音楽祭は6月15日(土)から。Caramoor Center for Music and Arts (149 Girdle Ridge Rd. Katonah)
詳細:www.caramoor.org/
■クリアウォーター・フェスティバル  
 1966年にドイツ生まれの日系人女性トシと、夫でフォークシンガーのピート・シーガー夫妻が始めた音楽祭で、ハドソン川の環境改善と保護のための寄付を募ることを目的とする。当初はピートと友人らがハドソンバレーとニュージャージーのサンディ・フックで小規模なコンサートを開催して、観客席にバンジョーを回して寄付を募った。70年代後半にウェストチェスターのクロトン・ポイント公園で開催するようになり、途中来場者の増加に伴い、近隣の大学の敷地へ会場を移したこともあったが、再びクロトン・ポイント公園へ戻った。
 環境保護に関するコンサートだけにエコフレンドリーな材料やエネルギーを使用し、食べ残しはリサイクルする、会場は車椅子対応で手話のボランティアを配置するなどさまざまな工夫がされている。新旧アメリカンルーツの音楽を始め、ダンスや朗読、クラフトショー、エコ関連のエキスポ、環境保護の教育ブースなどがあり、2日間で1万5000人を集める一大イベントとなっている。
開催日:6月15日(土)・16日(日)。Clearwater Festival (1A Croton Point Ave., Croton-On-Hudson)
詳細:www.clearwaterfestival.org/
■グリマーグラス・フェスティバル 
 非営利のオペラ・カンパニー「グリマグラス・オペラ」の歴史は1975年の夏、クーパーズタウン高校の講堂で初演した「ラ・ボエーム」に遡る。以来、毎年夏に上演を続け、地元や近郊のファンに支えられて成長し、87年には43エーカーの農地に914席のオペラ専用シアター「アリス・ブッシュ・オペラ・シアター」を新築した。シアターの外観は周辺の風景にマッチするよう近隣の農場の建物を模して設計された。また、コスト削減と環境のため冷暖房はなく、自然の風を取り入れる仕組みとなっているなど非常にユニークなオペラ座と言える。
 グリマーグラスは他の劇場では滅多に上演されない作品や無名作品を上演することで知られ、現在は1シーズンに約40のオペラを上演している。今シーズンはミュージカル「ショーボート」、ヴェルディ「椿姫」、コリリアーノ「ベルサイユの幽霊」などを上演する。クーパーズタウンは野球の殿堂があることでも有名。Glimmerglass Festival (7300 State Highway 80, Cooperstown) 詳細:https://glimmerglass.org
■サラトガ・パフォーミング・アーツ・センター 
 全米最古の競馬場と温泉で知られるサラトガにあるサラトガ・パフォーミング・アーツ・センターは州立公園内に建つ円形劇場で、こけら落としは1966年バランシン主演の「真夏の夜の夢」だった。センターが夏に開催するフェスティバルではクラシック音楽をはじめ、ジャズ、ポップス、ロック、カントリー、オペラ、ダンス、コメディなどさまざまなパフォーマンスが上演される。
 夏季の2〜3週間はニューヨーク・シティ・バレエとフィラデルフィア交響楽団の拠点となる。6月29日(土)開催のジャズフェスティバルにはギタリストのジョージ・ベンソンやキューバ音楽のロス・バンバンが出演。7月29日(月)には奈良の太鼓「大和」が演奏する。
Saratoga Performing Arts Center (108 Avenue of The Pines, Saratoga Springs)
詳細:https://spac.org/

地元愛自慢の山形県人がお届け!

山形って、やっぱり良いどごだな〜

 「元気だが〜? 今は田植えの準備で忙しぇくて、毎日大変だ〜」父からメッセージと私の一番大好きな田植え前の田んぼの写真が送られてきた。期間限定の湖が一面に広がる様なそんな絶景を見れるのは田舎の特権。私が暮らすロサンゼルスは一年中似たような気候で、四季を意識する感覚が鈍ってきた今日この頃、父からの写真は故郷山形の初夏の空気を思い出させてくれます。そろそろ、夜にはカエル君達の合唱が聞こえるんだろうな〜。
 山形からロサンゼルスに来て早1年。時が経つのはあっという間です。初めてこんなに長い期間山形から離れ、しみじみ望郷の念にかられる日々もあり、家族、友人といろんな所に遊びに行ったな〜と、過去の思い出が蘇ります。
 あれは確か小学生の頃。人生初、山寺に家族と一緒に参拝に。山寺は山形を代表する観光名所で、千年以上の歴史を誇る由緒あるお寺です。歴史的偉人の松尾芭蝉が訪れ、句を詠んだことでも有名です。山寺は1000段を超える石段が続き、登った先の五大堂からは美しい山々の風景を眺めることができます。なんでも、石段を登るごとに煩悩から解き放たれ、悪縁切りのパワースポットでもあるとか。幼かった私は最初は何の気も無しに、玉こんにゃくをほおばりながらとぼとぼ石段を登っていました。中盤になって、むむっ、家族のメンバー数人の姿が見えない。どうやら登るのを断念した模様。父と祖父と私はひたすら登り続けます。だんだん足が上がらない、なんか貧乏ゆすりみたいなのが止まらない。初めての状態にビビり始めたその時、ようやく五大堂に到着! 幼いながらもあの美しい景色に感動したのを覚えています。家に帰る車内で、「まさか登りきるとは、思わねがった」と家族に言われ、ちょっぴり得意気になったプチ旅行でした。もしかすると、疲れた、もう嫌だ〜という煩悩からあの時だけ解き放たれていたのかもしれません。
 「何すっぺ?」「温泉さでも行ぐが?」何もないそんな山形では、友人とよく日帰り温泉に出かけてました。まっ、何もないのが宝物だったりするんですけどね(笑)。とある年末年始のお休みに、書初めならぬ温泉初めに蔵王温泉へ。その年は雪もそこまで多くなく、年始に活動的になれました。山形の冬は行動範囲が雪でだいぶ制限されます。身の危険を感じるくらい真っ白な吹雪になることも。そんなことはさておき、約1時間30分の旅を終え、無事蔵王温泉へ到着。車から降りた瞬間、あの硫黄の匂いが。これぞ温泉! 気軽に温泉を味わえるのは山形の醍醐味。全市町村に温泉が湧き出ているんですよ〜。我々が行った温泉は、露天風呂が豊富な日帰り温泉施設。その日は青空のなか、澄んだ冬の空気と温泉を楽しめました。友人と他愛もない話で盛り上がっていたら、ん、なんかフラフラするぞ。のんびり温泉に浸かっていたらのぼせてしまいました。冬の露天風呂はあまりに心地良くて、ついつい時間を忘れてしまった〜。皆さんご注意を!
 「今日は、かいもち食ってきたがら、まだ腹くっちぇ!」祖父がしばしば夕食前に言っていたフレーズ。初めてこの言葉を聞いた時、いったいかいもちとは何ぞや? と、頭いっぱいにクエスチョンマークだったのを思い出します。今でも祖父を偲ぶときは必ず出てくるこのフレーズ。このコラムを書いている今も、思い出し笑いが止まりません(笑)。かいもちは、いわゆる「そばがき」のことです。山形はそば王国。各地域で美味しい日本そばを味わえます。私の初かいもち体験は、確か中学生の時。我々姉妹の出身高校の近くに、祖父一押しのおそば屋さんがあります。姉を迎えに行ったその帰りに、そこで家族みんなでかいもち体験。「う、うまい!」あのもちもち感に衝撃を受けた春の昼下がり(笑)。あれ以来、家族一同かいもちファンになりました。
 今、ロサンゼルスで地元山形のコラムを書いている。なんだか不思議な気持ちです。それと同時に、「山形はおもしゃいどごいっぺあんな〜(面白いところがたくさんあるな〜)」そう改めてしみじみ感じています。正直、ここに書ききれないくらい山形ネタは湧いてきます。田んぼの中で、ひときわオーラを放ちながら咲き誇る龍蔵桜。歴代最高気温を記録した山形の暑い夏を乗り切る冷やしラーメン。山形の秋の風物詩いも煮会。やわらかな灯りが煌めく雪灯篭祭り。きっと山形はちょっぴりPR下手。このコラムで山形ファンが少しでも増えてくれたら嬉しいな〜。(IACEトラベルロサンゼルス支店/金田実佳子)

終わらないNYの魔法

岡田 光世・著
文春文庫・刊

 道を聞くと周りがみな口を出す。地下鉄のホームで他人同士が踊りはじめる。たまたま写真に写りこんだ人が、「これで私を忘れないわね」。静かな車内で著者が噛むガムが大きな音で弾けると、前の男性が「いいね」と指を立てる…。
 大都会・ニューヨークの街角で出会った人たちとの温かい触れ合いを、小粋な英語表現とともに綴る、大人気シリーズ。第9弾『ニューヨークの魔法は終わらない』(岡田光世著・文春文庫)が刊行された。
 第1弾『ニューヨークのとけない魔法』以来、静かな感動を呼び、累計40万部! エッセイが売れない時代に、多くの人の心を鷲掴みにしてきた。 
 「連作を含めて507話。これだけたくさんの人と言葉を交わしてきたことに改めて驚きます」と、岡田さんは語る。
 大都会で孤独を抱えた人も多いけれど、個性的で、お節介で、泣きたくなるほど温かい瞬間がある。そして、私たち日本人が忘れてしまったものを、この街は思い出させてくれるのかもしれない。
 シリーズの読者は、意外にもニューヨークに行ったことがない人が多い。「いつもバッグに入れて、辛い時に読んでいる」「何度も繰り返し、読み直している」「枕元に置いて、毎晩1話、読んでから眠ります」という手紙が全国から届く。また、どの本から読んでも楽しめて英語も学べるので、プレゼントとしても最適だ。
 さて、多くの人に愛されている「魔法」シリーズだが、本書をもって、シリーズはいったん幕を閉じる。著者の原点となり、涙なくしては読めない最終章「アメリカの家族アルバム」や、とっておきの秘蔵エピソード、味わいを増した著者撮影のカラー写真など、最後を飾るにふさわしい、渾身の書き下ろしだ。
 「この街で暮らし、どんどん自分が子供に戻っていく気がします。シリーズは終わっても、『ニューヨークの魔法』は終わらない。これからも、さまざまな〈出会い〉を楽しみにしていきたい」と、岡田さんは話す。魔法は当分とけそうにない。
 そして新刊と同日に〈シリーズ特別編〉として、『世界にひろがれ、とけない魔法』がApple Booksで無料配信された。
 既刊本から著者が厳選した30編と、世界各国版の書き下ろしの2部構成。イスラエル、モロッコ、フィンランド、そして日本の松山での、心温まる触れ合いが描かれる。
 ネイティブの英語音声を聞け、著者撮影の写真がアニメーションとなって動くなど、楽しい仕掛けがたくさんあるので、ぜひ気軽にダウンロードしてみてほしい。
 「ニューヨークの魔法」シリーズが、これから先も長く広く、愛されることを祈ってやまない。(文春文庫編集部・北村恭子)

アーティストの日米交流支えて

日米芸術家交流協会 SJAC(Society of Japanese and American Creators)発起人
百田 和子さん

エスジャック(SJAC/日米芸術家交流協会)という芸術家集団を2年半前に有志と設立した。ニューヨーク在住の日本人と非日系メンバーからなる芸術家団体で、個展・グループ展・公募展など、より多くの展示機会とアートに関する情報を作家に提供することを目的にしている。
 発起人は百田さんのほか神舘美会子さん、バック早苗さん、永野みきさん、渡辺啓子さんらアーティスト仲間。現在会員数は45人。そのうち日本人は34人だ。
 年次展覧会は、会の活動の柱となるもので、日米の芸術家がお互いの感性を刺激し合う触発の場、鑑賞者を交えて多様な美意識を楽しむ文化交流の場だ。
 第3回目となる年次展 「SJAC2019」は、25日から7月1日まで天理文化会館(西13丁目43番地 A)で開催される。32人の日米アーティストが1点ずつ、絵画、ドローイング、版画、コラージュ、ミクストメディア、彫刻などの作品を展示する。
 神奈川県相模女子大学附属中、高から中央大学法学部に進んだが5年在籍して中退、出版・広告業界でフリーの編集者やコピーライターとして東京で10年ほど活動したが、仕事量が増え過ぎたため87年に株式会社雄企画という広告代理店を設立、社長に。大手広告代理店からの仕事を受けパブル期の日本で会社は潤ったが、精神的には大きなストレスで、すり減っていく自分がいた。2泊とか3泊で何度か遊びに来ていたニューヨークが好きになり、いまから20年前に日本の会社をたたんで来米した。
 フォトエッチングを手掛けるアーティストであると同時に、キュレーターとして展覧会を企画してきた。2014年と15年に日本クラブの日本ギャラリーで本多康子ディレクターの発案による「海を渡ってきた芸術家たち」展は大きな話題となった。
 共にエスジャックの立ち上げに関わった発起人のアーティスト、神舘さんは言う。「SJACは100%和子さんの考えで発足したアーティストグループ。金融街にあるインターナショナルセンター、そのほかの展示会場を彼女一人の足で歩き回り、発掘し、多くのアーティストたちに展示場所を与えてくれている。日々アトリエに籠って制作に励んでも、発表の場を持つことはアーティストにとっては容易なことではない。そんなアーティストたちにとって、和子さんはとてもありがたい存在」なのだと。
 「日本人以外のメンバーを増やすことでニューヨークのアート市場に融合していきたい。そこから世界へ羽ばたいていくそのお手伝いができれば」と話す。 (三浦良一記者、写真も)

源氏物語オペラ上演 メトロポリタン美術館

館内庭で世界初演

 5月17日から3日間、メトロポリタン美術館(通称メット)で新作のオペラが発表され、好評を博した。
 Murasaki’s Moonと題されたこの作品は、一般的に世界初の長編小説として知られる『源氏物語』をベースに、その作者である紫式部に焦点を当てた約1時間のミニオペラ。1008年の平安京の宮廷内を舞台に、紫式部と光源氏、そして脇役の僧侶の3人が登場する。時の天皇、中宮彰子に仕える紫式部は本を読むインテリで美しくないという理由から他の侍女達に疎まれ宮廷内で独りぼっち。紫式部が自ら創り出した架空のキャラクター光源氏との掛け合いを通して展開し、彼女の心の奥底に潜む悩みや苦しみにスポットを当てている。
 このオペラはメットのアジア館にあるアスターガーデンで上演するためにつくられたオンサイト作品で今回が世界初演。現在メットで開催中の『源氏物語』展の教育プログラムとして制作、同館の庭でしか観ることができない。7人の奏者で構成されたオーケストラの琴や横笛、太鼓といった和楽器の奏でる調べが際立って美しい。定員約70人の会場は、中央が帯状に空けられ両側に観客席を設けることでステージをつくっている。出演者と観客の距離の隔たりがないせいかシンプルな舞台設定も物足りなさを感じさせない。実際、光源氏役が何人かの観客を物語のなかのキャラクターと見立ててやり取りする場面もあって会場の笑いを誘う。特に印象に残ったのは光源氏が紫式部に向かって歌う最後のアリア「僕は貴方の深層心理で貴方の心の中に住んでいます。僕が貴方に放った言葉は残酷だったかも知れないけれど、それは実は全部貴方の中から出てきた貴方自身の言葉なのです」。そして紫式部は『源氏物語』に真実を書いていくことが自分の目的であり定められた運命であることを確信する。
 コネチカット州から来たダリー・メイデンさんとクリスティー・セサロッシさんは、「すべてがとても美しく、吃驚した」と話した。ウォールストリート・ジャーナル紙にパワフルで存在感のある紫式部と評価されたクリスティン・チョイさんは「千年前の優雅でおしとやかな紫式部と、現代版紫式部を両方表現できるよう工夫した」と語った。
 Murasaki’s Moonはメット・ライブ・アーツ、オン・サイト・オペラ、アメリカン・リリックシアターが共同委嘱。作曲はミチ・ウィアンコ、脚本はデボラ・ブレヴォート、演出はエリック・アインホーン。(高渕直美/メトロポリタン美術館広報担当シニア・オフィサー)