南部美人の杜氏 友情のアドバイス

ブルックリン・クラで

 ブルックリンのサンセットパーク、インダストリーシティーにあるクラフト酒の醸造所「ブルックリン・クラ」。米国人男性2人が酒醸造を始めたのは、2018年の1月だった。現在ではニューヨークの日本食レストランや酒バー、リカー・ショップでも彼らの酒を見かけるようになった。
 6月16日から19日までの4日間、岩手県二戸市の日本酒の造り酒屋「南部美人」から、杜氏の松森淳次さんと、製造部Ⅱ部・製品課部長の玉川聖士さんの2人が「ブルックリン・クラ」を訪れ、酒造りのアドバスを行った。2人とも南部杜氏の資格を持つ。岩手県から2人がニューヨークに来たのには、2つの造り酒屋を結ぶ友情があった。
 今年2月、ブックリン・クラの製造責任者であるブランドン・ダーガンさんが、日本に行き南部美人を尋ねて、1週間ほど酒造りの修業をする予定だった。しかし、日本で食中毒にあい、二戸市に着いたその日に低カリウム血症で1週間二戸市の病院に入院。はるばる岩手県まで行ったのに、修業できずに無念のまま米国へ帰国した。それならば、我々がニューヨークへ行こうと、今回、2人の杜氏がダーガンさんに酒造りのアドバイスをするためにニューヨークにやって来たという訳だ。
 松森さんは「作業の計画表を見せてもらい、麹の温度などをチェックした。彼らの計画の温度は最良の温度とは1、2度の温度の違いがあった」。その1、2度の違いが日本酒の味を左右するという。そして「お酒の味も細かな温度管理などに注意していけばもっと良くなる」とアドバイス。「1度、2度の違いですが、それでいい酒ができるのでその辺を分かってもらえたらうれしい」と松森さん。
 今回、ダーガンさんがアドバイスを受けながら、南部杜氏の2人と仕込んだのは、ダーガンさんが初めて造る純米大吟醸だ。これまで同クラでは純米吟醸は作っていたが、純米大吟醸は初の試み。松森さんは「ニューヨークに来て最初に一緒に仕込んだ麹は良かったので、これが酒になるのが楽しみ」と笑顔で話した。
 玉川さんは「蒸し米が良くなれば、もっといい酒ができると思う」と話した。 ダーガンさんは「日本で入院した時は南部美人の皆さんにとても世話になった。病院では通訳も付けてくれた。今回、杜氏から麹の発酵や的確な温度など学んだので今後の造りにいかしたい」と話していた。  (石黒かおる、写真も)

古代からの薬草を学ぶ旅、神話の里・島根県出雲

 私の故郷は出雲大社で知られる「神話の里」島根県である。松江市は今年、松江藩七代藩主で茶人としても名高い松平不昧公 (松平治郷) 没後200年を祝う不昧公200年祭、そして 370年の歴史を持ち10年に一度執り行われる城山稲荷神社式年神幸祭、通称ホーランエンヤと呼ばれる舟神事が開催されるなど、記念すべき行事で賑わいを見せている。
 ニューヨークに来て20年来初めて、今年は春に帰国して花見を堪能できた。そして出雲市にある荒神谷(こうじんだに)博物館での「古代出雲薬草展示会」を見て来た。
 荒神谷博物館は、古代史資料を豊富に抱える歴史博物館である。荒神谷遺跡から膨大な青銅器が発見されたのは1983年。それまでの日本史では、出雲神話は絵空事であると歴史家に無視されてきたが、それを根底から覆すほどの衝撃を与えた発見だった。同博物館は、この遺跡からの出土品を展示する目的で、遺跡の隣に建設された。
 そんな古代ロマンあふれる博物館での古代出雲薬草展示会は、同館PR担当の前田みのりさん、出雲大社間近の民家で「ベジカフェまないな」を営む須田ひとみさんと自営業の岩成桜さんの3人からなる古代出雲薬草探究会(2016年発足)が企画した。私はアメリカで薬草の勉強をしたので、アメリカで入手可能な植物については学んでいるが、日本に自生する植物については不案内であり、地元にどんな植物が育つのかを知る意味でも興味深い展示内容だった。加えて、神官である祖父を持つ私は、幼い頃から神道、出雲神話や古代出雲の歴史を特別なものと感じてきたため、その意味でもぜひ押さえておきたい情報だった。
 会場には13種の薬草が可愛らしいイラストと共に展示されていた。ハス、クズ、ハトムギ、ウメ、アカマツ、ツバキ…日本人に馴染みのある薬草だ。薬草探究会によると、これらの薬草は『出雲国風土記』に書かれた「出雲」に自生していた草木だという。風土記は地方風土や地勢等を記録した奈良時代の史書だ。当初60余りの風土記があったとされるが、『出雲国風土記』は唯一、完全な形で現存していることで知られる。
 薬草探究会の基本理念は、風土記記載の65種(全115種)の薬草に焦点を当て、それを広め薬草と共にある生活の提案をしていくこと。そうすることで地元の文化財を後世に伝えていきたいという。「古代、出雲は『医薬の国』でありました」(『古代出雲の薬草文化』出帆新社)と記されるように、出雲国と薬草は切っても切れない密接な関係があるようだ。
 医薬やまじないの神スクナヒコナが出雲大社の御祭神オオクニヌシと共に国造り(農業、医術、社会の基礎を築くこと)をし、医薬の礎を築いたとされる。『古事記』では、出雲神話の中でガマの穂(Cattail)を用いて傷を治した(因幡の白兎神話)、貝粉や貝汁で火傷の手当てをする(大国主の神話)など、薬を使う下りが記されている。更に、日本最古の医学書『大同類聚方』は日本独自の医薬処方集であるが、出雲神々や出雲国造(イズモノクニノミヤツコ=出雲国を統治した一族)らの伝承薬が100方以上記載されているという。
 薬草探究会は、この『大同類聚方』と『医心方』(イシンホウ=現存する日本最古の医学書)から見た出雲の薬草という観点からも研究を続けている。昨年は著名な歴史学博士や漢方医を招き、そのテーマに基づいたシンポジウムを開いた。そして今年は前述のベジタリアンカフェ内に古代出雲薬草展示室を開設させた。「ぜひ足を運んで、出雲の薬草のことを知ってほしい。そして香りを楽しみ、食事、セルフケアといった養生法を生活に取り入れ、身近に感じてもらいたい」と前田さん。イチオシの薬草は、ハス、クズ、ヤマモモ、マコモとのこと。ハスには非常に高い抗酸化作用があることが判明、クズは葛根と言う生薬名で知られる通り根の部分を使うことがハーバリズム界では知られているが、葉にも血流促進効果があるとのことで出雲地方で商品開発が進められている。ヤマモモの実は、ビタミンCを豊富に含み、抗酸化作用によるアンチエイジングへの効果もある。出雲市多伎町で作られているジャムやお茶は土産物としても喜ばれる名産品だ。また、マコモはあまり知られていない植物だが、「マコモ神事」があるほど出雲大社・神話とマコモは密接な関係にあるそうだ。薬草探究会は植物生態観察に始まり、調理や染物など家仕事としての植物活用法を伝えるなど積極的に活動してきたが、今後の更なる展開に期待したい。次の帰国の際に新たな和の薬草の話を聞けそうで今から楽しみである。
 展示会で配布されたパンフレットに書かれたフレーズ『草で楽になる、草を楽しむと書いて「薬」です』。ハーバリストである自分の原点に戻らされたような気持ちになった。今回は比較的長期に里帰りでき、知り尽くしていると思い込んでいた故郷で、新しい発見と出くわす機会が多く、その都度ワクワクさせられた。(浅野祥子/NY在住ハーバリスト)www.herbarhythm.com

ファーマーズマーケット 夏野菜のシーズン到来!

 今月はウエストチェスターでおすすめのファーマーズマーケットとベンダーをご紹介。マーケットに行く時はリサイクルバッグ、暑い日には保冷バック、クレジットカード不対応のベンダーに備えてキャッシュも忘れずに。
■チャパクァ=ウエストチェスター近郊で収穫・製造されたものにこだわったマーケットで、野菜と果物をはじめ、手作りハムとソーセージ、新鮮な卵、オーガニック・グラノーラ、クラフトビール、木製ボールなども販売している。そのほかに修道女が焼いたパイやタルト、クッキーも販売され、その収益金はアフタースクールやスープキッチンの資金として活用されている。週によってはフリーマーケットも同時開催されて、お楽しみ倍増。場所:メトロノース、ハーレムラインのチャパクァ駅最寄の芝生広場。開催日時:毎週土曜日午前8時30分から午後1時まで。会期:11月23日まで。
詳細:www.chappaquafarmersmarket.org/
■プレザントビル=屋外に45店舗、室内に35店舗ほどが並び、ウエストチェスター最大の規模を誇るマーケット。エグウィック農場の新鮮ゴートチーズ、甘くて大人気のホタテやモントーク直送のヒラメ、タラ、サーモン、クラム、人工着色料や保存料を一切使っていないスパイス各種、オーガニックのフルーツとスパイスから手作業で抽出したシロップで作ったドリンクなど、個性的かつ豊富な品揃えが自慢。場所:メトロノース、ハーレムラインのプレザントビル駅隣りの駐車場。開催日時:毎週土曜日午前8時30分から午後1時まで。会期:11月23日まで。
詳細:pleasantvillefarmersmarket.org/
ニューロシェル=テントの数は10店舗前後と規模は大きくないが、1991年から続くウエストチェスターで最も古いファーマーズマーケット。ここの一押しは「アレックスのトマト農園」のトマトたち。もちろん他の野菜、果物、植物も直売しているがトマト農園と名乗るぐらいなので、やはりトマトに一番力が入っている。今年は20種以上のトマトを栽培しているそうだ。他に少量生産のピクルス専門店の各種ピクルス、コロンビアから直送したコーヒー豆を自家焙煎し、マーケット当日に弾いたコーヒーなど。場所:Thomas Paine Cottage Museum (20 Sicard Ave.) 開催日:毎週金曜日午前9時から午後2時まで。会期:11月22日まで。
詳細:https://bit.ly/2IXJSgd
ヘイスティングス=ハドソンバレーで生産された新鮮な農産物を販売することで、地域の農業を支援すると同時に、地元市場にも刺激を与えることを目標に1998年に始まった。ハドソン川を見渡す会場には約30店舗が出店、地元住民が集う場所となっている。ハドソンバレー産のハチミツ、ギリシャの自家農園で収穫したオリーブオイル、ウエストチェスター北部のポウリングにあるラベンダー農場の石鹸、エッセンシャルオイルなど。場所:メトロノース、ハドソンラインのプレザントビル駅隣りの駐車場。開催日時:毎週土曜日午前8時30分から午後1時30分まで。冬季は室内に場所を移して年間を通じて開催している。
詳細:www.hastingsfarmersmarket.org/
アービントン=チャパクァ、ヘイスティングスのマーケット・ディレクターを務めるパスカルさんによる3つ目のマーケットだが、それぞれ出店者が重なったり競合しないように工夫されていて、3か所を回っても飽きない。会場ではライブ演奏やヨガ教室が開催され、地域の人たちが集う場としても活用されている。地元産の豚肉、鶏肉、野菜を使ったアジアン・ファーマー・ダンプリングスの餃子は防腐剤やMSG不使用で大人気。新鮮な卵とキノコ各種を取り揃えたダン・マデゥーラ農場、テキサス出身でアービントン在住のアシュレーさんのハンドメイドサルサ、季節の花を売るトラックなど個性的な店が並ぶ。場所:Main Street School parking lot (110 Main St.) 開催日時:毎週日曜日午前9時から午後1時30分まで。会期:11月24日まで。
詳細:https://irvmkt.org/
ザ・タッシュ=タッシュとはTaSH=TarrytownとSleepy Hollowの略語。マーケットはタリータウンとスリーピーホロウのNPOが運営、ボランティアたちが実施している。ウエストチェスターのパン好きの間で有名な「Bien Cuit」のパンは68時間かけた低速発酵したもので、噛めば噛むほどパンの香ばしさが口に広がる絶品、地元の無農薬果物と香辛料を使って小量醸造したビーコン産のこんぶ茶、リゾットを丸めたリゾットボールなどその場で食べられるものも充実。場所:Patriots Park (Sleepy Hollowルート9)開催日時:毎週土曜日午前8時30分から午後2時まで。会期:11月23日まで。詳細:https://tashfarmersmarket.org/

日本愛した魯迅と蒋介石

譚 璐美・著
新潮社・刊

 アメリカに住んでいると日米関係に敏感になるが、日中関係はつい縁遠い気分になりがちだ。だが米中経済摩擦が緊張の度を増す中で、今後の成り行き次第では日本も悪影響を免れることはできない。加えて、日中間には尖閣諸島の領有権問題や歴史問題がくすぶり続け、いつ再燃しないとも限らない。日本とアメリカ、中国はいわば密接な三角形の関係にあり、一方が接近すれば、他方が疎遠になり、バランスが崩れれば、平和な日常生活すら覚束なくなってしまう。
百年前に一度、バランスが崩れたことがある。アジアで最初に近代化を実現した日本は中国の尊敬の的だったが、欧米式の植民地主義を真似た日本が中国を侵略し、窮した中国はアメリカに救いを求めた歴史がある。とはいっても、本書は歴史書ではない。日本に留学経験を持つふたりの中国人、作家の魯迅と軍人政治家の蒋介石を中心に、日本人と中国人の交流を描いたヒューマンストーリーだ。
柔道家で教育者の嘉納治五郎、大アジア主義の巨頭で孫文の支援者の頭山満、政治家の犬養毅、上海で魯迅をかくまった内山完造、その他知られざる日本人が多く登場する。例えば、東京帝国大学の法科教授だった寺尾亨は、1912年に中華民国が成立した際、中国初の憲法を作成した中心人物である。だが帰国後、日本政府の意に反したとして東大教授の職も年金も失ってしまう。それでも生涯、中国憲法に関わったことを吹聴せず、記録にも残さなかった。
軍人の松井石根は中国通で、蒋介石は日本で松井の自宅に足しげく通って軍人の心得から近代戦法まで指導を受け、日本陸軍の合理性に感銘を受けて、後に日本陸軍方式を取り入れた黄埔軍官学校を作った。魯迅は夏目漱石に心酔し、口語体の短編小説こそ近代化した文学であるとして、『狂人日記』『阿Q正伝』を書いた。小説『藤野先生』は仙台医学校の教師の藤野厳九郎がモデルになっている。
明治末期から日中戦争が始まる1939年までの約30年間に、中国人留学生たちが中国語に翻訳した日本の図書は約2800冊以上にのぼり、日本から輸入された近代思想や知識が中国で大きな影響を与えたことはまちがいない。「社会」「経済」「国家」「国語」など多くの日本語が中国語に定着したのもこの頃だ。
日中戦争の前夜、中国では反日運動が盛んだったが、魯迅は「それでも日本から学ぶべきものはある」と公言し、1936年、死の直前には「いつか真の日中交流が実現する日が来るだろう。だが、今はそのときではない」と、日本の言論誌『改造』に日本語で寄稿し、日本へのメッセージを残した。
今日の日中関係の空気は、当時と似ているのではないか。魯迅と蒋介石が後世に託したものを知ることは、日中関係の本質を見極めるだけでなく、日米中三か国のバランスを保つヒントも教えてくれる。(たん・ろみ/作家・ニューヨーク州在住)

本場ミュージカルの醍醐味を紹介

音楽監督
アルマンツァー明子さん

 7歳の頃に母親に連れられて見た「レ・ミゼラブル」に感動し、少女時代からミュージカル俳優を目指した。東京都出身で、母親はピアニスト、父親はベーシストという音楽一家に生まれた。自身も幼少からビアノを習ったが、ミュージカル俳優になるためには「音大声楽科卒」というタイトルが必要という一点でピアノではなく昭和音楽大学短期大学部声楽科へ進学。同大卒業と同時に劇団四季に入団。1年半の研修生生活を経て退団後、来米してアーティストビザを取得後はトニー賞受賞作品「コンタクト」「42nd Street」「ミス・サイゴン」などに出演した。
 現在はニューヨークを拠点にミュージカルコンサートの企画や制作を行っている。 今月26日には東京で、今回で3年目の3度目となるミュージカル・コンサート「Show Tunes」公演を行う。このコンサートはブロードウエーで活躍しているミュージカル俳優を日本に連れて行き、日本でも活躍しているミュージカル俳優と共演するコラボコンサート。今年は、この日本コンサートのためにニューヨークで行ったオーディションで200人の応募者の中から選んだ俳優ケイト・マクマヌスを日本に招く。彼女は、トニー賞受賞作品「Once on this Island」や「Into the woods 」に出演している実力派。このほかニューヨークからはアポロシアターのアマチュア・ナイトに出場した日本人男優、田中怜緒直が訪日出演する。
 今後はニューヨークでも同じ規模のコンサートが出来るようにしたいというのが将来の夢だ。
 日本では、コンサート公演のほか、日本の若手俳優のためのワークショップや講演活動も積極的に行っており、公立中学校等でゲスト講師として活動している。講師は毎年変更し、今年の講師はミュージカルはもちろん、毎年即日完売するほどの人気コンサート、ディズニー・オン・クラシックに出演したメーガン・ケネディが務める予定だ。
 今回受講生募集の案内を告知したところ、たった数時間で定員に達し、現在キャンセル待ちとなるほどの人気。ワークショップを受けに来る生徒の中には、新幹線で数時間もかけて東京まで出てきて受講する人が毎年数人いるそうだ。「そういう上手になりたいという情熱を持った生徒たちのためにも、東京だけでなく地方でも開催できるようになりたい。現在の日本の若手ミュージカル俳優は、声量、歌唱力、表現力においてまだまだ開拓していける余地があると感じている。だからこそ、これからミュージカル俳優を目指していく日本の新人に向けてブロードウェーではどんな人が活躍しているかの生の声を聞いてもらい、これからの日本のミュージカル界の底上げに貢献できれば本望」と話す。 (三浦良一記者、写真も)

バスキア展始まる

グッゲンハイム美術館
心の格闘と社会へのメッセージ

 グッゲンハイム美術館(五番街1071番地)で6月21日、ジャン=ミシェル・バスキア展「ディフェースメント:アントールドストーリー(Defacement: Untold Story)」が始まった。バスキア自身の作品は少なめだが、キース・ヘリングやアンディ・ウォーホルなど、マイケル・スチュワートの悲惨な死を題材にした作品がならんび、全体としてバスキアが題材にしたアクティビズムとアイデンティー、彼の心の格闘や社会へのメッセージが詰め込まれている。 
 その事件は1983年、地下鉄ユニオンスクエア駅でおきた。黒人グラフィティアーティストのマイケル・スチューワートが深夜、落書きをしているのを警察に見つかる。数時間にわたる警察との争いの後、スチュワートは手足を縛られ、昏睡状態で病院に運ばれ、13日後に息をひきとる。その悲劇は警察による人種差別をあからさまにし、街中その緊張感に包まれた。バスキアは「この事件は自分におきていたかもしれない」と語り、白人中心のアート界における黒人芸術家としてのバスキアの心に格闘を生み出した。
 ギャラリーは大きく2部屋に分かれ、手前はバスキアによる、黒人のアイデンティティーや警察による残虐行為に対する抗議を探求した作品が並び、奥の部屋には、マイケル・スチュワート事件を題材にした作品や新聞記事や手帳が並ぶ。
 その二つのスペースの間の壁には1985年当時の引っ越す前のキース・へリングのアトリエの壁が再現されていた。何かが故意的に切り取られた様子が分かる。ヘリングはその切り取った壁の絵を豪華な金の額縁に入れ、90年に死ぬまで自分のベッドルームに飾っていた。この切り取られたものは、バスキアがヘリングのアトリエを訪れた際に描いた絵だった。ヘリングの死後、身内が大切に保管してきたこの絵は、本展の手前の部屋、この「壁」の斜め手前に展示されており、切り取られた絵と壁のスプレーペイントがつながっていることから、壁から切り取られた絵であることが証明されたという。11月6日(日)まで。(城林希里香、写真も) (写真はキース・ヘリング)
*入館情報
 午前10時から午後5時30分まで(夏期は火曜9時まで、木曜8時まで)
 入館料は大人25ドル、シニア・学生18ドル。12歳未満は無料。土曜7時からは任意寄付制。
 詳細はウェブサイトwww.guggenheim.orgを参照。 

おもちゃの未来 Toy Story 4

 シリーズ4作目。人間の知らないところで実はおもちゃは生きている、という想像力が無限に駆使できる設定のCGアニメ。2作目からは約10年スパンの製作で「またあの世界が戻ってきた」とノスタルジーさえ感じる人気シリーズだ。
 毎回、おもちゃたちは新しい発見をし、冒険とチャレンジに挑むが本作はおもちゃたちの未来を予測する、新たな1ページとなる。物語の原案はジョン・ラセター(1、2の監督)らも加わり、脚本は前3作から続投のアンドリュー・スタントン。監督はアニメーター、脚本家、声優のジョシュ・クーリーで彼の長編監督デビュー作でもある。
 おもちゃのレギュラーはカウボーイのウッディー(声:トム・ハンクス)、スペース・レンジャー・スーパーヒーローのバズ(ティム・アレン)らで、ボイスでは新たにモーターサイクルのアクロバット・ライダー、デューク・カブーンとしてキアヌ・リーブスが加わる。
 大学生になったアンディから少女ボニーに譲られたおもちゃたち。アンディと同様、ボニーにもたくさんの楽しい思い出を作ってあげようと胸躍らすウッディーら。ある日、ボニーがプラスチックの先割れスプーンに目、口、手を付けて自分のおもちゃを作ってきた。「フォーキー」と名付けて寝るときも離さないほど。おもちゃたちはどう見てもフォーキーがおもちゃとは思えないし、フォーキーも使い捨ての先割れスプーンである自分がおもちゃだとは思っていなく、すぐにゴミ箱に入りたがる。
 しかしウッディはお店で売っているものだけがおもちではなく、ボニーが自分のそばに置きたがり、かわいがるものはすべておもちゃだとフォーキーを勇気づける。
 ボニーと両親はバケーションに出かけることになった。もちろんおもちゃたちも一緒だ。アイデンティクライシスに陥っているフォーキーは旅の途中で脱走する。フォーキーを追うウッディは仲間やボニー家族と離れ離れになってしまう。
 今回もいろいろなおもちゃが登場し、しかもおもちゃたちの夢、彼らの暮らしぶりき生きと描かれる。期待を裏切らない文句なしの出来だ。1時間半。G。(明) 

■上映館■
AMC Empire 25
234 West 42nd St.
AMC Loews 34th Street 14
312 W. 34th St.
Cinepolis Chelsea
260 W. 23rd St.

速報 SailGP 日本チーム初優勝

SailGP 日本チーム初優勝
SailGP(セールGP)第3戦ニューヨーク大会が21日、22日に開催され、日本チームはフリートレーストップで決勝のマッチレースに進出。オーストラリアチームとの対決を制して初優勝した。
選手喜びの声=「第2戦のサンフランシスコ大会では本当に悔しい思いをしたので、ニューヨーク大会で勝つことができ最高に嬉しいです。実は最後まですご く緊張していました。お互いに口には出さないけれど、一緒にグラインダーを担当していたレオも緊張していたと思います。最後にフィニッシュラインを切った 時は本当に嬉しかったです」(笠谷 勇希/グラインダー・マッチレース出場)。「マッチレースのスタート前はさすがにドキドキしました。過去2回、いずれもマッチレースで負けていますから。 でも最後までがんばればきっと勝てると思い、がんばってグラインドしました。優勝できて最高です」(高橋 レオ/グラインダー・マッチレース出場)。「今日は昨日よりは少し風が弱かったですが、それでも難しいコンディションだったことに変わりはありません。で もどんな場面でも焦ることなく、自信を持って一つ一つのレースを楽しむことができたことが勝利に繋がったと思います。ニューヨーク大会での優勝はチームに とって非常に意味のあることです。開幕戦のシドニー大会は明らかにオーストラリアチームとの差がありました。続くサンフランシスコ大会ではその差を詰めま したが結果がついてきませんでした。でもここで優勝でき、自分たちのチームがやってきたことは間違っていないと確信できました」(ネイサン・アウタリッジ /ヘルムスマン)
▽ チーム最高執行責任者の早福 和彦さんの話「本当に嬉しいです。1位を取るというのが我々チームの一つの目標でしたので、チーム一丸となって戦った結果が成績に現れたのかなと思いま す。ニューヨークはいつもそうですが、非常に難しいレースコースです。その中でセーラーは辛抱強く最後まで戦ってくれ、チームの強さ証明することができた と思います。今回、優勝することができましたが、今シーズンはまだ2戦ありますから、怠らずにチームとして実力を上げながら次の大会にのぞんでいきたいと 思います」

ヨットレースの F1 セールGP日本初日トップ

世界第3戦のニューヨークで日本の強さ早さしっかり

 セールGP第3戦ニューヨーク大会初日は、マンハッタンの摩天楼を吹き抜ける不規則な風に各チームとも翻弄される1日となった。
5艇でスタートした第1レースを制したのはベテラン揃いのオーストラリア。日本は2位で第1レースを終えた。フランスはレース中に2回、あわや転覆かというヒヤリとさせる場面。続く第2レース。日本はスタート前に航路侵害でペナルティーを取られ、最後尾からスタート。しかし、すぐにスピードに乗り、先行チームがレース艇のコントロールに手まどっている間に逆転に成功。途中、中国とオーストラリアに追いつかれそうになる場面もあったが、リードを保ちトップフィニッシュ。最終の第3レースは中国がスピードに乗って良いスタートを切った。中国が最初のジャイブ(方向転回)で失敗。そのすぐに日本が逆転に成功、その後は風をしっかりつかみ、今日2度目のトップフォニッシュを飾った。日本は初日トップで明日の最終日を迎える。第3戦のニューヨーク。前回2回が共に2位に甘んじていたので明日の試合は「一位を狙う」(笠谷勇希選手)の言葉通り栄冠に輝くか。川岸には大勢の市民がレースを観戦して声援を送った。(三浦良一記者、写真も)

編集後記 6月22日号

みなさん、こんにちは。今週末は、日本関係の大きなスポーツイベントが2つ、ニューヨーク地域で開催されます。ひとつは、セールGP(SailGP)という新型ヨットレースで今年はイギリス、オーストラリア、アメリカ、フランス、中国、日本の6か国が参加します。ヨットのF1レースともいわれ、最高速度が時速100近くになります。21日(金)と22日(土)の2日間、ニューヨークのハドゾン川で両日共に午後5時8分スタートです。レースは初日3回、2日目は決戦レースを入れて3回開催されます。今大会で優勝を狙います。お時間のある方、ぜひ応援に行きましょう。無料で川岸から迫力のレースが観戦できます。観戦スポットはバッテリーパークからブルックフィールド・プレイスのハドソン川の見える場所。
もう一つは、日本のプロ野球独立リーグである「四国アイランドリーグplus」の選抜チームが、2016年に続き3度目の北米遠征のため来米しています。現地の6強豪チームと公式戦20試合を行っています。17日、ニューヨーク総領事公邸で、四国アイランドリーグplus理事長の坂口裕昭さんと元ニューヨークヤンキースの松井秀喜さんの対談が選手たちを招待して行われました。松井さんは「自分でコントロールできるものには、最大限の努力を惜しまないこと、普段やるべきことを続けていくことが大事だ」と話していました。21日(金)午後7時、22日(土)6時、23日(日)2時:対ニュージャージー・ジャッカルズ Yogi Berra Stadium(8 Yogi Berra Drive, Little Falls, NJ 07424) ジャッカルズ戦の3試合では、入場者にリーグ北米遠征スポンサーであるゼブラからペン、同北米伊藤園からお茶が無料配布されます。22日NY総領事の山野内勘二大使による始球式も予定されています。ビッグなイベントが重なる週末となりました。(三浦良一/発行人)