海風ゆらりブランコ、ライ海岸臨む公園に

高氏奈津樹・作
野外彫刻を除幕

 ニューヨーク在住のアーティスト、高氏奈津樹(たかうじ・なつき)の野外彫刻2作目「ウィンドウⅡ」が、6月にウエストチェスターにあるライ公園に設置され、7月26日に除幕式とアーティストトークが行われた。
 今作は2014年リバーサイドパークに展示された一作目の「ウィンドウ」と同じく巨大な彫刻内にブランコがある参加型の作品で、式典で高氏さんは「ブランコは日々動き続ける私たちの日常を表し、それを囲む彫刻は結界のような精神的身体的なバリアへのメタファーが込められている。『ウィンドウ』というタイトルは私たちのフィルター=考え方や視点という意味を持つ」と語った。
 ライアートセンター代表メグ・ロドリゲスさんは、「設置以来『ウィンドウ』はライ公園により多くの人を惹きつけていて、すでにコミュニティーにとって特別な存在となりつつある。空席であることは珍しい」と話し、パブリックアートの重要性も強調した。同作品は来年の秋まで設置される予定だ。

日本の真の魅力とは

ヘンリー・S・ストークス・著
SB新書・刊

 昭和から半世紀以上、日本を取材し続けた伝説のイギリス人ジャーナリストである著者自ら「遺言」と称する本書。随所に日本への深い愛が感じられる文章で、日本人よりも日本が好きだという雰囲気が伝わってくるのも読みどころの一つだ。

夏のお楽しみ、洞窟探検 NY州ハウ・カバーンへ

 さあ、いよいよ夏本番。次の休日には何をする?どこへ行く? 山も良いけどビーチも捨てがたい。でもお天気がちょっと心配。そんな時は洞窟探検へ行こう!洞窟なら雨が降っても大丈夫、しかも中はひんやり涼しくて夏の遠足にはぴったり。以下はホワイトプレーンズから車で3時間弱、州都オールバニの西に位置するハウ洞窟の知っ得情報。
■農家が発見
 地下約50メートル、数億年前に堆積した2種類の石灰岩で構成されているハウ洞窟。古くからインディアンには存在が知られていたこの洞窟に白人が初めて足を踏み入れたのは1842年のことだった。近辺に入植し、農場を営んでいたレスター・ハウは放牧している牛たちが、夏の暑い日にいつも同じ場所で草を食んでいることに気づいた。不思議に思って近づいて見ると、辺りはひんやりしている。更に調べると地面に空いた穴から冷たい風が吹き出ているではないか。土地の持ち主で友人でもあるウェットセルと二人、その冷たい風が吹いてくる穴をさらに広げて上半身を潜り込ませると…そこは深い洞窟への入り口だった。
 それから二人は毎日洞窟に出掛けては内部を探検した。その後、ハウはウェットセルから一帯の土地を100ドルで購入。1943年に米国で三番目となる観光用洞窟「ハウ・カバーン」をオープンした。当時のツアーは8時間もかかるものだったがビジターはどんどん増え、洞窟の入口近くにホテルが建設されるほど洞窟ビジネスは成功を収めた。資金繰りがうまくいかなくなったハウは洞窟を石灰石の採石会社に売却、観光洞窟は採石場へと姿を変えた。
■崩落と再生 
 20世紀初頭のマンハッタン建設ラッシュに伴い、セメントの需要が増大し、採掘が進むにつれ洞窟内の壁の崩落が起きて、洞窟の半分以上が埋没してしまう。採石場が閉鎖され20年近く放置された後、1920年代後半に「ハウ洞窟株式会社」が設立され、2年の月日をかけて再建工事が行われた。当時の最新技術を用いて地下47メートルまでエレベーターが設置され、1929年のメモリアルデーに再び一般公開が開始された。その後、民間オーナーの手に渡り、洞窟以外の屋外アトラクションを併設し、現在に至る。この夏開催されているツアーは次の通り。ツアー代金は全て税別。洞窟内は年間を通じて摂氏12度ほどなのでジャケットを忘れずに。通路は概ね整備されているがスニーカーなど歩きやすい靴で行くこと。
▽トラディショナルツアー(90分)=まずエレベーターで地下50メートルまで降り、ガイドと共にライトアップされた奇岩や鍾乳石を見ながら進む。最終地点でボートに乗って地底の川下りを体験した後、再び徒歩でエレベーターまで戻る。大人25ドル、ジュニア(12歳から15歳)21ドル、子供(5歳から11歳)13ドル、4歳以下無料。毎日催行。予約不要。
 次の2つのツアーは、トラディショナルツアーよりも冒険的なツアーで、狭い通路を這う場面もあり、ツアー参加者はつなぎ服と手袋、ブーツ、膝当て、電灯付きヘルメットなどを着用する(参加費に含まれる)。
▽アドベンチャーツアー(2時間)=32メートルの天井高を持つサイロ型の天然ドーム「グレート・ロタンダ」まで行くツアー。12歳以上対象。要予約。ツアー代金125ドル。
▽シグネチュア・ロック・ディスカバリー・ツアー(2時間半)=トラディショナルツアーの最終地点の向こう側には何があるのか? ハウ洞窟の秘密に迫るツアーで、地底湖「ヴィーナスの湖」と採石場時代に使われていたボートの残骸、「音楽堂」と呼ばれる反響音が美しい空間や巨大な鍾乳石などを巡る。14歳以上対象。要予約。ツアー代金155ドル。
 このほか、夏季の金曜日と土曜日の夜のみ催行のランタンツアー(2時間、16歳以上対象、要予約、ツアー代金35ドル)や、日曜日の夜のみ開催の家族連れ向け懐中電灯ツアー(2時間、5歳以上対象、要予約、ツアー代金35ドル、懐中電灯レンタル代含む)などがある。

Howe Caverns
255 Discovery Dr.,
Howes Cave, NY 12092
Tel: 518-296-8900
https://howecaverns.com/

「3シーズンを楽しむ秘境・奥只見」新潟その1

新潟県魚沼市

 関越自動車道を北上し、群馬県のみなかみ町と新潟県南魚沼郡湯沢町の県境間にある長さ11キロの関越トンネルを走り抜ける。谷川岳を貫通するこのトンネル、20代のころは新潟のスキー場へ行くために何度も利用したが、冬期の道路凍結による事故や週末の大渋滞など、あまりいい記憶がないので慎重に運転する。長いトンネルを抜け小出インターで高速を降りてから国道352号をひた走り、さらに観光道路「奥只見シルバーライン」を通り抜けると、そこには今回の目的地である秘境・奥只見が悠然と広がっていた。
 奥只見にダムを作るための資材運搬用道路として建設された「奥只見シルバーライン」は、全長22キロのうち18キロ以上が19のトンネルで構成されている。一部のトンネルは建設当時の岩盤むき出しの壁がいまなお残る国内でもまれな道路で、手彫りしたようなゴツゴツした岩肌が荒々しい。オレンジ色のナトリウム灯が延々と続くトンネル内は狭く暗く、あちこちから染み出た水で壁も道も濡れている。最も長い17号トンネル(3・9キロ)には天井の照明がS字状に曲がっている場所があるが、これは両側から掘り進んだために車線ひとつ分ずれてしまった跡なのだそう。シルバーラインを終えて見えた出口の明かりとまぶしいほどの自然の緑、そこに広がるダムの勇姿に心が躍った。
 奥只見ダムは半世紀以上前の昭和35(1960)年に完成。貯水量6億立方メートルを誇る巨大な人造湖「奥只見湖」は透明度が高く、水中を泳ぐ魚の姿や、運が良ければ幻の大イワナの姿を見ることもできる釣り人たちの聖地だ。この地には毎冬5メートル以上もの積雪があり、その雪解け水が流れ込むため、湖の水は真夏でも氷のように冷たい。雪が多すぎるためハイシーズンにクローズすることで有名な「奥只見丸山スキー場」も隣接する。
 昭和の雰囲気たっぷりの三角屋根のレストハウス前には大きな水槽にイワナがたくさん泳いでいて、たぶん注文するとこの中から一匹取り出して串焼きにしてくれるのだろうけど、その美しい姿だけ見て食べるのはやめておいた。レストハウスには「とち餅」や「またぎ汁」(熊肉は入っていないと注意書きがある)など新潟の特産品を販売していたが、ダムに来たならやっぱり「ダムカレー」を食べないと! 近年は各地のダムでオリジナルカレーを提供していて、食べるともらえるポケモンカードのようなダムカレーカードを収集している人もいると聞く。奥只見ダムカレーは楕円形の皿の真ん中にダムの堤防をかたどった魚沼産コシヒカリ、その右にカレー左に唐揚げやサラダが盛りつけてある。おかずを食べたあと、堤防のごはんの中央下に刺さっているウインナーを抜くと右のカレーが左へ「放流」される仕組みだ。これは楽しみながら食べられるし、子供たちは喜ぶだろう。
 時間があったら遊覧船への乗船もおすすめ。奥只見湖をぐるっと一周する周遊コースや、尾瀬国立公園へと続く尾瀬口コースが5月下旬から11月上旬まで運航している。遥か彼方に連なる残雪の会津駒ヶ岳や平ヶ岳、八海山や越後駒ヶ岳などの山並みを湖上からのんびり楽しむのもいい。ダムの高台にあり奥只見を一望できる電力館の職員は「秋になったら素晴らしい紅葉が見られるから、またおいで」と言ってくれた。ブナをはじめとした広葉樹の木々が赤や黄色に色づき、湖の周りを色鮮やかに彩るのだそう。見頃は10月中旬から11月上旬とのこと。
 そしてこのダム、私が好きな小説家のひとりである真保裕一が1995年に発表したサスペンス小説「ホワイトアウト」のモデルとなった場所である。日本最大のダムを占拠したテロリストから人質を救うべく立ち上がった青年の活躍を描いた作品で120万部を超えるベストセラーとなり、2000年に織田裕二主演で映画化され、また漫画化もされた傑作。真冬の雪に閉ざされたダムを舞台に、激しい吹雪で視界が奪われて自分の位置が分からなくなってしまう「ホワイトアウト現象」のなか、ハラハラするようなストーリーが展開する。小説を思い出しながら雄大な景色と、空より青い湖面を長いあいだみつめていた。
 奥只見ダムと湖の観光、釣りやキャンプ、船で行く尾瀬、そして春スキーから夏の避暑、秋の紅葉まで3シーズンにわたり自然を楽しめる秘境・奥只見。近隣にある湯之谷温泉郷を中心とした13か所の温泉地、豪雪地帯だからこその美味しい水、お米や日本酒、今回の旅ですっかり新潟ファンになった。(本紙/高田由起子)

日本の介護と帰国を支援 ケアブリッジ・セミナー盛況

 今回で通算4回目となる、日本各地で「かざぐるま式リハビリ・看護」介護サービスを提供するケアブリッジ株式会社主催の「日本の介護・帰国支援セミナー」が、7月26日の午後、ニューヨーク市内のグローバルラボで開催された。今回も定員を超える参加者が集まった。
 まず、同社CEOの青木幸司さんが登壇。世界幸福度調査のランキングで米国は18位、日本は54位であることを紹介。ハッピー・シニア・ライフを頭に描いて実践していくことが必要と説き、参加者に対して「社会的健康」「経済的健康」「精神的健康」「身体的健康」の分野から計20問の質問をした。その回答は平均17〜18個が「はい」だったことから、青木幸司さん「『はい』の平均が10個の日本国内と比べ、健康」と参加者に伝えた。また、幸せになる4つのコツとして、「アクションを起こす」「他人を喜ばせる」「自分を肯定する」「他人と比較しない」と解説。「あの時にやっておけば良かった」と最後に後悔しないよう、充実した老後を過ごすための、準備が必要だと話した。
 休憩を挟み、同社看護師の加藤千晴さんと同社COOで理学療法士の平田裕也さんが、病院や他の介護施設とは異なる「かざぐるま式」のリハビリや看護の特長を紹介。西洋医学の即効性と東洋医学の根本治療のハイブリッドとなる同社のサービスで、病院のいらない世界を目指していると話した。利用者が、楽しくやりたいことを実現できる暮らしを取り戻すため、身体的・精神的に「健康」になる努力をしていることを実例を挙げて紹介した。
 また、同社と、提携する企業やプロフェッショナルとで共同実施している帰国支援サービス「ふるさとプロジェクト」についても説明した。
 最後は、参加者を「数年のうちに具体的に帰国を検討しており介護サービスも考えている人」と「当分帰国の意思はなくまだ現役で仕事も頑張りたい人」の2グループに分け、前者には具体的な帰国支援サービスの内容を説明、後者には同プロジェクトの現地パートナーとしての可能性を案内した。
 また、セミナーとは別に、より細かく具体的な相談をしたい人向けに、同セミナーの前日、当日、翌日の3日に分けて個別相談会も実施した。
 同社は、11月後半にまた同様の第5回セミナーを企画しており、その際はマンハッタンのほか、初めてニュージャージーでも開催する予定だという。

警官に水かける

市内3か所で相次ぐ
SNS公開ビデオに市長怒り

 ニューヨーク市内で警官に通行人がバケツで水を浴びせているビデオが7月22日、ソーシャルメディアに投稿され物議を醸したが、ニューヨーク市警(NYPD)は28日、ハーレムでの事件で男2人(ともに28)、ブルックリンでの事件で男1人(28)、ブロンクスでの事件で男1人を逮捕、容疑者15人の顔写真を公表した。容疑は治安紊乱(びんらん)行為や嫌がらせ、器物損壊、公務執行妨害など。
 ハーレムでの事件は猛暑だった20日か21日に撮影されたと考えられ、セントニコラス街と115丁目の交差点で発生、2人の警官が男性を車のボンネットにうつぶせにして拘束している最中に背後から男が近づき水を浴びせた。さらに空になったバケツを警官の頭に投げつけている。別の男がこれを見てはしゃいでいる。ブルックリンは場所がはっきりしないが、ずぶ濡れになって歩いている警官2人に男が背後からバケツで水をかけている。
 どの警官も取り乱す様子はなく、ずぶ濡れになっても落ち着いて行動しているが単なる悪ふざけとは思えず、デブラシオ市長は「まったく受け入れられない。こうした侮辱は容認できない」、ジェームス・オニール署長は「このような無礼は許されない」とツイート。警察は3人の写真を公表し指名手配していた。
 トランプ大統領は「私たちはこの偉大な国のすべての警察官を愛している。(事件は)まったくの恥辱だ。私たちの生命を保護し奉仕する人々のためのデブラシオ市長は立ち上がる時だ」とツイート。デブラシオ市長は大統領選の民主党候補に立候補しているが、トランプ氏は直接の批判は避けた。
 一方、元ニューヨーク市長のルビー・ジュリアーニ氏は「(この事件は)民主党、進歩(後退)派、社会主義市長の結果だ。(彼ら)お決まりの警官への不敬によって起きることだ。左翼の愚か者どもが敗北するまでますます悪くなるだけだ」と激しく非難する内容をツイートした。ジュリアーニ氏はトランプ大統領の顧問弁護士を務めている。

人気のクイーンズ ナイト・マーケット、ロックフェラーセンターに

 世界中のグルメを堪能できる「クイーンズ・ナイト・マーケット」が、今夏はマンハッタンのロックフェラーセンターでも開催されている。
 同野外マーケットは2015年に始まった。90か国以上のほぼすべての料理が5ドル以下で食べられるとあって、地元住民や観光客など延べ100万人以上が訪れている。7月29日にロックフェラーセンターのサウスプラザで始まった「ザ・アウトポスト・バイ・クイーンズ・ナイト・マーケット」(五番街と6番街の間、48丁目と49丁目の間。月曜から木曜の正午〜午後8時まで)は試験的に3週間の開催予定だが、評判次第で期間延長の可能性もある。
 同マーケット発起人のジョン・ワン氏はマンハッタンでの新たな試みに関し、「周辺の食に対する意識を知る絶好の機会であり、これまでクイーンズ・ナイト・マーケットで情熱的に自慢の味を提供してきたベンダー主たちの新たな挑戦と収入源にもなる」と話している。

カーネギーにゲスト出演 三原綱木が熱唱

 カーネギーホールのワイルリサイタルホールで7月24日夜、国際花のある街振興会(IFA、梶木敏巳代表)による9回目の無料招待アートショーが開催され、250席がほぼ満席となる盛況となった。ゲスト出演者の目玉に、日本の1960年代後半からブームとなったグループサウンズ(GS)時代の草分的グループ、ジャッキー吉川とブルーコメッツのギタリストで歌手の三原綱木が来米出演するとあって、同世代の在米邦人はもちろん、この時代の日本文化に惹かれるニューヨーカーも大勢会場につめかけた。
 三原のステージの前後には、例年通り、花のブーケショーや日米歌手がブロードウエーミュージカルナンバーや日本の歌などを披露して観客を楽しませた。着物を裁断することなく巻き付けてアレンジした着物ドレスが艶やかに舞台を飾った。またステージの上には人間国宝、井上萬二の陶器作品が飾られ、日本からのボイスメッセージも紹介された。
 いよいよ三原がステージに登場。ブルーコメッツのデビュー曲である「青い瞳」(本紙23面「45回転の名盤」で紹介)から始まった。英語のツイスト&シャウト、スキヤキソングで米国でも大ヒットした坂本九の「上を向いて歩こう」をピアノの伴奏で歌い、そして13分切れ目なしのGSメドレーに。「君に会いたい」(ジャガーズ)、「好きさ好きさ好きさ」(カーナビーツ)「夕陽が泣いている」(ザ・スパイダース)、「君だけに愛を」(ザ・タイガース)、「長い髪の少女」(ザ・ゴールデンカップス)、「バラ色の雲」(ヴィレッジ・シンガーズ)、「思い出の渚」(ザ・ワイルドワンズ)といった往年のヒット曲を歌ったあと最後に250万枚のミリオンセラーとなった名曲「ブルーシャトー」を熱唱し、会場の大きな拍手に包まれた。
 当日は、ミュージカル女優の西岡舞、ロマ・トニオロ&リラ、林こずえ、長坂亜由美、凛ジャパン、ピアノ佐々木浩平、歌手エンナ、KIPPEI、琴奏者の柿境恵、川村真理、田綾音、トリはゴスペル歌手のTiAとコウヘイが務めた。司会は梶木会長と川村真理子。(三)

オフブロードウェー主演女優

米舞台で活躍する俳優 Ako

「モスクワ モスクワ モスクワ モスクワ モスクワ モスクワ」。現在オフ・ブロードウェー上演中の舞台のタイトルだけで、演劇好きはロシアの戯曲家チェーホフの名作「三人姉妹」を思い浮かべるだろう。その通り、これはアメリカ人戯曲家が「三人姉妹」を現代の感覚と言葉遣いで翻案した舞台だ。登場人物たちは、自由気まま、心のままに原作の持つ閉塞感を抱える心の内を「隠しているということを隠さないで」立ち居振舞う。
 2017年、マサチューセッツ州の由緒ある演劇祭、ウィリアムズタウン・シアター・フェスティバルでの初演を経てオフ・ブロードウェーに進出した話題作「モスクワ〜」に乳母アンフィーサ役としてキャストに名を連ねるのが、日本人俳優Akoだ。役柄上出番は少ないが、Akoの演技をみていると、作家と演出家がいかにAkoに期待して人物像を創っているかがわかる。
 Akoは、今年のルシル・ローテル賞主演女優賞にノミネートされた。米国では、いきなりブロードウェーで上演される舞台は無く、他州の劇団や演劇祭、ニューヨークのプロフェッショナル劇団による中規模劇場(客席数100〜499席)で初演される作品が、好評を得てブロードウェーにたどり着く。このニューヨーク中規模劇場での舞台公演が「オフ・ブロードウェー」と呼ばれる。ルシル・ローテル賞はこのオフ・ブロードウェー演劇を対象にした演劇賞で、ドラマデスク賞、ドラマリーグ賞、外部批評家賞と並ぶ演劇界において重要かつ名誉ある賞だ。
 東京出身のAkoは元宝塚歌劇団の娘役。宝塚音楽学校を主席で卒業し、宝塚やテレビなどで活躍。退団後1981年に来米してリー・ストラスバーグ演劇学校へ入学。華やかな舞台から一転、誰も知らず、多様性など話題に上らない時代から演劇への情熱を胸にオーディションからこつこつと、ニューヨーク演劇界で居場所を築いてきた。アカデミー作品賞映画「SAYOINARA」のミュージカル舞台化のオリジナルキャスト、BAMでの黒沢明監督映画「蜘蛛巣城」舞台化の主演など女優としての実績を残してきても研鑽を重ねる姿勢は変わらない。
「モスクワ〜」ではロシア人乳母。「もう、やってらんない!人生なんていいことなんもないじゃない!」と叫びまくる20代の「三人姉妹」たちに、Ako演じる老いてゆくアンフィーサの存在が「長い時間を生きる強さ」を示しているような気がした。(河原その子・舞台演出家/公演情報は23面に)

貴乃花さん来校 NJ日本人学校

「心の稽古」講演

 日本の大相撲の長い歴史において、平成の大横綱と呼ばれた第65代横綱の貴乃花光司さんが7月24日、相撲道の「精神」、そして日本の「心」や子供達への「育成」の理念を世界にも発信しようとニュージャージー日本人学校(臼井治久校長)を訪れ、講演した。
 当日は、児童生徒、保護者ら約100人が参加した。大きな拍手のなか、貴乃花氏が登壇し「心の稽古」というテーマで講演した。心を鍛えるためには、まず気を大切にすること、そして、日本古来大切に守られてきた各家庭での教えが土俵の中に生きていると話した。
 そのあと、DVDに収められた現役時代の取り組みを観賞。子供たちはもちろんのこと大人も平成当時の大勝負に興奮した。
 途中、四股の踏み方について説明があり、会場のみんなで四股を踏みながら心と体の鍛え方を教わった。
 質問タイムでは、「どのくらいご飯を食べるのですか」「土俵で塩をまくのにはどういう意味があるのですか」など、次々と質問が飛んだ。「タックルの衝撃はどれくらいあるのですか」という質問には、「1トンぐらいの衝撃があるかな」、また「その衝撃を逃すために股割稽古が役立っているんだよ」と、どの質問にも丁寧に答えていた。
 最後に、同校児童生徒から花束が贈られ、「相手を敬い、感謝することをこれからも大切にしていきたい」とお礼の言葉を伝えた。貴乃花さんは、「今日の日を良き思い出として心の糧にして活動範囲を広げていきたい」と話した。児童生徒にとっても、将来への夢を育むためにも貴重な1日となった。なお、今回の訪問は、報道機関が特別番組を制作するなかで実現したもの。

オンライン美術館iiwii

初のNY展開催
日本から作家10人参加

 日本の俳優でアーティストの坂東工が気鋭のアーティストとともに立ち上げたオンライン美術館「イーウィー(iiwii)」初の第1回展示会が7月25日から28日までトライベッカにあるギャラリー、ワン・アート・スペースで開催された。
 会場には、NHK大河ドラマ「西郷どん」で使用した坂東の作品となる渡辺謙氏の衣装2点をはじめ、絵画や彫刻、ジュエリー、イラストレーション、写真、陶芸、人形など、10人のアーティストの作品が展示された。なかでも異色を放っていたのが人形作家、奥田拓郎の作品=写真左=。石土から浮き彫りにされた表情と手作りの瞳が見つめる。「はかないものや時間の経過にストーリー性を持たせ、ゆらぎを表現することで人形に個性が出せるのではないか」と話す。
 また染色画家の藤沢まゆは、筒描きという日本の染色における伝統技法と独自に開発した染色技法を用いた作品を展示した。 来場者たちは日本からの新しい才能と表現に興味ぶかそうに見入っていた。 展示の詳細はウエブサイト https://iiwii.art/pages/nyexhibition 参照。

60年代ハリウッドへの讃歌 Once Upon a Time in Hollywood

「パルプ・フィクション」「キル・ビル」などオリジナリティーの高い作品で知られるクエンティン・タランティーノが脚本・監督する最新作。レオナルト・ディカプリオ、ブラッド・ピットのビッグスターが顔を合わせる話題作でもある。封切りの週末劇場成績はタランティーノ監督作品の中では最高の4000万ドルを突破した。
 60年代のシャロン・テート惨殺事件をバックグランドに当時のハリウッド映画界をウィットとユーモアあふれるサスペンス仕立てで描き出す。
主人公は落ち目のテレビ俳優リック・ダルトン(ディカプリオ)と彼のスタントマンをつとめる友人のクリフ・ブース(ピット)。この二人にシャロン・テート(マーゴ・ロビー)、スティーブ・マックイーン(ダミアン・ルイス)、ブルース・リー、ロマン・ポランスキーら当時のハリウッド俳優や監督、さらにはチャールズ・マンソン率いるカルト集団の実在メンバーらを絡ませ観客の「先入観」を逆手に取ったストーリー展開を仕掛けていく。
 1969年のロサンゼルス。リックは50年代にTVの西部劇シリーズで人気俳優となったが今はすっかり影が薄くなり、仕事の量が減るのと反比例で酒の量が増えるばかり。リックのスタントダブル兼アシスタントのクリフも余波を受けているが元々イージーゴーイングのせいかどっしりと構え、リックをなだめ元気づけるのが彼の役目でもある。
 リックは最近ポランスキー監督と新進女優シャロン・テートが自宅の隣に引っ越してきたのを知りコネのチャンスをうかがっているがあまり期待できそうにない。リックのキャリアチェンジ、クリフのヒッピーたちとの関わりと並行し、ハリウッドの舞台裏やプレイボーイマンションでの華やかなパーティーなどいくつものエピソードをはさみながら、物語は妊娠8か月のシャロン・テートが惨殺された8月9日に向かってけだるい雰囲気の中でゆっくりと確実に進んでいく。
 ディカプリオの劇中劇(リックが出演する西部劇)はノスタルジーと笑いを誘う強烈なアクセントになり、一方、ロビー扮するテートの存在はあまりにも新鮮。タランティーノならではのキッチュでクール、バイオレントな世界が広がっていく。2時間40分。R。 (明)https://www.sonypictures.com/movies/onceuponatimeinhollywood

■上映館■
AMC Loews Lincoln Square 13
1998 Broadway
Regal Union Square Stadium 14
850 Broadway
Cinepolis Chelsea
260 W. 23rd St.