これはお買い得! 秋のブロードウェー・ウィーク開催 

 オン・ブロードウェーのショーが1枚の値段で2枚買える恒例のブロードウェー・ウィークが9月3日(火)から16日(月)まで開催される。チケットはすでに販売開始されており、このキャンペーン期間中に今まで見逃していた、あるいは見たかった公演の観劇を半額で入手することが出来る。キャンペーン加盟のショーはトッツィー=写真=、ライオンキング、アラジン、シカゴ、オペラ座の怪人、ウィキッド、フローズンのほか、リバイバル作品の回転木馬など新旧24作品。
 詳細はウェブサイトwww.nycgo.com/broadwayweekを参照。

新ナンバープレートのデザイン NY州来春改定

ニューヨーク州車両管理局(DMV)は19日、来年4月から発行される車両ナンバー・プレートの5つのデザインを公表した。
 新デザインは、2010年に発行されたマスタード・オレンジ色の背景の代わりに白またはライト・ブルーで、4つの候補から選ぶ。投票は9月2日までにDMVのサイトnow.ny.govで行う。

筆と墨で描く現代アートの曲線美

アーティスト
阪上 眞澄さん

 奈良で生まれ、書の世界で生きるために奈良で育った一人の日本女性が、ふとしたことでアートに目覚め、人生の第2幕をニューヨークで踏み出しはじめた。阪上眞澄さん。書道教員を養成するための国立機関で、東京学芸大学と共に設置され、各15人しか入学者を取らない奈良教育大学特設書道科を卒業。職業として高校の教師を日本で20年務めた。書道家としては2004年8月読売書法展特選、同年9月第36回日展入選、翌05年4月日本書芸院特選など受賞歴多数の輝けるプロフィールを持つ。2人の子供がまだ小さい時に言った言葉が人生を変えた。「僕たち、これ見て、上手なのか下手なのか分からないよ」。心の奥底に刺さる動揺の小さな痛みを感じた。「じゃ、これはどう?」筆に墨を付けて線で円をいくつも描いてみせると「面白い」と目を丸くした。抽象で書の線をアートとして表現することはできないかと思った。いまから10数年前に神戸でアブストラクトアートへの道を模索しはじめた。「アートを目指すならニューヨークの23丁目から28丁目までのチェルシーで」という気持ちがあった。そんな阪上さんにチェルシーのウォルター・ヴィッカイザー・ギャラリーから声がかかったのが2013年。ニューヨークでの初個展。続いて神戸の川田画廊で個展。今年5月に再びヴィッカイザー・ギャラリー、7月には17年に引き続き第27回アジア美術家連盟日本委員会展(福岡)に出品、9月11日から11月9日までニューヨーク北郊ノースセーラムのハモンド美術館で個展「Quietude(静けさ)」を開催するなど精力的に活動を続けている。
 「アートでニューヨークで勝負したい」という夢を叶えるため渡米のきっかけを探していた3年前、ニューヨーク育英学園教員募集の広告が目に入った。すぐ応募して採用され、書道の指導、小、中学校教員、学園長補佐などニュージャージー本校、マンハッタンのフレンズアカデミー、ポートワシントン校で教員生活を現在送っている。
 ファインアートの世界を暗中模索する阪上さんの姿を見た育英学園学園長の岡本徹さんが「そろそろ自分のやりたいアートに本腰をいれては」と言った。東京藝大で平山郁夫に指導を受けた自身もまたアーティストである岡本さんならではの助言だった。
 阪上さんは「柵の中にいれば、青青とした草をいっぱい食べられる羊が、わざと、柵の外の枯れ草を食べるために血を流す。それが哲学の心だと諭す哲学者西田幾多郎の言葉が、私の作品に込める気持ち。いつも、崖の上に立っているような気がする。ただ、柵に絡め取られて息絶えるとしても、時間の経過に耐えられる作品が残っていけば本望」と語る。生き方そのものが既に現代アートだ。
 (三浦良一記者、写真も)

(写真右)今年5月に開催したウォルター・ヴィッカイザー・ギャラリーでの個展案内状から
SUNSUN 0423 28″X20″ 2019, ORGANIC PIGMENT ON PAPER

事務総長4人に仕えて

田 仁揆(ひとき)・著
中央公論新社・刊

 著者はジャパンタイムスの記者を経て、国連政務官の試験にパスしたものの、国連は財政難で採用は延期。赴任したのは3年後の1988年、ニューヨークにある国連本部であった。それから2014年に退任するまでの25年。ハビエル・ペレズ‐デクエヤル、ブトロス・ブトロス‐ガリ、コフィー・アナン、バン・ギムン(潘基 文)と四代の事務総長に政務官として仕えた。本書は、その活動の日々を綴った前作『国連を読む 私の政務官ノートから』の続編という位置づけで書かれた。
 国連発足から75年を迎える今、9人を数える国連事務総長は何を成し遂げたといえるか。歴代事務総長の足跡と9代グテーレスの選考過程までを辿り、自ら指揮する軍隊も統治する人民も領土も持たない国連事務総長が、東西冷戦下、そして冷戦 終焉後の国際情勢のなかで、どのような役割を果たしてきたかを読み解き、その可能性とまたその限界までを考える。
 まず目次を見ていくだけでも興味をそそられる。 国連事務総長の職務とはどのような仕事で、歴代の事務総長はどんな人物だったのかがつぶさにそこに描かれているからだ。
 第一章は 国連事務総長の誕生、第二章で 事務総長の役割として黎明期の国連を紹介。第三章でトリブグ・リー ― 世界で最も不可能な仕事の中身を伝え、第四章は、ダグ・ハマーショルドーレジェンド。対立の時代を描く。第五章でウ・タント 、 第三世界の擡頭と題して新興国の躍進、第六章は、クルト・ワルトハイム で 対立の時代。 第七章でハビエル・ペレズ‐デクエヤルとなり、冷戦の終焉を語る。 冷戦終焉後の第八章に、ブトロス・ブトロス‐ガリ事務総長が登場し、超大国と喧嘩した男の生き様を描く。第九章コフィー・アナンは、地球市民のための国連、第十章でバン・ギムン(潘基文) ― 顔の見えない国連 終章、国連はどこへ行く? と続く。
 現事務総長のグテーレスが、国連史上初の透明性を持った選挙で選出され、加盟193か国の満場の拍手で就任した時の様子などが臨場感たっぷりに描かれていてノンフィクション作品として読みごたえのある一冊になっている。
 国連の仕事は、「1にも2にも提出する文書のクオリティーがすべて」とは、様々な部署で働く日本人の国連職員が異口同音に吐露することだが、本書の参考文献の表示の仕方もまた他の一般書ではあまり見ることのできない国連職員らしい緻密さを感じさせる。四半世紀にわたって国連事務局執務室から見たもうひとつの、しかも日本語で書かれた希有の戦後国連世界史ともいえ、特に国連職員を将来目指す日本人にとっては必読の書といえるだろう。  (三浦)

アルバム6作目20日に世界発売 「Hmmm」大江千里

9月8日バードランドで

 ニューヨークを拠点にジャズピアニストして活動する大江千里が9月20日(金)に世界発売されるジャズ・オリジナルアルバム6作目『Hmmm』に先駆けて、9月8日(日)午後7時からバードランドシアター(西44丁目315番地)でコンサートを行う。
 同アルバムは、大江自身初となるドラムを入れた編成で、ドラマーのアリ・ホーニグとベーシストのマット・クロージーを迎え、ピアノソロ3曲のほか「OrangeDesert」「Bikini」「Indoor Voices」などオリジナル全9曲を収録。同メンバーを従えアルバムリリースライブとして開催する。
大江さんの話「ついにトリオでアルバム作りました。おまけにプレミアショーやります。皆さんにぜひ聴いて頂きたいです。バードランドでお会いしましょう」。
 いまからその熱い思いが伝わってくるステージを期待させる。カバーチャージはテーブルが30ドル、バーが20ドル。予約は電話212・581・3080、またはオンラインから可能。
 詳細はウェブサイトwww.BirdlandJazz.comを参照。

自分の夢はどこにある Where’d You Go, Bernadette

 原作はマリア・センプル著のニューヨークタイムズ紙ベストセラー小説。キャリアと名声を捨てて主婦として暮らしてきた建築家が人生の壁にぶち当たる。舞台となるシアトルのフリースピリット雰囲気と主人公キャラが妙にマッチするコメディーだ。
 大の人嫌い、というか人付き合いを極端に嫌う。誤解されやすく、それが近隣住民とのもめ事を引き起こす。不満とストレスがどこから来るのか、解決する方法は何か、周りを巻き込みながら主人公バーナデットは地球の端っこに逃げていく。
 脚本・監督は「ボーイフッド」(2014年)で第64回ベルリン国際映画祭監督賞を受賞したリチャード・リンクレーター。翔んでるバーナデットには「ブルージャスミン」(13年)でアカデミー賞、英国アカデミー賞を含む数々の賞を受賞しているケイト・ブランシェット。ビリー・クラダップ、クリステン・ウィグ、ローレンス・フィッシュバーンら個性豊かな俳優陣で脇を固めている。
 バーナデットの世界に入れる人間は夫エルジン(クラダップ)と15歳の娘ビー(エマ・ネルソン)だけだ。彼女には買い物やサービス発注などの一切を頼めるパーソナルアシスタントがいる。リモートで指示を出し、たまにバーナデットの愚痴も聞いてくれる便利で信頼のおけるマンジュラ。コミュニケーションは電話かメールでバーナデットが苦手な対面を必要としない。しかもマンジュラは遠く離れたインドにいて、絶対安心の距離感もある。
 そのマンジュラが実はロシア詐欺組織のフロント一味でFBIがバーナデットのところへも捜査に来る。近所とのトラブルや心の奥にある喪失感などで最近の自分の精神衛生が危ない域に達しつつあることを感じたバーナデットはマンジュラ事件を機に蒸発してしまう。彼女が向かったのは南極だった。自分の夢とエネルギーをぶつけられるものを探しに。
 原作は登場人物らの手紙、ファックス、Eメールなどで物語が構成されている。映画はコンパクトにまとまっているが読み手が想像力を駆使してビビッドな物語を紡いでいく本独特のエッセンスがビジュアル化の過程で少々薄まってしまったのが残念。1時間54分。PG-13。(明)

■上映館■
Regal E-Walk Stadium 13 & RPX
247 W. 42nd St.
AMC Empire 25
234 West 42nd St.
AMC Loews 34th Street 14
312 W. 34th St.

【今週の紙面の主なニュース】(2019年8月17日号)

今週のデジタル版は表紙をクリック↓

(1)サイボーグ009 神戸から播州藍屋NY上陸

(2)日本からこんなアイデア商品  SHOPPE OBJECT2019
アメリカ人バイヤーもびっくりワンダフル

(3)自動運転を実用化
ネイビーヤードで6台走行開始

(4)日本のお米、精米したてでどうぞ
ライスファクトリー24日にNYでオープン

(6)ウーマン NY日系社会に寄り添って
ニューヨーク日系人会 事務局長 野田 美知代さん

(8)「アンティゴネ」と「曾根崎心中」
国際交流基金  JAPAN 2019

(9)MASA(石合昌史)NY展を開催
Jコラボで9月14日から リハビリからアートの世界広がる

サイボーグ009

石ノ森章太郎生誕80周年記念で制作したスペシャルコラボ商品「サイボーグ009/秘めたる力」

神戸から播州藍屋NY上陸

ソーイング竹内の竹内取締役(右)と同社営業部の笹倉さん

 漫画家、石ノ森章太郎(故人)の代表作『サイボーグ009』が兵庫県播州織の伝統技術と融合し、ストールとなって米国に上陸した。10日から12日までニューヨークで開催された国際見本市「SHOPPE OBJECT 2019」のジェトロ支援事業に参加した。
 播州藍屋シリーズとして『仮面ライダー』『佐武と市捕物控』の3種類がある。製造発売元のソーイング竹内代表取締役、竹内裕児さんは「藍染めの文化をジャパンブルーとして世界に広めたい」と語る。職人技術の結晶を身につける喜びは、アニメ、コミックファンの多いニューヨークで注目を集めそうだ。問い合わせはEメール:sasakura@sewing-takeuchi.co.jp(笹倉さん)。(関連記事2面に)

日本からこんな アイデア商品

アメリカ人バイヤーもびっくりワンダフル

携帯用スピーカーに耳を澄ますバイヤー

SHOPPE
OBJECT
2019

 ニューヨークのマンハッタン・ピア36で10日から12日まで開催された国際見本市SHOPPE OBJECTで日本のデザインが注目を集めた。「パンが光ってる!」と来場したバイヤーたちが目を丸くしたのは、本物のパンからできたインテリアライト。出品したのは兵庫県神戸市に本社を置く「パンプシェイド」。フランスパンやクロワッサン、食パンまで、中をくり抜いてライトに加工している。同社アーティストの森田優希子さんは「日本では「パン屋さんのディスプレイなどで人気があります」という。
 また、特注の大型スピーカーを製造するクラッピン・ジャム・ウッズ(本社・愛知県半田市)の原田佳文さんが作った木製の携帯電話用のスピーカーには、ブルックリンの家具販売会社のインテリアデザイナーでオーナーのフランチェスカ・メシーナさんは「素晴らしい音ね」と聞き惚れて、その場で早速注文を入れていた。
 また会場ではスチール工具の東洋スチール株式会社が小物ケースを紹介、硝子食器のスガワラも高品質をアピールした。
 SHOPPE OBJECTは、かつて「NY NOW」に出展していた企業が主催者となり、2018年8月に約100社の規模から始まった新しい見本市。出展者やデザイン性の高い出品物が注目を集めて大きな反響を呼び、2月には200社に出展規模が倍増した。今回は会場をファッション・デザイン関連企業からの注目を集めているピア36に移し、約400社規模で開催された。今回の展示会出品に関しては、ジェトロ支援で国内から20社が選定され、「ショーケース・ジャパン」というジャパンブースを出し、大勢のバイヤーが訪れた。  
 ジェトロ・ニューヨーク事務所の杉山玲子次長は「この見本市はライフスタイルに注力したものなのでそれにマッチした企業が出展している。日本製品は繊細なデザインと技術に裏打ちされたクオリティーが強みになっている」と話している。

魅惑のアメリカ旧国道「ルート66」をフォーカス

その5:オクラホマのエンターテイナー

 ルート66ファンの皆さん、こんにちは! ここ東京は連日の猛暑にやられています。夜になっても中々30度を切らない熱帯夜。外界がここまで暑いと、オフィスで仕事をしている方は内外の気温差に悩まされているのではないでしょうか。かくいう筆者も、「咳喘息」一歩手前の乾咳と痰が止まらない苦悩が続いており、これを書いているいま、ようやく完治の光が見えてきた状況です。原因は寒暖差だけではありませんが、医者にはそれも充分に関係すると言われました。発症して1か月以上治らないので、同じ症状があった方々に聞いてみると「自然に治るのを待つしかない」との回答が大多数でした。筆者は漢方を飲み続けていましたが、どうやらこの「治るタイミング」のようです。皆さんもどうぞお気をつけくださいね。
 さて、前置きが長くなりました。先月は「夏は音楽!」ということで、ルート66を旅する際にピッタリなミュージシャンを紹介いたしました。そこで、今月はその音楽をもう少し引っ張り、あるエンターテイナーの話をしたいと思います。
 場所はオクラホマ州エリック。ルート66のオクラホマ州とテキサス州の州境までわずか8マイルの人口1000人程度の小さな街にそのエンターテイナーは静かに暮らしています。ネットで「サンドヒルズ・キュリオシティー・ショップ(Sandhills Curiosity Shop)」と検索してみてください。たくさんのビンテージものの標識や道路サイン、そして長い髭をはやしギターを抱えた笑顔満面の初老男性がこれでもか! とばかりに出てきます。そう、その彼がルート66上で最高のエンターテイナー、ハーリー・ラッセル(Harley Russell)氏です。
 ハーリーさんはその稀有なエンターテインメント性と(過去に)プロミュージシャンであった実力を持ちながら、ご自身のことを「二流の音楽創作家」と表現します。しかしそんな謙遜をよそに、彼のファンは世界中に存在し、ルート66を旅する多くの人たちは彼を訪ね、彼と笑い、そして彼に癒されます。ギター一本、即興でいろんな曲を弾き歌ってくれるハーリーさんのパフォーマンスはまさに圧巻! 筆者がフラッと初めて立ち寄った時も、得意のギターを抱えての演奏に、日本の旗を出してきて歓待してくれました。素敵なパフォーマンスに加え、心底もてなしてくれるそのホスピタリティー精神はルート66そのもの、そしてホテル業界に従事にする筆者にとってもとても勉強になるものでした。
 筆者がハーリーさんときちんとお話をしたのはわずか数年前。それまで幾度かエリックの街は通ったけど、なかなか日程と時間の都合上立ち止まる機会に恵まれなかったわけですが、その時は他にお客さんもいなかったことで、その場所から通り一本の裏にある自宅まで案内し、たくさんの話を聞かせてくれました。
 実はハーリーさんは2014年秋、最愛の奥様アナベルさんを癌で亡くしたそうです。ハーリーさん曰く、アナベルさんの才能とパフォーマンスの質の高さは折り紙付きだったらしく、誰からも愛される人柄をハーリーさんは心底好きだったとのこと。筆者に言わせれば ハーリーさん自身も相当凄いけど、お話を聞くにつれアナベルさんにも一度お会いしたかったと感じました。
 元々彼ら2人で始めたこの音楽の歓待パフォーマンス、きっかけは何気ないことから起きたそうで、当初彼らは健康志向の食料品販売を営むつもりだったそうです。ある日、そこでたまたまギターの練習をしていた時、あるツアーの団体客がその演奏を見て大喝采。チップをどっさりテーブルの上に置き、ツアーガイドさんはもっとこれから団体を連れてくることを彼らに約束して帰ったらしく、そうやってサンドヒルズの歴史は始まりました。ただ、サンドヒルズ・キュリオシティー・ショップとは言うものの、何かを売っているお店ではありません。ハーリーさんのパフォーマンスを楽しみ、お店の中に所狭しと並んでいる(置きっぱなしという表現の方が適切かな?)アメリカの歴史を語るルート66のお宝の山々を見学するだけ、というもので入場料は無料です。
 筆者も何度か足を運びましたが、なぜかこの場所に来てハーリーさんと話をしていると気持ちが安らぐ不思議な場所です。ルート66を愛し、音楽を愛し、旅を愛する、そんな共通点が国も人種も文化も全く違う人間を出会わせ同じ空間に導いてくれる。何度も繰り返しますが、これがルート66に魅了された楽しさそのものではないでしょうか。
 読者の皆さんもぜひオクラホマ州を旅して、ハーリーさんの魅力に触れてください。基本毎日オープン、朝9時から夜6時過ぎまでやってます。筆者も日本ルート66アソシエーションを運営する身として、「日本から絶対ツアーをここに引っ張ってくる」とハーリーさんに約束しています。ハーリーさんに最後に会ってからもう2年、いつか近い将来それが現実になるようもっともっと頑張らないといけませんね! それではまた来月お会いしましょう!

(後藤敏之/ルート66協会ジャパン・代表、写真も)

科学と宗教の狭間で

ダン・ブラウン・著
角川文庫・刊

 宗教と科学の闘争は今に始まったことではない。コペルニクスやガリレオなどの時代では宗教界が絶対的な力を誇り、神学に異を反する者は殺された程である。現代では当然科学的見解が世界に広まり、それが常識として受け入れられている。しかし、一歩外に出ると未だに聖書やコーランを事実であることを疑わない人間が大勢存在する。こういう者たちは科学的証拠や根拠を否定し、それ以外の考えを悪魔の所業だと信じ、神の代行などという名目でテロ行動を起こす者までいる。こういった世界情況を題材にした小説はいくつもあるが、その最前線にいるのがダン・ブラウンだろう。世界的に有名な著書『ダヴィンチコード』を手掛けたブラウンの最新作『オリジン』は前作にも増して挑発的な思想を顕著に表した作品である。 
 物語は希代の天才コンピュータサイエンティスト、エドモンド・カーシュが自分の発見した、全世界の宗教を揺るがすであろう科学的発見を宗教家たちに発表するところから始まる。この発見は人類史上最大の謎の2つを解明することだと知らされる。「我々はどこから来たのか、そしてこれからどこへ向かっているのか」。この発見を見せられた宗教家たちはカーシュにこれを世に発表しないよう説得を試みるが、この反応が逆に彼の発表の決意を強めるかのように、数日後、スペインの博物館で大々的な発表会が行われることになる。 
 この発表会に招待されるのが本編の主人公で、『ダヴィンチコード』でもお馴染みのロバート・ラングドンである。ラングドンは彼のハーバード大学時代の恩師でよき友人でもあるため、彼が根深い無神論者であることを知っている。そして、この信念こそが今まで科学の世界で彼を突き動かしてきた動力であることも。
 今作を読んでいて考えざるを得ないのが、全体的なテーマの科学vs宗教という問題についてである。私自身は無神論者であり、科学的根拠に基づかない真実は真実として受け入れるべきではないと信じているが、かといって宗教が世界に必要でないとは思ったことはない。もちろん、思考を完全に放棄し、神の教えに全てを委ねるのは愚かなことだと思っている。だが、たとえそれが非論理的で整合性を伴わないものだとしても、信仰とは人それぞれにあり、神を崇めることにより救われた人間は数多く存在することも否定できない。だからカーシュのように宗教を完全に否定し、世界から宗教を根絶するために活動している人物の主張を聞くたび、理解はできるものの、どこか違和感を感じてしまう。科学と宗教が両立する、どこかグレーゾーンに人間はいるべきなのではないかと。しかし今作で私が個人的に気に入っているところが、カーシュのような人物は世界に実在することである。科学だけを絶対的な学問として見て、宗教廃絶を支持する者。私はこういう人間が宗教と戦う様を見るたび、まるで新たな宗教団体が旧い宗教を否定しようとしてるようでつい皮肉な笑みを浮かべてしまう。

   (多賀圭之助)