編集後記

【編集後記】

 みなさん、こんにちは。週刊NY生活は、ご存知の通り、米国在留邦人向けの日本語ローカルコミュニティーペーパーで、ときには現地ミニコミ紙、「フリーペーパー」などと呼ばれるカテゴリーに分類されます。こういう媒体は、ひと昔前なら広告チラシにタウン情報を加えただけの軽い存在のイメージがあったのではないでしょうか。まあ、いまでもそんな風に見ている世間の目は感じないででもないですが、では、だからといってトランプ大統領が演説中に狙撃されたというようなアメリカで起こった重大ニュースをまったく扱わなくていいのかというと、そんなことはないのです。もちろん、そんな小さなメディアが、日本の歴史ある大新聞と取材活動力、人員態勢から言っても到底太刀打ちできないのは百も承知。じゃ何ができるの?といつも、重大ニュースが起こるたびに自問します。今回、事件が起こった翌日私は、北海道ゆかりの会で前々から決まっていたジンギスカンバーべキュー大会がブルックリンの公園で予定されていて、その日のための準備を前の夜からしていました。きっと翌朝はトランプタワーの前では何か騒ぎが起こっているのではないか、そんなことを思いながら公園で焼きそばを焼いている自分が、今こんなことをしていていいのかと内心焦っていたのです。フリーランスのカメラマンに自分は行けないので写真を頼み、帰宅途中のグランドセントラル駅売店でトランプ氏狙撃が1面に掲載されたNYタイムズ紙とデイリーニュースを買い、電車の中でフリーの記者にアメリカ人のコメント取りを頼み、米国各紙の論調を洗う、ジャーナリストの武藤芳治さんに「視座点描」を発注しました。日本の大手通信社から記事を買って転載するのは、やろうと思えばできますが、それをやらずに独自取材でオリジナルな記事を掲載するという創刊当初からの本紙の編集方針を貫くことで、日本では報道されないオリジナルな内容を掲載することがままあります。うちで書かなければ誰も知ることがない、というたぐいのものですね。今週号はそこまで大袈裟ではないですが、できる範囲で今回の事件を総括しています。こうやって矢の如く1週間が過ぎていきます。先週の今日が昨日のようです。それでは、みなさんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2024年7月20日号)

(1)暗殺未遂に世界が震撼 

(2)日本の心受け継ぐ松風荘 フィラデルフィア物語(下)

(3)2ドルと友情 ニューヨークの魔法

(4)今年も世界で最も裕福な都市はNY 

(5)「ほぼトラ」回避の唯一の道  視座点描

(6)想像を超えた難事の日々  仲本光一(書評)

(7)新作は母、石川須妹子への想い 現代舞踊家 田中いづみさん

(8)いま日本は世界中から観光客 田村麻子のカーテンコール

(9)民謡を現代的に表現 MIKAGE PROJECT NY公演

(10 )沈黙世界の幕開け シネマ映写室

暗殺未遂に世界が震撼

米市民の声

 7月13日、ドナルド・トランプ前米大統領がペンシルベニア州バトラーでの支援者集会の演説中に、銃撃され右耳を負傷。11月の大統領選を前に起きた事件に、米国の一般市民の人たちはどう思っているのか聞いた。

 マンハッタン在住のアンジェラさん(60代女性):この事件をきっかけにそれでも戦う姿勢を見せたトランプを強いと思う人が増えて、彼が大統領選に勝つと思う。

 マンハッタン在住のランスさん(40代男性)コンピューター・プログラマー:私は、トランプが暗殺未遂にあった討論会後の今、トランプが勝利へと傾いていったと思う。集会にいた消防士が家族を守って流れ弾に当たって死亡したことも影響する。アメリカ人の皆が消防士を愛しているからだ。

 トランプは楽勝だろう!そして、7月15日に発表されたトランプの副大統領候補に指名されたバンス上院議員の母親は3人の夫を持った麻薬中毒者という荒んだ家庭で育った。そんな苦労人を副大統領候補に選んだのにも共感を呼ぶ。

 マンハッタン在住のアンジェリーナさん(40代女性)建築家:何が起こるか予想するのは難しい。トランプには間違いなく多くの支持者がいて、それが彼が出馬する理由だ。その一方で、彼に反対する人も多い。今回の事件で彼の気持ちが変わることはないだろうし、むしろ出馬への熱意が高まり、選挙に勝つために躍起になるのではないだろうか。米国はうまくいっていない。分裂した国だ。それは強い民主主義の証ではない。

 ポキプシー在住のジョンさん(60代男性):私が思うに、トランプはこの暗殺未遂事件でより多くの無党派票を集めるだろう。彼は世論調査で1%強のリードを保っている。トランプはおそらく同情票を拾うだろうし、これを利用して民主党を非難し始めない限り、彼はうまくやっていけるだろう。有権者はこの2人の候補者に飽きていて、新しい顔ぶれに大統領選に立候補してほしいと思っているのだと思う。(石黒かおる)

事件翌日にはトランプタワー前に支持者が集まった(14日午後、五番街56丁目で、植山慎太郎撮影)

まさかの銃弾、選挙に潮目

銃撃前に見物者が発見
通報も間に合わず発砲

クルックス銃撃犯

 銃撃は、集会が開かれた屋外イベント会場の北約140メートル離れた敷地にあるARGインターナショナルという民間企業の製造工場の屋根から行われた。射程距離は120メートルほどとみられる。発砲に使用されたとみられるAR-15型の半自動小銃が容疑者の遺体の近くで発見されている。警察当局によると発砲はシークレットサービスが警備する区域外から行われたものとみられる。捜査はまだ進行中だが、警察関係者によると集会を見に来ていた人が屋根に人が登っていると発砲前に警官に伝えており、警官が対応しようとした最中、8発の銃弾を発射したと見られる。

 連邦捜査局(FBI)は、銃撃犯はペンシルベニア州ベセルパーク在住の白人男性、トーマス・マシュー・クルックス(20)と特定した。車から二つの爆発物が、自宅からも別の爆発物のようなものが発見された。暗殺未遂現場のバトラーから約70キロほど離れたペンシルベニア州ベテルパーク出身で、2022年に高校を卒業し、介護施設で働いていた。犯罪歴は確認されておらず、介護施設の採用時の身元調査でも問題はなかったという。

 動機や計画性は捜査中でまだ明らかになっていないが、単独犯と見られている。クルックスは18歳で共和党員として有権者登録していたが、17歳だった2021年に民主党系のリベラル系組織ACTBlueに15ドル寄付していた。事件を知った父親はほとんどなにも分からないと困惑しており、高校時代の知り合いらによれば「特別違った人ではなく普通だった」との声が多いものの、友人は少なく、いじめられていたとの証言もある。射撃部に入ろうとして断られたとの話もある。一方で全米数学科学イニシアチブから2022年に「スター賞」を受賞するなど理数系には強かったと見られる。

 銃撃で死亡したのは同州在住の消防士、コーリー・コンペラトーレさん(50)。熱心なトランプ支持者で、一緒に来ていた妻子をかばおうとして頭部に銃撃を受けたという。銃弾はステージの横方向から発射されており、ステージの左右にも観客席が組まれていた。流れ弾でほかに2人が重傷を負った。

負傷後ゴルフ場で一夜過ごす

 ペンシルベニア州バトラーで行われていたドナルド・トランプ前大統領の集会で7月13日午後6時15分頃、ステージで演説中のトランプ氏に向かって少なくとも8発の銃撃があり、トランプ氏は右耳を負傷、聴衆の1人が死亡、2人が重傷を負った。

 突然の銃声にトランプ氏はすぐに身をかがめ、会場は騒然となった。トランプ氏は大統領警護隊(シークレットサービス)に囲まれ1分ほど身をかがめていたが、狙撃犯が大統領警護隊によって射殺されたと連絡が入ると、大統領警護隊に囲まれながら、ステージを降りた。右耳のあたりは血まみれだった。ステージを離れる際に拳を振り上げ「ファイト」「ファイト」と叫ぶと聴衆からは「USA」「USA」と掛け声が沸き起こった。トランプ氏は事件発生から約2時間半後、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、「大統領警護隊と法執行機関の迅速な対応に感謝したい」と述べるとともに、死亡した支持者の遺族に深い哀悼の意を表した。事件の様子は「右耳の上の方を銃弾が貫通した。ヒューという音と銃声が聞こえ、皮膚が突き破られる感覚があったので、何が起きたすぐ分かった」と振り返った。バイデン大統領は14日の記者会見で、事件があった13日夜にトランプ氏に連絡して話をしたが「短いが良い会話だった。元気に回復しており心からうれしく思う」と語った。また大統領警護隊(シークレットサービス)の強化を指示したことを明らかにするとともに、「この国の政治の温度を下げる必要がある」と国民に冷静さを求めた。トランプ氏は同日、国民の「団結」を呼びかける声明を出し、 CBSによると、同夜はゴルフ場で一夜を過ごした。15日にはウィスコンシン州ミルウォーキーでの共和党全国大会に出席し、共和党の全国党大会で大統領候補に正式に指名された。なお副大統領候補にはオハイオ州選出上院議員のJ・D・バンス氏(39)が正式指名された。事件を受けてニューヨーク市警はマンハッタンにあるトランプタワーの警備を強化した。

日本文化の心を受け継ぐ、東海岸の文化交流拠点「松風荘」

 「まるで日本にいるみたいですね」と言った私に対して「いいえ。ここは日本よりも日本的ですよ」と返してきたのは、ワシントンDCからお越しになった表千家同門会米国東部支部の先生だった。

 都市公園としては世界一の広さを誇るフィラデルフィア市のフェアモントパーク。その一角にある「松風荘(Shofuso)」(=写真上)は、ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング誌において、北米にある300余の日本庭園の中でトップ3にランクインし、東海岸では最高評価を獲得。フィラデルフィア日米協会が心を込めて守り続けている松風荘は、東海岸全体の文化交流拠点としての重要な役割を担っている。

 その松風荘で今年4月9日、著名な書道家の海老原露巌氏とフィラデルフィア・オペラ座によるコラボレーションが行われた。4月末に『蝶々夫人』を上演するのに先んじて、オペラ座は特別に一部を松風荘で披露して下さった。これは、日本の伝統をオペラ座にアドバイスした日系ボランティアへの感謝の気持ちを表すためだった。

 松風荘の畳の部屋の奥から外の庭園に向かってオペラ座の合唱団が整列し「ハミングコーラス」の歌声を響かせた。それに聴き入った海老原氏は『MON DRESS』が寄付して下さった着物に、力強く【舞】という一文字を揮毫された。愛する夫を待ち続ける蝶々夫人の心だ。

オペラ座団員に掛ける、揮毫されたMON DRESS
海老原露巌氏、エリーズ・ブラニガンさんとお母様

 揮毫された着物は、合唱団の女性にそっと掛けられた。書院造りの建物の屋根の下で、フィラデルフィア市出身の作家が生んだ短編小説を基にしたイタリアオペラ、家紋をルーツとする着物デザイン、墨アートによる貴重なコラボレーションを目の当たりにして、日米の参加者たちは感動に包まれた。会場を見渡すと、全米日本語エッセイコンテストで優勝した地元高校生、エリーズ・ブラニガンさんの姿が目に留まった。 私は、海老原氏に土壇場でお願いしてみた。「なにかサプライズでプレゼントはできないでしょうか?」 海老原氏は快諾くださり、エリーズさんの目の前で、【希】と【和】の揮毫した団扇をプレゼントされた。次の世代における日本文化ファンの更なる増加を願った2文字だ。

 もっと知ってほしい。遠い異国の地に、日本の古き良き時代を彷彿とさせる松風荘が存在していることを。この奇跡の空間で日米の文化が融合し、互いの理解を深め、友情の絆をさらに強くし、未来へと繋げていかなければならない。皆様のご支援を賜りますように。

フィラデルフィア日米協会 副理事長 

穎川廉(Ren Egawa)

 30年以上にわたり日米欧のテック業界で最先端技術開発と新市場開拓に従事。パナソニック在籍中、新放送方式を開発、FCC(米国連邦通信委員会)で推進。世界規格に導き、本社役員賞を受賞。米SRIでは次世代GPU開発者、仏伊STではソフトウェア戦略チーフを歴任。現在は米Rexcel GroupのCEOとして、イノベーション推進事業を経営。フィラデルフィア都市圏の日米協会副理事長、アジア系アメリカ商工会議所顧問委員、オペラ振興諮問委員、フィラデルフィア管弦楽団アンバサダーとしてボランティア活動に従事。

2ドルと友情 ニューヨークの魔法

 財布を開けながら、何かおかしい、と思う。

 カフェでジェネファーと昼食をとった。私はバーガーで、ジェネファーはラップサンドを注文する。私のほうが、2ドル高かった。

 消費税とチップは大して差がないから、その分は折半しよう、とジェネファーが言った。合計で26ドルだったので、もし食べたものが同額なら13ドルずつ、という計算になる。

 中学校までの数学は得意だったはずなのだが、こういう計算に私は疎い。

 ジェネファーが計算して、と私が頼む。彼女の頭の回転は、やけに速い。

 ミツヨのほうが2ドル多いから、ミツヨが15ドルで私が11ドルよ。

 彼女が断言する。

 私は財布をテーブルの上に置き、彼女を見つめて、遠慮がちに聞く。

 ねぇ。食事の差が2ドルで、消費税とチップが同額なら、払う額の差も2ドルのままじゃない?

 ジェネファーは呆れた顔で、首を5回ほど横に振る。

 私がテーブルの上のナプキンを広げ、そこに数字を書き込んで説明する。

 二人の額が同じだったら、13ドルずつでしょう? 2ドルの差なんだから、私が13に1ドル足して14ドル、ジェネファーが1ドル引いて12ドルじゃない?

 ミツヨ、よく見て。二人が同じ額だったら、13ドルずつでしょ。

 そこまでは、私の主張と同じだ。

 でも、ミツヨのほうが2ドル多いから、ミツヨはそれに2ドル足して、15ドル。私は2ドル少ないから、2ドル引いて、11ドルよ。

 なるほど。いや、待てよ。それだと、ふたりの差額は4ドルじゃない?

 当たり前でしょ。ジェネファーはきっぱり言い切る。私は頭を抱える。が、ジェネファーは大手企業の副社長だ。こんな簡単な計算で間違えるわけがないではないか。それに、見よ、この自信に満ちた言いっぷりを。

 アメリカ人に堂々と押し切られると、ジャパニーズな私は、すっかり弱腰になる。

 納得し切ったわけではない。が、わかったわ、と引き下がる。 

 私がクレジットカードで支払い、ジェネファーから11ドルを受け取る。

 Now do you get it?

 もう、理解できたわよね。

 ジェネファーがほほ笑む。

 No. と言えば、こんな簡単な計算がまだ理解できないの、と悲し気に首を10回は横に振るだろう。

 まあ(Yes.)。

 私は首を縦に振る。納得できてはいない。

 よろしい(Good.)。

 ジェネファーは満足気だ。

 これから1週間分の洗濯をしなきゃ、と言って、彼女は荷物をまとめ始めた。

 私はどこかのカフェで仕事をしようと思った。

 ここに残って仕事すれば? 誰もいないから大丈夫よ。それに、誰かいたほうがお客さんも入りやすいだろうから、お店の人も気にしないわよ。

 ジェネファーは私をハグし、店を去っていく。

 ひとりテーブルに残され、私は数字が書き込まれたナプキンを見つめる。再びペンを取り、小学1年生でもすぐに解けそうな計算を、ナプキンに書いては消し、消しては書き、さらに30分間、悩み続ける。

 なぜ、差が4ドルにもなるのか。やはり、おかしいではないか。

 そして、ついに結論に達する。私は正しかった。

 ジェネファーにそう伝えたい。何も1ドルを返してほしいわけではない。

 が、ときにこういう些細なことで、うまく思いが伝わらず、意図してもいない方向へ話が進んでいく、という経験がないわけではない。まして、お金がからんでいることだ。

 わかったわよ。1ドル払えば、いいんでしょ?

 などとジェネファーがへそを曲げて、友情が一瞬で壊れないとも限らない。

 いや、そんなことで壊れる友情なら、それまでのことだ。だが、こんな計算を間違えるなんて、副社長としての沽券に関わるのではないか。ほかの人と食事をしたときに、恥をかくかもしれない。

 私は悶々と、さらに30分間、悩み続ける。

 その夜、私はジェネファーとまた会った。が、2ドルの話を切り出す勇気はなかった。

 私はナプキンを捨てずに、その後、フランス、スイス、デンマークへと渡り、日本に戻るまで、スーツケースのポケットに、破けないようにほかの書類の間にはさんで、丁重に保管しておいた。

 帰国早々、おもむろにナプキンを広げて、夫に見せる。

 夫は腕組みをし、考え込む。そして、15秒ほどで結論を出す。

 食事の差が2ドルなんだから、払う金も2ドルの差だろ。

 さすが、数学に強い日本人だ。

 では、方程式にあてはめて、解いてみよう、と夫がペンを取る。

 方程式が必要か。私は首を傾げる。

 しかし、こんな計算ができないのに、アメリカでは副社長になれるなら、私は社長だ。

 やっぱり、ジェネファーに言うべきね。私が正しかったと。たとえ、友情が壊れようとも。

 夫は首を縦に振らない。

 これが150ドルじゃなくて、よかったね、と笑う。

 差が1ドルではなく、10ドルだったら、ヘソを曲げられようと、友情が壊れようと、迷うことなく伝えていた。

 でも、私が正しかったことを、知らせたいわ。

 夫がにやりと笑いながら、提案する。

 何も言わずに、今度、一緒に食事するとき、彼女より2ドル安いものを頼めばいいんだよ。

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第6弾『ニューヨークの魔法をさがして』に収録されています。

https://www.amazon.co.jp/dp/4167717220

今年も世界で最も裕福な都市はNY

 投資移住コンサルタント会社のHenley & Partnersによる「世界で最も裕福な都市ランキング2024」が発表された。5月上旬に発表された今年のランキングで1位を獲得したのは、昨年と同じくニューヨーク市だった。NY市に住む人で投資可能資産が100万ドル(約1億5700万円)以上の人(ミリオネア)は34万9500人で、同1億ドル(約157億円)以上の人(センティミリオネア)は744人、同10億ドル(約1570億円)以上の人(ビリオネア)は60人。総額は3兆ドル(約470兆円)という信じられない金額が出された。

 2位には富裕層が過去10年間で82%も増加したサンフランシスコ・ベイエリアが入った。3位は東京で、約29万8300人のミリオネア、267人のセンティミリオネア、14人のビリオネアが住んでいると報告されている。東京は10年前、世界で最も裕福な都市として首位に立っていたが、この10年間で居住する富裕層人口が5%減少した。4位以下は次の通り。4位シンガポール、5位ロンドン、6位ロサンゼルス、7位パリ、8位シドニー、9位香港、10位北京。50位までのランキングと詳細はウェブサイトhttps://www.henleyglobal.com/publications/wealthiest-cities-2024を参照する。

「ほぼトラ」回避の唯一の道

 2年前の安倍元首相暗殺事件のおぞましい記憶がよぎりました。しかしこちらは悲劇が回避されました。生還はそれこそ神様のおかげとばかりにキリスト教保守派などの支持層はさらに勢いづき、これで「トランプ返り咲きは固い」と株価は急上昇、イーロン・マスクは毎月4500万ドルを選挙資金として陣営側に提供すると公表しました。企業や富裕層への大型減税が継続し、気候変動の否定で企業活動へのさまざまな規制が緩和されると踏んでいるからです。

 星条旗と青空をバックに血飛沫顔で右腕を突き上げるトランプの写真。その彼の「ファイト! ファイト! ファイト!」の怒声に興奮する共和党に対して、民主党、老齢不安のバイデンは今のところ盛り返しの機運が全く見当たりません。おまけにバイデン支持と目されていた最大級の労組である全米トラック運転手組合(通称チームスター)が急に中立を言い出した。

 バイデンの2期目はないとかねてずっと言ってきた私ですが、現実には誰も現職の首に鈴をつけられずにズルズルとここに至りました。8月19日からの民主党全国大会で正式候補を決めるわけですが、その前にバイデン交代が実現するか否か、タイムラインとしては今月末がギリギリ。つまり共和党の全国大会が終わる今週末以降、大きな動きがあるはずです。

 そこでの注目点はトランプの副大統領候補に、オハイオ州選出の新人上院議員J・D・ヴァンスがピックされたことです。『ヒルビリー・エレジー』という回想本でラストベルトの白人労働者階級の悲哀を描いたこの人物は、8年前の大統領選ではトランプのことを「アメリカのヒトラー」「文化的ヘロイン」と呼び「自分は絶対にトランプを支持しない」と公言していたのに、いつの間にかトランパーになっていた。オハイオという激戦州の出で、さらに39歳の若さ。白人男性票を固めるための選択でしょうが、民主党としてはこの共和党が「白人男性」組であるという点が攻め所でもあります。

 バイデンが交代するとしても、巷間言われたニューソム・カリフォルニア州知事やウィトマー・ミシガン州知事らが台頭する時間的余裕はすでにありません。しかも56年前のシカゴでの全国党大会大騒乱の記憶を持つ民主党には、候補乱立で党内抗争をする余地はない。するとカマラ・ハリスしかいない。しかも6月までにバイデン陣営に集まった2億5000万ドルの選挙資金は、ハリスなら法的にも順当に引き継げる。共和党の「白人男性」組には、女性候補組をぶつけるしか民主党の勝機はないというのが現時点の私の読みです。

 実はトランプのバックでもある保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」が「プロジェクト2025」という一大アジェンダを発表しています。執筆者の80%が第一次トランプ政権の関係者であるという布陣で、第二次トランプ政権では全米規模の妊娠中絶権の撤廃や大統領への権限集中、不法移民の巨大収容所設置や学校の銃武装、LGBTQの人権に代わる異性愛家族主義の尊重などを謳っています。トランプはこの極端なアジェンダから今は距離を置く姿勢を見せますが、ヴァンスもまたかつて米国の少子化問題を「カマラ・ハリスやオカシオ=コルテスら子どもを持たない猫好きの女たちが国を動かしているせいだ」と発言した人物。

 それでなくとも分断した米国で、白人男性vs非白人女性という人種とジェンダーの別の対立を持ち込むことになりそうですが、独裁と復讐に燃えるトランプの返り咲きを回避しリベラル民主党が勝利する道は、もうそれ以外に残っていないという状況であることは確かだと思われます。(武藤芳治、ジャーナリスト)

新作は母、石川須妹子への想い

現代舞踊家

田中いづみさん

 日本を代表する現代舞踊の振付作家が作品を披露する第51回「現代舞踊展」(主催:東京新聞、後援:一般社団法人現代舞踊協会)が今月3日と4日、東京都目黒区のめぐろパーシモンホールで開催され、ニューヨークで20年間舞踊家として活動した田中いづみさんが新作「メメント・モリ 慈しみの人へ」を公演した。

 これまで地球温暖化や戦争など、主に社会問題をテーマにした作品に取り組んできた田中さんだが、今回は恩師でもある母、故石川須妹子さんが1年前に死去し、シンプルに今生きていることの大切さ、喜びを表現する作品を作りたいと思ったという。田中さんの同新作には、プロを目指す大学生から石川さんに長年師事したベテランまで、年齢幅の広い男女16人が参加した。ゆったりとした曲調のソロのピアノ演奏で始まり、木漏れ日のような優しい照明のなか、各々の白い薄い生地の衣装を着たダンサーたちが、今を実感しながら日常を送る人々を表現する。曲調が明るく軽快になると確実に前に進んでいき、最後は1970年代の名曲「ウィル・ユー・ダンス」に合わせて、生きていることの感謝を伝える様子を伝えた。田中さんは文化庁派遣在外研究員として渡米し、1987年からニューヨークの現代舞踊界で活躍し、ニューヨーク大学舞踊教育学科で講師も務めた。2007年に帰国し、現在はダンスアカデミー(現:石川須妹子・田中いづみダンスアカデミー、練馬区小竹町)で育成、指導する傍ら、現代舞踊協会の理事、アーティストとして日本の現代舞踊界の発展に努めている。

 これからの目標は、以前から抱いていた強い思い「モダンダンスほど身体にいいものはない」ということを広く伝えていくこと。現代舞踊は、抽象的でわかりづらいという印象があり、日本ではあまりメディアに取り上げられることがない。日本の現代舞踊界の巨匠として知られた田中さんの母、石川さんは、婦女子が人前で踊ることはふしだらと言われていた軍事政権下、さらに父も軍人だったため、家出覚悟で舞踊界の門を叩いた。長女の田中さんは、そんな母の影響で自然に3歳から踊りを始め、自由に現代舞踊の道を進んできたため、東京とニューヨークの生活にあえて環境の違いを感じたことはないという。以前、筆者が石川さんの米寿記念公演を取材したとき、若さの秘訣はと問うと「踊りに対する情熱が絶えず、常に未知のものに触れたいという好奇心を持っていること」と答え「死ぬまで踊り、舞台に立ち続けたい」と話していた。(浜崎都、写真・スタッフ・テス(株) 中岡良敬)

想像を超えた難事の日々  仲本光一(書評)

医務官と邦人支援

仲本光一・著
世論時報社・刊

 在外公館に派遣されている医務官の仕事は、館員と家族の健康管理、現地医療事情の調査と在留邦人への情報発信だ。 さらに、 在留邦人や邦人旅行者への健康相談や緊急事態の時の邦人援護を行うこともある。本書は、その医務官としてニューヨーク日本総領事館に2005年から2007年まで勤務した仲本光一さんが執筆した新刊で、拉致問題から同時多発テロ事件まで海外邦人を支えた彼の仕事の現場を振り返った「想像を超えた難事の日々」を綴ったメッセージだ。

 仲本さんは川崎市出身で、弘前大学医学部を卒業して医師国家試験合格後、横浜や藤沢の病院で約10年間の勤務を経て外務省医務官採用試験に合格して1992年に入省した。すぐ在ミャンマー日本大使館へ医務官として派遣された。インドネシア、インドの在外公館勤務を経て2005年にニューヨーク日本総領事館に赴任し、メンタルヘルス担当官・医務官として働いた。ニューヨーク勤務中に、仲本さんが当時の米国日本人医師会会長だった本間俊一コロンビア大学教授からニューヨークにおける医療機関と医療活動をしている日系NPOとの連携強化の必要性を訴えられ、仲本さんが中心となって現在の邦人医療支援ネットワーク(JAMSNET)設立に関与した。

 ニューヨークでは、ニューヨーク日系人会(JAA)が在米邦人や日系高齢者への福祉活動を行なっているほか、メンタルヘルスを中心にした日米カウンセリングセンター、困窮した日系人の駆け込み寺として救済相談などをしている日米ソーシャルサービス(JASSI)など多数のNPOがそれぞれ独自に活動を行っていたが、横の連携は希薄だった。そこで日系社会が抱える医療福祉のどこに弱点があるのかどこの支援が今最も必要とされているのかを総括的に判断できる組織が必要とされたのだ。

 こうした支援NPO、医療のほかに福祉、教育、生活支援などの団体がNY日本総領事館で一堂に会して定期的に会議を持つことになった。幼少時代からピアノを習い、学生時代はジャズ研でピアノを弾いていた仲本さんが、多くのプレイヤー達が集まり、楽譜にとらわれず、共通の目的のために一つの音楽を奏でるジャズのジャムセッションにひっかけて邦人医療支援ネットワークを「ジャムズネット」と命名したのは仲本さんならではだ。ニューヨーク日系人会がジャムズネットと共催で開催したヘルスフェアは、春と秋の年2回開催されるようになり現在まで続いている。ジャムズネットの環は、東京やシンガポール、ドイツなどにも広がった。

 同書では、2001年ハワイ・オアフ島沖で愛媛県立宇和島水産高校の練習船えひめ丸が米原子力潜水艦と衝突して教員5人、生徒4人が亡くなった時に遺族が求めた遺体との対面を外務省が米国側と交渉した経緯、北朝鮮拉致問題で2002年に小泉純一郎首相(当時)訪朝時、外務省医務官として同行し、北朝鮮が主張する横田めぐみさんの死亡について、平壌直轄市から離れた片田舎の精神病院の病院長から話を聞き、死亡台帳を見せてもらいそれを写真に記録した経験など、重大事件の証人として本書に書き記している。退官後、仲本さんは現在奥様の故郷岩手県で保健所長をされている。(三浦)

いま日本は世界中から観光客

 夏真っ盛りですね!私は今、日本に帰国中ですが、帰ってくる際に外国人観光客のあまりの多さに圧倒されました。日本に関心を持ち、旅する事を楽しみにしている人が、こんなにも多いのかと嬉しい反面、ここ数十年なかった程の円安の今、日本に来たい人は予想以上に多いのだろうとも思います。が理由はどうあれ、実際に日本に来て肌で知ってもらえる事は良い事です。私もこれまで、外国人友人達を何度も観光案内して来ましたが、彼らと観光する事で、当たり前と思っていた事が、彼らの視点からだとまるで違う風に感じたり、それまで気づかなかった日本の良さを再認識したり、新たな発見が色々あって面白く思ったものでした。またどの国から来たかで、見る箇所や感じる事が違ってくるのも興味深い事です。例えば、イタリア料理が世界一美味しいと思っているイタリア人友人達が、日本のイタリアンが予想以上に本格的で、店によっては自国より美味しいとカルチャーショックを受けていた事もありましたし、フランチャイズ店ですらレベルが高く、サイゼリヤのトマトパスタなどはママの味がするとまで言った歌手の友人もいました。他にも古いお寺や最新のビルディングが同じ区域に存在している事(ヨーロッパの都市は大抵、旧市街、新市街に分かれています)、公共機関の乗り物が時間通りに来る事などに驚かれ、大きな駅で人がごった返している時にお祭りでもあるのかと聞かれた事もあります。中国人の友人は、どこもかしこも清潔で道にゴミが落ちていない、交差点で皆信号を守る、電車に乗る時にみんな順番を守る、と感心され、アメリカ友人達には、公共トイレにウォシュレットがあり、便座の上に動くビニールシートがある、どこで何を食べても美味しい、妊婦や障害者をあまり見かけない、など指摘され、その度に誇らしかったり、考えさせられたり。そうかと思えば、逆に私が彼らの行動にカルチャーショックを受ける事もありました。例えばレールパスがまだない頃に、1日目が東京、2日目は京都、3日目に広島へ行き、その翌日には東京に戻る、というような、ダイナミックな動線を聞いた時には、本当に驚いたものでした、が、よく考えたら私も卒業旅行で、ドイツのロマンティック街道1泊、別都市1泊、フランスに移動しパリ1泊、その後ミラノ、ベネツィア、ローマと1泊ずつ、と似たような事をしたなと、思い出して笑ってしまいましたが。旅とは言うまでもなく、見聞を広げ、世界を広げ、価値観を広げ、思い出を作る素晴らしいものです。ハプニングは確かにつきものですが、それに対処し乗り越える度に経験値が増え、ライフレッスンとなります。今後、日本は観光大国となっていくでしょうから、外国語表記を更に増やし、旅行者にも分かり易い案内を増やす事で、この安全で、人が親切で優しく、美味しいものが沢山の日本の素晴らしさが、今以上に世界に広がると良いなと思っています。

田村麻子=ニューヨークタイムズからも「輝くソプラノ」として高い評価を受ける声楽家。NYを拠点にカーネギーホール、リンカーンセンター、ロイヤルアルバートホールなど世界一流のオペラ舞台で主役を歌う。W杯決勝戦前夜コンサートにて3大テノールと共演、ヤンキース試合前に国歌斉唱など活躍は多岐に渡る。2021年に公共放送網(PBS)にて全米放映デビュー。東京藝大、マネス音楽院卒業。京都城陽大使。

民謡を現代的に表現 MIKAGE PROJECT

世界ツアーNY公演

8月6日ジョーズパブで

 日本の伝統的な民謡を現代的なテイストでユニークに融合させた3人のミュージシャンによるグループ、MIKAGE PROJECTが8月6日(火)午後7時から、ジョーズ・パブ(ラファイエット通り425番地)にてパフォーマンスを披露する。(協力:独立行政法人国際交流基金)

 民謡は、地域の豊かな色彩や生活様式を映し出す日常生活における音楽の宝物である。「神霊」を意味するMIKAGEは、これらの民謡の美しさを大切にし、分かち合い、その精神を後世に残すことを目的としている。軽快なリズムとメロディーを持つ多彩なセットリストで、観客が一緒に踊り、歌う機会もある。出演の佐藤公紀(尺八、竹笛)は、民謡一家の長男として生まれ、幼少より演奏活動を始める。東京藝術大学卒業後、さまざまなジャンルのプロデュースや演奏活動を行う。浅野祥(津軽三味線、ボーカル)は、祖父の勧めで5歳から津軽三味線を始める。慶應義塾大学卒業後、民謡と三味線を現代風に融合させた魅力を世界に発信している。本間隆(二十五絃箏)は、3歳より母に箏の手ほどきを受け、桐朋学園大学音楽学部邦楽科卒業。作曲・演奏活動のほか、箏曲家としても活動している。

 入場料は25ドル(事前購入)、30ドル(当日)。チケット・詳細はウェブサイトhttps://publictheater.orgを参照する。

沈黙世界の幕開け A Quiet Place: Day One

 声を潜め音を殺して生き延びる「クワイエット・プレイス」シリーズの第3弾。続編ではあるが物語は前2作を遡る前日譚の位置づけだ。

 地球を侵略した残虐なエイリアン・モンスターは視覚機能がなく盲目だが、その分、鋭敏な聴覚を持っている。少しでも音を立てた瞬間にモンスターは襲ってくる。前2作では地球が急速に破滅に向かって行く中でのアボット・ファミリーのサバイバルがメインテーマだった。舞台は人類がほとんど滅びた田舎で静寂が全編を覆っていた。

 何故そんな世界になってしまったのか。それを物語る3作目は世界で最も賑やかで騒がしいビッグアップルでスタートする。

 監督、脚本、登場人物は一新。「12 Years a Slave」(それでも夜は明ける)でアカデミー助演女優賞を受賞したケニア出身女優ルピタ・ニョンゴとネットフリックスの人気ドラマ「Stranger Things」で大ブレイクのジョセフ・クインの顔合わせ。監督・脚本は「Pig」で注目を浴びた新鋭マイケル・サルノスキ。

 詩人のサムは、がんのためニューヨーク市郊外のホスピスに入院している。今日はコーディネーターのすすめで気晴らしにマンハッタンに行ってみることにした。ペットのフロドも一緒だ。昔、大好きだった自宅近所のピザを食べるのも悪くない。

 しかしマンハッタンに着いてしばらくすると突然、上空が騒がしくなり、巨大なモンスターが人々を襲い始める。彼らが音をめがけて襲ってくるというのが分かるまでそれほど時間はかからなかった。沈黙の世界の扉が開き始める時だ。

 政府はマンハッタンからの避難を呼びかけ、サムは移動の途中に知り合ったエリックと行動を共にする。自分の命はモンスターが現れる前から限られていた。襲われる怖さから逃げようとする行為は本能的なものだが死ぬこと自体はすでに受け入れている。不思議な心理的空間の中でサムはエリックの手助けで自分がしたかったことを遂行する。サムが「生きている」と実感した唯一の時だった。ペットのフロドの「全てはお見通し」的振る舞いには脱帽。1時間39分。(明)

(写真)声を出しそうになるサム(ニョンゴ、左)Photo : Gareth Gatrell/Paramount Pictures


■上映館■

Regal Times Square

247 W. 42nd St.

AMC Empire 25

234 West 42nd St.

AMC 34th Street 14

312 W. 34th St.