手斧男ATMで市民襲う

ブロードウエーの無人銀行

容疑者は退役軍人

 ニューヨーク市警(NYPD)は15日午後5時22分マンハッタンのダウンタウン金融街ブロードウエー42番地にあるチェース銀行ATMで市民の男性を手斧で襲って腕や頭を斬りつけた元米国陸軍退役軍人のアロン・ガルシア容疑者(37)を第二級殺人、第一級襲撃容疑で逮捕した。

 市警によると、ガルシア容疑者は、同ATMに手斧を持って入り、背後から無言でATMを操作していた男性、ミグエル・ソロザノさん(50)の左足を一撃、激痛を覚えてソロザノさんが振り返ったところを手斧で頭部を斬りつけた。銀行の防犯カメラには、血まみれになって逃げ惑い抵抗するソロザノさんと執拗に斬りつけるガルシア容疑者の格闘の様子が記録されている。

 ガルシア容疑者は、3台のATMの画面を手斧で連続して叩き割って手斧を床に投げ捨てて現場を立ち去った。ソロザノさんは駆けつけた救急隊員によって病院に搬送されたが重体。

 事件から2日後の17日午後8時ごろチェルシー地区の8番街で駐車中の自動車の窓をハンマーで割っている男がいるとの市民の通報を受けた10分署の警察官が現場に駆けつけガルシア容疑者を現行犯逮捕。銀行ATMの映像から15日の襲撃事件と同一犯と断定し再逮捕した。

 同容疑者は元米国陸軍の退役軍人で2002年から09年まで憲兵として従軍し、この間2年間イラク戦争の最前線では戦闘員としても服務、武勲を称える勲章なども授与されている。復員兵の精神障害の可能性も含め慎重に捜査が進められるが身柄はマンハッタン地裁拘置所に勾留中。保釈金150万ドルが課せられている。

(写真)手に斧を持って侵入する容疑者(ATM防犯カメラから)

線路に飛び降り人命救助

ブロンクス警察官お手柄

 サウスブロンクスの地下鉄駅で18日午前11時ごろ、電車がホームに入ってくる線路に落ちた男性を見回り中の警察官が危機一髪で救う出来事があった。149丁目3番街駅で女性の「急いで」という叫び声を聞いた地下鉄警察12分署の警察官ルディン・ロペス巡査が駆けつけ、線路の上に倒れた男性に声をかけるも反応はなく、線路の向こうからはホームに入ってくる地下鉄のライトが近づいてくる。通行人が撮影した投稿動画によると、警官は一瞬戸惑いを見せたが、迫り来る地下鉄を見ながら線路に飛び降り、抱き抱えるが、男性が重たくてびくともしない。もう一人男性市民が線路の飛び降り加勢、二人で抱き抱えてホームに持ち上げ、警察官たちも自力でホームに這い上がった。ホームで固唾を飲んで見守っていた市民から拍手と歓声が湧いた。地下鉄は前方の異変に気がつき、スピードを減速したようだった。ホームに落ちたのはクイーンズ在住の60代の男性とだけ公表され氏名などは明らかにされていない。ホームで目眩を起こして線路に転落し、意識を失っていた。男性はリンカーンホスピタルに搬送されたが生命に異常はないという。翌日、ニューヨーク市警(NYPD)はロペス巡査の勇気ある行動を称えるコメントを市警のホームページで発表した。巡査は「たまたまタイミングよく居合わせた。自分の仕事をしたまで。人命救助でき満足」とコメントしている。

オレオ満喫できるカフェ

アメリカン・ドリームにオープン

 クリームを挟んだサンド・クッキー「オレオ」商品を満載したカフェがこのほど、ニュージャージー州ラザフォードの複合商業施設アメリカン・ドリーム内に開店した。 

 同カフェのメニューには、オレオを使ったサンデーやチーズケーキのほか、オレオのアイスクリームと砕いたチョコレート・ワッフルコーン、マシュマロ、ファッジなどがトッピングされた同店舗限定の「オレオ・ドーナツ・スモアウィッチ」などがある。またワッフルやアイスクリーム、ミルクシェークを選んで、自分好みのデザートを作ることもできる。食事の他にも、トート・バッグやアパレル、オレオの香りのキャンドルなどの雑貨も販売する。 

NY日本人美術家協会 第49回年次展覧会対面で

天理文化協会で9月1日から16日、20人が出品

 ニューヨーク日本人美術家協会(JAANY、松田常葉会長)は9月1日(水)から16日(木)まで第49回 年次展覧会を天理文化協会(西13丁目43番地A、電話212・645・2800)で開催する。同美術家協会は1972年創立で、ニューヨークで現在活動する日系美術家グループとしては最も古くNY州からもNPO法人として認可を受けている。

 出品者は、阿井次郎、青木壽子、青柳愛子、愛子Cascio、シモン千加子、藤原未佳子、古川文香、林幸江、柏木文子、越光桂子、松田常葉、三浦良一、長倉一美、小野田昌子、ロス郁子、竹下宏、山本さとこ、YUKAKO、遊真あつこの現会員と昨年亡くなった名誉会長の飯塚国雄の20人。

 チャリティ小作品も手頃な価格で販売

 期間中、会場ではメインの作品展示販売とは別に2011年の東日本大震災のためのチャリティ用小作品も1点200ドル以下で販売する。

 展示作品販売による収益金(作品価格の50%)はジャパンソサエティの災害救済基金に寄付される。優秀作品2点には、「マックス・ブレッチャーJR賞」ならびに「末村敬三賞」の二賞が贈られる。

 オープニングレセプションは3日(金)午後6時から8時まで。要予約http://jartists-ny.org/news  または、フェイスブックwww.facebook.com/JAAofNYから。

 会場入場にはワクチン接種証明要マスク着用。開館時間は月曜から木曜が正午から午後6時。土曜が正午から午後3時。金曜と日曜、レイバーデー(9月6日)は休館。

(写真)2019年のオープニング風景 Photography by Tokoha Matsuda

アスレジャーを楽しむソーホーの女の子

街角ファッション動画DEチェック①

 今週号から毎月1回の連載で、日本の大手アパレルメーカーのファッション研究チームによる米国のファッション動画インタビュー企画「W2NXT」を掲載します。W2NXTは、Wear2Nextの略。米国中の街、NY内の各エリアを回ってインタビューし、ファッションチェックをする中で、「次はどこ?」で 「どこ」のWhereと、着るの「Wear」を被せてます。ぜひ、本紙デジタル版の動画をご覧ください。

着心地重視でゆったり

 ソーホーの週末、昼下がりに出会った素敵な女性。ベジャのスニーカーにロード&テイラーのバッグ、リーバイスのデニムにブルックリンの古着屋で購入したセーターとNJアスベリーパークのインター・ウーブン(Interwoven)のジャケットが今日のコーデだ。

 贔屓にするところはなく、さまざまなブランドを試すのがお好み。大きなお店でショッピングを楽しみたいときはZARAで、高級感を味わいたいときはラグ&ボーンのショップに足を運ぶ。アッパー・ウエストサイド在住で、普段はセントラルパークやウエストサイド・ハイウェイで自転車を楽しむ。

 今日もシティ・バイクで6マイル走って来た。アクティブなので、スニーカーが大好きで、リーバイスもフィット感が気に入っているという。中身はアスレジャートレンドだが、見た目はデニムやセーターとカジュアル感を演出する素敵なコーデだ。アスレジャー(Athleisure)とは、アスレティック(Athletic)とレジャー(Leisure)を掛け合わせた造語で、着心地重視のゆったりした服装を指す。従来の硬い生地からストレッチファブリックを採用することで履き心地向上を実現したジーンズもこのトレンドの範疇とされる。従来、リーバイスは男性向けが強いブランドだったが、アスレジャートレンドによりフィット感が増し、女性ファンが増えたとも言われている。トレーニングやヨガウェアで外出するアメリカ人も多い中、彼女のようにカジュアル感を保ちつつアスレジャーを楽しむのも面白い。

(Wear2Nextチーム/アパレル業界関係者によるファッション研究チーム)

世界のどこでも働ける時代

「ワーク・フロム・エニウェア(WFA)」が合言葉

NPO法人ジャネットがウェブサイト刷新

榮枝代表

 NPOジャネット(榮枝洋文代表)はIRSの非営利501の資格を2010年に登録以来、ニューヨークに在籍する企業人が「メンター」となり、若手の人材へ知見を共有する活動「Future Japan MENTOR Network(FJMN)」を2013年から開始して9年目に入る。

 これまではニューヨークに来る若手を対象にエグゼクティブの英知を提供していたが、その若手が成長し企業人としてニューヨークに戻ってくるケースも生まれてきた。

 コロナ禍でWFA(Work From Anywhere=ワーク・フロム・エニウェア)の概念が昨年以来広まり、FJMNのメンバーもニューヨークや東京に限らず、世界の各地で活躍しオンラインで集まるようになった。この活動趣旨に沿う形で今月ウェブサイトのデザインを一新した=写真下=。ウェブサイト構築には元ジャネット理事の任期を務めた山田惠さん、FJMN活動メンバーだった野原木綿子さんが務めるニンバス・ワークス(Nimbus Works)社に依頼。FJMN活動を良く知る二人のおかげでスムーズな移行が完了した。

 NPOジャネットの日々の活動は、オンラインでのグループメールやカレンダーやドキュメントを共有して進める「バーチャル」組織として運営している。たとえば年度の確定申告などは在東京メンバーがニューヨークの会計事務所と連携してファイリングを行っている。WFAを合言葉にNYから世界で活躍する仲間と共に成長していく。

 ニューヨークのNPO理事として就任していた7人の理事の構成が、現在は日本在住が3人 、ニューヨーク在住が4人の比率になっている。

川畑さん

 時差を越えてオンライン参加

 FJMNの定例活動として参加している「NY一旗(ひとはた)会」は事業主の集まりで、会合主旨がFJMNの活動と一致するため、FJMN発足時から相互活動支援を行っている。

  川畑孝史さん(26)はソフトバンク株式会社の福岡拠点で新入社員として2021年4月から企業人スタートをした。「私が大手企業に就職し、大きなチャンスをいただけているのも、FJMNでの「能動的な姿勢」にエグゼクティブから気づかせてもらったおかげ」としている。 

 奥田陽久さん(27)はインドネシアの首都ジャカルタで、日本資本の医療スタートアップの責任者として2019年から舵取りを行っている。

ジャカルタの奥田さん

 「誰かがやるだろう、と思うのは自分らしくない。損得ではなく自分の基準で社会に役立てればと思う」と、ニューヨーク時代からNPO支援を行ってきた心意気を継続している。

 現状では、川畑さんと奥田さんが、遠方から一旗会にFJMN活動として参加している。彼らのような英知を得て成長した若手が、今度はエグゼクティブ役として広げていく「新たなステージ」に成長してきた。

japanesenetwork.org

ビンテージ列車日帰り旅行

マンハッタンと州都を結ぶ

 歴史的な鉄道の備品や装具などの保存を推進する非営利教育機関、NJユナイテッド・レイルロード・ヒストリカル・ソサエティは今秋、かつてNY〜シカゴを走行し、映画やミュージカル「特急二十世紀」でも知られる列車「20世紀リミテッド」を4日間限定で運行する。 

 同ツアーは、ペンシルベニア駅〜オールバニ・レンセラー駅を日帰りで往復する。豪華車両「ヒッコリー・クリーク」に乗車するツアーは、車内厨房でシェフが調理した4コース料理が付いて料金は1人299ドル、またビンテージ車両「タバーン・ラウンジNo.43」搭乗のツアーは、サンドイッチなどのビュッフェ形式の食事付きで149ドルとなっている。同ツアーの運行日は10月、2、3、9、10日、詳細はhudsonriverrail.com

編集後記 8月21日号

【編集後記】

 みなさん、こんにちは。新型コロナウイルスの新規感染者の9割以上を占めるデルタ株に続き、新たな変異株「ラムダ株(Lambada Variant)」が米国各地で出現し始めています(本紙今週号1面既報)。ラムダ株は昨年8月にペルーで初めて特定され、チリ、アルゼンチン、エクアドルなど南米を中心に、欧米含めこれまで40カ国以上で確認されています。世界保健機関(WHO)は6月に、「注目すべき変異株(VOI)」に分類。「懸念すべき変異株(VOC)」に分類されている「デルタ株」よりは警戒度は低いですが、感染力やワクチンの効果への影響などが実際どの程度なのか現時点ではよくわかっていないため今後変更の可能性もあります。米国で最初に確認されたのはテキサス州ヒューストンにあるヒューストン・メソジスト病院で7月19日に発表。その後、カリフォルニア、テキサス、ルイジアナ州などで確認されています。日本では8月7日になって、7月20日に羽田空港から入国したペルー帰りの五輪関係者からラムダ株が検出されたと発表され、厚生労働省が機内での濃厚接触者リストを五輪関係各所に連絡していないことが発覚し問題になっています。日本の報道などを見ると日増しに日本の地図が赤と黄色に染まっていき、このままでは地球儀に塗られた日本地図のように日本全土が真っ赤に染まってしまうのではないかと心配でなりません。元に戻して米国バイデン政権は、3回目のワクチン追加接種を奨励する方針を明らかにし、早ければ9月中旬にも開始の見通しです。ニューヨークタイムズ紙を見ると、やはり、米国南部のテキサス、ミズーリ、アーカンソー、フロリダなどワクチン接種が進んでいない州が感染爆発を起こしているようです。ニューヨーク、コネチカット、ニュージャージーは、マップ上ではほぼほぼ白く、かつての深刻な状況からは一歩後退。NY市では店内飲食などの活動が17日からワクチン接種証明書の提示が求められるようになってます。米国の新学期が始まる9月には企業の従業員出社も復活で、再び感染が拡大するのではとの警戒心が高まっています。ワクチンを継続して接種して社会全体が抗体を確保するまではコロナとの戦いは続くのでしょうか。治療の特効薬はないので感染予防の徹底が最大課題であることは日本にいても米国にいても同じです。それでは、みなさん、よい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2021年8月21日号)

(1)新たな変異株ラムダ株感染続々

(2)大通り自由に歩いて走って

(3)イケメン男子服飾 バラクータのG9

(4)日本の政局 秋の陣は複雑怪奇

(5)クイーンズで火災 義援金運動始まる

(6)ボストンまで水上飛行機便

(7)ジャパンビレッジで夏祭り

(8)NYアジアン映画祭で「JOINT」上映

(9)ニューヨークの魔法

(10)マンハッタンで自動車駐車コンド分譲

新たな変異株ラムダ株、南米から感染米で続々

 新型コロナウイルスの新規感染者の9割以上を占めるデルタ株に続き、新たな変異株「ラムダ株(Lambada Variant)」が米国各地で出現し始めている。

 ラムダ株は昨年8月にペルーで初めて特定され、チリ、アルゼンチン、エクアドルなど南米を中心に、欧米含めこれまで40カ国以上で確認されている。世界保健機関(WHO)は6月に、「注目すべき変異株(VOI)」に分類した。感染力が高いため「懸念すべき変異株(VOC)」に分類されている「デルタ株」よりは警戒度は低い。しかし、感染力やワクチンの効果への影響などが実際どの程度なのか現時点ではよくわかっていないため今後変更の可能性もある。

米国で最初に確認されたのはテキサス州ヒューストンにあるヒューストン・メソジスト病院で7月19日に発表された。その後、カリフォルニア、テキサス、ルイジアナ州などで確認された。日本では8月7日になって、7月20日に羽田空港から入国したペルー帰りの五輪関係者からラムダ株が検出されたと発表された。

 ウイルス関連の一次情報を提供している科学イニシアチブGISAIDによれば8月6日時点で確認されている全世界のラムダ株感染例は4080件。41か国に及び、もっとも感染者の多い国はチリで1435件(7月13日時点)、次が米国の1074件(8月5日時点)、ペルーが1212件(6月15日時点)、エクアドル196件(7月20日時点)、メキシコ178件(7月14日時点)、スペイン115件(7月7日時点)などとなっている。

 WHOの分類では、懸念すべき変異株(VOC)として英国由来のアルファ株、南アフリカ由来のベータ株、ブラジル由来のガンマ株、インド由来のデルタ株があり、注目すべき変異株(VOI)として米国由来のイプシロン株、ブラジル由来のゼータ株、複数国由来のイータ株、フィリピン由来のシータ株、米国由来のイオタ株、インド由来のカッパ株、ペルー由来のラムダ株がある。

 感染例が多いければ多いほど変異株が生まれる可能性が高くなる。新型コロナの拡散が続けば今後も次々に変異株が生まれるため、感染抑え込みが重要となる。

 バイデン政権は、3回目のワクチン追加接種を奨励する方針を明らかにし、早ければ9月中旬にも開始の見通しだ。

大通り自由に歩いて走って

サマー・ストリーツ開催

 NY市運輸局(DOT)は、ニューヨークの夏の風物詩のひとつであるサマー・ストリーツを8月7日、14日の土曜に開催した。 

 毎年恒例の同イベントは、南はブルックリン・ブリッジからセントラル・パークまで続くパーク街、全長約7マイルを歩行者天国にし、散歩や自転車、スケートボード走行、ライブ演奏や屋台フードなども堪能できる1日となった。

バラクータのG9

イケメン男子服飾Q&A 87
ケン 青木

 暑い日が続くな・・・と思っておりましたら、ふと気がつけば今日はトンボが何匹も飛んでいるのを見かけました。日々慌ただしく過ごしておりますといつの間にか季節が巡ってまいりますが、今回はそうした時期に一着お持ちだと便利なモノについて触れてみようかと。

 ニューヨークの周辺にはゴルフ場が多いですね。昔、日系企業に御世話になっていた時分には年に数回ゴルフのコンペに、下手くそなんですが、会社を代表して顔を出させていただくことがありました。天候が急に変わる、小雨がパラついたり、風が出て来て肌寒くなった際にあると便利なのがゴルフ用の「ジャンパー」ですね。そして出来れば軽量なのがよい。

 今回取り上げますバラクータ(Baracuta)社のゴルフ用ジャケットG9という型番で、Gはゴルフとジェントルマンからと聞いておりますが、真偽のほどは(笑)。そのほかG4、G7、G10などが知られており、G7とG10はゴルフ用というよりはレインコートですね。G9にはHarringtonというモデル名が付いており、製品のデビュー以来70年以上という「男の大定番」と言ってもよいシロモノなんです(笑)。日本ではスウイングトップと言われておりますね。VANの石津先生の例によっての造語です。

 実はバラクータ社は英国の会社で、第二次世界大戦前に創業、戦後の1948年にこのG9を発表しました。英国のこのような紳士もののアウターウエアの企業はバーバリーやアクアスキュータムなども勿論なのですが、軍需品、軍服との関わりがあり、一言で申し上げるならば機能的、別の言い方をするならば「服を科学する」という一点に集約されるのかなと思いますが、このG9、軽くて丈夫な生地で身体の動きを妨げず、天候の変化にも雨にも負けず、急激な体温の変化など起こりにくいよう様々な工夫がなされており、例えば、

(1)上着丈は腰骨の位置でフィットする、スイング時の身体の動きを妨げない短め、(2)腕の動きが楽なラグラン・スリーブ、(3)雨の水滴が背中を濡らさないよう工夫されたアンブレラ・ヨーク、(4)襟元から冷気の侵入を防ぐリブ編みのドッグイヤーカラー、(5)同じリブ編みを手首と腰廻りにも施し、ソフトにフィットする工夫をetc.

  そして、(6)表地には綿100%ではなく、あえて丈夫な綿とポリエステル混紡の防水加工されたポプリン地を。

 さらにも一つ、これもシグニチャーである(7)Hunting FraserというClan Tartanが裏地に使われていること。実はlast but not least、G9がアメリカで売れた大きな理由がこのFraser Tartanにあったとも言えるのですが、これについてはまた別の機会に。Tartanは家紋なのです、とだけ(笑)。

 このこともあえて触れておきますが、(株)デスモンド・インターナショナルという、今日は存在しない福岡が実質本社の東京のアパレル企業が、日本市場におけるバラクータ製品の販売権を持っており、かつては綿100%のポプリン地やウール/カシミヤ混の冬向けのG9が世界で唯一日本でだけ存在しておりました。シングルのトレンチコートのG10もそうでした。同社の中牟田久敬代表の情熱の賜物であったと思います。

 さらにも一つG9について御話する上で欠かすことが出来ない、それはG9がスティーブ・マックィーンと高倉健という日米を代表する俳優さんにプライベートで愛用されていたことなのですが、これにつきましても別の機会に。そうそう、春夏の寒暖の差の激しい時、あると便利、ボトムスについてもナンでも合ってしまうG9、という御話でした。それではまた次回。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス・カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。