ウルトラの原点を作った男

成田 亨・著
羽鳥書店・刊

 ウルトラマン。

 世代を超えて、誰しもがその姿を思い浮かべることのできるキャラクター。あのデザインの基を生みだしたのが、成田亨(なりた・とおる/1929〜2002)という芸術家でした。画家・彫刻家として歩み始めた頃、成田は映画『ゴジラ』(1954)の撮影現場にアルバイトで入り、特撮シーンの制作に参加。これを機に映画美術に携わっていきます。

 運命の分岐点となるのが1965〜67年にテレビ放映された「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」。ここに登場したカネゴンやガラモン、バルタン星人にダダ等々の怪獣・宇宙人、メカニックにいたるすべてのデザイン、そして特技(特撮)を手掛けました。ほぼすべてのデザイン原画が残されています。

 成田亨は怪獣をデザインする際に、ある原則を念頭においていました。「現在の生物がただ大きくなったものは止めて、必ず独創的な形を考える。今一つはお化けは作らない」。彫刻家であった成田が「形」を探り生み出した「怪獣」は当時とても新しいものでした。

 しかしあれだけのデザインを生み出しながらも、成田亨の名は長く知られていませんでした。ただ、自分の「作品」として意識して原画には当時から署名を入れており、以降も映画等の仕事だけでなく、芸術家として多岐にわたる創作活動を続けました。

 成田のウルトラのデザイン画をファインアートとして捉え直す試みを初めて行ったのが、美術評論家・椹木野衣氏の企画による「日本ゼロ年」展(1999〜2000、水戸芸術館現代美術ギャラリー)でした。ここでデザイン画は「芸術」として観客に新たな衝撃を与えることになりました。

 その後、デザイン画189点は幼少期から高校卒業までを過ごした地、青森の県立美術館に収蔵されます。そして、芸術家・成田亨の全貌を知らしめるために15年の歳月をかけて実現したのが、2014〜15年、青森県立美術館・富山県立近代美術館(現富山県美術館)・福岡市美術館の3館による初の大規模回顧展「成田亨 美術/特撮/怪獣」。この公式図録として刊行したのが本書です。

 ウルトラ、マイティジャック、ヒューマン、バンキッドから、モンスター大図鑑、特撮美術、後年の絵画・彫刻まで。未発表作品、実現しなかった幻の企画案も含む515点を収録した決定版作品集となりました。

 本書は7年前に発行。なぜ今? 理由は近日公開の映画『シン・ウルトラマン』の企画・脚本である庵野秀明氏のコメントにあります。「成田亨氏の描いた『真実と正義と美の化身』を観た瞬間に感じた「この美しさを何とか映像に出来ないか」という想いが、今作のデザインコンセプトの原点でした」(公式HPより)。『真実と正義と美の化身』とは、成田が後年に描いた理想のウルトラマンの姿です(本書カバー画)。

 本書はB5判変型400頁の大部のため、展覧会開催以降、長らく重版の機会を逸していましたが、映画を後押しに新装して増刷に。今こそ成田亨の全貌を知り、作品の素晴らしさを多くの方に堪能していただきたい。www.hatorishoten.co.jp(羽鳥書店/矢吹有鼓)

ダディの星条旗

ニューヨークの魔法
岡田光世

 同時多発テロ事件から七年目の九月十一日、式典が終わり、グラウンドゼロの脇にある通路を歩いていた。金網の向こうに、グラウンドゼロが見える。この巨大な空虚な穴を見つめていると、心臓をえぐられたように息苦しくなってくる。

 私の少し前を、女の人ふたりと少女が何かを語り合いながら、楽しそうに歩いている。

 金網に貼られた大きな星条旗の前で、三人は足を止めた。Flag of Honor(名誉の旗)と呼ばれる旗だ。あの日のテロで亡くなったすべての人の名前が、小さな文字で印刷され、星条旗をびっしり埋め尽くしている。

 Now and forever it will represent their immortality

We shall never forget them

 今も、とこしえにも、彼らは死んではいないことを象徴している

 我々は彼らを決して忘れない

 星条旗の隣には、三十代ほどの男性の顔写真が貼られていた。白っぽいシャツを着て、首を右に傾け、笑っている。写真はビニールで覆われ、星条旗と同じブルーのリボンで、両端をしっかり金網にくくりつけられていた。

 女の子はバッグの中からペンを取り出すと、星条旗に向かって、何か書き始めた。ふたりの女性は、祖母と母親だろうか。少女を見守っている。

 私に気づくと、年配の方の女性がほほ笑み、言った。

 この子の父親なんですよ。

 少女は父親を失い、その人は息子を失い、そして、そばにいた女性は夫を失った。

 かける言葉が見つからない。私は黙って、ただ、少女の肩をそっとさすった。

 胸が詰まり、何も言えない私を察したのだろう。祖母がほほ笑みながら、私に言った。

 Thank you for caring.

 気にかけてくださって、ありがとう。

 三人が立ち去り、私は写真の前にただひとり残った。リボンと同じブルーのインクで、少女が書いた不ぞろいの文字は、ところどころにじんでいる。

 Daddy, I love & miss you.

 ダディ、愛してる。会えないなんて、さびしい。

 少女の笑顔は、この写真の父親にそっくりだった。父親は、胸の前でぎゅっと拳を握っている。笑顔はやさしいのに、手の血管がはっきりと浮き出て、力が入っているように見える。

 負けるなよ。いつもダディがついているからな。

 そう、少女を元気づけているかのように。

 このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第4弾『ニューヨークの魔法のさんぽ』に収録されています。

https://books.bunshun.jp/list/search-g?q=岡田光世

おにぎりアクション2021

世界食料デーに向け

 世界中の人が食べ物や食料問題について考える日として国連が定めた10月16日の「世界食料デー」に向け、今年もおにぎりの写真を投稿して子供たちへ寄付を行う「おにぎりアクション2021」が10月5日(火)から11月5日(金)まで実施される。

 世界の食料問題の解決に取り組むNPO団体「テーブル・フォー・トゥー・インターナショナル」によるもので、おにぎりの写真投稿を通じて、アフリカ、アジアの子どもたちに給食の寄付を行うプロジェクト。今月1日には特設サイト(https://onigiri-action.com/)が公開されている。

 おにぎりにまつわる写真に#OnigiriActionのハッシュタグを付けて、SNS(Facebook、Instagram、Twitter)または特設サイトに投稿すると、写真1枚あたり給食5食が贈られ、その費用は賛同企業・団体が負担する。2015年から始まった「おにぎりアクション」は累計100万枚の写真が投稿され、約540万食の給食が届けられている。

知って得する!日本での相続の話 1

「日本の相続税事情」

 TOМA税理士法人の大谷です。日本に親がいる方、日本に財産がある方、将来日本で終活したい方に向けて、『日本の相続税の最低限の知識』を持っていただきたく、3回にわたりコラムを書かせていただきます。

 日本は諸外国に比べ相続税が高いことをご存じですか? まず相続税の基礎控除(非課税額)ですが、米国の約12億円に対し、日本は4千万円前後(法定相続人の数で異なる)。つまり、被相続人が資産家でなくても、東京に自宅マンション一室を持っていれば、相続税が発生します。その確率は亡くなる方4人に1人。日本では相続税は他人事ではありません。

 また配偶者に対する優遇措置も低いです。米国では、市民の配偶者なら無制限で非課税ですが、日本では、配偶者は総財産の1/2までしか非課税枠がありません(相続人が配偶者と子供の場合。総財産の1/2の金額が1,6億円に満たない場合は、1.6億円まで非課税)。 

 そして、基礎控除、配偶者控除が低いだけでなく、税率も高いです。米国の最高税率は40%ですが、日本は55%です。

 過去、財産の国外移設、相続開始前の国外脱出などによる相続税課税逃れを防ぐため度々税制改正がなされ、その結果現在では簡単に逃れられない厳しい課税制度になっています。

大谷 亜紀/TOMA税理士法人 資産税部部長資産税専門税理士。国際相続も含め数多くの相続対策を支援。相談は soudan-s@toma.co.jp まで

編集後記 9月11日号

【編集後記】

 みなさん、こんにちは。日本もアメリカも世界も混沌として見通し不透明の案件が山積のこの頃です。日本は政局が大きく動き、自民党総裁選挙に向けて派閥の思惑で誰が総裁に選ばれるのか激戦の様相です。早々と立候補を名乗り出た岸田文雄前政調会長、安倍元首相の応援で立候補した高市早苗前総務相、自身の派閥のドン、麻生財務大臣副首相に何度もお伺い詣でをした挙句「出たいなら自分で決めろ」と突き放されしまう河野太郎行政改革担当相、女性で二番手感のある野田聖子幹事長代行、そして党内待望論があるにも関わらず煮え切らない石破茂元幹事長。菅総理は総裁選を戦いながらコロナ対策にも万全を期すには膨大なエネルギーが必要でコロナ対策に専任(専念)すると発言したのは両方やるほどもう気力が失せたということでしょう。ここまではきっと、誰がやっても病魔との戦いは暗中模索だったので同じようなものだったのかもしれませんが、問題は世界的にワクチンの取り合いになって日本に打てるワクチンが不足した時、すでにその段階に入っていますが、その時に誰がどう対応できるかですね。ワクチン担当大臣の河野さんが総裁になって責任を全部被ってなんとかするのでしょうか。岸田氏も石破氏も過去に総裁選に立候補して敗れた経験があり捲土重来の思いひとしおでしょうが、石破さんはどん引きしてます。総選挙で自民党が大敗したらどうせ短命総理ですし、負け戦の将にはなりたくないのかもしれません。政権が変わって厚生労働省、経済産業省の担当大臣が変わるとコロナ対策にも引き継ぎがスムーズにできない可能性もあり、全部悪いのは過去の自民党のせいにされかねません。誰が悪いとか言ってる場合ではないので、在外選挙では有権者に有効な一票を投じることができるようせめて円滑な手順について投票日に向けてフォローしていきたいと思います。今週号ではその第一弾としてNY総領事館が発表した在外選挙手引きを1面で紹介しています。それでは、みなさん、よい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2021年9月11日号

(1)在外選挙の手引き NY総領事館が発表
(2)KAWS巡回展 ロックフェラーセンター
(3)ジャパンフェス第2弾
(4)NY日本人美術家協会 年次展覧会始まる
(5)あめりか時評 閑話休題 冷泉彰彦
(6)劇場再開 無料イベントも
(7)眞子さま新婚生活NYなら 身辺警護が課題に
(8)大人の教養シリーズ JAAヘルスフェアで配信
(9)入江一子企画展  日本クラブWEBギャラリー
(10)江戸時代から続く 日本の伝統前掛け

在外選挙の手引き、NY総領事館発表

 在ニューヨーク日本国総領事館は3日、今秋までに実施される予定の衆議院議員総選挙の在外選挙(郵便等投票の活用について)詳細を発表した。

■海外からの投票方法

 「在外公館投票」のほか、「郵便等投票」が可能だが、郵便等投票の手続きには一定の時間がかかる。投票用紙は、選挙の公示日を待つことなくいつでも登録先の市区町村選挙管理委員会に請求することができるため、郵便等投票を利用する場合は早めに請求する。

(1)在外選挙人名簿に登録され、在外選挙人証を持っている人は、「在外公館投票」、「郵便等投票」、「帰国投票」の3つの投票方法により国政選挙(補欠選挙・再選挙を含む衆議院議員、参議院議員の選出選挙)に投票することができる。

(2)海外からの在外選挙の投票方法として、「在外公館投票」のほか「郵便等投票」が可能。郵便等投票は新型コロナウイルス感染防止の一助にもなるので、活用を推奨する。

 「郵便等投票」は、在外選挙人名簿に登録した人が、海外から登録先の市区町村選挙管理委員会に対し、直接、投票用紙を請求し、投票用紙の交付を受け、記載済みの投票用紙を登録先の市区町村選挙管理委員会に郵送する投票方法。投票用紙の請求・交付・送付に選挙管理委員会との間で1往復半のやりとりを要するため、郵便等投票の手続には一定の時間がかかる。投票用紙は、選挙の公示日を待つことなくいつでも請求することができるので、郵便等投票の利用者は、早めに請求する。

(3)なお、「郵便等投票」のために投票用紙の交付を受けた後でも、「郵便等投票」から「在外公館投票」に投票方法を切り替えることは可能。ただし、「郵便等投票」のために投票用紙を登録先の市区町村選挙管理委員会に請求する際、投票用紙等請求書と共に在外選挙人証を送付する必要があり、在外選挙人証が選挙管理委員会から返送されるまで、「在外公館投票」により投票することができないので注意する。

 在外選挙制度や投票方法等の詳細は、外務省ホームページ「在外選挙」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/senkyo/index.html)または、総務省ホームページ「在外選挙制度について」(https://www.soumu.go.jp/senkyo/hoho.html)を参照する。

野党がネット投票法案提出
在外選挙に追い風

 日本は新型コロナウイルス禍の出口が見えないなか、ネット投票を進める動きが出てきた。総務省は海外在住の日本人を対象とした在外投票でのネット利用を検討しているが、コロナ禍が思わぬ追い風となる可能性がある。

 立憲民主、国民民主両党は先の通常国会会期中の6月11日、議員立法「インターネット投票の導入の推進に関する法案」を提出した。

 法案はネット投票の基本方針や行程を定めるもので、まず推進会議を政府内に新設し、具体的な制度設計や技術上の課題を1年かけて検討し、結論を国会に報告する。その後、ネット投票実施の法案を策定するというプログラム法案(特定の政策を実現するための手順や日程などを規定した法律)となっており、選挙制度だけに慎重に進める内容だ。現在、国会閉会に伴い継続審議になっている。

 ポイントとなるのは①どこからでも利用できること、②選挙期間中は24時間投票ができること、③不正投票防止や「投票の秘密」保持のための暗号化技術の活用、④投票用紙を使う現行の方法と併用などだ。2025年の参院選からの導入を目指すが、新型コロナの療養者のネット投票については一足早い実施を検討する。

 法案の筆頭提出者の中谷一馬衆院議員(立憲民主党)によれば、投開票のコスト効率化や利便性向上もあるが、「一番は憲法で保障された参政権を守ること。投票所に行くのが困難な人に投票の権利を確保する」ことだという。海外ではエストニアなどの導入例があり「技術的な問題が起きるとは考えづらい」と述べる。ネット投票で若者の投票率も上がると期待される。

KAWS巡回展示

ロックフェラーセンターに

 ブルックリンを拠点に活動する世界的現代アーティストのカウズ(KAWS)の高さ約5・5メートルの大型作品「シェア」が、ロックフェラーセンターに登場した。目がバツになったデザインが特徴で、これまでディオールやナイキ、ユニクロなど多くのブランドとのコラボ商品やメーシーズの感謝祭パレードのバルーンにもなり、世界各地で展示会を行っている。

 今年2月から7か月にわたり、ブルックリン美術館で開催した大規模な特別展「ホワット・パーティ」も今月5日に終えたばかり。今回の展示ではカウズのアイコンともなっているキャラクターの「コンパニオン」が、ピンクのキャラクター「BFF(Best Friends Forever)」を左手に持ち、周囲に掲げられた84本の旗もデザインしている。(9月4日、写真・三浦良一)

ジャパンフェス第2弾

再びEビレッジで夏祭り19日

浴衣コンテストも

 今年2回目となるジャパンフェスの「夏祭り」が19日(日)午前10時から午後6時まで、イーストビレッジのストリート(4番街、9丁目と10丁目の間)で開催される。主催者によると、先月の夏祭りで多くの来場者から「もっと浴衣を着る機会が欲しい」という声が寄せられたことを受け、ジャパンフェス史上初となる年に2回目の開催を決定したという。今回も浴衣の販売やコンテストが行われる予定。第1弾では100人以上が浴衣で来場し、そのうち42人が浴衣コンテストに参加、300票以上の投票が集まった。浴衣コンテストは、インスタグラムのストーリーに@JAPANFESをタグして投稿すると誰でも参加可能。総額300ドル相当の賞品景品(UMAMI SQUAREギフトカード&浴衣)が用意されている。前回のコンテストの参加者や結果、詳細はウェブサイトhttps://www.japanfes.com/を参照。

 また、10月23日(土)にチェルシーで開催されるニューヨーク・ジャパンフェスへの出店者も募集中。問い合わせはEメールinfo@japanfes.comまで。

NY日本人美術家協会 年次展覧会始まる

 ニューヨーク日本人美術家協会(JAANY、松田常葉会長)の第49回 年次展覧会がマンハタンの天理文化協会(西13丁目43番地A、電話212・645・2800)で開催されている。

 3日夕、そのオープニングレセプションが開かれ、ニューヨーク総領事の山野内勘二大使が来場し、祝辞を述べた。(写真:山野内大使(中央)と記念撮影するJAANYのアーテイストたち)

 山野内大使は「芸術家の人が社会の出来事を反映してさまざまな視点から観察し、あるいは社会からエネルギー、光、喜びをもらい、その作品が多くの人の感動を呼び起こし、インスピレーションを与えている。公邸が現在の場所に移ったのが1972年と美術家協会創立の年と同じ。ニューヨークで来年50周年を迎える美術家協会の皆さんのご健闘とさらなる発展を祈ります」とアーティストたちに励ましの言葉を贈った。

 例年は、ワインなど飲み物などと一緒に、100人以上が集まる賑やかなレセプションだが、今回は、コロナ禍でのさまざまな制約がある中で作家20人を含め入場制限50人という感染予防をコントロールしたなかでの開催となった。

 出品者は、阿井次郎、青木壽子、青柳愛子、愛子Cascio、シモン千加子、藤原未佳子、古川文香、林幸江、柏木文子、越光桂子、松田常葉、三浦良一、長倉一美、小野田昌子、ロス郁子、竹下宏、山本さとこ、YUKAKO、遊真あつこの現会員と昨年亡くなった名誉会長の飯塚国雄。

 マックス・ブレッチャー・ジュニア賞には松田常葉さん、末村敬三賞は、林幸江さんが受賞した。また 期間中、会場ではメインの作品の展示販売とは別に2011年の東日本大震災のためのチャリティー用小作品も200ドル以下で販売しており、レセプションでは早速、来場者たちが小作品を買い求めていた。チャリティー展示作品の販売による収益金(作品価格の50%)はジャパン・ソサエティーの災害救済基金に寄付される。

 会場入場にはワクチン接種証明と身分証明書の提示が必要でマスク着用。

 開館時間は月曜から木曜が正午から午後6時。土曜が正午から午後3時。金曜と日曜は休館。展覧会は16日まで。

「秋の政局で大きな転換点に立った日本」

 菅総理の総裁選不出馬宣言により、日本の秋の政局はややシンプルとなった。仮に総理があくまで続投にこだわり、強引に人事をやり、本当に9月13日前後に解散していたら、事態はもっと複雑になっていたからだ。とにかく自民党総裁選は9月29日の投開票、そして総選挙については新政権の浸透を待って実施という可能性が大きくなった。

 自民党とすれば、新政権の人気化に加えてコロナ禍の感染拡大が抑制できれば勝てるという計算をしているであろう。だが、問題はそう単純ではない。政局の奥には日本の「国家百年の大計」を左右する2つの大きな問題が横たわっており、これを総裁選や総選挙を通じて選択しなくてはならないからだ。

 1つは財政規律の問題である。小泉政権以降の20年、日本は曲がりなりにも財政規律を意識してきた。その点で財務省は一貫していたし、例えば2009年から3年にわたって国政を担った民主党政権は世界的に見れば超タカ派の経済財政政策を採用していた。これを批判して登場した第二次安倍政権は、確かに金融緩和は行ったが投資姿勢は保守的なままであり、菅政権もその延長にある。その背景には、日本の国家債務が既に危険水域に入っているという認識があった。それでも超円安が起きないのは、巨大な国債発行残高が国内の個人金融資産で消化できているという理由であり、従って財務省は危機感を緩めずに歴代政権の財政出動を縛り続けたのである。

 だが、今回の政局ではこの「縛り」を解き放つ動きが見られる。まず自民党では高市早苗氏が「アベノミクスの継承」を言いながら、第三の矢である構造改革の旗は下ろしつつ「プライマリーバランスを崩し」てでも「危機管理投資・成長投資」を行うとしている。これが突破口となったようで、野党勢力も20から50兆円の「真水の経済対策」などと言い始めた。

 確かにコロナ禍で傷ついた経済に対しては復旧の投資は必要だ。だが、高市案では構造改革を止めて投資だけ行うという姿勢であるし、野党の案はより露骨なバラマキに過ぎない。いつの間にか、財界本流の応援団から貧困層救済に回った岸田文雄氏の経済政策にも、「改革」や「成長」への強い思いは感じられない。問題は、こうした議論の全体を通じて財政規律への意識を緩めながら、何がなんでもリターンを取るという戦略と執念が不在ということだ。これでは既に2流となった日本経済が3流、いや破綻への道を加速してゆくことになりかねない。

 2点目は、エネルギー政策だ。こちらは政局における論争は低調である。そんな中で、強い待望論のある河野太郎氏と小泉進次郎氏は、おそらくコンビを組んで菅総理の排出ガスゼロ化政策を継承すると見られている。河野氏は、再生可能エネルギーの比率アップに強い執念を見せて「パワハラ」という中傷を受けるほどだったし、小泉氏は本来自分の課題であったはずの原発処理水の排出問題で菅総理が泥をかぶってくれたこともあり、環境の小泉というイメージを辛うじて守っている。

 だが、このまま原発の稼働を増やさずに進むのでは、日本の電力需要は支えられないし、当面の排出ガス削減はできない。となれば、トヨタの豊田章男社長が明言しているように、日本国内では自動車が作れなくなる。また製鉄など他の日本の重要産業も成立しなくなる。仮に、製造業を諦めて知的な省エネ経済にシフトするにしても、現在の中進国仕様の教育改革には時間がかかる。従って、国が破綻せずに改革を進めるには期限を切っての原発稼働が必須である。

 この点に関しては、反原発派と思われている河野、小泉コンビが「2050年全面廃炉」を掲げて、それまでの稼働の許可を世論から取りつけるシナリオが期待されるが、彼らにその決意と能力があるかは未知数だ。しかしながら、彼らを含めて、この問題の争点化から逃げるようならやはり日本は破滅の道を歩むことになる。

 新人ばかりの総裁選、与野党逆転の可能性のある総選挙は一見すると派手な印象を与えるが、この秋の政局において、日本がこの2つの問題を直視できるかどうかは、国家存続を左右する分岐点となるであろう。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)

劇場街再開

無料イベントタイムズスクエアで

ブロードウエー14日から

 14日からのブロードウエー・ミュージカルの再開を祝う無料イベント「カーテンアップ!」が17日(金)から19日(日)までの3日間、タイムズスクエアで開催される。期間中はメインステージをはじめ、ブロードウエー45丁目から48丁目の各所でさまざまなイベントが行われる。メインイベントとなる最終日午前11時からのフィナーレコンサートでは、シカゴ、アラジン、ライオンキング、オペラ座の怪人など多くのミュージカルに出演するキャストたちが登場し歌やダンスを披露する。出演者やパフォーマンスの詳細はウェブサイトhttps://www.playbill.com/curtainupを参照。(写真)ブロードウエー再開を前に大勢の観光客や市民で賑わうタイムズスクエア(6日午後8時、撮影・三浦良一)

 またブロードウエー・ミュージカルの再開に合わせ、タイムズスクエアにある劇場チケット・ディスカウントブースのチケッツ(TKTS)も14日(火)からオープンし、割引チケットの販売を開始する。タイムズスクエアを見下ろせる赤い階段の下にあるチケッツは、パンデミックで劇場が閉鎖されたことにより昨年3月12日以降閉鎖されていた。チケッツではこれまで通りブロードウエー・ミュージカルの当日の公演チケットを最大50%オフで販売する。営業時間は、火曜・木曜・金曜が午後3時から8時まで、水曜・土曜は正午から午後8時まで、日曜は午前11時から午後7時までで、10月までは月曜定休。