「武人の本懐」の英語版

元海上自衛隊横須賀地方総監・高嶋博視・著
OFFICE BEAD INC.・刊

  2011年の東日本大震災発生当時、迅速な初動で被害者の捜索と救援に向かった海上自衛隊1万6000人を総指揮した元海上自衛隊横須賀地方総監・高嶋博視氏の著書「武人の本懐」(講談社2014年)は、日本で大きな反響を呼んだ。獅子奮迅な救援活動、物資の輸送、米軍との共同作戦、そして福島第一原子力発電所冷却のための「オペレーション・アクア」などを遂行し、896人の人命救助と425柱の遺体収容を実現。二次災害を出さずに多くの任務を果たしたリーダーの鮮烈な記録である。

 高嶋氏は「地球が存在する限り、人類は災害から逃れることはできない。世界史に類を見ない未曾有の大災害の実態や実相、そこから得られる教訓を、日本国内だけでなく、世界で共有してほしい」と訴え続け、2020年秋に英語版制作のプロジェクトが本格始動した。

 「最もてこずったのが軍事用語でした。まず防衛省・自衛隊の組織編成や指揮系統、海上自衛隊や海軍の文化を理解するために、高嶋氏と何度も打ち合わせを重ねました」と翻訳チームは苦労を語る。「日本語には「行間を読む」という言葉があり、拙著にも多分にそのような文面があります。まずは一行の文章の背景にあるもの、私の胸中にあることを理解していただき、それを踏まえて英語で綴ってもらいました。翻訳者は大変なご苦労をされたと思います」と高嶋氏も振り返る。

 高嶋氏の想いは多くの支持者たちの協力を得て、2022年3月11日に英語版『THE HEART OF A SAILOR』が完成した。トップとして決断していくその裏には、たくさんの苦悩や葛藤があったことが推しはかられるが、それらが英語の文章のなかに見事に溶け込んでいる翻訳の技量は秀逸である。

 「歴史に学ぶ」を信条とし「歴史を通じて平和の在り方を模索する」という高嶋氏は、現在「危機に強い人材の育成」のために各地で講演活動を続けている。

「在米・在留邦人の中にも、ご親族やご友人が東日本大震災で被災された方がおられると思います。2011年は日本で起きましたが、明日は世界中のどこで大災害が発生するか分かりません。拙著英語版が、皆様の今後の備えに資することができれば本望です」と高嶋氏は世界にメッセージを発進し続けている。(倉本)

【高嶋博視氏プロフィール】

1952年香川県生まれ。防衛大学校卒業。半生を日本の海上防衛に捧げ、その間、テロ対策特別措置法に基づくインド洋派遣や、東日本大震災における災害派遣活動を指揮。退官後は日本無線株式会社(顧問)を経て、現職「博海堂株式会社」代表。2022年4月、瑞宝中綬章受賞。

高嶋博視オフィシャルウェブサイト:

http://www.umihiro.jp/

異国の母、マンハッタンをゆく

ニューヨークの魔法 28
岡田光世

 母の日おめでとう、と先生の祖国の言葉で今日は花束を手渡したくて、朝から何度も練習していたのに、会う頃にはすっかり忘れてしまった。先生との待ち合わせはいつも、 メイシーズ前の小さな広場。すぐそばが韓国人街なので、通りすがりの韓国人に聞こうと思っていたら、先生が突然、目の前に現れてしまった。 

 仕方なく、英語でHappy Mother’s Day. と言って花束を差し出した。先生はまず驚き、そして笑顔で花束を受け取った。

 と思ったら、険しい顔になった。どうして、花なんか買うの。お金、使って…。 

 雨で手がふさがって、転びでもしたら危ないので、私が花束を持とうと思ったけれど、 先生はしっかり胸に抱いて離さない。 

 先生の歩く速さは、まったく変わっていない。でも、転ばないようにと、つい腕を持って支えようとすると、先生はきっぱりと言い放つ。 

 私の安全は、私が決めます! 

  会うときはいつも、私がいくら拒んでも、先生が食事代を払う。今日は母の日だから、 韓国料理を先生にご馳走させてください、と何度も言ったけれど、いけません! 私は今も先生です。今も働いているんです! とゆずろうとしない。これ以上、拒めば、怒り出しそうだ。

 私も働いています、と言うと、私の顔をまじまじと見て、不機嫌そうな顔ねぇ、と茶目っ気たっぷりに笑う。 

 結局、母の日なのに、韓国の母にご馳走してもらった。

 私が美味しそうに食べる様子を見ながら、美味しい? よかった。あなたが美味しいって食べているのがうれしい、と何度も日本語で繰り返す。 

 そのあと、カフェに移動した。店の入口に段差があった。転んだら、大変。

 私は思わず先生の腕をつかむ。先生、気をつけてくださいね。

 先生は一瞬、間を置き、真顔で日本語で答える。 

 はい。お母さんの言いつけをよく聞くようにします。 

 結局、四時間も一緒にいた。 話しながら先生は、満面の笑みをたたえ、小さな子どもにするように、私の鼻のてっぺんを何度もつまんでは、かわいいねぇと言う。そして、自分も子どもに戻ったようにうれしそうに笑う。 

 私は夫と待ち合わせしていたので、荷物をまとめて立ち上がる。 

 早く行きなさい。待たせてはだめよ。全部持った? 忘れものはない? コートは着てこなかった? コートなしじゃ、寒いでしょう? あなた、御不浄に行かなくていい? 

 先生がまくし立てる。戦前の韓国だから、先生はトイレを御不浄と習ったのだろう。 

 はい、お母さんの言いつけをよく聞くようにします。 

 先生のまねをしてまじめな顔で言うと、まったく、という顔で、また私の鼻をつまむ。 

 先生とハグし合う。 

 ほおずりして別れてから、先生の写真を撮り忘れたことに気づく。 

 先生はもう、数十メートル先をすたすたと歩いている。 

 追いかけていって、先生の前にくるりと現れ、カメラを向ける。

 モデルの写真を、撮りにやってまいりました!

 そう言うと、先生はちょっとあきれた顔して、笑った。 

 一瞬立ち止まり、花束を抱えてポーズする。 

 撮った写真の先生の顔をズームして見せ、かわいいねぇ、と私が言う。先生の口癖だ。 

 画面に大写しの自分の写真を一瞬見て、照れたように笑った。 

 ほら、早く行きなさい、というように私の背中を押す。そしてまた、先生の大好きなマンハッタンの道を、まっすぐに歩き始める。 

 迷いもせず、わが道をまっしぐらに突き進んできた先生らしく。背筋を伸ばして、脇目もふらず、カツカツと、堂々と。 

 Thank you for being a mother to me. 

 私の母でいてくれて、ありがとう。 

*このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第9弾『ニューヨークの魔法は終わらない』に収録されています。

https://books.bunshun.jp/list/search-g?q=岡田光世

編集後記

【編集後記】
 みなさん、こんにちは。NHK放送技術研究所の技術を応用して、日本の医師が世界で初めて開発した8K内視鏡。微細な神経や血管を大画面に映し出し、高度な外科手術をこれまで以上に安全に行えるようになりました。これまで前例のない解像度は、医療現場をどう変えるのか、今週号で、開発者の千葉敏雄順天堂大学医学部教授、一般社団法人メディカル・イノベーション・コンソーシアム理事長にお話を聞きました。きっかけは2006年、国立成育医療研究センターの医師として勤務していた時、NHKで放送されたハイジャック犯逮捕のドキュメンタリーに釘付けに。深夜、真っ暗な中で撮影されたカメラ映像にもかかわらず、関係者の顔がはっきりと映っていたからだ。「この映像技術を内視鏡手術に役立てたい」。事前のアポイントもとらずに、職場の向かいにあったNHK技研にすぐさま話を聞きに行ったところ、運良く、当時の谷岡健吉所長とばったり会う。その場で、ナイトビジョン技術「HARP」と超高精細技術「8K」を硬性内視鏡に搭載するための開発を開始することを決定したそうです。8K硬性内視鏡を用いた世界初の臨床手術で、胆嚢摘出手術に加わった千葉さんは、モニター画面に映し出される高精細な映像に驚きます。8K映像は、現在広く使われている内視鏡の2K映像に比べ、16倍の画素数を誇る。これは10メートル先の新聞が読めるほどの画素数で、肉眼では見えない細い血管や縫合糸まで鮮明に映し出すとのこと。「まるで患者さんのお腹の中で手術をしているようで、映画の『ミクロの決死圏(1966年の米国のSF映画)』を見ているようでした」と話します。しかし当初は難点も。重さだ。2024年に臨床導入された8K内視鏡のカメラ部分は、2・5キロの重さ。2時間あまりの手術でも機器を手に持ったままの手術はかなりの負担だったという。身体の内部構造を詳細に観察できるこの技術は、より安全で正確な手術を可能にするだけでなく、従来は極めて困難だった手術にも対応できるようになる。熟練した外科医の手術映像を教育用に利用したり、専門医によるオンライン診療や遠隔手術をより手軽に行うことができるようにもなる。海外の医療機関ではまだ使われてないこの日本の映像技術は、医療の未来を変えるほどのインパクトを持っているとして日本政府内閣府が強く後押ししていいます。そのうち、アメリカでも登場して、世界の医学界を驚愕させることでしょう。2020年にアルベルト・シュバイツァー国際賞の医学賞・最高賞を受賞しています。奥様は、本紙連載お馴染みの料理研究家、千葉真知子さんです。それでは、みなさん、よい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2022年5月14日号)

(1)原因不明の小児肝炎相次ぐ 米で109人感染、5人死亡

(2)落書ニモマケズ! 金融街の恐れを知らぬ少女像

(3)初夏にコットン・スーツ  イケメン男子服飾Q&A

(4)ロシア外交官 日常的に駐車違反

(5)8K内視鏡を世界初で開発 千葉敏雄さん

(6)五感で認知症ケア 石川立美子さん

(7)IMAYOがNYデビュー  京都の老舗ジュエラー

(8)Ippin Project.  ジャパンビレッジに日本製の小物店

(9)落語の桂三耀 ブロードウエー公演

(10)サハリンロックNYに響く OKIがアイヌの音楽演奏

パン・パレード 5月14日セントラルパーク・ウエストで 

原因不明の小児肝炎相次ぐ

米で109人感染、5人死亡

 10歳以下の子どもを中心に原因不明の肝炎が欧米を中心に相次いで報告されている。WHO(世界保健機関)によると今年4月5日に英国で初めて報告されてから、5月1日現在でスペインやイスラエル、デンマークなど20カ国から228人の原因不明の急性肝炎が報告されている。厚生労働省によると、日本では6日までに計7人の報告がある。

 米疾病対策センター(CDC)は6日、昨年10月までさかのぼって調べた結果、これと同じ肝炎と思われる患者がアラバマの9人を筆頭にイリノイ、ノースカロライナなど24州とプエルトリコ自治領から109人見つかり、うち5人が死亡したと発表した。

 感染者の年齢の中央値は2歳で、90%以上が入院、14%が肝臓の移植を受けた。A型〜E型の肝炎を引き起こすウイルスは確認されておらず、今のところ何が原因なのかは分かっていないのが現状だ。

 半数ほどからのどの痛みや下痢などを起こすアデノウイルスが検出されたが関連は調査中だ。また新型コロナウイルスとの関連も調べられている。発症者は新型コロナのワクチン接種の対象年齢ではないためワクチンが原因とは考えられないという。

落書ニモマケズ!

金融街の恐れを知らぬ少女像
雨ニモマケズ、ミサイルニモマケズ

 ニューヨーク金融街、ウォール街近くに立つ「恐れを知らぬ少女」像。青と黄色のウクライナ国旗をマントのように羽織る姿に多くの市民が勇気をもらっている。しかし、背中のマントが何者かに落書きされた。「ウクライナの戦争犯罪とナチスにサポートを」とマジックで殴り書きされた=写真下(匿名希望読者撮影)=。マントは即日、撤去された。ウクライナ支援をする米国の世論も決して一枚岩ではないということか。不屈の少女はそんな心ない落書きには動じずに今日も毅然と立っている。

一夜限りのベネフィット・コンサート
23日午後8時から五嶋みどりさんも演奏

 ウクライナのためのコンサート(Concert for Ukraine)が23日(月)午後8時から、カーネギーホール(57丁目と7番街の角)で開催される。一夜限りのベネフィット・コンサートでは、チケット売り上げの100%がウクライナの救援グループに必要な医薬品を提供するNPOダイレクト・リリーフに送られる。当日はクラシック、オペラ、ジャズ、ブロードウエーの有名歌手や、ウクライナ合唱団「ドゥムカ・オブ・ニューヨーク」のほか、バイオリニストの五嶋みどりさんが出演する。入場料は90ドル〜300ドル。チケット・詳細はウェブサイトhttps://www.carnegiehall.orgを参照。

初夏にコットン・スーツを

イケメン男子服飾Q&A 90
ケン 青木

 皆様、今日は。コロナ禍の憂鬱な空気に加え、ロシアのウクライナへの侵攻で暗い陰が増している今日この頃ですが、日々陽は長く暖かさも増し、初夏の訪れが感じられます。ということでボチボチ衣替えのタイミング、ですかね(笑)。

 ニューヨークの街には”Society”と呼ばれる社交グループがあったりします。そうした”社交グループ”に属する人たちにはそれぞれの組織における”着こなしの流儀”があったりするのですが、私たち日本人にはあまり知られてはおりません、大きな声では言えませんが、そうした彼らの流儀の一つに、”Summer Business AttireはMemorial DayとLabor Dayの期間に限る” があります。近年ニューヨークの金融、法曹会共にアメリカ生まれ、育ちでない方も多くなり、御存知ない方も増えている様ですが、注意深く見られていると気が付かれることもあるでしょう。

 ま、あくまでも口伝、慣習であって、決して文章化されたルールというワケではないのですが、(実はホンモノの紳士服の着こなしの流儀は”口伝”なのです)彼らの流儀に従うならば、”夏向けの明るい色調の紳士服は5月後半から9月の第一週までの限定”、ということ。

 そうした事情を踏まえ、当地のビジネスパーソンにとって永年のこの時期のお気に入りの一つが、いわゆる”コットン・スーツ”なのです。ギャバジンとポプリンという2種類の生地の織り方に分かれ、少し専門的な言い方をすれば綾織りと平織り、そして平織りのPoplinの方がより今からの季節向けとなりますか。

 アメリカが世界の覇権を握り始めた19世紀末以降、紳士服の世界においても大きな変化が起き始めました。その一つが素材における”軽さ”、そして仕立てにおける”柔らかさ”の追求。総じて、より軽快な着心地と実用性、丈夫さの追求がアメリカの紳士服におけるテーマとなったのです。

 ニューヨークの夏は日本ほどではないながらも蒸し暑く、日差しも強いです。フロリダはさらに、ですよね。

 夏の生地には昔から麻が代表的、水に濡れても直ぐ乾き、見栄えも良いのですが、当時の麻は生地が今より厚く重く、シワになり易いのは変わらず、召使いが服をプレスしてくれる上流向け、午前と午後で着替える方もいたほど。

 その点、綿はより庶民向けと言いますか、英国の植民地インドから安価な輸入生地もありましたが、アメリカ国内で生地調達出来、ジーンズやワークウエアなどで既に”親しみ”ある素材でもあったのです。

 重ねて20世紀はアメリカの、そして科学の世紀。ついに化学繊維の、ポリエステルとナイロンの登場です。実はこれには軍事的要因もあり、米軍は中南米やアジアなど高温多湿の地域での活動、作戦が増え、丈夫で軽量な軍服用の生地が求められ始めてもいたのでした。そうした状況下における完成型の生地がポリエステル55%/綿45%混紡のギャバジンそしてポプリンだったのでした。これらの生地の登場によって、夏場の紳士服はより軽く丈夫さも増し、さらにはパーマネント・プレス加工によってスラックスのクリース、即ち折り目加工が可能ともなり、crispサッパリした姿で終日気持ち良く過ごせる様になったのです。

 21世紀の今日、細身のシルエットが人気となって、前述の生地にポリウレタンなど伸縮性ある素材が新たに混紡され、ストレッチ性が増した、より動き易い生地も多くなってきました。この様なコットン生地のスーツは堅苦しく見えず、ネクタイをしてもしなくても、そして上下別々でも着用可能、オンオフ両方に着れてとても便利です。皆さんももしまだお持ちでなければ一着お試しになられてみては如何? 色はベージュ、オリーブグリーン、ネイヴィーブルー、アイヴォリー・ホワイトといった基本色がオススメです。

 それではまた次回。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。

NYで日常的に駐車違反

ロシアの外交官、特権で罰金踏み倒す

未払い総額10万ドル以上

 ロシアのウクライナ侵攻で同国の新興財閥や議員に対する厳しい制裁が行われているが、ロシアの外交官はニューヨーク市内で日常的に駐車違反をしており、その違反金(罰金)の未払い総額は10万1000ドルになるという。外交官には刑事裁判や納税が免除される外交官特権があるため、罰金が踏み倒されているのが現状だ。

 一方、連邦国務省はロシアの外交官の20台以上の車両登録を認めておらず保留状態になっているという。これは外交官登録に関する2002年の覚書に沿った措置で、罰金の支払いが開始されるまでは新規の車両登録や登録更新を停止できるという内容だ。ロシアを含め全世界の在米外交官に適用されているという。

 キャロリン・マローニー連邦下院議員(民主、NY州第12区選出)は「措置を称賛する。ニューヨーク市は違法駐車のロシア車をレッカー移動することも考えるべきだ」と語っている。外交官特権があっても警察が違反車両をレッカー移動することはできるからだ。

 日本でも在日外交官による駐車違反と違反金踏み倒しは多くみられる。もっとも多いのはロシアで2019年度で1101件だった。日本は駐車違反金の納付が確認できない場合、ガソリン税免税証明書を発給しない措置を今年から始めている。

(写真)歩道や駐車禁止標識前に駐車されている車(東67丁目ロシア国連代表部前で)

8K内視鏡を世界初で開発

一般社団法人 メディカル・イノベーション・コンソーシアム
理事長 千葉敏雄さん

 NHK放送技術研究所の技術を応用して、日本の医師が世界で初めて開発した8K内視鏡。微細な神経や血管を大画面に映し出し、高度な外科手術をこれまで以上に安全に行えるようになった。前例のない解像度は、医療現場をどう変えるのか。開発者の千葉敏雄順天堂大学医学部教授、一般社団法人メディカル・イノベーション・コンソーシアム理事長に話を聞いた。

 きっかけは2006年、国立成育医療研究センターの医師として勤務していた時、NHKで放送されたハイジャック犯逮捕のドキュメンタリーに釘付けになった。深夜、真っ暗な中で撮影されたカメラ映像にもかかわらず、関係者の顔がはっきりと映っていたからだ。「この映像技術を内視鏡手術に役立てたい」。事前のアポイントもとらずに、職場の向かいにあった

NHK技研にすぐさま話を聞きに行った。運良く、当時の谷岡健吉所長とばったり会う。その場で、ナイトビジョン技術「HARP」と超高精細技術「8K」を硬性内視鏡に搭載するための開発を開始することを決定した。

 8K硬性内視鏡を用いた世界初の臨床手術で、胆嚢摘出手術に加わった千葉さんは、モニター画面に映し出される高精細な映像に驚いた。8K映像は、現在広く使われている内視鏡の2K映像に比べ、16倍の画素数を誇る。これは10メートル先の新聞が読めるほどの画素数で、肉眼では見えない細い血管や縫合糸まで鮮明に映し出す。「まるで患者さんのお腹の中で手術をしているようで、映画の『ミクロの決死圏(1966年の米国のSF映画)』を見ているようでした」と話す。

 しかし当初は難点もあった。重さだ。2024年に臨床導入された8K内視鏡のカメラ部分は、2・5キロの重さ。2時間あまりの手術でも機器を手に持ったままの手術はかなりの負担。手術で実用化するために小型・軽量化することは大きな課題だった。千葉さんは努力を重ね、わずか4か月で450グラムまで軽量化することに成功した。「従来の内視鏡に比べ、8Kは圧倒的に臨場感があります。一度体験したら、もう昔の画質には戻れません」と語っている。身体の内部構造を詳細に観察できるこの技術は、より安全で正確な手術を可能にするだけでなく、従来は極めて困難だった手術にも対応できるようになる。熟練した外科医の手術映像を教育用に利用したり、専門医によるオンライン診療や遠隔手術をより手軽に行うことができるようにもなる」。

 海外の医療機関ではまだ使われてないこの日本の映像技術は、医療の未来を変えるほどのインパクトを持っているとして日本政府内閣府が強く後押ししている。(三浦良一記者、写真も)


 ちば・としお=1975年東北大学医学部卒、医学博士。専門分野は小児外科。86年米国ピッツバーグ大学クリニカルフェローを経て、97年米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)胎児治療センター客員教授。2000年に帰国。国立成育医療研究センター特殊診療部部長。2005年東京大学情報理工学系研究科教授。一般社団法人メディカル・イノベーション・コンソーシアム(MIC)理事長。20年2月アルベルト・シュバイツァー国際賞の医学賞・最高賞を受賞。現在順天堂大学医学部教授。夫人は本紙連載の料理研究家、千葉真知子さん。

石川立美子さん、マイベストプロJAA講演会

五感で認知症ケア、オンラインで開催

 ニューヨーク日系人会(JAA)が主催する第14回サクラ・ヘルス・フェアで、5月9日(月)までライオンズ大学 大人の教養講座シリーズのオンライン講演会(企画・NY日系ライオンズクラブ、協力・マイベストプロ、マイ・イベントUSA)が開催されている。第2時限は、介護研究家の石川立美子さんのKIMONOと五感で楽らく認知症ケアと予防について解説があった。

 今回のテーマは(1)認知症って知ってる?(2)KIMONOで認知症ケアと予防(3)五感で認知症ケアと予防&コロナの嗅覚低下の改善について。認知症は、脳の病気により認知機能が低下し、生活に支障をきたす症状のことを言う。認知機能には、記憶力、言語能力、判断力、計算力、遂行力、見当識がある。若くしてなることもあり、現在多くの国で、若年性の認知症が大きな課題になっている。怒ったり、冷たくしてしまうと本人もイライラしたり不安になってしまう。認知症になってもしっかりケアをすることで笑顔で楽しい生活をすることができる。

 着物を着て身なりを整えることで、活力、意欲が湧いてくる。自分を喜ばせて自分を大切にすることは、周囲の人を大切にすることと同じ。着崩れしないように襟や裾に気を使う。静かに歩くなどの所作に気をつけるなど、普段あまりしない行為が、脳の活性化に繋がる。また、昔のことを話したり、楽しい会話が増えることも、着物を着る大事な理由となる。

 五感は味覚、視覚、聴覚、触覚、嗅覚。大きな音や不快な匂い、見えにくい文字、馴染みのない味、痛い肌触りなどに遭遇すると人間は不安と混乱を覚える。逆に、心地よい音、落ち着く香り、分かりやすい標識、好みの味、優しい肌触りに接すると穏やかな気持ちになる。

 嗅覚が良くなると、ご飯や飲み物が美味しく感じられ、生きる喜びに繋がる。そして季節の香りや食べ物の香りを楽しめると、生活が豊かになる。優しい花の香りを嗅いで、穏やかな気持ちになったり、脳に刺激が行くことで、認知症の予防になり、進行を遅らせることができる、これをプルースト現象という。

IMAYOがNYデビュー

京都の老舗ジュエラー

 宝飾品の製造・販売を行う株式会社今与(本社・京都市中京区、今西信隆社長)が、5月6日から8日までポップアップショップをマンハッタンのミッドタウンのKAJITSU1階で開催した。コンセプトは「伝統と革新」。1861年に京都で小間物屋として創業した同社は、伝統と革新を繰り返し、160周年を迎える今年に新たな挑戦としてNYで初の展示会を実施したもの。

 期間中は、日本の美意識と最新技術が融合したハイエンドブランド「Kagayoi」と、ラボグロウンダイヤモンドと先人から受け継がれる職人の手から生まれた「SHINCA」の、今与を象徴するブランドを展示受注会として紹介。

 会場では御所車と十二単をデザインしたハイエンドブランド「Kagayoi」に見入る来場者も。海外ではシンガポールで50年の歴史があり、マレーシアなど東南アジアで展開してきたが、米国では今回のNYが初の商品披露となった。6代目の今西社長は「アメリカはジュエリーの一番売れている国、NYはその中心なのでチャレンジしたい。今回のポップアップをきっかけにスタートに繋げていきたい」と話す。

 詳細情報は同ブランドのインスタグラム(https://www.instagram.com/kagayoi_officialまたはhttps://www.instagram.com/shinca_official)からDMで連絡する。

(写真)左:御所車(右)と十二単(左)をデザインしたハイエンドブランド「Kagayoi」
右:今西社長(右)とデザイナーの金子綾さん

日本製の小物店ジャパンビレッジに

Ippin Project

 NYのインテリアデザイン事務所 Crafitsが企画運営するIppin Projectが、今月5日から6月5日(日)までの1か月間、ブルックリンのインダストリーシティ内ジャパンビレッジ2階でポップアップショプをオープンしている。

 Ippin Projectは2012年からオンラインショップを展開しており、昨年末にICで行ったポップアップが好評に付き、今回場所をジャパンビレッジに移し、規模を拡大して開催。「Japanese Design for Fine Living」をコンセプトにメイドインジャパンの商品にこだわったテーブルウェア、小物、インテリア雑貨のほか、内装素材である和紙の壁紙や組子スクリーン、タイル類なども展示している。木〜日曜の午前11時から午後7時まで。詳細はウェブサイトhttps://www.ippinproject.com/を参照。