両手両足きかずとも描き続ける

アーティスト佐藤涼氏にNY賞賛

佐藤さん

 チェルシーのNoHo M55ギャラリーにて、青森県青森市を拠点に活躍するアーティスト佐藤涼氏(44)作品展示と公開制作が行われた。佐藤氏は、生まれつき脳性マヒによる重度の運動障がいを抱えるが、アーティストとして20年以上のキャリアを誇るほか、2005年以来、特定非営利活動法人C-FLOWERを運営する。

 障がいにより一般企業などへの就職が困難な人々に、知識や能力の向上のために必要な就労訓練を行なっている。

 四肢の機能はほとんどなく言語の発声にも困難を伴う佐藤氏。スケッチブックを広げた床に、顔を近づけ、唇に挟んだ鉛筆を頭部の振りで巧みに動かしながら、繊細なタッチのペンシル画を描く。画題は人物ポートレートから動物や自然まで幅広い。

 出展作は、最小限の筆使いで描いた赤ちゃんの横顔で、表題は「Possibility」。画枠の外、はるか先の未来をみつめる大きな目をした幼子と彼が唇に加える指が、観る者を深い思索の淵に誘う。

 今回は、日本人アーティストのNY展開をサポートするJCATのメンバーとして、同会の年次グループ展Natureに参加。8月1日に開かれたオープニング・イベントには200人以上のニューヨーカーが詰めかけ、Possibilityに見入った。イベントの後半、会場では佐藤氏が制作プロセスのデモンストレーションを披露。渾身の作画過程を満員の観客は固唾をのんで見守った。15分の制限時間の中で、大海を泳ぐペンギンの姿が浮かび上がると場内は大きな拍手に包まれた。

 来場のニューヨーカーからは「びっくりした!ものすごい情熱だ」「最悪の状況なのに完璧な表現。自分の人生って何だ?と考えさせられた」「描写のディテールが素晴らしい」など称賛と激励のシャワーを浴びた。佐藤氏当人は「出来栄えは60点」と謙遜。「アートの頂点ニューヨークなので緊張しました。力が入りすぎて歯から血が出ましたよ」。今回の経験を踏まえて、今年の暮れには青森県立美術館で2回目となる個展「ALIVE」が予定されている。(中村英雄)