日本文化の心を受け継ぐ、東海岸の文化交流拠点「松風荘」

 「まるで日本にいるみたいですね」と言った私に対して「いいえ。ここは日本よりも日本的ですよ」と返してきたのは、ワシントンDCからお越しになった表千家同門会米国東部支部の先生だった。

 都市公園としては世界一の広さを誇るフィラデルフィア市のフェアモントパーク。その一角にある「松風荘(Shofuso)」(=写真上)は、ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング誌において、北米にある300余の日本庭園の中でトップ3にランクインし、東海岸では最高評価を獲得。フィラデルフィア日米協会が心を込めて守り続けている松風荘は、東海岸全体の文化交流拠点としての重要な役割を担っている。

 その松風荘で今年4月9日、著名な書道家の海老原露巌氏とフィラデルフィア・オペラ座によるコラボレーションが行われた。4月末に『蝶々夫人』を上演するのに先んじて、オペラ座は特別に一部を松風荘で披露して下さった。これは、日本の伝統をオペラ座にアドバイスした日系ボランティアへの感謝の気持ちを表すためだった。

 松風荘の畳の部屋の奥から外の庭園に向かってオペラ座の合唱団が整列し「ハミングコーラス」の歌声を響かせた。それに聴き入った海老原氏は『MON DRESS』が寄付して下さった着物に、力強く【舞】という一文字を揮毫された。愛する夫を待ち続ける蝶々夫人の心だ。

オペラ座団員に掛ける、揮毫されたMON DRESS
海老原露巌氏、エリーズ・ブラニガンさんとお母様

 揮毫された着物は、合唱団の女性にそっと掛けられた。書院造りの建物の屋根の下で、フィラデルフィア市出身の作家が生んだ短編小説を基にしたイタリアオペラ、家紋をルーツとする着物デザイン、墨アートによる貴重なコラボレーションを目の当たりにして、日米の参加者たちは感動に包まれた。会場を見渡すと、全米日本語エッセイコンテストで優勝した地元高校生、エリーズ・ブラニガンさんの姿が目に留まった。 私は、海老原氏に土壇場でお願いしてみた。「なにかサプライズでプレゼントはできないでしょうか?」 海老原氏は快諾くださり、エリーズさんの目の前で、【希】と【和】の揮毫した団扇をプレゼントされた。次の世代における日本文化ファンの更なる増加を願った2文字だ。

 もっと知ってほしい。遠い異国の地に、日本の古き良き時代を彷彿とさせる松風荘が存在していることを。この奇跡の空間で日米の文化が融合し、互いの理解を深め、友情の絆をさらに強くし、未来へと繋げていかなければならない。皆様のご支援を賜りますように。

フィラデルフィア日米協会 副理事長 

穎川廉(Ren Egawa)

 30年以上にわたり日米欧のテック業界で最先端技術開発と新市場開拓に従事。パナソニック在籍中、新放送方式を開発、FCC(米国連邦通信委員会)で推進。世界規格に導き、本社役員賞を受賞。米SRIでは次世代GPU開発者、仏伊STではソフトウェア戦略チーフを歴任。現在は米Rexcel GroupのCEOとして、イノベーション推進事業を経営。フィラデルフィア都市圏の日米協会副理事長、アジア系アメリカ商工会議所顧問委員、オペラ振興諮問委員、フィラデルフィア管弦楽団アンバサダーとしてボランティア活動に従事。