東京電力は8月24日福島第一原発の汚染水を浄化した「処理水」の海洋放出を始めました。国際原子力機関(IAEA)の「国際的な安全基準に合致する」との「お墨付き」を得ての決定です。しかし、政府の「関係者の理解なしには放出しない」との約束は「反故にされた」、「科学的な『安全』と消費者が考える『安心』は同じではない」という漁業関係者の不安が拡大しています。
韓国では、日韓関係重視の政府が理解を示す一方、最大野党の代表が「第2の太平洋戦争」と訴えるなど抗議活動が起きています。
中国政府は日本からの水産物輸入を全面的に停止しました。日本人学校に石や卵が投げ込まれ、日本製品不買運動や日本国内の食堂などに対するいやがらせ電話が起きています。中国の原発から排出されるトリチウムは福島の放出量の約10倍という事実を棚に上げての蛮行です。
多くの国民や諸外国に影響を及ぼす政策決定には多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションが不可欠です。
アメリカのスリーマイル島原発も、当初NRC(原子力規制委員会)やGPU(原子力事業者)は処理水を河川に放出する方針でした。しかし、住民の反発が強く、ランカスター市がNRCとGPUを提訴し、その後両者の間で和解が成立しました。市民助言パネルが設立され、自治体の代表者、科学者、州政府担当者、市民が参加し、報道機関に公開されました。約十年後に処理水を蒸気化する大気中放出が決定されました。この方式は必ずしも住民に歓迎されないものの、多くの関係者が決定に参画できたのです。
私は2013年に世界で初の核廃棄物の最終処分場となるフィンランドの「地下岩盤特性調査施設」(オンカロ)を視察しました。原発企業は自社から発生する核廃棄物を安全に処理・保管する義務を課す法律があるのです。核廃棄物が無害となる「10万年間」地中に埋めるのです。この企業の社長は「透明性と情報開示を徹底している。見学者を説得するのではなく、現場を隠さず見てもらう。反対する人々の意見も謙虚に聴く」と述べました。
福島原発の海洋放出は2040年までの廃炉が前提ですが、延びる可能性もあります。何代後の首相や東電社長が責任を持てるのでしょうか? ましてや10万年後の地球に? 原発とはそうした代物(しろもの)であるとの対応が必要です。
ふじた・ゆきひさ=慶大卒。世界的な道徳平和活動MRAや難民を助ける会で活動した初の国際NGO出身政治家。衆議院・参議院議員各二期。財務副大臣、民主党国際局長、民進党ネクスト外務大臣、横浜国立大講師等歴任。アメリカ元捕虜(POW)の訪日事業を主導。現在国際IC(旧MRA)日本協会会長。岐阜女子大特別客員教授。