奴隷の黒人少年の姿が消された後、非公開となっていた19世紀の白人家族の肖像画が今秋、メトロポリタン美術館で半世紀ぶりに展示されることになった。
フランス人肖像画家ジャック・ギヨーム・ルシアン・アマンの同作品「ベリゼールとフレイ家の子供たち」(1837年)には、ニューオリンズのフレンチ・クオーターに住む裕福な銀行家フレドリック・フレイの子供たち3人と、その横に15歳の黒人青年ベリゼールが描かれている。ベリゼールは6歳の時に同家族に買われたという。美術品売買サイトのアートネットは同作品について「奴隷という立場に関わらず、4人の子供たちの親密さと、ベリゼールは大事な家族の一員であったことを象徴している。しかし19世紀のある時点で誰かが彼の姿を塗りつぶし、フレイ家の歴史から彼の存在を消しただけでなく、奴隷となった人物の貴重な肖像画をも覆い隠してしまった」と伝えている。
修正された同作品は、一世紀以上フレイ家が保管していた。その後、母系家族の子孫に当たるコラリー・ダノイ・フレイさんが1972年にニューオリンズ美術館に経緯を説明し寄贈したが、放置されたままだった。14日付のNYタイムズ紙の記事は、同美術館の館長が展示しなかった理由について「展示できる状態ではなく、当時の作家も子供たちも知られた存在ではなかったため」と話したことを伝えた。同作品は2005年にニューヨークのクリスティーズで競売にかけられ、バージニア州の古美術収集家が7200ドルで落札し、修復作業が始まった。さらに21年に、ルイジアナ州の美術品収集家バトン・ルージュ氏とクレオール子孫のジェレミー・K・シミエン氏が買収し、同作品を完全な原画の状態に復活させた。シミエン氏は同作品をニューオリンズ美術館に戻すことを検討したが、粗雑な扱いを不快に思い、今月初頭にメトロポリタン美術館が取得することが決まった。同美術館は同作品について「黒人個人が雇主の白人家族と描かれた、最も珍しく詳細な米国の肖像画のひとつである」と伝えている。
一方シミエン氏は、自身の先祖と同様の立場であったベリゼールのその後の足取りを調べるキャンペーンを発足し、調査の結果、ベリゼールはフレイ家の子供たちよりも長生きしたことがわかった。肖像画に描かれている姉妹、エリザベスとレオンティーヌは1837年に黄熱病で死去し、弟のフレドリックも数年後に亡くなった。ベリゼールは南北戦争時代まで生き延び、北軍ユニオンがニューオリンズを占拠する直前の61年まで、ニューオリンズの在住者リストに登録されていたが、その後の生涯はわかっていない。