ヨットマンの街靴

イケメン男子服飾Q&A 86
ケン 青木

 夏の日差しが眩しい季節になってきました。ニューヨークは川や池そして海など水辺が近くにあっていいですね。今回はそんな状況で一足持っておられると便利なばかりでなく、足元すべりにくく、より安全という「Sperry Sole(スペリー・ソール)」(駄洒落ではありません笑)と呼ばれるゴム底のスニーカーについて書いてみようと思います。

 昔、ブルックス・ブラザーズ社で仕事をしていた頃、sports tieという12種類のスポーツを紺色ベースのシルク地に刺繍したネクタイが話題となったことがあり、「最も格式が高いスポーツは実はヨット。で、次は乗馬」だと言われ、「へーっ!」と。もちろん12種類の中にはベースボール、アメリカンフットボールにバスケットボールも含まれてはいるのですが。

 アメリカという国家の歴史はたかだか250年未満(あと5年で建国250年ですね!)だと言われる方々もおられますが、歴史には受け継がれ、引き継がれている精神的遺産が必ずあり、アメリカも例外ではありません。

 このアメリカでは古代ギリシャとローマの文化が正にそれなのです。政治面においては民主主義そして共和政。アメリカの大学でAlpha、Beta、Cappaそしてsololityやfratanityなどギリシャ語表記が多いことを不思議に思われた方もおられるでしょう。

 コネチカット州とマサチューセッツ州の間にロードアイランドという全米有数の小さな州があります。州民は「Islanders」と呼ばれ、その呼び名にプライドあり、と。この州はアイビーリーグ・スクールの教授たちが引退後、終の住処とされる方も多いのだ、とも。

 実はロードアイランドとは、古代ギリシャにおいて「知の都」と呼ばれ栄えたロードス島のことなのです。従ってロングアイランド・チャネルとはアメリカにとってのエーゲ海なのであり、またアメリカ版地中海の一部?とでも言うべき感覚なのです。

 古代ギリシャ人は海洋民族であり、彼らの精神面のタフネス、開拓者精神を鍛え、彼らの植民地を航海によって拡げていく原動力となったのが、幼児期から馴染んだヨットという命懸けのスポーツであったのだと。

 歴史的な事実として、近現代における世界覇権はランドパワーではなく、オランダ、英国、アメリカなど全てシーパワーの国家群によって成されてきました。

 加えてマリンスポーツがお好きな方ならお気づきでしょうが、アメリカズ・カップ、そしてニューヨーク・ヨットクラブの格式の高さです。同クラブのアメリカズ・カップ対応のヘッドクォーターは、ロードアイランド州のNewportにあります。ジャズ・フェスティバルやJFKのウエディングで有名なところですね。もう少しニューヨークに寄ったところではイェール大学があるコネチカット州民ニューヘブン、その地で生まれ育ったヨットマンであり、クリエーティブなビジネスマンでもあったPaul A. Sperry(ポール・スペリー)という人物が、彼が自らの経験即ちヨットの船上で滑って海に落ち、命を失いかけたのですが、ふと愛犬を見ると足元のグリップがしっかり、滑らず踏ん張れていることに気がついたのだそう。愛犬の足の裏を見ると幾重にも筋の様なシワがあったのだそう。彼はこれにヒントを得て1935年でしたか、ゴム底に波状の細かい切込みを入れたSperry Soleを開発、2年後には特許も取り、その足元のグリップの良さからアメリカ海軍にも採用されたのでした。1970年代後半に「Preppie」というアイビーリーグ・スタイルのファッションが流行した際、スペリーソールの靴はその中心にありました。

 スペリーソールのゴム底、スニーカーらしい履き心地の良さ、そして夏場にご自宅で水を撒いたり、またマンハッタンのビルの入口など、雨の日には滑りやすいことがあるので、履かれていると安心です。それではまた次回。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。