その12:映画から生まれた「バグダッド・カフェ」

魅惑のアメリカ旧国道「ルート66」 をフォーカス

 ルート66ファンの皆さん、こんにちは! 早いものでもう3月、暦の上では春到来! ということになりますが、今やどこを見渡しても新型肺炎の話題で満載でなかなかそんな気分にならない方も多いかと想像します。筆者の関わるホテル業界はその影響をストレートに受けることになり(泣)、東京都内でもほとんど全ての施設がこの時期を乗り切ろうと切磋琢磨しています。筆者がここ数年尽力してきた東京五輪2020も開催自体が危ぶまれる状況に来ていますが、何とか事態が改善し一日も早い収束の方向に進むよう期待しています。週刊NY生活のお膝下であるニューヨーク・ニュージャージー州の皆さんも、どうぞ健康には充分にご留意の上お過ごしください。

 さて、今月の「魅惑の旧街道を行く」シーズン③ 第12話は、既にご存知の方も多いかと思いますがカリフォルニア州を舞台にしたひとつの映画をご紹介したいと思います。とは言っても筆者は映画の専門家ではないのでその筋のコメントや洞察は期待しないでくださいね!(笑)

 ルート66をテーマにしたドキュメンタリー映画は数多く存在しますが、一般的に世界中で公開された映画としてはディズニーピクサーの手掛けた「カーズ(CARS)」(06年)が最も近年では成功を収め、今までルート66を知らなった人や興味のなかった人にもその存在と光を当てることで、「宣伝」することが出来ました。ティーンエイジャーとしてその映画に影響を受けた世代を今、実際にルート66で多く見かけるようになったのは決して無縁ではないと思います。その他にも、「The Grapes of Wrath」、「Easy Rider」、「Thelma & Louise」、「Little Miss Sunshine」等を筆頭に数多くの映画がルート66を舞台に取り上げています。近年では大ヒットしたTVシリーズ「Prison Break」でもニューメキシコ州アルバカーキの街が一時「聖地」としてまさに「ブレイク」しました。

 その豪華なラインアップの中でも1987年に封切りされた「バグダッドカフェ(Bagdad Cafe)」は取り分け異彩を放つ、年代的にも筆者にも多くの影響を与えた映画となりました。(日本上映は89年)内容を簡単に紹介すれば、場所はアメリカ、ラスべガス近郊、モハーヴェ砂漠のうらぶれたカフェに集う人々と、そこに突然現れたドイツ人旅行者ヤスミンの日常交流を描いた作品です、という感じでしょうか。最も印象に残るジェヴェッタ・スティールさんが歌った映画のテーマ曲「コーリング・ユー(Calling You)」は、アカデミー賞最優秀主題歌賞にもノミネートされ、その後も多数のアーティストによりカバーされる大ヒット曲となりました。

 そのバグダッドカフェはカリフォルニア州ニューベリースプリングに今でも存在します。が、本当はその場所にそんなカフェはありませんでした。80年代にハリウッド映画とドイツ(当時は西ドイツ)の映画クルーは、その何もない砂漠での物語の作成に熱心に取り組んでいました。その場所に、かつては「バグダッド」という町が実際に存在しました。しかしながら今まで何度もご紹介してきたインターステート40号線が通ったことによるルート66の衰退でその町自体も存在理由を失い消滅します。もちろんその町が存在していたことを証明するものは幾つもあったので、それを元にハリウッドはその専売特許である「魔法」をかけ、ニューベリースプリングスにあったサイドウインダーカフェをバグダッドカフェとして蘇らせることに成功しました。

 バグダッドカフェは現在、アンドリー・プルエットさんによって元気に営業されています。アンドリーは約23年前、彼女の旦那さんと一緒に、同州のカノガパークよりこのニューベリースプリングスに越してきました。アンドリーは元々物書きだったので、夫がカフェを経営する傍ら、この「静かな町」で書くことに専念すれば良いと説き伏せられたようです。いくら映画でその名が広まったとはいえ、最初から経営は決して楽でなかったと聞きます。メインのお客はフランスとドイツからだそうですが、多くの観光客が聖地として立ち寄りはするものの、必ずしもお金を落としていくわけではないので今でも経営は大変だとアンドリーは話してくれます。だから、ではないですが、筆者は行けば必ずパンケーキとコーヒーの朝飯を注文し、ちょっとは貢献していると自己満足に浸っています。営業期間は朝7時から夜の7時まで、週7日営業が基本です。アンドリーは常にそこにいるわけではないので、どうしても彼女に会いたい人は先に電話での「情報収集」が必至です。そう言えばこんな逸話も。ある日筆者に、ルート66の著名なエディターさんより連絡が入りました。「アンドリーの写真は持っていないか?」との問い合せでした。「よく話もしたし、一緒に撮ったものもあるよ」と言ったら、「是非それを見せて欲しい!」と。それだけ、姿をタイミングよくお見せにならないようで、映画もアンドリーもまさに魔法の一部なのかもしれません。そうそう、彼女の執筆した「The Real Bagdad Cafe」という本がありますが、それはここBagdad Cafeで購入できます。さあ、皆さんもアンドリーに会いにカリフォルニアの砂漠に出かけてみようではありませんか!

 それではまた来月、お目にかかります!

(後藤敏之/ルート66協会ジャパン・代表、写真も)