シャイなティーンエージャーが歌のコンテストを経てスター誕生への道を進む夢と挑戦の物語。筋としては単純、明快だがもちろんその道のりは平たんではなく、さまざまな人との関わりを通して少女が大人への一歩を踏み出すカミングオブエイジ・ストーリーだ。
脚本・監督はイギリス出身のマックス・ミンゲラ。故アンソニー・ミンゲラ監督(「イングリッシュ・ペイシェント」など)を父に持ち、俳優・脚本家として活動、本作は彼の監督デビュー作となる。主人公が暮らす町をイギリス本土から狭い海峡を挟んで南にあるワイト島にしたのは父アンソニーの出身地だからだろう。
主役のヴァイオレットを演じるのは「Mary Shelly」(2017年)のエル・ファニング。4歳上の姉ダコタ・ファニングとともに子役のころから注目されているが、演技面では今までのところダコタが数段上。本作ではエルの歌唱力のすばらしさも話題となっており新境地を開いたといえる。共演はレベッカ・ホールら。
ヴァイオレットはポーランド移民の娘だ。父親はまだヴァイオレットが子どものころに家を出てしまった。母親は夫がいつか戻ってくるのではと思っているが、ヴァイオレットはとうに諦めている。家畜の世話やアルバイトで生活を助けるやさしい真面目な娘だ。歌うのが大好きで恥ずかしがり屋だが、近所のパブでたまにステージに上がる。もちろん母親には内緒だ。
ある日、10代を対象とした歌のコンテストのオーディション「ティーン・スピリット」が地元で行われることになる。数百人の応募者のうち、選ばれるのはたった5人。さらに2度の地区コンテストを勝ち抜いてようやくロンドンでの全英決勝へと進む。
ヴァイオレットは自信はないが自分を試したいという気持ちが大きかった。まずは応募に当たって保護者の同意が必要だが、母親が反対するのは目に見えていた。ここで諦めるわけにはいかない。ヴァイオレットは思いがけない行動に出る。
ヴァイオレットの優勝の行方も気になるが、そのプロセスの中で経験する彼女の成長ぶりがまぶしく頼もしい。1時間32分。PG-13。(明)
■上映館■ AMC Empire 25 234 West 42nd St. AMC Lincoln Square 13 1998 Broadway Cinepolis Chelsea 260 W. 23rd St.